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風任せで人任せな俺がここにいる理由  作者: 明月 文


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089 殺し屋と魔法談義

 俺は足元で鈍く光り続ける魔法陣をチラリと見た。


「……この下の魔法陣の事か?」

「そうさ。」

「……」


 俺は少し困惑した。

 動きを封じるわけじゃない。閉じ込めるわけでもない。この魔法陣で何がしたいんだ?


「いや、旦那がどんな技を使ってるのか、学のねえ俺にはよく分からねえ。」


 俺が困惑して黙っているとハンソンの方からニヤニヤと笑いながら言ってきた。

 東大生が人に大学を聞かれるとアタマを掻きながら「いやあ、一応東大です」と言う時の薄ら笑いと同じ類で、声には形にならない優越感が溢れている。謙遜と見せかけた尊敬表現でしかもその行先は自分だ。


「けどね、潰すヒントは貰ってる。」


 余裕綽々でハンソンは続けた。


「旦那は旦那の技は昔、魔法だって言ってたそうじゃないすか。」

「……」


 なるほど。そこは気が付かなかったなあ。

 魔法を封じにきてるのかあ。


 今は弓師だが、魔法を併用しているのは間違いない。

 ちなみに前回タッカート・ウンノウだった時は魔法について人に話すも何もレーザー全開だったわけだが、逆に弓矢で魔法は滅多に使わなかった。


 けどクリス・シーガイアになってから俺は自分の魔法について言及した事はないはずだ。


 いや、俺、どっかで喋っちまった事があったっけか?酔っ払った時とか?

 いやいや、そこは酔っ払っても弛まないはずだ!

 

 それともコイツらが誰かの話と混同してるのか?

 俺以外に俺と同じ技が使えるヤツがいて見破られたとか?

 いや、俺の技は俺自身の俺しか出来ない技とミリーの技の複合だ。他のヤツに簡単に出来るはずがない。

 それに見破られたなら「俺が言った」という話ではないはずだ!


 俺が黙ったまま「どっかで喋っちゃった事があったっけなあ?」とアタマの中で首を傾げている(?)のを見て、ハンソンは図星ととったらしい。

 

 彼は得意げに両手を広げた。


「魔法なら魔封じの結界は効くはずだ!て、こたあ旦那の得意芸はもう使えねえ!」

「……」


 いや、まあ魔法を封じるのに魔封じの魔法陣は有効な手段ではあるが、どういう類のものかにもよる。


 俺は彼に尋ねた。


「魔封じの結界魔法陣がどんな仕組みかってのは知ってんのか?」


 囲みが万全と自信のあるハンソンは余裕綽々でニヤニヤして答えた。


「学はねえって言ってますでしょう?旦那がどんなお上品な学校を出てるか知りやせんが、俺にはそんな暇はなくてね。そんな俺にそんな事、聞きますかねえ?」


 いや、そもそも俺もハンソン君と同じヤクザ者とほぼ五分の冒険者に過ぎないから、どんな種類でもお上品と称される学校は出ていない。住んでた所もお下品とまではいかないが、下町だ。コッチに至っては家すらなく、野宿専門の勇者という名の戦うルンペンだった。学校に通うはおろか、足を踏み入れた事もない。

 日本でだって高校中退の誰もが認める立派なFラン大卒だ。


 だが、まあ、時間稼ぎが必要なわけではないが、向こうが話をしたいと言ってるのなら話をしてもいいだろう。


「まあ聞けよ。」


 余裕綽々のハンソンはニヤニヤしながら「続けな!」とばかりに上から目線続行で顎をしゃくった。


「魔封じの結界は3種類ある。」

「3種類ねえ(笑)。」


 ハンソンは余裕の薄ら笑いのままだが俺は続ける。


「1つは詠唱を阻害するタイプだ。音を阻害するのと詠唱に必要な精神統一を阻害するのとあるんだが、どっちも無詠唱タイプには効かないし、高精神力を持つ高位の魔法使いには通用しない事も多い。」


 俺の解説に対し男は小馬鹿にしたように笑った。


「へえ、俺はただ効きが弱いって思ってましたよ。おベンキョーになりますねえ。」

「もう1つは魔法の効果を吸収、または散らすタイプだ。無詠唱にも効くし、魔法自体は発動した後で無効化されるから術者の精神力を削りながら効かなく出来るっていう利点があるんだが、これもある一定レベル以上の魔法使いには効かねえ。強い魔法使いにはパワーでぶち破られるからな。」

