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風任せで人任せな俺がここにいる理由  作者: 明月 文


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094 道中での不敬な会話

 リバードアの現在の王は巷ではヘタレ王とかヘタレ陛下と呼ばれているそうな。

 勿論、国王に対する綽名としては問題なく非礼なので影でコソコソである。


 今、俺はお嬢と一緒に馬車に揺られている。

 まあ、これはお嬢の護衛として俺の日常と言っていいが、中で話されている話は普通じゃない。話題の中心は国王陛下だ。しかも内容はその不敬極まる綽名についてである。


 そもそも何でこんな話になっているかと言えば、今日の目的地は王宮で、普段ならそこでお嬢を降ろしたら俺ら護衛はその場で待機となるだけなのに、今日は俺も国王との謁見に同行せよと命じられたからだ。


 当然、俺が「なんでさ?」と言ったわけだが、「だいたい国王とかって他国から来た俺は名前もよく知らんぜ。」と付け加えた。

 結果、お嬢が国王について簡単なレクチャーをしようとしてくれたのだが、お嬢も俺の予想外のボケに慌てたのか何でか話が変な方向に飛んでしまったのだ。


 冷静沈着系のお嬢も慌てるってことがあるんだな(笑)。

 つかビールズのボブさんならまずは「そのくらい知っとけ!」と突っ込んだかも!


 まあ俺の相変わらずの無知はともかく、今の国王陛下には、なんでも、王太子の頃にはご幼少のみぎりより決められた婚約者がおり、学校ご卒業と同時にご成婚、という予定だったそうだ。

 中世社会の支配者階級にはよくありがちな話である。

 

 が、その直前の卒業間際になって婚約解消となった。


 よくあるゲームの様な、王太子の方がお気に入りの別のご令嬢の腰に手を回しながら卒業式で婚約破棄を言い渡したのではない。

 婚約者だった公爵令嬢の方が王太子とは別の同級生と恋に落ち、逆に公爵家の方から正式に婚約解消の申し入れがあったらしい。当然、卒業式とか公衆の面前とかで突然の不意打ちでもない。


 卒業式で常識外はともかく、通常は、臣下である公爵家の方から王家との婚約解消を申し入れるなど有り得ない。明らかに無礼とされるし、政略的にも利点はまるで見当たらない。

 日本でも朝廷が政治の中心だった平安時代には娘を宮中に入れる為に藤原家以下、各貴族は鎬を削ったわけだし、将来の王の岳父の地位に旨味があるのはどこの王国でも帝国でも一緒だろう。


 だが、この時は岳父でなくとも既に国政に強い影響力を持っていた公爵家の力関係が影響したのか、周囲の与り知らぬ事情があったのか、はたまたご令嬢の道ならぬ恋のお相手が留学でリバードアに来ていた他国の公子だった事も関係したのか、結局はこの申し入れは通り、婚約は破談となった。


 ムリムリ考えれば、王家としては、自国で大きな勢力を誇る公爵家と縁は繋げなかったものの、公爵令嬢が他国の公子に嫁いだ事により結果的には外交上の点数は稼げたし、国政に大きな影響力があろうが臣下に有り得ない我儘を認めて貰った公爵家にある種貸しも作れたとも言えるので、まるで加点要素が無かったわけではない。

 庶民からも政略ではなく恋愛を優先した美談と称えられもしたから、国民の好感度も稼いだのかも知れない。


 王太子という婚約者がいながらも他国の公子と道ならぬ恋に落ちた公爵令嬢に至っては、不倫とまではいかないが浮気といってもいいその行動を謗られるどころか、障害(?)を乗り越えて恋を実らせたとして庶民の憧れの対象にすらなった。

