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『スクランブルでいい?』

「…ああ」

 毎朝のことだから、ポーチドでもスクランブルでも目玉焼きでもいいんだ…と、保はまだ起きれない目をつむりながら眠たく思った。だが、この瞬間も沙耶は律義にも自分のために家事をし、その後、保を送り出してからボランティアに出るのだ…と思うと、寝てなどいられない気分になり、ガバッ! とベッドから飛び出した。眠気は完全に消え去っていた。

 惰性とは恐ろしいものである。いつものように身体は動き、洗顔・歯磨き→着替え→磨き→出勤となるのだ。むろん、沙耶が傍にいて、なに不自由ない潤滑油のような気配りをするのだから、保としてもスムースに出勤出来るのだが…。そんなことで、寝起きに考えていた沙耶のボランティアの大変さもすっかり忘れ、保はいつものようにスンナリと地下鉄に乗った。これも日々の惰性である。

 スンナリと地下鉄に乗れたが、保はついうっかり、出がけに沙耶が作った愛妻弁当ならぬアンドロイド弁当をマンション出口の手すりに置き忘れたことに気づいていなかった。沙耶がこの日は送り出さなかったことも原因の一つだったが、保が飛行車のキャド(コンピュータ設計支援ツール)のことを考えていた・・という浮ついた気持によるものだった。沙耶が置き忘れに気づいたのは、保が大学院新館に着いた頃である。

『あっ! 忘れてる…』

 沙耶はボランティアで茨城沿岸の漁村へ走ろうと出口ドアを開けた瞬間だった。

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