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風任せで人任せな俺がここにいる理由  作者: 明月 文


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098 設定男爵の登場する設定

 今じゃ当然である話も昔は当然じゃない、という例は結構ある。


 例として話は逆だが、昔は会議室には灰皿があるのが当然で、煙草の煙がモウモウと立ち込めた、しかも締め切った部屋で皆、長時間会議をしていた、らしい。

 今なら煙草を吸わない人間に迷惑だろ!とか、ややもすると人権侵害だ!犯罪だ!って言われるかも知れないが、当時は会社は男ばかりで、かつ成人男性の殆どが喫煙者だったので何も問題なく、むしろ部屋に灰皿がない方が問題だった…んじゃないかな。知らんけど。


 ゲームだと今じゃゲームに原作があるのはそんなに珍しくない。

 原作のある映画化もあれば、オリジナルの映画もあるのと同じで、オリジナルのゲームもあれば、原作をベースに作られているものもある。

 ややもすると逆転も映画と同じで、映画のノベライズやら映画からスピンアウトして他の映画が造られるのと同様に、ゲームが漫画化、映画化されたり、ゲームの中の脇役がスピンアウトして別のゲームになったりも珍しくない。


 これも昔はそんな話はなかった。

 初期の頃のゲームであるスペースインベーダーを見た事があるが、あれは誰が見てもゲーム自体がストーリー性のある様な複雑なものではない。一定スピードのカニ歩きで単純に前に進むだけのインベーダーを見て彼を主人公にしたスピンアウトを考え付くヤツはいないのは間違いない。

 仮にインベーダーさんの人生(?)を抜き出して書いても、損害を全く気にしないという人海(?)戦術で地球の侵略を図る上司に従い、盾も防具もなく前進を強いられた挙句の討ち死にというモノ哀しい一生が書かれるだけだ。

 命じた上司は危険な現場には当然の様に出ても来ず、部下の事は全く考慮しないという事実は全宇宙で共通であるという証明にはなるがそれだけだ。


 けど繰り返しになるがゲームも複雑性を増した今は不思議じゃない。

 が、自分が生きてる世界の原作者を名乗る人間が目の前にいるのは不思議な話以外の何物でもない。


「俺がこの世界の原作者なんだ。」


 俺が流石にボケもツッコミも出来ずに呆然としていると、彼は繰り返した。


「……原作者?」


 間抜けな質問を繰り返すだけの俺に対し、男爵…というか浜井さんは話を先に進めた。


「元のタイトルはゲーム向きじゃないんでゲーム名はEternal Bravers Field、略してEBFなんだが…つかこの辺は分かってるだろ?」


 分かってない。

 彼の説明が左の耳から入り右に出て行ってるまま、俺は肝心な点を訊き返した。


「ゲーム?」

「そう。俺が原作を書いたゲームの世界だ。」

「つう事は何?これって全部電子?」


 俺の言い様に彼は「今更ナニ言ってんの?」という風に笑った。


「ハハハ、言い方はアレだけど、まあ…突き詰めて言えばそうだよな。」


 ゲームの世界、か。


 これが全部ゲームならモノの考え方は全く変わる。ゲームの世界なんぞこの世に存在しない。つまり、ここはリアルじゃないって事だ。

 周囲のこの風景もデジタルな映像に過ぎないし、人間も魔物も同じ事だ。そのデジタルな中でプレイ中の俺は魔物に殺られて死んでも、ゲームオーバーとなってゲームから現実へ引き戻されるだけだ。

 見方を変えて極論すれば、色々真剣に工夫とかして生きるのがアホらしい、という話になる。

 

 でも早速で申し訳ないが疑問もあった。


 ゲームの世界ならその理は当然、その中だけだ。

 ゲームの中で回転旋風脚が使えたって現実社会でそんな事が出来るハズがないし、波動拳なんか出ない。魔法も使えない。身の丈を超える大剣というか鉄塊を振り回したりも出来ない。


 だが、俺は出来ていた。


 1回目にここに来て、そして帰った時、あの横浜だか川崎だかの裏通りで絡んできたチンピラは俺を相手に何も出来ず、それどころか俺的には軽い反撃でアッサリ死んだ。

 俺の防御力がこちらにいた時と変わらない証拠だし、最後のコデブに至ってはレーザーで殺ったのだ。明らかにこちらの世界での技が使えたのだ。


 これはどういう意味だ?


