表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風任せで人任せな俺がここにいる理由  作者: 明月 文


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

86/126

085 予定通りの襲撃と弟殿下

 だいたい、弟殿下が来るという通常と違う話になってしまっている段階でこちらのフラグも既に立ってしまっている。


 ちなみに伯爵公子は王族ではないので正確には「殿下」ではない。俺らが陰でそう呼んでいるだけだ。伯爵家に仕える俺らにとって見れば彼は「王子」様な訳だし。

 …よく考えてみたら名前聞いてねえな(笑)。


 それはともかく、3日後に予定通りお嬢 with 俺ら護衛隊はドーガク地区に視察に出向き、下町だ何だとビビってた割に視察そのものは無事に何事もなく終了した。

 が、帰りの馬車に乗り込む寸前の所で刺客の一団は襲い掛かってきた。

 お約束である。


 視察が無事に終わってホッとした所を狙うという心理的効果を加味しての行動なら中々のものだ。

 お嬢が魔法防御でガチガチに守られた馬車に入る前を狙ったのだとすれば、これまでの失敗の経験もキチンと活用されている。


 だが、対する俺ら護衛陣も全然素人じゃない。

 何もなしに視察が終わるというがむしろ想定外で襲撃は予定通りだ。

 なんせ弟殿下ご同行の段階で何らかのフラグは立ってしまっていて、何もなしに終わることなど考えていない。しかもそれは全員が認識している。


 なので、弟殿下も来ているということで普段より少し多めな剣士勢が全く慌てる事無く、先ずはお嬢とお付きの侍女、それと弟殿下を中心にキレイに半円状に囲んだ。

 普段の訓練の成果が完全に、自然体で発揮された完璧なフォーメーションである。


 なのにその完璧なフォーメーションの背後から弟殿下が俺らにがなった。


「その方どもどけ!前が見えん!魔法が使えない!」


ビュッ!

カッ!


 弟殿下の鋭い声に思わず1人が反応してしまって脇に動いてしまい、空いた隙間からすかさず矢が飛んできた。それを別の護衛の1人が素早く小盾で受ける。


 目の前の半円とは無関係にお嬢近くというポジショニングの関係で弟殿下にも近い位置にいる俺はうんざりして思わず言った。


「余計なお指図はご無用に願います、閣下。」


ビュッ!

カッ!

ビュッ!


 同じコースでもう1発飛んできた矢を、こちらも同じ様に護衛隊の1人が小盾で受けた。

 ムカっときたので、俺がクイッと顎をしゃくり、それを横目で見ていた1人が素早く脇へ避けると、その隙間から俺は速射で打ち返して敵の弓師を倒す。


「お嬢様、中へ!」


 隊長が叫んだ。


 いつも冷静沈着なお嬢も世継でもある実の弟が横にいるとなれば話は別だ。

 傍目にはいつも通り暗殺者など歯牙にもかけないという態度ではあるが、いつも見慣れている我々からすれば普段より少し慌てた動作で、侍女を連れて馬車の中へ逃げ込む。


「アレク!お前も早くしろ!」


 お嬢の当然の声掛けに、弟殿下は敢然と首を振った。


「姉上は馬車の中へ。私はどんな高貴なバラであっても跪いて負けを認める他はない崇高でお美しい姉上に危害を加えようとするビチグソ共をケツから引き裂いてご覧に入れます!」


 ある意味、お約束のリアクションに俺ら護衛陣は防衛の最中なのに思わず「あ~あ」と首を振ったり天を見上げたりした。


 この前の練習場の時は全然悪くないと思ったんだけどなあ。

 やっぱりお嬢が絡むと人格豹変してキレちゃうわけだ。


 ある種予想通りの展開に呆れ返る俺らを他所に、お嬢だけは目を三角にして怒鳴った。


「伯爵公子たる者が”クソ”とか”ケツ”とか品のない言葉を発するな!例え家族であっても淑女に対する言葉遣いではない!」


 そこは今は論点じゃねえなあ。


 流石のお嬢も、今日は弟殿下もご一緒という事でちょっとご混乱されているらしい。

 そこじゃねえ感しかないお言葉を聞きながら、俺らがもうこの姉弟については忘れよう(笑)と思っていたら、弟殿下の声が朗々と響き始めた。


「その炎は炎神の片腕より生ま…」


 なかなかいいイケボじゃないですか…じゃなくて、このバカヤロウ!

