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風任せで人任せな俺がここにいる理由  作者: 明月 文


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090 それぞれの区切り

 ハンソン、ついでにロイドに潰されて殺されずに済んだある種幸運な手下2人は、ロイドに逮捕された後、ロイドの提案に従って盛大に謳って躍ったものと見える。


 部下の殆どを失って仕事に失敗したハンソン君は彼自身が覚悟した通り組にはもう戻れず、シャバに戻ったところで粛清が待つだけだ。

 その上、ム所の中であってもロイドが仄めかした通り、ボスの命令で早々に消されてしまう可能性も高い。

 彼らは殺人の実行部隊を率いていた関係から、表沙汰に出来ない話を沢山知っているのだ。


 けど、それは組が存続している場合だ。存続しない組に付け狙われる事はない。生き残りがいても、組が亡くなれば最早存続しない組織の為に危険度の高いム所での暗殺などしないだろう。

 それなら一か八か官憲を頼り、というか利用して組ごと亡くした方がいい、と見定めたものらしい。喋って組が潰れた後はお上の御慈悲を願える立場になるか、ムショでガタガタ震えながら組からの口封じを待つか、どちらかを選べ、となれば前者に決まっている。

 俺の背後の逃げ場を塞ぐ役で、ロイドに音もなく潰された部下2人も同様だ。


 つか実際問題、彼らに選択の余地などなく、前歯が有名な関西の大物お笑い芸人並みに喋って喋って喋り倒すしか生き残る術はない。後先を考えている場合ではない。

 もっとも役立つ情報を持っていたのは一応は組織幹部だったハンソン君だけでパシリの2人は脳内を全部ゲロっても大した話は出来なかったようだが。


 そして当のハンソン君だが、自分では学がないとか謙遜していたが俺の見るところアタマの回転はそう悪くなく、暗殺請負を生業にするだけあって決断力もあり、他人を犠牲にする事もボスを裏切る事も何も気にしない卑劣さと酷薄さに溢れてそうだったから、早々に喋って生き残る方に賭けようという決めたのは不思議ではなかった。


 逆に性根的にも自分が命を張ってまで組織に義理立てするようなヤツはギャングなんぞにいやしない。

 こちらの世界がどうとかではなく、所詮ヤクザ社会はそんなものだ。

 イタリアマフィア界の有名なオメルタと呼ばれる沈黙の掟は珍しいから有名なのだし、それも彼らが義理堅いから成り立っているのではない。家族、一族を実質人質とする事で機能しているのだ。


 そういう事で、後は官憲の仕事になった。


 長きにわたり裏社会で権勢を誇っていたらしいミルスコップ一家は徹底的にやられた。

 俺に対するチンケな殺人未遂容疑ではなく、ハンソン君の証言により首都の領主代行である伯爵家を狙った国家反逆罪容疑で軍まで動員されて徹底して殺られた。


 皆、薄々は知っていたが普段は手出ししなかった一家の溜まり場は残らず急襲され、そこにいた不幸な部下達は全員が二度と立てなくなるまで半殺しまたは全殺しにされた。

 幸か不幸か生き残ってしまったヤツらは永久ブタ箱行き。ドン・ミルスコップの豪勢な邸宅は逮捕も捜索も何もなく、速攻焼き討ちにされた。

 

 それでも脱出に成功した親分のプレストン・ミルスコップも結局はゴットプランに逃走する途中で軍に捕まってあっさりその場で処刑され、首は川岸に晒されて胴は国境線の河に蹴込まれて文字通り魚の餌になった。

 役には立たなかったとはいえ俺の攻略法を授けたという前のドン、ジャンなんとかの屋敷も同様に軍に焼き討ちされた。何でも車椅子生活だったと聞く先代ドンは逃げる事も出来ず焼死したらしい。

 黙って隠居してりゃあいいものを余計な口出ししやがって、ざまぁ!