「さっすが魔法使いの弓師の旦那。ようご存じじゃないですか。便所でクソする方向みてえに分かりやすいぜ。学校の先生みてえだ。」


 勝ち誇った顔のまま、今度はハンソンの方から口を開いた。


「じゃあ、最後の3つ目はアッシが説明してあげようじゃないですか。」

「ほう?」

「俺が旦那用に用意したのは今の2つじゃねえタイプだ。よっくご存じとは思いますが、これは外からの魔素の吸収を邪魔するってヤツだ。」


 お返しとばかりに今度は俺が小馬鹿にした様に嗤った。


「ほほう!学がねえって割には説明は合ってるぜ。」

「学はねえけど、一応、商売絡んでんだ。そこはあんましバカにしねえで欲しいね。」


 対するハンソンは満更でもなさそうな薄ら笑いで言った。

 誰でもそうだが、褒められるのは嬉しい。特に自分があまり自信のない分野で褒められるのは嬉しい。例え相手がお世辞でも、心にもない事を言っているとアタマでは分かっていても嬉しいという心の動きは止められないのだ。


「魔法使いは魔素を搔き集められねえから、そもそも魔法にならねえ。どんな魔法使いだって抑え込めるって塩梅だ。魔法がそもそも使えねえから、パワーでぶち破るも無詠唱も関係ねー。その代わりちょい難しくって結界範囲が狭えのが難点だ。範囲から直ぐに出れちまう。旦那をここへ、この位置へ追い込むのには結構、アタマ使ったし手間暇掛かってんだぜ。」


 自慢気な彼の言いように俺も素直に頷いた。


「まあな。いい手腕だったとは思ってるよ。」


 追い込みがいい手腕だったのは同感だ。

 まず魔法陣を用意する場所を考えなくてはならない。魔法陣を用意したはいいが、俺がすぐさま脱出出来るようでは意味がない。俺が逃げられない様に追い込める場所を探さなくてはならない。それがこの3方を壁に囲まれた射的場の一角だ。同時にここなら周囲の野次馬に官憲を呼ばれたりせずに大人数で包囲可能だ。

 その上で俺を誘導するわけだが、下調べとして俺の行動を丁寧に見張り、その上で俺が定期的に顔を出す武器屋を把握する。

 そして俺が武器屋に行く日辺りを予測、武器屋のオヤジを脅すか買収して俺がこの射的場に来る様に仕向ける。冒険者相手の武器屋なんて地元ヤクザが脅迫半分で小金を握らせれば簡単に言う事を効くだろう。特に目先の自分の利益に飛びつくこの世界の連中ならそうだ。

 最後に俺が来る30分の間に魔法陣を準備して、射的場の全員を追い払う。武器屋同様にこの射的場の受付をしていた爺さんも買収してのことだろう。これから起きる事を考えれば顔色が悪いわけだ。


 とにかく俺1人、殺る為に結構な手間暇がかかっている。

 その努力は素直に認められる。


 相手の努力も賞賛した。

 この辺りでお喋りはよかろう。


バシッ!


 彼の左隣にいた賊の目に、防具の間を正確に縫って俺の矢が刺さる。毒矢も何も関係ない位置だ。刺さった奴は声も無く倒れる。


「なっ!」


バシッ!


 彼らが驚いている間に手で番えることなく魔法で次の矢が装填され、2発目は今度は右隣にいたヤツの同じく目に突き刺さった。何も即死コースだ。


「なっ!魔法は使えねえはずじゃ…」


 周囲の数人が仲間が倒れるのを見て慌てて本能的に自分の顔の前に盾を構え直す。

 決して悪い反応じゃない。


 けど一瞬かも知れないが、彼らの視線は自分の構えた盾に遮られて俺から外れ、腰から下辺りが剥き出しになる。俺はそこを狙って今度は毒矢を放つ。


バシッ!バシッ!バシッ!


 足に1本づつ毒矢を喰らった3人は泡を吹きながら崩れ落ちる様に倒れた。


「テメエ!!」


 1人が剣を振り上げて踊りかかって来たが、俺のボーガンの1発目を恐れて遠巻きにしていたが故に少し遠くからだ。なので俺は慌てず騒がず余裕を持って今度は普通の矢を番える。


バシッ!


 至近距離で撃たれ、喉に矢の刺さった男が倒れるのを見て、残りの数人が怯んだ顔をした。

 その一瞬の硬直を俺は流す気はない。


バシッ!バシッ!バシッ!


 魔法で自動的に装填された矢が更に3人のアタマというか眉間に向けて発射され、3人はそのまま倒れる。


「ヒッ!コ、コイツ、冗談じゃねえ!」


 残る1人が背を向けて逃げようとする。バカなヤツ。


バシッ!


