066 本番はこれから
羊狩りも終了して賞金も手にし、公爵閣下主催の食事会にお呼ばれまでしたブラックメイジズ、ビールズ、カイルの咆哮の3パーティーは大満足でリバードアに引き上げる事になった。
そしてここで俺は予定通り別れる。
「折角来たんで、少しサウザンリーフを見て回るわ。」
俺の言葉にボブさんが嬉しそうに反応する。
「おう!サウザンリーフは見て回れるトコはいっぱいあるぜ!南の方に行きゃあ魚も旨えし、北の方には遺跡なんかもあったりする。観光にはもってこいだ!」
とにかくサウザンリーフ推しのボブさんの言葉に苦笑いしながらも、俺が助っ人として入っていたブラックメイジズのデイブはここでの俺の離脱を了承してくれた。
「じゃあ、ここで一旦はお別れってことだな。お前さんと仕事出来て楽しかったぜ。腕のいい弓師は大歓迎だ。また機会があったら組んで何かしようぜ。」
後ろではジェフもロブもミハイルも笑顔で頷いている。
「何かあった時はクリスさんに声掛けてもいいっすか?俺らに弓師はいないんで。」
カイルの咆哮も笑顔で言ってきて俺も笑顔で答えた。
「おう!いつでも声掛けてくれ。但しCクラスの助っ人は高えぞ?(笑)」
「やだなあ!少しはマケて下さいよ!(笑)」
「おう!少しはな!」
とにかく今回は楽しい仕事だった。前回はこんなのは無かった。
互いに手を振りながら馬車に乗って去る彼らと別れたところで俺は1人顔を引き締めた。
さて!これからが本番だ!
前回の召喚の時は14名だった。
勇者候補がまず放り込まれる試練の迷宮から生還したのは、俺を入れて5人。うち2人は最初の戦いの前にアッサリ死んで、直ぐに3人になった。
結局、この3人に補助として淑女騎士団上がりの4人が付いて、3年間、旅をした。
最後の魔王戦まで行った。
魔王の住む通称魔王城までは結構長い。
馬車や徒歩で進み続け、最後の方では魔王城の周囲に広がる密林の近くで馬車は破壊され、そっから先は徒歩だった。
日本の青木ヶ原樹海程度の規模ではない。アマゾンの様な広さだから、そこだけで実に3か月程はかかった。
「タカさあ…」
そんなある夜、シイちゃんがキャンプで話し掛けて来た。
夜間は当番で交替で見張りだ。寝てる方も何かあれば起こされるし、武装したままだしで、町に入らなければ熟睡なんぞ出来ない。
けど、この頃の俺達はこの生活を結局3年以上もしていたのだ。大概慣れてしまっていた。
言うなれば「戦うルンペン」と言ってもいいこの野宿の連続の生活は、長い目で見れば寿命を縮めていたのかも知れない。
けど、その時はとにかく若さか何かで慣れてしまっていた。
「魔王戦、終わったらどうする?」
どうするもこうするもない。
「どうするも、こうするも、帰るっしょ、日本。」
「……」
俺の即答に、シイちゃんは何か言いたげに黙った。
「帰るっしょ?」
「……俺、最近はどうしようかなあって思っててさ。」
「どうって?」
「いやあ、向こう帰っても、唯のFランの大学生だしよ。卒業したって大企業に入れるわけでねえし、中小のリーマンで、変なハゲのオッサンとかにコキ使われて一生終んのも目に見えてるしなあって思うのよ。」
大学生が高校生に人生相談すんなよ(笑)、とは思ったが、普段は口にはしないにせよ、これ終わったらどうする?は隠れて実は俺ら共通の課題だ。
勿論、魔王をぶち殺したら速攻日本へ帰れるって事でモチベをキープしてやってはいる。
けど、もう旅を始めて3年目だ。
繰り返しになるがぶっちゃけかなり馴染んできた。
そんな軽い話じゃないけど、アフリカに突然転勤になって、象とかライオンとかの狩猟が仕事になった様なものだ。
最初はかなり苦しんだし、マジに日本に早く帰国したいとしか思わなかったけど、今や現地の暮らしにも馴染み、象にもライオンにも勝てる様になり、グロい獲物の解体にも慣れた。
