11/310
-11-
「お疲れ…。今日はここまでにしよう」
山盛教授が白衣を脱ぎながら力なく告げた。
「はい。明日は休んでよかったんですよね? 教授」
間髪置かず、早く帰りたい保が白衣を脱ぎながら返した。
「ああ…」
全員がロッカ-へ白衣を入れ、辺りを軽く片づけた。研究室をバラバラに出ると、後藤が保の後ろから声をかけた。
「どうだ、帰りに一杯やらないか」
軽い物言いだと保は思った。ちっとも自分の出来の悪さを反省してやしない。普通なら但馬のように早く来て、遅れを取り戻そうとするんじゃないか? と、その笑顔に少し保は怒れた。
「すまん。今日は、な…」
敢えて、『おい! お前なっ!』とは怒らず、静かに保は辞退した。飲むならお前じゃなく、馬飼の中林だ…という気分もあった。
保が地下鉄階段を降りる頃には外はすっかり暗くなっていた。沙耶が待ってるだろうな…と、なんか新婚の妻のところへ帰るような気分に保の心は躍っていた。
「ただいま!」
『あらっ! 思ったより早かったわね』
マンション自室のドアを開けた保に、開口一番、沙耶がリターンエースで返してきた。