 この町中でそんな大魔法使ったら、町中、火の海じゃねえか!

 俺らだって逃げ切れるか分からねえ!

 つか馬車も出せねえ!


 この場で一番、殿下の近場にいるのは俺だ。仕方なく俺はまた声を掛けた。


『詠唱ヤメ!』

「…れし永久に……!@#$$!!…????」


 俺の詠唱中断を喰らい、弟殿下の周囲へのご迷惑及び俺らの巻き添いを全く考慮されていない危険な詠唱が止まる。


 詠唱をしている最中は一種トランス状態になる魔法使いは多い。

 その精神集中をかき乱すには話し掛け方というか声の出し方にコツがあり、俺はそれを昔、レニから教わっていた。


「タッカートは無詠唱だから関係ないけど、普通の魔法使いには共通の弱点があります。」


 その日の敵は森の奥地に住むリッチ&不愉快な骸骨の仲間達だった。


 不愉快なスケルトンズはアイーシャを中心に剣士隊が剣でバラバラにして葬ったが、ボスのリッチには魔法障壁を前に剣が届かず、マサさんの魔法は2度もレジストされた挙句、珍しく相手に詠唱による魔法攻撃を数度も許すハメになった。

 ちなみにシイちゃんはアンデット相手では新たな死体なしとして出番なし、俺のレーザーは急所らしい急所がないアンデット、中でもスケルトン系には一番相性が悪い。


 だが、リッチの3度目の詠唱をレニが今と同じ『詠唱ヤメ!』の一言で止めて、棒立ちの相手に本来は後衛のリリアが素早く駆け寄って、長めのスカートがめくれるのも気にせず聖なるヤクザキック(足に聖魔法を付与しての物理攻撃)でボコボコにどつき回した。

 そしてその間にマサさんが(勿論、俺らも)艶めかしく太腿まで丸見えのリリアの足をガン見しながらも、リッチですら無視できない超強力な身体拘束の魔法を発動。

 最後にまたリリアがサービスタイム終了とばかりにスカートを素早く直し、聖魔法のすっごい強力なヤツをちょっち時間掛けて詠唱してトドメを刺した。


 結構、苦労した。

 レニによる詠唱中断スキル伝承はその後で行われた。


「なにそれ?」

「通常の魔法使いは詠唱が必要です。しかも詠唱には精神集中が必須なので動き回りながら唱えられる術者は滅多にいません。」


 それは俺らも分かる。

 だから通常、魔法使いは1人では戦えない。必ず詠唱中に守ってくれる相棒を必要としている。


「ですから魔法使いが詠唱に入った瞬間が一番無防備で、詠唱が終わる前に倒すのが基本です。」

「うん。」


 そこも流石に俺だって分かってる。

 俺が素直に頷くと、普段はその性格の悪さが全く出ないレニが3歳児に「いい子ね」と笑いかける様にニッコリ笑った。


「その他のやり方として、我々騎士団は詠唱中断という小技を持っている者がいます。」

「ほほう?」

「やってる事はただ話し掛けるだけなんですが…実際はヘイト管理に似た技です。」


 ヘイト管理とは敵の注意を自分に向ける技だ。

 何の意味がある、と思うかも知れないが魔獣戦では意外と役に立ち、ガード力の高い味方が敵の注意を引きつけた瞬間に、敵に押されていたメンバーが離脱する、あるいは横合いから他のメンバーが攻撃するなど応用範囲は広い。

 高位の遣い手が遣うと、それこそお脳の足りない魔獣とかだとヘイトの相手だけに意識が集中してしまって周囲が見えなくなり、他のメンバーが横から余裕でタコ殴りするという事すら可能だ。


「簡単に説明すると、詠唱している最中に一瞬だけ声でヘイト管理を差し込んでこちらに注意を向けます。それだけではヘイト管理としては不充分ですが、詠唱は中断出来ます。」

「なるほど?」


 さっきのレニの一言がそれか。


 しかし、である。

 詠唱を中断する、とは中途半端だ。繰り返すが魔法使いは詠唱前に倒せ、が基本なのだ。


 だが俺の疑問を読み切っているレニは続けた。


「勿論、詠唱が終わる前に倒してしまうのが一番いいのですが、剣が届かない距離の場合などには使えます。」

「……その距離だと声も届かなくねえか?」


 ミリーが横から口を挟む。


「いい所に気付くじゃねえか。だから普段はあんまし使い道がねえんだ。それに相手がこちらの声に振り向かなきゃいけねえんだけど、周囲は戦いでウルせえのに集中している相手の耳にどんな言葉、どんな声ならズバッといくのかは実は相手次第だ。ヘイトを強くすりゃいいってモンでもない。」


