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「どうされたんです? いつもは車ですが…」
「いや、なに…。ちょっと修理にね。なにせ20年以上、乗ってるポンコツだからな、ははは…」
別に面白くなかったので、保は笑わず頷くだけにした。
「それしても早いじゃないですか。この分だと、一番乗りですよ、たぶん。僕も20分ばかり早く出ましたから…」
久々に保は僕と言っていた。普段は俺だが、教授の前だから、つい出たというのが本当のところで、体中が痒い気分だった。
「但馬君といい勝負かもな。いやな、馴れん通勤だから少し早く出ようと思ったまでさ」
二人が話しているうちに降りる駅が一つ先に迫っていた。乗降客の数は、そう変わらない。教授は動いた列車の方が話しやすいのか、今度は吊革に揺られる保へ語りかけてきた。
「今日はアレの試運転実験をするだろ? 現地の国立競技場まで全員が出張るしなあ…」
「あっ! そうでしたね。うっかり忘れてましたよ。施設の使用許可は取られたんですか?」
「むろんだよ、君。無断使用で警察沙汰なるからな。私の大学同期が今、某スポーツ団体の常任理事でね。本人の弁じゃ押しが効くらしい。眉つばだと思ってたら、案外簡単にOKが出てさ。本人は天狗だよ」
「なんだ、そういうことですか」
保が話し終わるのと同時に列車内が一瞬、グラッと揺れ、車両は駅に停まった。二人は迅速に下りると、改札口へ向かった。保はPASMOだが、いつもマイカー通勤の教授は当然、切符だった。




