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風任せで人任せな俺がここにいる理由  作者: 明月 文


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082 予定外の襲撃

30話以上前に書いた伏線を回収します。

 簡単な仕事だ。


 顔に付けるマスクを用意しながら襲撃隊を率いるマックは考えていた。


 少数の護衛だけを連れた貴族のお嬢様の馬車への襲撃。

 場所は町中である。盗賊やら魔獣やらが跋扈する田舎の街道とかではない。なので、中の見えない伯爵家の豪勢な馬車には、少数の護衛しか付いていない。

 御者の隣に護衛が1人、そして前後にも同じく騎馬で護衛が1人づつがついているだけだ。


 たった3名の護衛など潰すのは簡単だし、中に1人、2人の護衛が乗っていても手間が少し増えるだけだ。

 こちらはマックに加え、Eクラスに毛が生えた程度とはいえ、手勢は15人、それに本部から連れて来た風の魔法使いがいる。

 1人、2人の護衛程度ならマック1人でもいいぐらいだが、この仕事は時間との勝負になる任務だ。

 なんせ場所が町中だ。時間が掛かれば他の護衛なり衛兵なりが駆け付ける可能性もあるし、マック達の姿も見られ、ないとは思うが正体が露見する可能性もある。それで過剰なくらいの戦力を連れて来ているのだ。


 ボスであるハンソンさんからも手早く殺れ!と言われている。

 そして、その意味はマックにも分かる。


 殺るのは簡単だがなんせ相手が相手だ。後腐れはデカい。

 

 殺れば当然、犯人として官憲から厳しく追われる事になるが、勿論、組織もハンソンさんも庇ってはくれるだろう。けど流石にモタモタしている間に顔バレまでしてしまっては庇えない。


 逆に顔バレすればこれ幸いと全てを擦り付けられてバックレられた挙句、自分だけがム所に放り込まれて死人に余計な口無しとばかりに消されちまう。

 直属の上司であるハンソンさんも本部の幹部達も殺る時は相手が部下であろうが何だろうが一切容赦しないのは末端でしかないマックもよく知っていた。


 だから少ない護衛を蹴散らすのも、馬車の中のマトを殺るのも簡単だが、なるべく速攻で殺って、なるべく速攻逃げ散る必要があるのだ。


 そういう意味でタイミングは図る必要があったので、直ぐに実行せず、行動を時間を掛けてよくよく調べた挙句、今日の決行となったのだ。


「……」


 本部から来た風魔法使いが無言で道の横から前に出た。丁度、馬車から見れば斜め前辺りだ。

 正面に立つ騎士と、御者の隣に座る護衛騎士、それに護衛を兼任している可能性もある御者の3人を魔法で一気に片付けようという算段だ。


「気の力よ、その力で大気に渦を作り、神なる権限を持って…」


ブシッ!


 小声で詠唱を唱えていた魔法使いは、馬車の中から飛んできた矢がキレイに額の中央に突き刺さり、詠唱を完結せずに倒れた。


「弓師?」


 駅馬車の護衛なんかだと見張りも兼ねて弓師が同乗している事はよくある。

 だが、通常は見張り兼補助戦力として馬車の上部、あるいは御者の隣に乗っている事が多い。少しでも高い所からなるべく遠くまで狙い撃ちするためだ。馬車の中に控えている弓師なんかいない。


ブシッ!ブシッ!


 動揺している間に更に2発が追加され同数の手勢が額に穴を開けて倒された。


 マズいだろ!


 ここに来て正気に戻った俺は、後ろで呆けてる数人を振り返った。


「ボケてんじゃねえ!馬車の中の弓野郎をとっとと叩き斬れ!ついでにマトも片付けて来い!」

「「「お、おう!」」」


 予定では馬車の前の3人をサッサと魔法で片付け、後の騎士を数人で相手して足止めしている間に馬車の女を殺るつもりだったが、魔法使いが真っ先に殺られた以上、予定を変更するしかない。

 まずは馬車内から発射される弓を止めなどうにもならん。

 

 俺の声に後の3人が我に返った顔をしてダッシュで馬車に突撃した。

 自分や本部の助っ人には劣るが、残りの冒険者、というより半グレもチンピラにしてはそう悪くないのを連れて来てはいる。


ブシッ!