 普段は偉い人、有名人の不倫だ、浮気だを口を極めて罵るが、都合のいい時だけは掌を返すのが庶民である。


 が、文字通りNTRされた王太子には何も良い事がなかった。


 公爵家から破談を持ちかけるという無礼を許した寛容さを褒められる事もなかった。

 それどころか世間では公爵令嬢の恋路を悩ませた障害扱いになってしまった。

 しかもその裏面では実際はどういう状況だったのかは別にして、彼は陰でオンナに逃げられた男と嘲笑の的になった。


 惚れた腫れたは治世の実力とは何の関係もないが、政治の世界はやはりマッチョが持て囃される。

 女に逃げられた、とされる彼は政界でも裏で密かに物笑いの種にされ、おまけに当の公爵(元婚約者の父親)とは仕事柄、全く顔を合わせないというわけにもいかない。

 年若い王太子の身の上では公爵家に何か意趣返しするなども出来ず、王家としても国政の重鎮である公爵を冷遇するとかも難しい。

 

 結果として公爵家からの婚約解消の申し出をそのまま呑むしかなかった彼は陰でヘタレ王子との綽名が付き、即位してからは綽名の方もヘタレ王へと昇格している。


 そのヘタレ王陛下は現在、御年35歳。未だ独身だ。


 破談当初はその経緯はともかく、件の公爵家を除く他貴族の中には、今こそチャンスと思った者も多かったそうだ。年頃の娘を持つ貴族としては当然の動きとも言える。なので宮廷で開かれる催し物は大盛況だったらしい。

 だが、失意の王子に両親である国王夫妻も無理に再婚約を勧める事はなく、王子も催し物ではソツのない態度に終始して新たなお相手を見つけようという素振りもなかった。

 事が事だけに周囲も無理に何かを通す事も出来ず、以降15年以上が経過している。

 

 15年の間に父親である国王は引退し、ヘタレ王子は順当に即位してヘタレ王となったが、そっちの状況は何も変わっていない。

 ヘタレ王がいつまでもご成婚せず、結果、お世継ぎもご誕生になってない事に、国内ではそこはかとない不満の声も聞かれはするが、経緯はそれこそ全員が面白おかしく知っているから、正面切った大きな声にはならない。


 そのヘタレ王の下で国自体は栄えていた。

 だから裏でどんな綽名がついていようが、彼の国王としての資質に疑義を挟む者は内にも外にも存在しない。


 今もってヨメがいない、当然世継もいない、というのは問題視されてはいるのだが、世間ではもう半分諦めが入っている。繰り返しになるが、事情はもう国中が面白おかしく知っているのだ。

 なので、現在ではいづれは既に別の侯爵家に降嫁されている妹殿下のご長男かご次男がご養子に入られるのでは、と噂されている。


 移動中の馬車の中で国王陛下に関する通常の真っ当な説明でなく、そんな変かつ大変非礼な知識を聞かされながら、俺は肝心な話を聞いた。


「んで、何だって今日は俺が付いて王宮なんだ?」

「……」


 お嬢は少し沈黙した。話すべきかどうか迷っているらしい。


 いや、俺が空気が読めなかっただけでそもそもは話すつもりはなかったのかも知れない。

 だから、そのカムフラとして必要のない、かつお嬢には珍しいゴシップ的なヘタレ王知識を時間をかけて披露してくれたのかも。


「……マイケル4世陛下は世間ではヘタレ王などという失礼極まる陰口を叩かれる事もあるが、実際には非常にご英邁であらせられる。」

「ほう?」


 ま、女にフラれた話と仕事の実力は無関係と言えば無関係だからね。


 ちなみに先程の政治の世界の話と同様に世間一般ではそうは捉えない場合も多い。

 ウチの会社の上司の中にはその種の昭和特化型の人間は結構いた。


 「結婚も出来ないヤツは所詮仕事もダメなんだよな」とかって公言していた方(社長)もいたし、「俺の経験からするとオンナにモテない人間は、やっぱし仕事はデキないんだよなあ」と言ってたスダレ型ハゲ(部長)もいた。彼の言う「俺の経験」がどんな経験なのかはチビ、デブ、ハゲの揃った現状の彼の姿からは想像出来なかった。まあ若い頃はハゲではなく、チビは愛嬌があるように見え、デブは優しそうな外見と捉えられていたのかも知れない。