車で30分も行けばリアルサファリでキリンが見られ、ライオンの縄張りを避けつつ馴染みのハイエナにエサをやったり、日本のソレより3倍ぐらいデカいカブトムシを部屋で飼ったりする生活も悪くないと思い始めた。そんなとこだ。
そして、その慣れる間に分かったのは今や俺らは超強えって事だ。
Aクラスの魔物に苦戦しているようでは魔王とやり合うには未だ力不足かも知れない。
が、今やまともにやればライオンも象も目じゃない、おっかない魔物もハマればサクサクだ。槍や弓だけで狩猟をしている原住民と違って俺らだけが機関銃で武装している様な感じかな。
もっとも機関銃を持ってたって、本気で咆哮するライオンの群れに正面から突撃するのは怖いし、命懸けなのは変わりはない。
それでも少なくとも持っているのは槍ではなく機関銃だと言っていいぐらいの力はある。
「こっちで冒険者かなんかで生きてくってですか?」
「いや、そんなんせんでも、魔王、倒したら王様が爵位の1つもくれるかも知れねえぜ?したら貴族として…シュチニクリンで暮らすのよ。」
「夢は酒池肉林とか人間性として終わってますなあ。意味分かって言ってる?」
「いや…アレだ…豪勢な暮らしって事だろ?」
「……まあ、全間違いってわけじゃあねえッスね。」
俺らは目の前の焚火がパチパチ(※拍手ではない)いってるのを黙って眺めた。
「タカトは…向こうに家族とか彼女とかいんの?」
「親兄弟的な家族は別に普通にいますよ。彼女はいないけど。」
「やっぱ、会いてえ?」
そうでもない、というのが当時の正直な所だった。
両親は別に嫌いではないが、特に仲良くはない。
姉もいるが、こちらも特に仲良くはない。
ウチの家族は何となく姉が中心で回っていて、弟の俺は少し放っとかれ気味の扱いだった。
理由はよく分からない。長女で女の子の方がカワイイとかってぐらいで、深い理由なんかもないのかも知れない。ややもすると両親にはそんな認識すらないのかも知れない。
が、自分が主役の瞬間のないこの家に長くいても仕方がない、という意味で俺は早く教育を終えて出て行く気だったし、今考えれば、特に口に出す事もなかったが、両親も俺の考えは薄々分かっていたと思う。
学校の先生もそうだが、大人は意外と子供をキチンと見ていて、俺らが思っている以上に俺らの事を把握しているのだ。
ここから帰った後の結論を見ても、そうだった。
理由はともかくダブりなんてゴメンだとサッサと高校は中退し、浪人なんてする気は更々なく、これまたサッサと適当な大学に潜り込んで4年で卒業し、就職して家を出た。
入社2年目ぐらいまでは、年末31日と正月三が日ぐらいは実家に帰っていたが、3年目に仕事でトラブルがあって帰れなかったのをきっかけに、最近はそれすらしなくなっていた。
実家出て住んだ場所が、帰ろうと思えば直ぐに帰れる埼玉ってのも返って良くなかったかも知れないけどね。
ちなみにウチは大企業ではないものの大企業系列ではあるので、新興企業の様な「死ぬまで働け!」という類のブラックではない。けど、社内は極度に昭和で2日以上の纏まった休暇が取れるのはGWか年末年始ぐらいだ。
年休は勿論制度としてキッチリある。大企業系列は社内制度は概ね親会社のそれに準拠して作られている。
大学の同期が入った某大手販売店の様に「俺は休みは入院以外は認めない。休みの連絡には確認をとるから何処の病院に入院しているか言え!」と年休取得をあからさまに妨げる上司がいるわけでもない。
そうは言っても部長が「去年の俺は皆勤賞(※1回も年休を取らなかった)だったぜ!君達はどうだ?」と胸張ってエバる様なモロ昭和な空気の中で病気以外で年休を取得する気にはなかなかなれない。
まあ、ウチの会社の昭和事情はともかく、1回目の召喚の時はまだそこまではいってない。
