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風任せで人任せな俺がここにいる理由  作者: 明月 文


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067 予定通りの二日酔い

 何度でも言うが、俺はまずは場所探しから情報収集まで少し時間が掛かっても慎重にする気だった。

 レニは唯の商人のオーエンとは違う。彼女は甘く見ていい相手じゃない。


 まずは場所の確認の方だが、レニの支配する村はボブさん達から聞いた近場の町まで行ったら直ぐに見つかった。

 タイクンポートの近くという話だったが、正確にはその少し手前のキッサーラという港町というか漁港の方が近く、そこの冒険者達の間では少なくとも場所は誰でも知っていた。


 冒険者の情報集めの定番はギルドと酒場だ。

 だが、今回はギルドに顔を出す気はない。フルハットの例もある。ちょうどいいや、とばかりに何か変な話に巻き込まれても困る。今はそれどころじゃないのだ。


 残る情報源は酒場だが、飲み屋の面白い所はどの店が自分のレベルに合う店なのか見れば大体分かるところだ。

 酔っ払ってボッタクリに掴まってしまうことはあるが、5万、10万が当たり前な高級店に迷い込んでしまう事はないし、逆にスーツ姿が怪訝な顔をされるような店に足を踏み入れてしまう事も、まあ、ないとは言わないが滅多にない。

 もっとも昨今はその種の店の方が昭和レトロとかって言われて流行ってたりするし、ややもすると雑誌かなんか見てわざわざ遠くから来た小綺麗な女子だけでカップ酒をワイワイ呑んでたりする。

 そしてその横で常連客達がちょっと居心地悪そうにしてたりもするが、それはあくまでスーツの多い都心の店の話で、ちょっと郊外に行けば飲み屋というのは厳然としてランクと世界が分かれているものだ。


 それはこの世界でも同じ事で、海の男達を主要な客層とする漁港キッサーラは当然の様に飲み屋も1軒や2軒ではなかったが、俺は誰かに何か聞くこともなく、ほぼ直感だけで直ぐに冒険者の溜まり場になっている酒場を見つけ出した。

…ちょっと得意げに語ってはいるが、これは俺の特技とかって話でも何でもなく、この世界の冒険者も日本のリーマン達も普通に出来る程度の技だ。


 冒険者御用達の店なので、バリバリに武装した俺を見ても出張トランクをガラガラしたサラリーマンを見たぐらいの反応の店員からあたかも傘立ての場所を教わるかの如く「武器はこちらの壁に立て掛けるといいですよ」と言われて席につき、彼との雑談ついでにリバードアから来たと名乗った。


 余談だがキッサーラは漁港だから魚料理が旨い。

 こっちの世界で日本風の鮨とか刺身とかに出会ったことはないが、カルパッチョみたいな料理はある。こっちには氷魔法を利用した冷蔵技術もあるし魔道具もあるが、日本の冷蔵庫の様に一般に普及しているわけではないから、生食あるいはそれに近い食べ方が出来るのはこういう漁港の様な場所だけだ。

 

 俺は久方ぶりに生の魚などを堪能しながら1人で2杯ほど杯を重ね、酔っ払ったふりをしてわざとらしくカウンターの奥のちょっと高めの酒を指し「あれ、リバードアで飲んだ酒だな…ようし!今日は俺が出すからみんなで1本やるか!」と言って周囲の注目を集めた。そしてその後に「おう!アンタらもいいぜ!」と気前の良さを見せた。


 酒の奢りは次元を超えた酒場で周囲と仲良くなる第一歩だ。

 案の定、俺の周囲への奢りが呼び水になって周囲の冒険者達がわらわらと寄って来て、他の席で呑んでた奴らも合流して大宴会に発展した。予定通りである。


 こうなれば、この場でどんな話が出ても大概は訳が分からなくなる。

 無論、1人1人にそれとなくレニの村について聞いて回っても良かったのだが、手間暇と時間が掛かる上に、万が一、レニの村の関係者か何かでもいて「村の事を聞いて回ってたヤツがいる」とかレニにチクられても困る。