 可能性は幾つかある。


 俺が何事かの天才または超能力的な特殊な才能があって、ゲームと同じ事が現実でも出来てしまうという話だけならアリだ。俗に言う中二病である。

 当たり前の事だが、これはお脳の病気だから何事かの実検討には値しない。治療法はないが、ニキビと一緒で成人する頃には自然治癒すると聞くから心配はいらない。心配があるとすれば、俺は既にアラサーでこの歳で中二病が治ってないとすれば、かなりヤバいという点だけである。


 もう一つの可能性は俺が現実社会だと思っている方も何らかのゲームだという可能性だ。俺は自分を本名海野隆人だと思っていたが、実はそれもゲームキャラの可能性だ。


 そうなると、じゃあ俺の本名って何だ?

 俺は自分をアラサーの会社員だと思ってたけど本当は違うのか?

 だいたい、あっちもゲームだとするとFラン大を出て左遷会社にのっけから就職するってどんなゲームだ???


 ってな事になるが、これは今、考えても答えが出なそうだな。


「で、海野さんは…アレかな、ネットでの本体のNCP募集を見て来た人かな?それともTPCから派遣されて来たのかな?」


 何だ、それ?

 NHKだかBBCだかって知らねえよ!!


「いや…俺は募集とか派遣とか知らなくていきなしココにいたっつうか…」


 浜井さんはちょっと変な顔をした。


「いきなしココって?」

「いきなしココはいきなしココだ。派遣とか募集とか知らない…です。」

「……う~ん…元の世界の記憶はあって、でもここに来た経緯は覚えてないってか?」

「まあ……そういう事…なんでしょうか…?」

「う~ん」


 浜井さんは考え込んだ。


「そりゃまた随分と中途半端なセッティングだなあ…」

「……」


 そんな事、俺に言われてもよく分からない。

 浜井さんは首を傾げながらブツブツ言っていたが、まあいいや!とばかりに顔を上げた。


「まあ、そうなると状況がよくアタマに入ってないかも知れないけど、少なくとも俺の話がすんなりアタマに入って来るという事は、お前さんはこの世界の人間じゃない。そいつは確かだ!」

「……」


 確かに俺は自分がこの世界の人間じゃない、と認識している。日本の知識、というか人生もある。覚えてる。だから彼の言うところの「この世界の人間じゃない」は否定要素がない。


 けど気分的に完全に納得出来てない。


 よくラノベなんかでは、やり込んだゲームの世界に転生して喜び勇んで無双を始めるって展開はあるが、俺にしてみれば「この世界はゲームです」とか言われても、ラノベの主人公達の様にすんなり「はあ、そうですか」とアタマに入って来ない。

 中二病に罹患中の中高生ではない立派な(?)社会人なのだ。アラサーなのである。


 他にも色々反論はないではないが、さりとて浜井さんを論破出来る程じゃない。


 理系はインカ帝国の石垣の如く物事がキチっと積み上がらないと話が先に進められないが、文系はいい加減に端折ってもいける。

 そしてFラン系の俺らの強味は、悲しいかな大半の物事が1回では理解出来ない事に慣れているので、整合しない話を取り敢えずスルーしても気分的に平気なところだ。


 俺は俺に関する色々整合しない話は取り敢えずスルーして浜井さんの話を先へ進める事にした。


「で、その原作者さんは何しに自分のゲームに来たんですか?」


 俺自身がよく分からん話をしても仕方がない。

 俺の話は一時棚上げにして、俺は目先の話をする事にした。


 俺の問いに対し、彼は居住まいを少し正しながら紅茶を啜った。


「こんな世界があったらいいなって言うのが俺の創作の原動力だ。だから、ココは基本的に僕の望んだ世界だ。」

「じゃあ…魔獣とか魔王とかも浜井さんが望んだんですか?」


 原作者を名乗る男は肩を竦めた。


「何かイベントがないと貧しい生まれの主人公は上には行けない。平和な世界は安定した社会だから上級国民は上級国民として、庶民は子々孫々庶民として固定化される。変化があるのは格差の広がり度合いだけだ。そんな社会じゃ主人公は一生、スラム街でゴミ漁って終わりだ。だから魔物だ、侵略だってな話が必要なだけだよ。」