 この辺りの情報は特に誰かが知らせてくれたわけでもなかったが、町のど真ん中での派手なオペレーションだったし、町中ではもう皆が見て知っているレベルの話、しかもやってるのは部隊は違えど同じ伯爵家の配下である警邏と軍の連中でもあったので、俺も同僚達も当然知っていた。

 こうなるともう情報というより単なる事実と言ってもいいかも知れない。


 ハンソン君達実行部隊がいなくなり、伯爵令嬢への襲撃はピタリと止まった。


 もっとも、そうは言ってもあれだけ色々あった後だから護衛隊がすぐさま縮小とかはなく、俺らは襲撃があった頃と同じ体制と緊張感で護衛は続けていた。


 そうしたドタバタした1週間が終わり、更にもう1週程が経った頃に俺が私用で1人外に出ると、ロイド保安官がひょっこりいつもの伯爵邸の外の物陰から姿を現した。


「何だ?まだそんな所にいたのかよ。」


 俺が呆れた顔で言うと、彼は顔の前で軽く手を振って否定した。


「いやいや。今日は最後に挨拶しとこうと思ってな。」

「挨拶?」


 彼はポリポリとアタマを掻いた。


「今回の件でな、俺は伯爵家への陰謀を防いだ大手柄ってことで結構な額の報奨金が出た。」


 けっ!

 命狙われて体張ったのは俺で、手柄はお上のモンか!


 予想はしてたが俺が「何だそりゃ!?」って面白くなさそうな顔をしているのを苦笑しながら眺めてロイドは続けた。


「けど俺を昇進させようって話はどっからも出やしねえ。」


 一時のボーナスは手にしても昇進とは無縁、という人間は会社にも大勢いる。

 理由は様々で、俺の様に部長への階段は最初から存在しない人間もいれば、仕事の結果は評価されてもキャラクターを否定されているヤツもいるし、上司から個人的に嫌われて何をしても良い評価が全くつかないお気の毒な人もいる。


「で、まあ俺はこれ以上偉くなりそうにもねえんでな、これを花道にお前さんのお勧めに従ってみる事にしたんだ。」

「うん?」

「俺は昨日、辞表を出した。」

「ほう!」


 お!思い切ったのか!


「俺は生まれ育ちは実はココじゃなくてプレスフィーでな。そっちで冒険者になるつもりだ。」


 冒険者に転職するには少々年齢はイってるが、冒険者は魔物退治でなくとも仕事はあるし、今迄は対人戦メインだったかも知れないが彼ぐらいの腕と例の特殊能力があれば魔物退治も直ぐに慣れるだろう。

 それに多数派ではないが、対人専門の冒険者もいない事はない。前職の経験を活かして賞金稼ぎや人探し、盗賊潰しを専門にしてもいい。


 場所を変えるのも悪くないと思う。


 元々官憲だった彼は冒険者ギルドでも官憲として顔を知られている。ギルドの面々の中には彼個人か官憲に何かしら恨みつらみがあるヤツもいるかも知れない。元官憲というヤツに直接手出しするかどうかは別にしても周囲の空気は確実に悪くなる。

 そこまではなくとも、官憲が送り込んだスパイとまでは思わないが、話が官憲に流れる可能性はある、と皆、判断するだろうから色々な意味でお友達もできないだろう。ワルの業界も意外と狭く、お友達云々はともかく周囲からハブられている様では仕事も覚束ない。


 その点、プレスフィーまで移動すれば元官憲と言っても他国での話だから、周囲もそんなに警戒しないだろう。

 特に地元なら元からの知り合いもいたりして、冒険者ギルドでも馴染むのは早いかも知れない。ややもすると、そんなお友達から誘いがあったのかも知れないな。


「そうか。ま、頑張んな。」

「おう!」


 余計なお世話かも知れないが、この何となく優秀さを逆手に取られて誰かに上手く使われてしまいそうな、あるいは1人貧乏籤を引き当ててしまいそうな中年に、俺は念押しを付け加える事にした。


「この前、俺が言った話、覚えてるか?」

「おう?」

「冒険者は自分で仕事を選べる。だから、どの仕事がワリがいいのか自分でよく考えて自分で決めるのが大切だ。この業界じゃ他人に言われてやらされる仕事は大概碌なモンじゃねえ。」


