76/310
-76-
「…女の声? 保、誰かいるのか?」
「あ、ああ…。大学の友人だ」
「そうか。ははは…お前もそろそろだしな。じゃあ、切るぞ。元気でな!」
「ああ、兄貴もな」
深く追求せず、携帯が切れた。保は、ほっとした。
『お兄さまがいたのね。知らなかったわ』
「えっ? 俺、データに入れてなかった?」
『ええ、入ってない。家族関係はデータなし。ちょっと、待って。調べてみるね』
沙耶は座ったまま両目を閉じ、動かなくなった。そして30秒後、沙耶はふたたび目を開けた。
『やっぱり、入ってなかった。お友達とか他の人物関係は全部OKなんだけど…。どうする? 組み直す?』
「…いや、知識取得機能も働いてもらわないとな。一端、記憶すれば事足りるんだ。もう姪は憶えたろ?」
『うん! 里彩ちゃんだったわね。お兄さんは?』
「そうそう、兄貴はまだだったな。勝っていう。その嫁が育子さん。妹が奈々。それともう一人、なかなかの大物じいちゃん長左衛門」
『長左衛門? 時代劇ね。了解! 記憶データに組み入れたわ』
沙耶は感情システムが起動したのか、ニコッと笑った。
「お前さ、その言い方なんとかならないか。今はいいけどな。他人がいる場じゃアウトだぜ」
『そうね…ごめん。言い直します。憶えたわ…』
「それでOK」
保は沙耶の言葉に、まだ危険もあるな…と気づかされた。