 出費は増えるが、例の羊狩りの賞金も入ったばかりで懐には余裕もある。


 大宴会で大量の酒が入ったとなれば皆、口は軽くなる。

 酒が程よく回ってきたところでそれとなく水を向けると皆、ガンガンに話してくれた。

 たいたい俺が個人的に用心しているだけで内容は別に隠し事でもなんでもない。


「おう、アレだ、何か功績があったとかで村1つ貰ったってな。この辺じゃ結構、有名な話だぜ。」

「そうそう、オンナなんだけどな!」


 俺はビックリした風を装って聞いた。


「オンナ!?何か冒険者だか軍だかの上がりって噂は聞いちゃいるけど…」


 赤ら顔の剣士らしい男が首を振った。


「いやあ、流石に俺らみたいんじゃなくて、元は騎士だって聞いてるぜ。」


 「冒険者が村1つ貰えるはずねえじゃねえか!」とみんなゲタゲタと笑い、俺も「そりゃそうだよなあ!」と一緒に笑った。


 ボブさん達との雑談で聞いた話とも符合する。レニの村の話で間違いない。


「何したら、領地なんか貰えんだろうなあ?」


 俺の問いには皆、首を傾げた。が、1人が弾ける様に笑った。


「それが分かりゃあ、俺だって領地持ちだあ!」

「違えねえ!」

「だよなあ!」


 俺も含めてまた皆でゲタゲタ笑って「イエーイ!」と意味もなく乾杯しながら杯を呷った。完全な酔っ払いである。


 場所以外の実のある情報がポツポツ出て来たのは、高い酒の瓶が3本目に入った頃だ。俺達の状態で言えば酔っ払いのDクラスから酔いどれのCクラスにランクアップした頃だ。


 酔っ払いにありがちな行動として、今迄の話の流れと何ら関係なく1人が突然思い付いた様に言い始めた。


「あ~ウワサだからよく分かんねえけど、領主から何か請け負ってやってるらしいって話は聞いた事があるなあ。」

「…おう?先のオンナの村の話か?何かって何よ?」


 また皆、首を傾げた。

 言い始めた本人も首を傾げたが、彼だけはアタマも動かして自身の記憶を探ってくれた。


「だから、そこは分かんねえんだけど……あそこの村、ギルド事務所があるわけでねえし、コッチのギルドにも依頼が極端に少ねえから、あんま行ったことあるヤツ、いねえんだよな。」


 ギルドへの依頼が極端に少ない?


「何だ?村で独自に駆除してんのかいな?」


 俺が言うと、奥の方で呑んでたシーフが赤ら顔で言った。


「元騎士だっていうし、効率的な魔獣の狩り方か何かじゃねえかって噂は聞いた事があんなあ。」

「効率的な魔物狩り?」


 俺の聞き返しに別のヤツが答えた。


「ああ~俺が昔、聞いたのはちと違うなあ。魔除けの研究か何かしてるって話だったような……。」

「魔除け?魔法陣ってことかね?」

「魔物避けに結界を張るってのは旅なんかではフツーなんだが、村全体の張り巡らすなんか金がかかってしゃあないからフツーはやんねえ。それに代わるなんかをやってるって話だったよーな…。」


 ふ~ん。


「後は…アレだ!ホラ…あの話だあ……」


 何かよく分からない話を更に他の酔っ払いが始め、しかも全然意味が分からなかったが、別の冒険者も話を繋ぐ。


「ああ、アレな。囚人が送り込まれてるって話な。」


 囚人?


「囚人?ム所でもあんのか?」

「いや、そうじゃねえんだけど、鉱山じゃねえんだが何か掘ってるって話で、そこに重犯罪の囚人が数人送り込まれてるって話だ。」


 更に別のヤツが杯を傾けながら「!」と何か思い出した顔をして言った。


「おう、聞いた事ある!金、掘ってるって話だろ?」

「金?」


 隣に座っている大柄な剣士が補足する。


「昔からな、あの辺じゃ金が採れたって噂っちゅうか伝説があってな。つっても誰も本気にはしちゃいねえ。」


 酒がかなり好きらしい剣士は心底美味そうに杯を呷って続けた。


「ご領主様もパーじゃないんで勿論、本気にしちゃあいねえと思うんだが、そうは言ってもって事で村長に命じて隠れて掘らせてるって噂だ。大ぴらにも出来ねえし、あるかどうかも分からねえから囚人使ってるんじゃねえかって。」


 古株らしいベテランの魔法使いが穏やかな表情で酒を味わいながら首を振った。


「いや、その話は俺も大昔に聞いた事がある。領主様じゃなくてその配下の誰ぞ有力な方が領主様にも隠れてコッソリやってるって話だった。その頃にいた仲間の1人がワケを聞いたらしいんだが口止めされたって言ってた記憶がある。」


 金山の伝説というのは、日本でもそこそこに聞く話だ。だから有り得ない話ではない。

 そして領主だか噂を聞きつけた土地の有力者だかが、あったらめっけもんぐらいの勢いで村に小銭を与えてやらせてる、そうは言ってもそんな雲を掴む様な話に村人を使えないから、死んでもいい囚人を使って死ぬまでやらせるというのも有り得なくはない。