 俺の言いたい事は分かったのだろう。彼は苦笑いで「ああ、よく覚えておくよ」と言った。


「ま、とにかく頑張んな。」


 俺の簡単かつ冒険者の先輩としての上から目線な激励(?)に彼はハハハッと軽く笑って答え、今度は彼が付け加えた。


「ああ、ちなみにお前さんに掛かっていた殺人容疑だけど、ありゃもうなくなった。」

「あん?」


 彼はタバコに火を点け、ソッポを向いてプハーっと煙を吐き出した。


「事件の担当になってから俺も引継ぎで捜査報告は見たんだが…まあ、何だ、元々大した根拠があってお前さんを追っ掛けてたわけじゃねえらしい。冒険者同士の揉め事くさくて、殺しの手口が素人じゃなさそうなんで、Cクラスぐれぇの新参じゃねえかっていう程度だ。」


 なんだ、そりゃ!?


 ロイドが俺を捕まえに来た時に、心の中でこの世界の官憲の捜査能力に感心して損した。

 ハッキリ言って全くの根拠レスで、たまたま俺に目を付けただけじゃねえか!


 俺は些か呆れたが、しかし直ぐに警察なんか所詮はどこの世界でもそんなもんか、と思い直した。

 現代の日本でだって大概の捜査では「コイツが殺ったにちがいない」と決め打ちしてから証拠固めに入るし、静岡辺りでは証拠を警察が勝手に作るとか当たり前だ。

 もっとも今回の場合、筋道は全くの見当違いなのに答えは合ってた訳だから俺に文句を言う資格は1mmもないけども。


 「そんでな…」とロイドの話は続く。


「今やお上への協力を惜しまない俺らの共通の知人の某ハンソン君に言わせるとだな……ああ…何でもお前さんが自分ちの庭の雑草抜くみたくザクザク片付けた一味の1人が、生意気な口を利いた商人風のヤツを路地裏で…まあ、なんだ、ちとやり過ぎ気味に痛めつけたって言ってたらしい。」


 フォークでちょいとつついたとかならともかく、ナイフで刺したは「痛めつけた」とかって話とは違ううと思うが(笑)。

 

 俺の心の中での感想を他所に彼はソッポを向いたまま煙草を吹かせた。


「んで…まあ…ウチの再捜査の結果、少々疑問がないではないけど、嘘じゃなさそうだって判断した…らしい。」


 成程。保安官事務所が容疑を取り下げたのではなくて、ちょっと違うが扱いとしては真犯人が自白した、という扱いになったという事か。


 ハンソンとそのお仲間は組織の暗殺請負実行部隊として数限りない殺人をしているはずだ。今更、その人数が1人、2人増えたところで何も変わらない。むしろ官憲が望むなら望まれるままに1人増やして媚びを売った方がいい、と本人は判断したのかも知れない。

 しかも死んだ部下が町で勝手に揉めて刺したとなれば、この件だけに関して言えば自分は関係ない。


 しかし笑える。

 俺は含み笑いで訊いてみた。


「いったい誰がそんな判断したんだ?(笑)」


 案の定、彼はソッポを向いたまま苦い顔で言った。


「…担当保安官の俺が判断して上司が了承した。」

「へえ~(笑)」

「上司からしてもウチの事務所全体で見ても未解決事件が1つ減るのは…まあ…悪いこっちゃない。」

「アンタがハンソンとナシつけたのか?」


 俺のもっと直接的な問いにロイドは「いや」と首を振った。


「上が自分が尋問で吐かせたって手柄が欲しかったらしくてな、俺の見てねえ所で自分で持ち掛けたらしい。」


 上って言えば、保安官事務所の応接室でお嬢と話をしていたあの感じの悪そうなスダレハゲかな。

 まあ、ロイドよりはありそうな感じだ。ロイドが話をしたよりむしろ意外感はない。


 ま、保安官事務所側に立てば、見ようによっては彼も言った通り良い判断、とも言える。

 結局のところ俺に辿り着いたのは正しいが、捜査過程は全くの間違い&根拠レスだ。しかも彼らは目の前にいても伯爵家お雇いの俺を半永久的に逮捕は出来ない。

 そこに今、命惜しさに何でも言う通りに話すハンソンが手に入った。この際、永久お蔵入り事件もドサマギで片付けておこう、というわけだ。


 事が犯罪捜査ではなく、事務手続きの類なら全くもって悪くない。

 しかし「持ち掛けた」とか語るに落ちとるな!(笑)


