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走る方向は一瞬で変化した。もちろん、保がいる山盛研究所に向かってである。沙耶は漁村のボランティアへ行かねばならない…と思考回路が命じていたものを非常退避行動プログラムに切り替えていたから、急いでいた。で、保が禁じていた時速300Km以上の走行を始めた。束の間ならぬ、瞬く間に大学院新館へは着くはずだった。ただ、走行する姿を人目にさらすことになるのは覚悟せねばならなかった。マスコミ騒ぎとなる危険性がある行動を手弁当一つで、そこまでする必要があるのか…という思考安定システムからの緊急指示もあったが、沙耶は振り切って非常退避行動を優先し、保の所へと向かった。

 街を行く人々は沙耶が通過する疾風を見て感じた。そして一瞬だが、どの人にも沙耶の走る姿が映像として残った。当然、すべてが唖然としたが、それでも叫声を発する人は誰もいなかった。正確に言えば、その間合いがなく、誰もの目に映った次の瞬間、沙耶の姿は失せて見えなくなっていた。

 10分も経たず、沙耶は山盛研究所のある新館へ到着していた。むろん、息も切らさず、所作には寸分の乱れもなかった。当然といえば当然なのだが、人間なら明らかに異常だから、停止する場所柄も考えなければならない。沙耶もその不便さは少し感じていた。厄介という人間感覚ではなく、無駄があると判断するシステム感覚である。

「おや? いつやらの…。どうされました?」

 沙耶が入口を入ると、いつもの老いたガードマーン矢車がいぶかしげに沙耶を見上げて言った。

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