 いや、今の話からすると領主ではなくて有力者がコッソリやらせているようだ。

 だから余計に正式に人足を雇うも出来ず、囚人を使っているのかも知れない。


 結局、その夜はそれ以上の情報は出て来なかった。ギルドがない、おまけに近場のキッサーラのギルドに碌に依頼もない村となれば仕方がないところだ。

 全員の話がリバースし始めた頃、つまりほぼ全部を聞き出したと判断した頃に俺は「じゃあ、ほろほろ、おえは引き上げるわ!」と皆と笑顔で手を振って別れ、宿に戻った。


 次の日はある種予定通り二日酔いで大変だった。

 それ以前にその日の払いはもっと大変だったけど(泣)。

 まあ、仕方のない出費だと最初から納得はしているからコッチも予定通りっちゃあそうなんだけどさぁ…。


 出費は痛かったが手に入れた情報は多い。


 その様々な話を総合して考えると、レニは村で魔法の研究をしているらしい。

 村の周囲には広範囲に魔法結界が張られ、冒険者がいなくとも大概の魔獣は寄り付かない。

 これだけでも普通の村にはない相当な技術だから魔法研究の噂は間違いないだろう。


 俺らと旅をしている間は彼女は剣士だった。魔法が使える事は全く言わなかったし、戦闘でも一切使わなかった。当然だが俺達も「魔法使える?」とか聞いたりもしない。

 ただ薄々は分かってはいた。魔法に対する反応が剣士のソレとはちょっと違うのだ。彼女のソレは齧った事の有る人間のソレだった。

 が、正面きって訊いたりは最後までしなかった。敢えて戦闘では使用しないところから、ミリーの弓並みに本業が名乗れる程には使えないのだろうと考えていたからだ。


 けど、引退先で村全体に結界が張れる程だとすると俺達の判断は完全な過ちで、どうやら本業並みに仕えるらしい。いや、ミリーも元は狩人が本業だった事を考えれば、そもそもは魔法使いだった可能性すらある。

 もっとも中身が分からない魔法に対して備えもないので、今の段階ではどうしようもない。


 同じ淑女騎士団上がりのアイーシャ達はレニが魔法を使えるのは当然知っていただろうから、今にしてみれば、彼女達も最後まで口にしなかったところを見ると、彼女の魔法は意図的に隠してたんだろうな。


 いずれにせよ、現状では魔法が使える、その腕前は結構高度かも?以上の情報はないから手の打ちようはない。


 そして定期的に囚人が送り込まれて何かしてるらしい。


 酒場では金を掘ってるって話だったがレニがそんな無駄な噂話に人手をつぎ込むとは考えにくい。

 けど囚人を使って何かをしている。


 多くの情報は手に入ったが、無論、完全じゃない。

 研究している魔法の内容も詳しくは分からんし、囚人を使って何をしているのかも不明だ。


 けど商売だって商売敵や顧客の情報が完全になる事はほぼない。

 経営コンサルやら上の人達が求める様に、ライバル社の今日の生産スケジュールや水道代支払額、客先の社長の今朝の朝食メニューに至るまで事細かに全部集められる事も、純粋に確率論的な話だけならゼロではないかも知れない。

 でもそれはあくまで宇宙的確率論としてゼロではない、という話、あるいは人手と時間が無限にあれば可能という話なだけだ。しかも大概の場合、こちらの行動する期限は情報が集まりきる前に訪れる。

 その上、そもそもコッチには情報が完全なのかの判断すらつかない事が大半だ。


「う~ん………」


 俺は宿の寝床で寝転がり、キッサーラに来る前に予め購入しておいた頭痛薬で二日酔いの盛大な頭痛を散らしながら考えた。


 でも痛え……


 情報の量の話はさて置き、質、というか種類の検討という話をすれば、情報には3つの種類がある。

 手の打ちようもなくどうしようもない情報、無視できる、あるいはミッションと直接関係しない情報、そして無視してはいけない情報だ。


 その基準で今回得た整理してみると、無視してはいけない情報が1つある。

 そして幸いにして俺はその情報の確認手段に心当たりがあった。


 ……まあ、ちと時間は掛かるが仕方がねえか!

 無駄に終わるかも、ではあるが、小さな手抜きが重大な結果を招くことがあるのはコッチでも会社でも散々経験している。


 やると決めた以上、ちゃっちゃとやるか!


 俺は起き上がった。

 その瞬間、ズキッ!とアタマが痛み、俺は「ウガッ!」と声を上げてひっくり返る。


 ……この頭痛が治まんねえと何も出来ねえな、こりゃ。


 予定通りの二日酔いでも予定通りの頭痛ではないのか…(笑)

 次回はいよいよレニの村へのり込みます。

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