 馬車の中から更に1発が発射され、1人の腰辺りに刺さった。

 ソイツはもんどりうって倒れたが、残り2人は馬車へ突進する。


ヨシ!


 もう1人ぐらい殺られても、残る1人と俺で弓野郎を片付けたら、中の女を引きずり出して終わりだ!




「出番だ!準備しな!」


 前の小窓が開き、エミーリオさんが先日の案内の時と違い緊張感の漲った声で鋭く言い、ガンッと御者側の小窓が乱暴に閉まった段階では俺はぶっちゃけ半信半疑だった。


 ホントに襲われんのかよ、おい!?

 コレ、領主代行の伯爵家の馬車だぞ!おい!?

 ここ、町中だぞ!おい!


 けど魔力探知持ちのエミーリオさんが敵性魔力を見間違うはずがない。


 お嬢には「襲って来るヤツを仕留めろ!」と最初に言われてはいたが、正直、そんなヤツがいるとはあまり考えていなかった。街中で領主の娘を襲うなんて正気じゃ考えられない。

 だから出番があるとすれば遠出した時かな、と思っていた。

 町を出れば領主の馬車も分からないお馬鹿過ぎる山賊とかもいるかもだし、魔獣には領主も何も関係ない。

 政治的に考えてもよく分からない。

 そもそも娘である。政変とかを狙うなら伯爵ご本人を殺らないと意味がない。

 

 それとも生け捕りにして身代金でも盗ろうってのかな?

 それにしても相手が良くない。こんなガードガチガチな領主の娘でなくとも富裕な商人とかお金持ちの貴族とかもっといい相手はいくらでもいそうな気がする。


 俺は向かいの席にドカンと座るお嬢の方をチラリと見た。

 お嬢にもエミーリオさんの声は聞こえただろうが、彼女はちょっと視線を上げたぐらいで何の驚きも反応もなく、自分とは無関係とばかりに目線は元の手元の書類に戻った。

 何を考えておられるのかはよく分からないが、その態度からは驚きは全く見えないから、彼女的には予想の範疇なのか!?


 馬車の中で俺は呆れたが、出番である以上、手は別に止まらない。

 素早くボウガンを準備している間に馬車が止まった。

 そして小窓を再度開けて取り敢えず目の前の魔法使いらしいヤツを馬車の中から仕留めると、手元にある残り2本の簡易ボウガンを使って更に2人を仕留める。


「ボケてんじゃねえ!馬車の中の弓野郎をとっとと叩き斬れ!ついでにマトも片付けて来い!」

「「「お、おう!」」」


 相手の大将らしき男から鋭く指示が飛ぶ。

 こういう時に必要なのは必ずしも正しい判断ではなく素早い指示だ。

 それに特に相手の方が人数は多いから、取り敢えず数的有利が消えないうちに、何でもいいからとにかくフクロにして殺っちまえ!は内容的にもマズくはない。


 俺は簡易ボウガンに次の矢を番えた。


ブシッ!


 1人は倒したが残り2人はそのまま突撃してくる。

 俺は馬車の扉を開けて外に出た。


 まあ、仲間が倒されても気にせず突撃の判断もそう悪くはない。

 けど…


「死ねや!おりゃああ!」

「来るのが遅えんだよ、バカ。」


 俺は真っ先に突撃して来たバスケの選手のような手足の長い大柄な刺客の、しかし実に雑な剣戟をボウガン本体で軽く弾き、デカい図体な割には寄せて来るスピードは悪くなかったな、とか頭の片隅で考えながら、たたらを踏んで後ろに数歩下がった彼の腹にボウガンを撃ち込んだ。


