-138-
『気楽な研究なんですね?』
「えっ!? いや、これは面目ない」
「沙耶!」
「いや、いいんだ岸田君。そのとおりなんだから、私も調子に乗り過ぎたようだ。お嬢さん、ありがとう」
『すみません…』
沙耶は小声になった。
「いや、いやいやいや、参ったなぁ~、ははは…」
山盛教授は片手でボリボリと後頭部を掻きながら高らかに笑った。この人は困ったときには必ず後頭部を掻いて笑うな…と保が気づいたのは、もう随分と前になる。教授の傍にいる後藤に沙耶の行動は少なからず蟠りを残したが、ともかく彼女の失態は事なきを得た。さらには自動補足機も一応の成功結果が見られたことで、保は、またしてもやれやれ…と、胸を撫で下ろした。そして、沙耶が完成してからは気の休まった例がない、と思えた。
帰途の車に沙耶は乗らず、国立競技場のときと同様に別に帰ると言う。だが、前回とは違い、保のマンションとの距離はかなりあった。保は車へ荷を積み込み終えると、車の座席に座った教授に言った。
「ちょっと、二、三分、待って下さい。あいつに言っておくことがありまして…」
「ああ、いいよ…」
教授は無関心に了解した。保は車を離れ、沙耶に近づいた。
「マンションまでは、かなりあるぞ。大丈夫か? 財布、持ってないだろ?」
買物はすべて保がしていたから、沙耶が金を持ってる訳がない…と保は踏んだのだ。