高校強制中断で来ていたから、まあ、比較の問題だけかも知れないが、こんな所で毎日魔物とかと戦わされているよりかは日本に帰りたくはあった。
けど、楽しくないはずの生活にもそれなりに馴染んでしまい、しかも将来的にもこれで生きていけそうだとなれば多少の迷いが出て来たのも事実で、それは実は俺ら3人とも一緒だった。
偶然かも知れないが、俺ら3人はシイちゃんの指摘した通り、家族やらカノジョ、知り合いの類を除けば会いたい、会わなきゃいけない人間も少なかった。加えて中途半端なこの3人組には日本に手放したくない地位とか立場とかも無かった。
「……いや、まあ…家族とか?」
そうは言っても一般的な事も一応、言ってみるかと口にしたが、案の定、シイちゃんは微妙な顔をした。
「家族かあ…まあ、そうだよなあ…」
「シイちゃんはどうよ?大学生だしカノジョとかいたんじゃねえの?」
「俺にそんなの、いると思う?」
「いや。一応、礼儀作法的な感じで言ってみただけ。」
「このやろう!」
シイちゃんは俺のアタマをヘッドロックしてグリグリと回した。
「痛え!痛え!シイちゃんのロック、マジ痛いっすよ!」
俺の叫びにシイちゃんは笑いながら手を離し、何故か胸を張った。
「俺のロックはマーベラスジョー直伝だからな!」
「マニアっすね。ちなみにマラカスだかラスベガス?とかって誰っすか?」
「知らねえのか!?アメリカプロレス界の偉大なヘッドロッカーだ。自分よりデカい相手にこんなして飛びついてヘッドロックで引き倒すんだ。」
ハードロッカーとかならともかくヘッドロッカーって何だよ!?という俺の疑問を他所に、シイちゃんは両手を手前上方に挙げて、前にグッと引き寄せるような動きをした。
「俺は彼の死合ビデオ、100万回以上見てこの技を会得した!」
「……字面も回数もマニアそのものっすね。だいたいビデオ見て覚えたとかって直伝とかじゃなくないすか?」
「いや、100万回見た後のビデオの中で、彼の目は俺に合格を伝えてくれた!」
「ビデオで会話出来るとか、マジにコアっすね…」
会話が途切れ、俺らは目の前のパチパチを眺めた。
「結局、シイちゃんは残んの?」
「いや、まだ決めたとかじゃねえ。」
シイちゃんは微妙な答えを即答した。
「けど…まあ…そうだな、コッチのコレもだんだん慣れてきたってことかな。」
こちらで無理矢理身に付けさせられた魔物退治のエキスパートとしての抜きん出た技量は、こちらの世界では今後も大いに役立つ可能性が高いが、日本に帰ったら何の役にも立たない。
加えて魔王を倒せばシイちゃんの言う通り地位か金かその両方かが貰えて、流石に酒池肉林(笑)はないだろうが、左団扇で暮らせるかも知れない。
そう考えると魔王を倒したら日本に帰ってパンピーに戻るより、こちらに残って勇者として暮らした方がいいのかも、というシイちゃんの迷いは理解出来たものの、基本的には日本へ帰るが俺らの方針だった事は間違いない。
が、結果として帰ったのは俺だけだ。
マサさんは魔王城戦で斃れ、シイちゃんはハメられて死んだ。
そのハメてくれた相手がレニであり、その手引きをしたのがオーエンだ。
勿論、理由は凡そ想像はつくが、あくまで想像に過ぎない。
それにある意味もう過ぎた話で、今更彼女に理由を問い質したところで何が起きるわけでもない。シイちゃんが生き返るわけでもなく、シイちゃんが日本に帰れるわけでもない。
が、彼女が生きてるとなれば、今更何もない、はない。
このまま理由も知らずに放っておくわけにはいかない。
実利の有る無しじゃない。コスパとかタイパとかって軽い調子の話でもない。もっと重い感情の問題だ。
だが、行くと言ってもこのまま「よう!久しぶりだな!」という感じに訪ねるわけにはいかない。