 何となればご本社天下りの方は学歴は最高で、部長として天下って来られるのはご本社でもある程度ご出世した証だから仕事はデキたのだろうし。


「件の公爵家は当時中央で宰相に次ぐ立場にあった。具体的には貴族院の議長だ。一応、辞意を表明したらしいが、その地位は維持された。」

「はあ。」


 一応、相槌はうったものの、あまり興味はない。

 それに公爵ぐらいの偉い人になれば、例え娘の願いであっても、それを叶える為に全てを擲つなど考えられない。当然、影響を最小に抑える努力はしただろう。というより、そもそも勝算があるからこそ掟破りの婚約解消という手段に出たはずだ。


 俺の「その辺はまあ当然ですよね」という相槌にお嬢も口の端を曲げて嗤った。


「公爵としては上手く立ち回ったつもりだったのだろう。」

「はあ。」

「しばらくはそのままだったんだが、先王陛下が譲位されて陛下が即位された時に所管替えが行われて、彼は常々主張していた国内の治水を任された。」

「ほう。」

「彼は、治水と称して国内のほぼ全域の水利権を手にして、水運も支配できる、と思っただろう。」


 水運は鉄道も高速道路もないこの種の中世社会では物流の基幹で、水利は言うまでもなく農業の基本だ。双方ともに経済の中枢である。

 公爵からすれば、冷や飯を喰わされるどころか、益々力を得たように見える。


 けど、話の流れ的に当然そうはならなかった。


「だが直後に首都近くのワイルドリバー河で氾濫が起きてな…」


 首都の東側を流れる大河だ。

 ビックウェル程ではないが、サウザンリーフとの国境線でもある。


「それは河川を管理する公爵の管理不行き届きとされた。実際、氾濫の危険性が言われていながら公爵がまともに対応しなかったからだ、と世間じゃ専ら噂された。」


 彼女は意地悪く薄く笑った。


「誰が流したかはは知らんが、な。」


 何事もその場で殴り返すだけが能ではなく、機会を狙うというのは重要だ。


 日露戦争にしても三国干渉の頃から大日本帝国としては中国、朝鮮からいずれはロシアを排除するという方針は決まっていたが、その時は何もせず黙って要求に従った。ロシアと殴り合う力がないのは誰の目にも明らかだったからだ。

 けど、臥薪嘗胆を合言葉に国を挙げて資金と軍事力を準備して後に開戦、付近からロシア勢力を追い払う事に成功した。極東アジアの政治情勢を一気に引っくり返してみせたのだ。


 ヘタレ王陛下が何をどう考えたかは分からないが、少なくとも王太子に過ぎなかった婚約解消時はその機会ではないと判断したのだろうし、逆に絶好の機会を逃さなかったと見える。

 治水を任せたのもその遠大なる計略の一環だったとすれば大したものだ。


「公爵は辞意を表明したが陛下から許されず、辞表だけは預かられて、爵位を維持するのと引き換えに復旧工事の殆どを負担させられた。」

「ほほう。」

「爵位は維持されたが、大きな借金を背負った公爵家は傾いた。今でも傾きっ放しだ。」


 婚約破棄は基本は娘の所業なんで自分で災いのタネを蒔いたとまでは言わない。公爵としては娘の幸せを一番に考えた結果だったのかも知れない。

 けど、結局のところ将来の王でもある王太子に喧嘩を売ったわけだから、そのままでは済まない事は覚悟すべきだったとは思う。

 それとも婚約解消をほぼノーダメージで乗り切ったのを、王太子側の戦略的撤退とは考えず、自身の政治力の結果と錯覚してしまったのかな。


「国内で大きな批判に晒され、復旧工事に追い回された公爵殿は程なく体調を崩されて領地で寝たきりになった。」


 本当に寝たきりになったかは分からない。偉い人が都合が悪くなると入院するのはよくある話だ。

 東京には金を出せば診断書も入退院も自由な大学病院が沢山ある。この世界にも金とコネで何でも診断する医者がいても不思議な話ではない。

 理由はともかく責任をとって辞任、自分は引退と引き換えに息子の地位だけは確保する。そして小煩いマスゴミ他、外野は病気と称してシャットダウンは、今の日本の政治家や経営者でもよくある振舞いだが、現在の権力者である国王を敵に回しているのである。そう上手くいくかな?


