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風任せで人任せな俺がここにいる理由  作者: 明月 文


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072 能力と本音

「アタシからも聞いていい?」


 メインディッシュが終わり、デザートの果物の切れ端も半分程無くなり、最後のコーヒーが出てきたところでレニがまたもや先手をとった。


 俺は肩を竦めた。


「俺が答えられる事ならな。」


 彼女は少し言葉を探した。


「……アンタ達、どうしてそんなに強いの?」


 一番簡単で説得力もあり、かつ普通ならこの場を誤魔化せる回答は「勇者だからさ!」だ。ある種、正しい答えでもある。


 けど、多少言葉足らずではあったが、彼女が聞きたいのはそんな話、そんな回答じゃないのは分かっていた。

  

 そして何より彼女がどう思っていたかは別にして、俺にとっては間違いなく3年以上、共に戦った戦友だ。

 だから俺は誤魔化す気は無く、ある程度は真面目に答えてやる気だった。

 今更、どうしてそんな事が聞きたい?なんぞ言う気は無い。


「俺らは表面の能力とは別にスキルを持ってる。」


 正直ベースの俺の話は回りくどい言い方から始まったが、彼女は黙って表情だけで続きを促した。


「しかも特殊スキル持ちだ。だから試練の迷宮を俺らだけが生き残った。」


 俺の説明にアタマのいい彼女は直ぐに納得し、そしてポツリと言った。


「能力とは系統が違うスキルでしかも特殊…そんなの聞いた事ない…」

「そうかもな。俺らも聞いた事ない。だから黙ってたのさ。」


 彼女は黙ったまま俺の次の説明を待った。


「お前さんが張ってたシイちゃんのは比較的普通っぽくて詠唱短縮だ。黒魔法使いなんかに極稀に発現するスキルって聞いてる。けど死人使いで使えるヤツなんざ聞いた事が無かろう?」


 恐らく黒魔法使いであろうレニはちょっと眉を上げたが俺の言葉に無言で頷く。

 彼女もシイちゃんの魔法の仕組みを色々考えただろうが、恐らく今迄考えてもいなかった答えなのだろう。


「操り方もハンパなかったけど、そもそもなんで、あんないい加減な掛け声でゾンビ達が言う事を聞くのか不思議だったろ?」

「……高度な死人使いのスキルと魔力でのゴリ押しかと思ってたわ。」

「まあ、それもないではないけどね。けど、専門のアンタならよく考えれば分かると思うが、それだと操るゾンビの数が増えたり、強力なアンデットでも操れたりするけど、詠唱はカット出来ない。マサさんだって超スゲー魔法使いだったけど詠唱はカットしてなかったろ?」


 俺はデザートの最後の切れ端を口に放り込んだ。


「マサさんのは正確な名称は知らん。何の系統かも分からんが、俺らは”戦略眼”と呼んでた。」

「戦略眼?」


 マサさんのはちょっと特殊だ。

 こちらで当てはまる用語を聞いたことがない。


「マサさんの戦略眼は、上部から俯瞰して戦場を眺められる。こんなスキル、聞いたことがあるか?」


 レニは少し考えたが直ぐに首を振る。


「……ないわ。」

「近場の少数相手じゃ意味ないんだが、遠間で大軍を相手にする時は効くし、普段は斥候の代わりになる。迷宮では、この能力を使いこなした最後の方は凄い威力だった。俺ら、道が分からんかったからアンタらに従って移動してたけど、周囲は常にマサさんが見張ってたんだぜ。魔獣に不意打ちを喰らうのが少なかったろ。」

「……彼、結構、ボケーっとしている時間があったけど…」

「そりゃ意識が戦略眼の方に飛んでたんだ。まあ、元々ボケボケした感じの人ではあったけどな。」


 俺の言葉に当時を思い出したのかレニは少し笑みを浮かべた。

 マサさんは聞いた限り、高校中退してゲーマーにも成れずに社会生活は少々行き詰まり気味だった。

 けど人間関係に躓いたコミュ障ではない。ちょっとおバカな感じが皆を温かくしてくれる、そんな人だった。

 レニ達も同じ感想だったろう。だから彼女達の中ではマサさんが1番人気だったのだ。

 ちなみに俺は3人しかいないのに6位ぐらいに付ける周回遅れレベルのドンケツだったなあ(涙)。


「魔法も巻き込んじまった事はあっても広域魔法で誤爆は絶対しなかったのは、戦略眼で敵の中心点をいつも計って撃ってたからだ。敵陣の真ん中を狙えば1回の魔法で殲滅出来る量も増える。」