「形としちゃあ、上司が吐かせた情報を元に俺が再捜査して確認して、俺が結論したって事になってる。」


 吐かせた手柄は上司のもので、手間暇かけて確認するのは部下の仕事だ。

 しかも確認だからそれは手柄ではない。そして上司はそのまた上の上司に自分の成果としてご注進、上からお褒めの言葉と良い心象は総取りだ。

 その上で後に記録として残る書面上はベテランの首席保安官ロイドの判断とだけ残り、後々問題になった場合は責められる側ではなく責める側だ。

 更に結果的には肝心のロイドは辞めて既にいないから完璧である。


 そのお約束なまでに自分本位な行動はこの世界の人間らしくてマジ笑えるが、ロイドの方はと言えば、相変わらずこの種の事を被せられてしまうタイプなのは最後まで変わらなかったわけだ。


「又聞きみたいな話だから、そもそも確証は取れん。殺ったと言ってた事になってる本人は誰かさんに殺られちまって供述は取れない。」


 ロイドはソッポを向いたまま煙を吐きながら俺の思った通りの話を続けた。


「けど、まあ、犯人が明確になれば誰も損はしない。俺らもこれ以上、捜査も尋問も張り込みもしなくていい。」


 彼はプハーっと煙を吐いて俺の方を見た。


「自白だから無駄に手間暇も増えてねえ。……俺が苦心して書いた報告書以外にはな。」

「クックック…ありがとさん。」


 遂に我慢できなくなって笑いの漏れ始めた俺を見て、彼も苦笑しながら肩を竦めた。


「まあ…俺も最後の最後でハンソンの言うところの冗談とかが通じるようになったってトコかな。」


 つまらなそうなロイドの言い様に俺は言い返した。


「金が通じるようになったんじゃねえから、いいんじゃねえか!?」


 彼は毒気を抜かれた様な顔になり、爆笑した。


「ワッハッハ!そうだな!違えねえ!」


 ハッハッハッハ!と2人で笑った。


「ま、俺は個人的に今回の大手柄はアンタに対する借りみてえなモンだし、俺ら全体としても今回の件はアンタに借りを作った様なモンだ。普段は出来ねえ軍の力まで借りて町のゴミを纏めて始末出来たんだからな。」


 ロイドはだいぶ短くなった煙草を咥え、プハーっと煙を吐いた。


「なんで、ちっとは返しとかんとな。」


 オーエンの件はモロに犯人は俺なわけだが、これが完全な冤罪だった場合、警察が勝手に罪を被せておいた上にそれを別件の手柄に免じてハズしてやったから借りは返したぞ、と言っているようなものだ。絵に描いたようなマッチポンプである。


「……一応、感謝しとく。」


 けど口には出せないが犯人は俺だ。

 それを認めたようになるのは避けなくてはならないから少し迷ったが、結局俺は色々苦労をしたロイド個人に対するつもりでやや曖昧にしながらも礼を言った。


 俺の再度の礼を聞いて、ロイドは煙草を足で揉み消した。


「ま、そういうこった。」


 彼はクルリと背を向けて片手を挙げた。


「じゃ、あばよ。プレスフィーに来ることでもあったら、一杯奢れとまでは言わんが声でも掛けてくれ。」


 お嬢を狙っていた暗殺団は一掃し、勢いでその上部団体も根こそぎ排除されてしまった。

 俺の殺人容疑は頼んでもないのに勝手に官憲が帳消しにして、担当者のロイドも去った。


 風任せ人任せもいいが、この辺で俺も今後どうするか考える時が来たのかも知れないな。



 90話到達です。

 初めて少しキリのいい所でキリ番を迎えました。


 ここまで読んで戴いた読者の方々に感謝申し上げます。


 読者の皆様のブクマなり評価なりの力強い後押しが、作者にとってはこれからも続ける大きな大きな励みになります。評価やブクマが上がればやはり嬉しいものです。


 本作を気に入られた方、今後も読み続けて戴けるつもりがある方は「読んでるよ」という印代わりに、あるいは今後も本作を応援して下さるお気持ちを表現する為に、お気軽に評価、ブクマ、そして感想をお願いします。

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