 果たしてお嬢は意地悪く続けた。


「陛下の婚約者だった令嬢の兄君が家を継いだが、復旧工事から手を引く事は許されなかった。河川の補修工事は今もって終わる気配がない。彼には先代の様に中央で力を持つ余裕など一生ない可能性が高い。」

「なんだっけ…その他国の公子とやらと結婚したご令嬢の方から助けて貰ったりはせんの?」


 ある種当然な俺の問いには伯爵令嬢の冷笑が返ってきた。


「彼は公子なだけで大した家じゃない。王家を継げる立場でもないし、援助できる様な財力も影響力も持ち合わせていない。そもそも我が国の国内問題だから他国の彼には手出しも出来ない。本人もそれはよく知ってるから何もしないし、出来ない。」

「その…何だ…婚約者だったとかってご令嬢は?ご実家の危機なんだろ?」


 またも俺のごく普通なツッコミに、またも冷笑が返ってきた。


「ご令嬢の方に至っては、自分は全く関係ない、というご態度だったそうだ。」


 件の公爵ご令嬢がどういう方かは存じ上げない。

 恋は盲目とはよく言うから、ご性格とは無関係に公子との禁断の恋にお悩みだったのかも知れない。

 挙句、恋は成就させたはいいが、世間様の手前、あまり大きな顔をして公に顔を出すのは宜しくないと捉えてひっそりとお暮しになっていた可能性もある。

 あるいは深窓のご令嬢として政治とか経済とかのお話には全く縁遠いお方だった、という事も考えられる。ウチのお嬢とは大違いだな(笑)。


 が、その大違いなお嬢の冷笑はそんな感じではなかった。


 意外とただ空気を読まずに突っ走り、自分だけが良ければヨシという性格なのかな?

 案外、この種の空気を読まない高い鈍感力に意味不明な突破力を兼ね備えたタイプが、敵味方を問わず周囲には壊滅的なダメージを与えつつも本人だけが成功を収める事例は男女ともに多い。


 ま、いずれにせよ読み違えは誰にでもある話なわけだが、婚約破棄の結果は、公爵家からすれば安い値段に惹かれてフラリとラーメン屋に入ったが店員の態度は最悪で味は激マズだった、という程度では済まなかったという訳だ。

 水害は関係者一同にとって予定外の出来事であったにしても、予定通りヘタレ王陛下と娘が結婚していれば、王家も嫁の実家については少しは考えたのは間違いない。逆にNTRの一件が国全体に知れ渡っていたからこそ、公爵家に対する冷たい仕打ちも皆の理解を得られているとも言える。


 アタマの中で色々考えながら、いや考えさせられながら俺は思った。


 ……なんか知らんが、お嬢、ガード固えな。


 前々から計画していましたが、あらすじに少し手を入れました。

 連載当初は風任せで主人公がどうなるのか作者にもよく分からなかった(笑)ので、敢えてあまり多くを書きませんでした。

 ですが、それなりに内容が紹介出来るところまで話も進みましたので今日になって加筆、修正しました。今になって見ると何となく話の内容と合ってないような気もしてましたし。

 ……今回は逆に文量的にちょっとバリバリ書き過ぎたかも(笑)。


 ともあれ今後とも「風任せ~」を宜しくお願いします。m(__)m


 読者の皆様のブクマなり評価なりの力強い後押しが、作者にとってはこれからも続ける大きな大きな励みになります。お読みになられた方々はお気軽に評価、ブクマ、そして感想をお願いします。

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