-122-
「ああ、それと…。岸田さん、どちらかとお住まいなんね? いえね、お家賃さえ払っていただければ、私はそれでよかですが…。マンションの五月蠅か住人が、あることなかこと話してるのを小耳に挟んだもんで…」
「そうでしたか。はい、確かに…。妹が最近、都合で居つきましてね。ははは…」
我ながら上手い! と保は思った。口から出まかせながら、いつかのパターンが高速のリターンエースで飛び出した。
「ああ…、いつやら言ってらした方ね?」
「えっ? ああ、そういや、そんなこともありましたね。お願いに伺ったんでした」
「そうそう、その方でしょ? 聞けば、なかなかお綺麗な方だそうじゃなかね」
「いやぁ、そうでもないんですが…。しばらく厄介になりますので…」
「分かりました。ははは…管理人の私が申すのもなんなんですが、ここんマンションはピーチクパーチクと賑やかな方が多かやけん、ご注意なさって下さい。いやなに…、過去に数人、あらぬ噂ば立てられ、居ずらくなって出ていかれた住人も、おられたけん…」
「いや、これはどうも…」
保は、この場は平穏に済まさねば…と思っていたから、藤崎に下手に出た。
「じゃあ、そういうことで…」
「25日でしたね? 分かりました。ご苦労さまでした」
藤崎は保が言い終わると、軽く会釈してドアを閉じた。やれやれ…と保は安堵の溜息を吐いた。