 背中に矢が刺さりバカは倒れ、残ったのはハンソンだけになった。

 俺は残った毒矢をボーガンに装填してハンソンに向けた。


「…なんで魔法が使えんだ?」


 答えは単純で俺は周辺から魔素を集めてるわけじゃないからだ。

 いや正確には集めているわけだが、マサさんと一緒で俺は体内に魔素を溜めるタンクにあたる部分が極めて大きい。理由ははっきりとは分からないが、レーザーという1発1発に極めて大きな魔力を必要とする魔法の使い手だからではないかと想像している。いずれにせよ弓矢に使う程度の魔法なら一々周辺の魔素を集める必要などない。

 ちなみに他の魔法陣も俺には意味がない。レーザーにしても何にしても無詠唱だから1番目の詠唱阻害の結界は意味がなく、2番目に話に上がった魔法の効果を打ち消す魔法陣であっても、俺が使っているレーザー照準と矢の自動高速追加は元々の消費魔力が極めて小さく、簡単にパワーでぶち破れる。多少燃費が悪くなる程度か、一瞬ぐらいは止められるかぐらいで、出来ないとかは多分一切ない。


「さあな。魔法陣の効きが弱かったんじゃねえのか?」


 言ってしまってからシマッタ!と思った。

 これじゃ魔法を使ってるのを認めてるみてえじゃねえか!


 ……まあ、そこはもうどうしようもないか。彼ら直接見てるわけだし。


 よく考えてみたら、今更ながらに思い出したが弟殿下も俺が魔法を使ってるのは知ってる。だから俺の魔法は完全に秘密が保たれているというわけでもない。

 それに使い続けていれば弟殿下以外にも見破る人間も出るだろう。

 けど、詳しい話を今、ここで彼に教えてやる義理も理由もない。


 俺の冷たい返しにハンソンは「そんなはずはない!」と言わんばかりの表情で俺を見た。バッと見、結構書き込みの激しい魔法陣っぽいからその威力には相当自信があったのかも知れない。

 けど俺がその魔法陣の中から一歩も出ずにレーザー標準&連射で奴らの大半を片付けたのは事実だ。

 そして最後に俺のボーガンが自分にピタリと狙いを付けられたのにハンソンはチラリと目をやって、肩を竦めて諦めた様に剣を自分から放り投げ、その場に座り込んだ。


「ちっ!くそったれ!こうなりゃ、どっちみち俺はもうお終いだ!組にも戻れねえ。殺るなら殺れや!」


 俺は毒矢を構えたまま訊いた。


「ヒントをくれたってのは誰だって?」

「俺には親分、ミルスコップ親分だけど、親分は大親分から聞いたって話だ。」


 組織に義理立てして言わないかな、とも思ったが彼は素直に答えた。

 もう死ぬと覚悟を決めて捨て鉢になったか、あるいは見た目には分からないけど流石に死を目の前にして少し動揺してしまった挙句、余計な事まで喋ってしまっているのかも知れない。


「大親分って?」

「そんな事も知らねえの…ああ、旦那、余所モンだったな。先代のジャン=アルフレッド親分だ。」


 最初の親分は知らないが、思い起こせば大親分の方は前回ここにいた時に聞いた事があった。

 確か当時のイーストキャピトルのエトースラムを根城に幾つかあったギャング団のボスの1人だ。


 前回、直接の関りは特に無かったけど、金のありそうな少人数だと商人だろうが騎士団だろうが、町の中だろうが外だろうがおかまいなしに襲い掛かって来る超凶暴でちょっとアタマのおかしい連中だから気を付けましょう、とアイーシャから説明があった記憶がある。


「俺からも1つ、聞いてもいいか?」

「お前になんか聞く権利があると思うか?」


 殺し屋団のボスは不敵な感じでニヤリと笑った。


「先も言ったけど俺はどうせここで終いだ。旦那はどうせ俺を生かして返す気ねえだろ。最期に何か聞くぐらいはいいだろう?」


 俺は返事もしなかったが、ハンソンは勝手に続けて訊いてきた。


「旦那、ミリー・デバイスの弟子か?」

「…!」


 思わぬ事を聞かれて俺は一瞬硬直した。

 そして……返答に迷った。


 通常の師匠と弟子という関係ではないが、弟子と言えば弟子だ。

 俺の弓の技も毒の使い方も全て彼女から教わった。

 だから弟子だ!と言ってもいい。つか胸を張って言いたい!