「主人公って?」


 彼は少し考える素振りをした。


「後で説明するけど、今はまだこの世界にはいない。けど、分かってると思うけどエンディングそのものはマルチだ。主人公でのプレイを選択すれば勿論、ストーリー通りに進むし、他を選べばメインストーリーが進む横で、君だけのストーリーが創られる。」


 君だけのストーリー、か。

 どっかで聞いた事がある煽り文句だな。


「だから俺の書いた原作とアニメ、それにこのゲーム世界はちと違うけど、大まかなストーリーは一緒だ。」

「……」

「ほら…言うなりゃ歴史シュミレーションモノと一緒だ。」

「…?」

「ん~歴史シュミレーションモンだとさ、主人公に伊達政宗を選んだら実際の歴史には無かった君だけの伊達政宗の天下取りの話になる。けど出て来る登場人物は歴史とそう変わらない。政宗は天下取りの前に難攻不落の小田原城を落とさなきゃいけないし、天下無敵の武田の騎馬隊の相手をせにゃならん。軍神上杉謙信も立ち塞がるし、関ケ原では強大な勢力を誇る徳川連合軍を倒す必要もある。そういう話だ。」


 なんとなく意味は分かった…ような気もするが、まだ疑問はある。


「で、何で作者さんが直接来てるんですか?自分で自分のゲームをやってみたかったとか?」

「まあ…リリースした後はそうするつもりがなかったわけじゃないけど、今回はそうじゃない。調査に来たんだ。」

「調査?」

「そうだ。」


 浜井さんはまた紅茶を一口飲んで一息入れた。


「この世界は俺の書いた原作を元にゲーム制作会社が構築してる。さっき言った通り大まかなWavingは俺の書いた原作に沿って決まってて、その中でプレーヤーは自由にプレーする、ことになってる。」


 説明自体にパッと見、おかしな点はない。俺が頷くと彼は続けた。


「けど、その大まかなWaving部分が変わって来ているんだ。」

「どんな風に?」


 彼はまたごっくんと冷めてしまっている紅茶を飲んだ。


「ん~まあ、内容は結構多岐に渡っていて一言じゃ説明出来ない。けどストーリー構築AIによるとこのままじゃストーリーがストーリーとして進まないらしい。」

「…?」


 納得していない俺の顔を見て、彼はまた肩を竦めた。


「これも知っての通りゲームの大まかな方向性は俺の原作に沿って決められてるんだが、それだけじゃ薄っぺらい唯の短縮動画だ。なんで、TPCやらAIによるモブキャラが多数入って社会としての肉付けをする。そうやって全体がよりリアルに近いストーリーとして流れる様に造られる。」

「ふ~ん…」


 そんなもんかいな?と適当な相槌をうつ俺に浜井さんは続ける。


「細かい部分はどんなんでもいいんだが、大まかなストーリーに必須な物事ってのはある。これも先の例で言えば、伊達政宗が生まれた頃にはとっくに桶狭間の合戦があって織田信長が版図を大きく広げてなきゃならない。けど桶狭間が起きなきゃどうなる?」

「……」

「今川義元が織田家を滅ぼして上洛して管領今川義元だか将軍足利義元だかになっちまえば足利幕府が続いたかもしんねえ。そうなりゃ伊達政宗の東北制覇なんて話はハナからなくなる。」

「……まあ、そういうIFもあり?なんですかねえ?」


 何となく理解した感じのある俺を見ながら彼は両手を広げた。


「要するに歴史には必須の出来事ってのがあるって事だ。けど、このままじゃ俺のこの世界で必須の物事が起きずに終わる、可能性があるらしい。なんで、その調査に来た。」

「……」


 俺は歴史上の人物どころかFラン大出身の左遷専門会社に勤める一生ヒラリーマンに過ぎない。自分史の中ですら俺が必須の存在じゃないのが明らかな立場だ。

 ゲーム風に言えばモブ中のモブで、勇者が立ち寄った村で「村長に会いたければ村で一番大きな建物に行くといいよ!」というセリフすら与えられていない、その後ろで黙々と畑を耕している姿が時折映るだけ。そして何がどうなろうがゲーム終了までそれは変わらない。