「グッ!」


 至近距離だから鎧があっても弾くまではいかない。反面、鎧があるので弓自体の威力で殺れる程に深くは刺さらない。

 けど、矢はいつもの通り毒矢だ。刺客はすぐさま泡を吹いて倒れる。


 前のめりに倒れてくる邪魔くさい大柄な刺客の腹に蹴りをぶち込んでどかし、俺は素早く次の矢をつがえ、横から片手殴りに襲い掛かってきた別の刺客に撃つ。

 彼は(少し驚いた事に)素早く避けて体の中心部は回避したが肩に当たった。


「グワッ!」


 一瞬だけ「そんなんで止められるかよ!」という風に口元が歪んだが、Cクラスの魔獣を倒せる毒である。直ぐに泡を吹きながら仰向けに倒れた。

 背後からもう1人、後ろから指示していた男が突撃して来る。


「おおお!テメエ!ぶっ殺してやらあああ!」


 ああ、なるほど。まるで素人じゃないわけだ。


 身体が少しブレて見えるのを見て分かった。エミーリオさんと同じく俗に言うスキル持ちってヤツだ。

 キャディーの様な生まれ持った能力の他にも、剣士なり、魔法使いなり、弓師なり、1つの商売を長年やっているとスキルが使える様になる事がある。


 にしても遅い。


 俺が一番身近で見て来た正統派の剣士はアイーシャだが、彼女に比べれば欠伸が出る程襲い。

 恐らく少なくとも対人戦は五分の腕前と思われるクラウにも当然及ばない。

 スピードではアイーシャにすら勝ったナイフ使いのレニが見たら、その場で欠伸して伸びをしてナイフを研ぎ直してから迎え撃つレベルだろう。


ブシッ!


 俺が余裕を持って矢をつがえ、撃った矢が太腿に刺さった。

 スキル持ちと思われる剣士も呆気なく泡を吹いて倒れた。


「おっらあああ!!」


 更に1人がやたら大振りで剣を振り上げて迫って来たが、俺は落ち着いてまたボウガンに矢をつがえて撃った。


ブシッ!


 アタマの上まで剣を振り上げて前面がら空きの彼の喉に矢が刺さり、彼は声もなく半歩程後ろに後退して倒れた。

 

 毒がなくても即死かな。

 弓師の前でどうしてそんな前面ガラ空きで迫って来れるんかなあ?


 コッチ側は片付いたので馬車の反対を見ると、先頭で馬に乗って警戒していた隊長が馬から降りて、あちらさんの大将格と思われる大男を含む4人程を切り倒したところだった。エミーリオさんもその横で1人斬り倒してる。

 馬車の後ろから迫っていた数人は後方の護衛剣士が倒したようだ。


「おう、そっちは片付いたか?」

「ああ、まあな。」


 俺の返事に彼は俺の脚元に転がっている大柄な死体を見て、血泡吹いて事切れてる顔面に軽く蹴りを入れた。


「俺ら剣士勢より1人で殺った人数は多いぐらいだな。感心したぜ。成程、お嬢が直で連れてくるだけある。」


 俺に一言かけた後、こちらも御者席から飛び降りて戦い、2人を倒して今は周囲を油断なく見回していたエミーリオさんの方を向いた。

 視線を投げかけられたエミーリオさんは鋭い眼差しのままだが無言で頷く。周囲にもう敵はいないって事だ。


「おし、とっとと館へ戻るぞ!」


 我々は元の配置に戻り、ぶっ殺した刺客達は放置したまま馬車は再発進した。



「ご苦労。」


 俺が馬車に乗り込んで扉を閉めるとお嬢から声が掛かった。

 一応、内容は労いだから俺も言った。


「どうも。」


 俺は一応、定位置とされているお嬢の目の前に座った。


「アンタ、これを予想してたのか?」

「可能性、としてだがな。」


 指示していた(バカ)は「マトを片付けろ!」と言っていた。

 明らかに誘拐ではなく暗殺狙いだ。

 そんなヤツが、何で白昼堂々街中で、しかもこんなに多く襲い掛かって来る可能性を予測出来んだ?