「そういう使い方が出来ると考えると地味に便利そうね…」


 彼女は感心した様に言ったが、直ぐに話を戻した。


「で?タッカート、あなたは?」

「この世界では魔力が体を形作っている、と言われている。」

「……」

「だから魔力がゼロになると人は体を維持出来ない。」

「あの時、見たものね。」

「そうだな。」


 彼女の言う”あの時”を俺は思い出していた。ミリーが消えた、あの時だ。

 が、今はそこじゃない。


「アンタの世界じゃ違うってわけね。」

「俺の故郷にゃ魔法なんてのはないからな。」


 俺も目の前のデザートの切れ端を少し摘まんだ。


「だから少なくとも俺は魔力で体を作っていない。」

「……」

「じゃ、余ってる魔力はどうなる?」


 レニは少し考え、そしてハッと思い付いた顔をした。流石は魔法の研究を長年してるだけはある。


「それを体中に巡らしているのね?」

「そういうこった。普通に維持してる体の上に、魔法で膜を作ってる様なもんだ。」

「…そんな事って…守護魔法を常に張り巡らせてる様なもの?」


 それが能力の全てではない。半分だ。けど俺はそこまで説明する気はなく簡潔に答えた。


「ま、そんな風に考えてくれていい。」


 彼女が信じられないという顔をした。


「アタシはともかくソッチが専門のリリアが気付かないはずが…」


 目の前で多大な効果があれば流石に気付くだろう。ミノタウロスにノーガードで殴られても無傷とか。

 実際、この能力に気付いたのは迷宮でシイちゃんとコンビで仮前衛(俺が倒してシイちゃんが操る)してる時に油断して前に出過ぎ、怪力なはずのミノタウロスにおもいっきりぶん殴られたからだ。


 迷宮では前衛が林田さんだけでは足りなくて、俺が前衛に出ていた。が、彼女達と旅をしている間の俺は基本的には中間だ。

 だから前衛と違って致命的な物理攻撃を受ける事はなかったから、この能力が思いっきり活かされる事はなかった。


「この膜は魔法使いのアンタやリリアが認識できない程に薄い。自分も魔力で常時微妙なセンサー張ってたリリアじゃ気付きにくかっただろうな。」


 俺の魔法膜は今初めて明かしたが、リリアのセンサーの話は秘密でも何でもない。リリアが常にセンサーで周囲を警戒し、ミリーが狩人の感覚で音もなく近付く魔獣を察知し、裏ではもっと広範囲にマサさんの戦略眼が見張るのが俺らの旅だったのだ。


「必要な魔力は非常に微量だから、それこそ死にでもしない限り尽きない。」


 俺は補足説明を加えた。


「だから俺は異常に頑丈だ。騎士団の持つ剣程度じゃ傷もつかないし、魔力で守られてるから、そもそも魔法オリジンの攻撃は効きにくい。」


 レニは無言でデザートを口に運ぶ。

 どことなくその仕草が気に入らなくて俺は意地悪く指摘した。


「なんで、机の下に展開されてる魔法陣も効果がない。」


 レニは溜息をついた。


「何でもお見通しなのね。」

「そうでもない。だから話を聞きにきた。」


 実際そうでもない。なんせココは彼女のテリトリーなのだ。何処に何が仕掛けられているかは彼女は全部分かっているが俺はほぼ分かってない。現に最初の場所から席を移動したココにも魔法陣が仕掛けられているのだ。


 俺は最後のコーヒーを口にした。


「俺はこの能力で試練の迷宮を生き残った。魔力が尽きない限り、どんな乱戦でも俺だけは必ず生き残る。」


 勿論、彼女には言わないが現実にはそうとも限らない。

 象に殴られた場合を考えてみるといい。表面上は魔力が覆うからキズはつかないかも知れない。けど物理でぶっ飛ばされるのは間違いない。その衝撃で中身がどうなるかは分からない。

 言うなれば凄い固いトランクみたいなもので、飛ばされれば表面的には凹んだりキズ付いたりはないが、中の荷物はグシャグシャは間違いなく、PCでも入っていれば確実に壊れる。

 昔、トランクをほぼペシャンコに押し潰しても元に戻るというそれ自体が些か誇大広告気味なTV-CMを流した大手バカメーカー…いやカバンメーカーがあったが、「中身は無事じゃないからトランクだけ無事でも意味ねえだろ!」「トランクが無事なら中身は自分達の責任じゃないって言ってんのか?」と顰蹙を買っただけだった。

 無論、そんな話をレニにしたって意味がないのでしないし、考えてみればミノタウロスにモロ殴られてぶっ飛んだ事もあるから大丈夫なのかな?


