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魔法少女37歳〜今日もストゼロ飲んで頑張るぞっ  作者: 座山食空
帰ってきた魔法少女42歳 ピラティスの戦士
6/8

第三話 マンハッタン島の戦い

大阪決戦から三日後。


よし子は頭を抱えていた。


『魔王級召喚確認!』


敵ではない。


娘だった。


「敵はどこ?」


と聞くと、妖精が地球儀を回した。


『アメリカ!』


「雑だな」


『ニューヨーク!』


「期間は?」


「一週間!」


「長いな」


「魔王召喚案件だから」


「また世界滅亡か」


『また世界滅亡』


 


よし子はスマホを開いた。


パート先。


有給申請。


ピラティススタジオ。


予約変更。


美容院。


宅配便。


冷蔵庫の食材。


三歳児。



世界を救うより先に調整するものが多かった。 


一番困ったのは娘だった。 


夫に預ける?

 

頭をよぎった。


だが別居中で、彼にも仕事がある。。


 

そしてなるべく今はまだ顔を見たくない。この間お願いしたばかりだし、頻繁すぎる。


 

妖精が小さく手を挙げる。


『あの』 


「なに?」


『マジカル託児所あるよ』


「あるの?」


『ある』


「なんで」


『マジカル業界も男女共同参画のムーブメントが』


「マジカル業界、謎が多い...」

 


翌日。


都内某所。


マジカル託児所。

 


外観は普通だった。 


むしろ高級だった。 


スタッフも優しそうだった。 


保育士資格。 


看護師常駐。 


夜間対応。 


アレルギー管理。 


防犯完備。 


LINE連絡あり。


 


「普通に良い施設じゃん」



『マジカル業界で一番予算ある部署』

 


「戦闘部隊より?」

 

『戦闘部隊より』


「なんで?」


『子供絡みはクレーム怖い』

 


「妙にリアルだな」


 


娘は最初泣いた。 


だがスタッフが上手だった。 


気付けば遊んでいた。

 


よし子は何度も振り返った。

 


娘は気付いていない。

 


少しだけ寂しかった。

 


成田空港。

 


ビジネスクラスラウンジ。

 


もちろん。

 


マジカル経費。

 


「最高だな」

 


『最高だね』


 

ビュッフェ。

 


カレー。

 


シャンパン。


 

よし子は三杯飲んだ。

 


妖精は五杯飲んだ。

 


「妖精って酒飲むの?」

 


『飲む』

 


「仕事中だろ」

 


『君もだろ』

 


「確かに」


ノーギャラだがな!


 


機内。

 


フルフラット。

 


よし子は感動した。



「昔は夜行バスだったのに」

 


『予算増えたから』



「現役五十人いるから?」

 


『スポンサー増えた』

 


「スポンサーいるの?」


 


『いる』


 


「怖いこと聞いちゃったな」


 


 


JFK空港。

 


入国審査。


 


アメリカは面倒である。

 


普通なら。 

 


しかし今回は。



マジカルビザ。

 


電光掲示板。


 


US CITIZEN


VISITOR


DIPLOMAT


MAGICAL ←


 


「ある!」



『あるよ』

 


「すげぇ!」



「What's the purpose of your entry?」



「サ、サイトシーン」


 

なんとかイミグレーション通過。


タクシーでダウンタウンへ。

 


ニューヨーク。



巨大なビル。



黄色いタクシー。

 


英語。

 


英語。



英語。

 


フライドポテトの匂い。

 


コーヒーの匂い。 


 


「外国だなぁ」


 


『外国だねぇ』



妖精が言った。

 


『ちなみに悪のウィッチ組合本部ここ』



「潰せば?」

 


『国際問題になる』

 


「悪の組織なのに?」

 


『ちゃんと法人化してる』

 


「面倒くせぇな」


 


 


マンハッタン島。

 


空が割れていた。


 

また割れていた。

 


最近よく割れる。


 


 


その中心に。

 


立っていた。

 


女神。

 


五百メートル。


  


「エヴァンゲリオン?」

 


『違う』

 


「使徒?」

 


『違う』



「魔王?」

 


『それが一番近い』 


 


女神は英語で何か叫んでいた。

 


よし子は聞き取れない。

 


Google翻訳を起動する。

 


翻訳結果。

 


『全世界に死という真の自由を』


 


 


「やばっ」

 


よし子は即決した。


  


マジカルミラー展開。

 


マジカルステッキセットアップ。

 


星。


虹。


キャンディ。


ファンシーな熊。


熊。


熊。

 


「ニューヨークでも来るのか」 


 


そして。


 


最終奥義マジカルメテオストライク。

 

 


終わった。

 

 


三分だった。


 


女神消滅。


 


空閉鎖。


 


世界救済。


 


 


妖精がメモを取る。 


 


「討伐時間二分五十秒」

 


「うん」

 


「歴代最速」

 


「うん」

 


「化け物♡」

 


「やめろ」


 


 


予定より二日早く終わった。 


 


観光でもするか。


 


そう思った時だった。


 


スマホが鳴る。


 


マジカル託児所。


  


嫌な予感がした。


  


LINE。

 


【娘さんが泣き止みません】


 


【ママに会いたいと言っています】


 


【三時間ほど続いています】


 


胸が痛んだ。


  


世界を救っても。


 


娘の涙は止められない。


 


よし子はスマホを握った。


  


悩んだ。



悩んだ。

 


 


そして。


  


夫へLINEで連絡した。


 


数日ぶりだった。


  


『お願いがある』


  


数分後。


 


返信。 


 


『迎えに行く』


  


それだけだった。


 


「ありがとう」 


 


しばらくして。

 


「仕事がんばって」


  


その一文だけ送られてきた。


 


よし子はスマホを閉じた。


 


夜。


 


ニューヨーク。


 

一人で歩く。

 


タイムズスクエア。


 

光。




広告。



人。


 


金。


  


夢。


 


欲望。


 


世界一の金融都市。


 


世界中の金が集まる場所。


 


だが。


 


どこか皆疲れて見えた。


  


急ぎ足の人。


 


ホームレス。


 


泣いている誰か。


 


笑っている誰か。


 


抱き合う恋人。


  


一人で歩く老人。

 


それら全部が。



妙に寂しく見えた。


 

世界一豊かな街。

 


そして。


 


 


世界一虚しい街。


 


 


そんな気がした。 


 


ふとスマホが震える。


 


夫から写真が届いていた。

 


娘だった。




泣き疲れて眠っている。


 

夫の膝の上で。



その寝顔を見た瞬間。 

 


よし子は初めて。



夫に会いたいと思った。


 


 


ニューヨークの夜風が。 

 


少しだけ冷たかった。

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