 レニも追加する。


「今回は上手くいきましたけど、毎回、詠唱が止められるとは限りません。」


 なるほど、と俺も笑った。


「だから”小技”か!?」

「でも、覚えておいて損はねえ。こん中じゃこの種の技はレニが一番上手い。タッカートは無詠唱だから戦闘中は口は空く。1番使う機会があると思うから教えて貰っとけよ。」


 何時もの様にミリーが背後から俺の肩に手を回して密着しながら言い、レニもまたニッコリ笑った。

 この種の小技とかは、嫌らしい戦い方を基本とするレニが得意とするのは今なら100%頷ける。


「キャンプを張ったら、そこで練習しましょう。」


 ちなみに次にスケルトンズに出会った時に試しにシイちゃんが死人使いを使ったら、めっちゃ効き目がある事が判明。同じく生命体としては死んでるリッチに対しても全然よく効くという事も程なく分かり、アンデットは一気に敵ではなくなった。

 前回までは既に死んでしばらく経っているアンデットには通用しないだろうという先入観があったのだが、効くとなれば倒す必要は全くなく、シイちゃんが一言「俺らを護衛しろ!」と叫んだ瞬間からむしろ心強い味方だ。

 あまりに簡単に味方になったので、いつもなら不平不満は顔にも態度にも出さないアイーシャですら「この前の戦いって…」と少し不満顔をしたぐらいだ。


 だったら、そのアンデットの軍団を引き連れて攻めていったらいいじゃん!という事になろうが、残念ながらこの魔法”死人使い”には時間制限があり、ある一定の時間を過ぎると使役していた死体共は砂の様に崩れて消えてしまう。

 この辺の耐久性は個々の死体の魔力によるらしく、リッチなんかは3日近くもって俺らを守ってくれた。


 いやあ仮にもアンデットの王と称される彼が恐れ多くも歩哨に立ってくれた時は、俺らもアイーシャ達も何の恐れもなくすっかり気が抜けてよく寝たなあ。


 けど、逆に言えばリッチ程の高位の魔物でも3日程度しか持たない。一般のスケルトンみたいなレベルの低い魔物だと長くて30分程度だ。

 こうして思い返してみると、一般的なゾンビは時間が来たら消えたりはしないから、やはり普通のアンデット術とシイちゃんのそれは根本的に違ったのかも知れないな。


 昔話はともかく、俺は昔習い覚えた技を使って弟殿下の周囲(俺らも含まれる)を全く顧みない敵も味方も全滅魔法の詠唱を止めると、彼が更に危険な魔法を唱えだす暇を与えず建物を指して言った。


「あそこと、あそこへファイアーアローが飛ばせますかな?」


 いずれもエミーリオさんが目線であそことあそこに何かいる、と教えてくれた先だ。

 今、手に持ってる俺の小型ボウガンだともう少し近寄らないとダメな距離だ。


 詠唱を中断させたのは俺だと分かってはいるのだろう。

 弟殿下はチラリと俺の方をもの言いたげに見たが、結局、何も言わず、俺の指した方に手を向けた。


「%&$$%&&##…深淵なる魔力でのみ呼び出される炎の矢よ!我が命で敵を射抜け!ファイアーアロー!」


ドン!ドン!


 ファイアアローは聞いての通り、とても簡単な詠唱だが威力はそう高くない。

 ややもすると盾なんかでも防げてしまうし、上手く当たっても精々が大やけどぐらいでトドメを刺すには至らない場合も多い。


 俺としては相手が火傷でもしてダメージを喰らい、こちらを攻撃して来なければいいぐらいの気持ちだった。

 周囲の賊を粗方片付け終わるまで向こうが攻撃して来なければ、最後の方で俺がもう少しだけ近付いて狙い撃ってもいいし、剣士勢の誰かが建物を駆け上って殺ってもいい。


 だが、弟殿下の唱えるファイアアローは、単なるファイアアローなのに凄い威力だった。

 そもそも音が違う。ドン!とかって音はアローじゃない。

 アローというより砲撃の様な威力で壁も窓も無関係にぶち抜いて、潜んでいた弓師が壁ごと火に巻かれながら声もなく落ちて来た。俺らの出番は不要だな。


「馬車の向こう側へ障壁結界をお願いします。」


 俺が素早く馬車の後方を指して次の指示を出すと、弟殿下は目の前でヒョイヒョイと軽く風魔法の印を切った。

 俺としては炎で壁でも作って貰うつもりだったのだが、どうやら高度な風魔法も使えるらしい。


「かの賢者は自らの身を守らんと神の守りをその周囲に作った。その守りは賢者を称える言葉と共に我が身を守るであろう。我は今、ここに賢者を称える神の言葉を紡ぐ。##4%%%&#”””$%%&!!…壁よ来たれ!」