 

「ウチは歴史も伝統もあり力もある。爵位は伯爵に過ぎないが、首都リバードアを押えているから、実際には王家に次ぐ実力があると言ってもいい。」


 だからっていきなりその娘に暗殺かけたりはしねえだろう?

 しかも伯爵家が首都を任されたのも、娘が出来たのも昨日今日の話じゃない。


「その分、敵は多い。」


パコパコパコ…


 馬の何事もなかったかのような呑気で規則的な足音を聞きながら俺は「それはそうだろう」と思いはしたものの、分からない点は解消されない。


「そんな我が伯爵家において私は分かり易い弱点として映っている。」

「弱点、か?」

「そう。弱点だ。これで私は外面はいいんだ。」


 平文で見ると意味が分からないが、実際にお嬢と見ていれば直ぐに分かる。


 確かにお嬢は見た目はお淑やかでお美しく虫も殺せぬご令嬢だ。

 

 が、内実はこの残酷な中世社会を治める冷徹な施政者の一族だ。

 窓の外に俺らに殺られた死体がゴロゴロしていても眉一つ動かさない。護衛が刺客を斬り殺した時に窓に血が飛んだのを見て、窓が汚れたという意味で嫌そうな顔をしただけである。

 そして詳しくは聞いてないが、日々は貴族ご令嬢に相応しいダンスだパーティーだと言う事もなく、伯爵閣下の行政執務の一部を受け持たれているらしい。


 けれども外面的には言うなれば花よ蝶よと大事にされて育った唯の貴族のご令嬢にしか見えず、襲う側からすれば組みし易しと見えるというお嬢の言い分は表面的には理解出来るが、まだ根本は分からない。


 俺は話を続けた。


「けど、暗殺対象になるってのはよく分からんな。拉致るならともかく殺してどうする?」

「そこらはよく分からん。私は大して気にしてないが。」


 いや、そこは重要だから気にしよう。


 けど誰だか知らんが敵さんが、こちらの通常考察経路と違う場合がある事は理解している。


 昔、会社によく来ていたロシア人の客(日本在住15年オーバー。日本語ベラベラ)が「ウォッカは1本では少なすぎる。2本は多すぎる。3本がちょうどいい、というのが我がロシアの考え方だ!」と話していた事がある。


 要はロシア人は常に酔っ払い…ではなくて、所詮は理屈も計算も合わないおバカな考え方ってのはあるって話だ。

 …いやいや、やり過ぎくらいが丁度いいって考え方もあるって事だ。


 いずれにせよ、考え方の問題だから、そこに理由も理屈もない。

 だが、ゴキブリを見て旨そうだなと思うカマキリの思考に共感は出来ないが、その思考経路を理解する事は可能だ。その応用で行動を予測する事も出来るかも知れない。

 カマキリは虫を主食としている事が分かれば、彼からすればゴキブリは大きな餌にしか見えない事も渋々ながら理解は出来る。その結果、暗がりからコオロギが跳び出してくれば彼は躊躇なく襲い掛かるであろう事も予測可能だ。


 そういった意味合いで、襲い掛かって来る相手の思考やら目的やらは完全には理解出来ずとも、行動は読めているといったところなのかな。


「今後は淑女騎士団の増強も考えている。その為にクラウも呼び寄せた。」

「何の為に?」

「…まあ、これから色々ありそうなんでな。手駒は多い方がいい。」


 思わせぶりな言い方だが、俺はその先を聞く気はなかった。

 好奇心、猫を殺すを恐れているのではない。ただこれ以上の面倒事に巻き込まれるのはゴメンだからだ。


 けどポロッと口から疑問が溢れた。


「何故、俺にそんな事を話す?」


 彼女は窓の外を向き薄く笑った。


「あのクラウが連れて来た男だ。長い付き合いになるだろうからな。」


 ……ちょっと手遅れかもしんないな。


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