37/310
-37-
『ふ~ん、そんなことがあったんだ…』
沙耶は訝しい眼差しで保を見た。
特殊皮膚細胞や皮膜には生物反応はないが、電気エネルギ-変換により電子細胞化され、生物皮膚と遜色がない。これは保の独創的発明だった。世間では凡人を装っているが、彼は人類が生んだ天才的科学者であり技術者だった。知名度だけを気にする山盛教授の比ではなかった。外観だけではなく、メンタルな部分のプログラムもひとまず軌道に乗ったようで、あとは微調整の最終段階である総合試験通過を目指す沙耶だった。
保が、試験を始めて丁度、ひと月が過ぎようとしていた。この日の朝も、いつもと同じように保は山盛研究所に向けマンションを出ようとしていた。
「それじゃ行ってくる…」
沙耶が保に鞄を渡す。
『早く帰ってね』
「ああ、じゃあ…」
『キスは?』
「…はあ?」
『だって、…普通は、やるじゃない、そういうの…』
保は、参ったなぁ~と顔を緩めて思った。沙耶は素早く保の頬へキスをした。保の男が少し機能し、堪らず保もしっかり沙耶を抱きしめた。やんわりした感触だった。質感も申し分ない…と保は思った。ふと、初恋の沙耶の姿が保の心を過った。このまま、じっとこうしていたい・・と思ったが、そんな訳にもいかない。