 これまた短い部類の詠唱の呪文だったが、馬車の後方の風景が薄いガラスの板を置いた様に少し歪む。

 空気の壁があたかも実体化した様に見える程の魔法壁だからかなりの威力だ。これで魔法も含めて後ろからの攻撃は気にしなくてよくなった。

 ちなみに通常の風魔法の障壁結界は謂わば強い向かい風みたいなモンで、空気層が歪むまではいかない。弓を防ぎ、意外な事に騎馬を防ぐのには有効だが、強い力で強引突破も可能だから歩兵は精々足止め出来る程度だ。が、あのレベルの障壁はかなり手こずるだろう。


 この間に、数人の襲い掛かって来た賊を隊長とリャン副長を中心とする剣士隊が叩き斬っている。

普段なら隊長とリャン副長は交互に隊を率いているが、今日は弟殿下も来ているので両者揃い踏みだ。


 俺がエミーリオさんを見た。彼は微かに首を振る。と言う事は、遠間からの攻撃能力のある賊は始末し終わった。

 後方からの攻撃は魔法壁で防げる。


 後は前方と横から襲い掛かって来る賊を始末するだけだ。

 俺は失礼は承知でボウガンを構えながら弟殿下に声を掛けた。


「これだけして戴ければ充分でございます、閣下。残りは手前どもが片付けます故、閣下は馬車の中にご移動願います。」

「いや、まだ姉上に害を成すクソどもはケツから氷の矢を突き刺して…」


 予想通り、弟殿下は不穏なでピーなお言葉を吐きながらゴネる。

 さっき、お姉上様から下品な言葉使いをするなって注意されてなかったっけ?


 それはともかく、俺はこれも失礼を承知で途中でぶった切る。


「私共に万が一の事があった場合に備え、閣下はお嬢様の最後の守りとしてお近くにいて貰わなければ困ります。お嬢様もああして扉を開けたままお待ちしておりますので、さ、お早く。」


 なんせ弟殿下が外にいる限り、その横には2人程が張り付きになる。今は俺ともう1人の剣士だ。

 その上、今言った通り、殿下が馬車の中に入らないとお嬢は馬車の扉を閉めない。


 魔法障壁に守られた馬車の中にいれば、冒険者Cクラス程度の斬撃は通らないから、護衛隊は少し離れた位置でも賊を始末出来る。何時もの様に馬車の直ぐ近くには俺とエミーリオさん、それに護衛隊の1人でもある御者の3人が残ればいい。

 弟殿下には「お嬢様の最後の守り」とかって説明したが、要は、要警護の2人はとっとと馬車に引っ込んで貰えば俺らは敵の殲滅に専念できるのだ。


 俺に言われて弟殿下は周囲を見る。

 元々ご優秀な方ではある。彼は自分が敵の遠距離攻撃手段を潰しきって俺らが少し有利になった事、残るは近接戦闘である事が分かったらしい。


 そしてもはや必死の形相で「アレク!早くしろ!」と馬車の中から叫ぶお嬢の方を見て、その言葉に従って、渋々ながら馬車の中に移動した。

 殿下が馬車に乗った瞬間に馬車の扉が侍女の手で素早くバタンと閉められる。


 それを確認した俺は叫んだ。


「よし!オッケーだ!」


 振り向きはしなかったが、俺の叫びでお嬢と弟殿下がちゃんと馬車の中に退避したのを確認したヴォルフ隊長が叫んだ。


「おーし!もう遠慮はいらねえ!テメエら、とっとと片付けろ!」

「「「おう!」」」


 弟殿下シリーズ(笑)はひとまずここで終了です。

 ちなみに主人公は彼に「閣下」と呼び掛けていますが、伯爵本人ではないのでこれも正確ではありません。ですが庶民故の過ちと赦してやって下さい(笑)。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