大人の社会にOne TeamもNo Sideもない。
だからこそ実社会ではないスポーツのラグビーでは毎度の如く口に出して強調されて、そこが紳士的で美しいとされるのだ。
大人の社会には仲の良いヤツと悪いヤツの2種類しかおらず、仲良しが仲違いする事はあっても、仲の悪いヤツがNo Sideと仲直りする事はない。
お互いが力を持つ立場になった時は利害関係が一致すれば握手し直すこともあるが、それはあくまで利害関係なだけでNo Sideではない。しかも互いに無視できない状況があれば、という話なだけで通常はそんな環境は生まれない。
そしてもう1つ、世の中は使うヤツと使われるヤツがいるだけで、使うヤツが相手をタダ働きさせる為に「俺達はチームだ!One Teamの精神が必要なんだ!」と連呼するだけだ。
その証拠に組織でOne Teamを呼びかけるのは偉い人から下々に向かってであって、よく言うボトムアップでヒラ社員が社長にOne Teamを呼びかけるなんかない。仮に呼びかけられても社長が応えるはずもない。
百歩譲って口では「そうだ!我々はOne Teamだ!」と言う事もあるだろうが、それは「お前がその精神で俺の為に死力を尽くせ!」と言っているだけだ。
そもそもボトムアップという言葉だって、上の人が決断しない日本の会社を表現する為にトップダウンの対義語として存在するだけだ。
要するにトップダウンだけを基本とする欧米人が、トップが決定している様には見えないのに回っている日本企業、日本の大企業だけを見て上が命令をしないなら下の意見で動いているのか?と邪推の結果としてある言葉なだけだ。
もっとも社会の違いもあるから、どちらが良いかと問われると難しいところだ。
欧米なら「猛犬注意」の標識は赤で書いたらいいですか、黒で書いたらいいですか的な簡単な判断も上に丸投げされる。結果、上は毎日飛行機で飛び回らなくてはならない程、超絶忙しい代わりに、自分で看板を書いたわけでもないのに成果は総取りにいく。
けど下は給料は100倍以上違うかも知れないが、目先でネジを絞める以上の責任を負う必要はない。
日本は看板を書くかどうかの段階から判断を下に丸投げしているので、偉い人は日当たりの良い部長席から俺らがサボってないかどうかを新聞片手に監視しているだけだ。
そして成果は上が多くを手にするところは一緒だが、下にも看板の案を出し、文言を考えて目立つ赤字で書き、設置した分ぐらいは分け前を渡す。
なので、取り分は欧米の様な天文学的な違いにはならない。
地球での東西の社会の違いはともかく、俺ら3人とアイーシャ達4人はかつてお互いの腹の内を敢えて深く詮索する事無く、表面上は文字通りOne Teamで魔王退治に向かって勝利し、そして結局はOne Teamではなかった事が露呈して終わった。
当然、お互いにもうOne Teamのフリすらもムリなのは分かっているし、その話がNo Sideになったとは思ってないだろう。少なくとも俺は思ってない。
向こうも会えば懐かしく「昔は色々あったね…」と思い出話に花を咲かせた後は改めてNo Sideで話が纏まると考える程、脳内お花畑じゃないだろう。
繰り返すが俺に少なくともその気はないし、レニもそこは承知しているはずだ。
しかもお互いに戦闘力に不足はない身の上だ。
だから慎重に事を運ぶ必要がある。
Top-down、Bottom-upは経営用語としてキチンと存在しますが、主人公が邪推しているような日本の会社経営を揶揄するものではありません。念のため。
ただ日本で一般的に使われる時は、主人公の言う通りトップダウンとはオーナー経営者などの強いリーダーシップを指し、その対義語としてボトムアップが使われ、元の用語の意味からは若干ズレてることが多い気はします。あくまで作者個人の感想ですが。