「ま、アンタだってこんだけ魔法が使えるのを最後まで黙ってたし、魔王を前にしたって使わなかったわけだ。俺らが言わなかったのを責める話はねえだろう。」


 話す気がなかった事まで結局は誤魔化しきれずに話してしまったからか、それとも俺らの能力を聞き、それが彼女が解析、再現出来る範囲を超えているのを知ったからか、彼女は「はあっ…」と溜息をついた。


「…他にアタシに何が聞きたいの?」


 今度は俺が言葉を探した。けど、心の中で肩を竦めた。

 残る聞きたい事は1つだ。そしてそれは機先を制したつもりでレニが言った誰が俺らの処分を命じたかではない。


「この世界に”ガリシア”は存在しない。何故だ?」


 彼女は肩を竦めた。


「知らないわ。」

「コッチもソッチの質問には答えた。今更誤魔化し入ってんじゃねえよ。ホントに殺されてえのか?」


 俺が凄んでも彼女の態度は変わらなかった。


「アタシのここでの研究許可も金もガリシアから出た。でも気が付いたらここら一帯はリバードア王国とかいうところのサウザンリーフ公国になっていて、許可もサウザンリーフ公国から出た事になってた。」


 今度は俺が溜息をついた。


「あのな、話すってのは、口から出せる音声で相手に内容を伝えるという意味の行動だ。意味の伝わらない話は話したとはいえない。」

「アタシだって意味が分からない話とは思ってるし、自分でも意味が分からない。でも実際にそうなのよ!アタシはサウザンリーフ公ケーンサック公爵なんて人、知らない。でも研究費用はサウザンリーフ政府からキチンと支払われるし、サウザンリーフ政府から報告書の提出も求められてる。」

「役に立つ話をするまで拷問するとか、そんなメンドーに俺は興味がない。役立つ話がデキなきゃ今直ぐ殺すだけなんだが?」


 恐らく彼女も、彼女のその説明が俺には全く受け入れられないであろう事は分かっていただろう。

 なのに彼女はまた溜息をついた。


「アンタ、その変に冷静なトコ、変わんないわね。」

「俺が冷静?それに変とか言うなや。命、惜しくねえのか?」


 俺の再度の脅しにも彼女は全く屈しないで言い募った。


「昔から、アタシらの事、変に冷静な目で見ちゃってさ。ミリーやリリアが寄ってきても何もしないし。その割に知識と技術だけはしっかり巻き上げて。」

「巻き上げるとか人聞きが悪い言い方すんない。必要な話はキチンと教えて戴いただけだ。それに色仕掛けにはしっかり引掛ってたし、楽しんでたぜ?」


 彼女はハアっと本日何度目かの溜息をつき、憎々し気に言った。


「そういうトコよ!そういうアタシらのすることにはちゃんとお付き合いします、ラッキースケベも楽しみます、けどハマりません、欲しい技術と知識は戴きますって態度がアタシらにはムカつくって映ってたし、油断出来ないって最後まで思ってたってこと!」


 俺からすれば彼女達の冷静さの方がむしろ怖かった。

 3年間、苦楽を共にしたのに王…じゃなくて王太后の命令をキチンとこなす。彼女達は職業意識が高いプロ、という意味ではない。そういう思考回路だ、というのが怖かった。

 周囲に至っては常に自分有利な様に判断を下し、異世界から来た俺らは自分達の仲間ではないとして、ちびた鉛筆の様に真っ先に見捨てる考え方で議論する間もなく冷静に一致するのが怖かった。


 俺は以前は聞いたこともないレニの口調にものせられることなく、冷静に答えた。


「……この世界の流儀に従ってるだけさ。」

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