 だから歴史上の重要人物を例に引かれても内容がアタマに染みて来ない。

 が、それは取り敢えず側に置いておくにしても、更に分からない事もある。


「何で原作者の浜井さんが調査に来てるんですか?自分で志願したとか?」

「志願したわけじゃない。」


 彼は即答した。


「調査とは言ったけど正確にはそうじゃない。調査そのものは会社の方で粗方やってる。」

「…?じゃあ何しに?」

「正確に言えば俺の役目はストーリーの現状回復だ。」

「現状回復?」


 彼は椅子の上で少し前に重心をかけて身を乗り出した。


「さっきも言った通り、このまま放っておくとストーリーが予定通りに進まない。だから原因と思われる事象を探って正しい…つかストーリーが進む方向に戻してやるのが役目だ。」


 ふ~ん。

 まだ釈然としない。


「でもそれってストーリーはそれこそ関係者なら知ってるわけですよね?別に原作者じゃなくてもいいんじゃないですか?」

「ま、そうなんだけど原作者の俺でもいいわけだろ?」


 確かに原作ストーリーを知ってりゃ誰でもいいなら逆説的には原作者でもいい。

 原作者ならストーリーやら登場人物をある意味、誰よりも深く知ってるわけだから、彼の言う所の”原状回復”には向いてるのかも知れない。


「それには中身を知ってる、ややもすると物語では実際には書かれなかったその裏にある設定も知ってる、つか創った俺が最適任ってのが会社の説明だ。」


 俺の考えを彼自身も補足した。


「そんなモンですかね?」

「会社に言わせるとちょくちょくあるって程の話じゃないけど、まあ、そういう事例がないわけじゃないらしいぜ。」

「ふ~ん。」


 彼からすれば漸く俺の質問タイムが終わったと思ったらしく、椅子に座り直した。


「つう事だから、本来はこの物語に俺、つまりポリアリン男爵ってのは地方の一領主としては存在はするんだが目立った形では出て来ない。」


 彼は名刺を出した。

 名刺には自己紹介通り「リバードア王国ボリアリン男爵 ルーク・ボリアリン」と書いてある。


「設定的には数ある平凡な男爵家だ。」


 平凡な男爵家って貴族がありゃあな!という俺の皮肉な感想は当然、口にはしない。ビバリーヒルズの普通の一軒家とかと同じだ。


 その自称平凡な男爵はカップを取り、中が空になってるのに気付き、パンパンと手を叩いた。

 使用人入口から侍従が姿を現すと紅茶を2杯言い付ける。そしてハッとした顔をした。


「あ、ごめん。そのカップってお前さんのじゃなかったな。今まで茶の1つも出してなくてスマン。」

「いや、別にいいッスよ。」


 実際、俺は何も気にしちゃいない。だから軽く答えたのだが、俺の答えを聞いて侍従がピクリと変な動きをした。


 何だ?と一瞬だけ思ったが直ぐに分かった。


 明らかに貴族じゃない格好をした俺が男爵の目の前にデンと腰掛けて、男爵がその超失礼な庶民に自身の失礼を詫びながら無礼な庶民の為に茶を頼む。挙句、その返事が「別にいいよ」と来たモンだ。彼が顔を痙攣らせるのも分かる。


 俺は彼の心中を思いやって苦笑いは止められなかったが、突っ込むことない。

 そんなことよりも目先の話でまだ潰してない重要な論点がある。 


「王様やらウチのご令嬢には何て説明してるんすか?」


 今の説明は当然、お嬢やら国王には出来ない。じゃあ、何て説明してるのかは気になる。

 俺の質問に対して彼は机の上に置いてある冊子の様なモノを手にした。


「ウチの家の書庫から預言書が出て来た、という話にしてる。これはその写しだ。」

「はあ…」

「ウチの初代が書き記したもの、というフレコミになってて、コイツと今までの歴史、現状が一致する。なので記載のある今後も一致する可能性が高い。けど、現状は預言書の内容と微妙にズレてるって話をしてる。」

「…はあ。」

「なんで、介入が必要だって国王を説得したんだ。」

「…ってストーリーになってるってですか?」


 彼は苦笑いした


「ストーリーって程じゃない。今回の調査の為の単なる設定だ。」


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