 けど、そう言えばミリーと俺が関係あると話すようなものだ。

 流石に年齢が合わんから勇者本人だとは思わないだろうが、今では巷でも有名な勇者の騎士ミリー・デバイスの弟子と名が売れても困る。


「…誰だ、そりゃ?」


 結局迷ったのは一瞬だけだった。

 俺が惚けて否定の返事をするのを聞いたハンソンは一瞬だけ目を鋭くしたが、それ以上は突っ込まず肩を竦めて言った。


「そうかい。」


 彼の言う通り、俺は彼を生かして返すつもりは毛頭ない。

 だが、返しはしないが、生かしたまま別の所へ”売る”ことは出来る。


「おい!ロイドさんよ!いるんだろ?」


 背後の開かなくされていたはずの扉が何事も無かったかの様に開き、その向こうからのっそりと保安官が現れた。

 彼は俺に尾行を見破られていても特に慌てた素振りもなく、「何か用か?」と言わんばかりの態度だ。


 俺はチラリとロイドの方を見て揶揄った。


「何だよ?結局はお前さんもグルだったんか?」

「違えよ!」


 俺がただおちょくってるだけなのは分かっていただろうが、対するロイドは如何にもワザとらしく心外だという風に声を上げた。


「部屋の向こうで扉の前に張ってたコイツ等のお仲間2人は俺が潰しておいた。」

「ふ~ん。そりゃどうも。」


 すっかり忘れてたけど、背後の扉の向こうにも扉を閉める役のハンソンの配下がいたんだっけ。

 それは片付けてくれたわけだ。偉い、偉い。


 俺は顎をしゃくった。


「んで、コイツ等、いるか?」

「ああん?」


 ロイド保安官はツカツカと歩いて俺の隣に立って、ハンソンの周囲を見回して呆れた様に言った。


「ちっ!コイツ等とか言ってるけど、もう生きてるのはハンソンしかいねえじゃねえか!」


 そしてハンソンの方を向いてヨッ!とばかりに片手を挙げた。


「よう!ハンソン!ご無沙汰!」


 対するハンソンは露骨に嫌な顔をして「ちっ!」と舌打ちした。


「よりにもよってアンタか、パール・ロイド首席保安官殿。何でコイツとグルなんだ?」


 今度は逆にハンソンにグル扱いされているが、ロイドは否定もせず肩を竦めただけだ。

 ロイドの顔を見た瞬間こそ思わず本音が出た風に嫌な顔で舌打ちしたが、ハンソンはもう諦めた苦笑いで続けた。


「首席保安官殿が相手じゃ金も冗談も通じねえ。コイツに今、殺されるのとどっちがマシか分からなくなってきたぜ。」

「相変わらず人の顔を見るなり失礼なヤツだな、ハンソン。しかも”首席保安官殿”とか嫌味が激しいぜ。俺がこの役職を嫌ってるのを知ってて言ってるだろう?」


 ハンソンは嫌な顔のまま苦笑いしただけだ。


「俺だって冗談ぐらいは通じる。嫌味もな。それにな…」


 ロイドはポケットから煙草を出して加え、おもむろにマッチを擦って火を点けた。


「…金以外の話ならもっと通じるかも知れねえぜ。」

「……なんだよ、それ?」


 彼はプハーっと煙を吐き出した。


「何か…そうだな…何か自主的に俺らがワクワクする話とか全員のエレクトが止まらなくなる話がしてえなら早い方がいいな。」

「……」


 ハンソンもロイドの言いたい事はすぐさま理解出来たらしく沈黙した。

 その様子をじっくり確認して、ロイドはまたプハーッと煙を吐き出しながら続けてダメを押した。


「お前さんもよく知ってる通り、みんなが敬愛して止まないミルスコップの親分は仲間思いで気が短けえ。大事なお身内が俺らに捕まってるのをいつまでも我慢出来るとも思えねえから、お前さんがブタ箱にいようが、鉱山労働刑で昼は地面に穴掘って夜は自分が穴掘られての楽しい毎日を過ごしてようが、関係なく秒で手を打ってくれるんじゃねえか?ええ?」

「……」


 ロイドの言ってる話がよく分かったらしいハンソンの顔が狡猾そうに歪んだ。

 当たり前である。こっから先は命がマジにかかった計算だ。流石にポーカーフェースとはいかないのだろう。


 が、その辺りは俺にはわりとどうでもいい。

 俺はロイド保安官の方を向いて訊いた。


「後は任せていいか?」

「ああ」


 ロイド保安官が手錠を指でクルクルさせながらハンソンの方に恐れげもなくズカズカ近づくと、ハンソンは一瞬、ほんの一瞬だけ迷った目をしたが、溜息を1つついて自分から両手首を揃えて前に付き出した。


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