063 初回の姫君
4/29・30と注目度ランキング(連載中)の95位に初めて顔を出しました。
読者の皆様の後押しのおかげです。有難うございます。
今後とも宜しくお願いします。
パーティー本番はまず各々が各自入場して暫く勝手に立食形式で酒を片手にご歓談から始まった。
そして暫くしてから国王が御成りになり拍手で出迎えられた。
そして俺らが前に呼ばれ、些か気恥ずかしいが皆に壇上で紹介される。
ご紹介の後には国王から激励のお言葉を賜り、リーダーのシイちゃんが驚いた事に見た目は就活生だが堂々と「激励のお言葉、誠に恐悦でございます。必ずや魔王を討ち果たしてご覧に入れます!」と胸を張って堂々と返答した。
見た目は全くハマってない就活生だけど本番の就活では意外と内定を集めるタイプなのかも。
立派に大役を果たしたシイちゃんが盛大に拍手で称えられた後、最後に誰かご側近の偉い方の「国王陛下と勇者様方、そして我々全ての末永い繁栄を願って…」という発声を合図に「「乾杯!」」とグラスを掲げた。
その後、我々が壇を降りると今度は料理が運び込まれてご歓談タイムに戻った。
国王陛下はご挨拶に出て来られただけらしく、シイちゃんの思いのほか立派過ぐる返答が終わると拍手に見送られて早々にご退出した。
その後のご歓談タイムでは貴族の出席者達に、よく言えば礼儀正しく、悪く言えば少し遠巻きで魔物退治の様子などを聞かれ、実際のグロ連打な状況を説明するわけにもいかず、NG場面描写をボカしながら説明したりして、俺らは立食パーティーを回遊した。
今迄立ち寄った国でも魔物の様子とか戦闘の内容とかを色々聞かれた事はある。
軍人達に囲まれてそれこそ詳細を根掘り葉掘り聞かれた事もあるが、共通しているのはやはり実地に役立てようとする姿勢だ。
他に人気があったのは、彼らから見れば俺達は異世界から来たってことで「勇者殿の故郷と比べられて我々の世界はどうですか?」ってな話かな。この世界と違って魔物とかいなくて平和ですってな話に皆が驚くのは異世界転生モノのラノベのお約束だし、この世界でも定番だ。
それに比べて上手くは説明できないのだが、ここの連中は少し違うような気がした。
まず何と言うか…実務に役立てよう、という気が余所より弱い様な気がするのだ。
加えて俺らの生い立ちやら境遇、彼らからすれば異世界である日本の状況などにも雑談以上の興味を示さない。
何と言っていいのか…予算審議を口実に集まっておきながら、実際には大臣の不倫の話ばかりをしている国会の委員会の様な、俺らの歓迎会だか壮行会が会の趣旨のはずだが、俺らそっちのけでもっと自分達だけの世界の話だけをしている…そんな上滑り感を感じるのだ。
実際に彼らと話をしても注意深く拝聴して相槌を打っている風に見えるが、その後で仲間内でヒソヒソするのが本番みたいな感じがする。
かと言ってそのヒソヒソは俺らの悪口とかではない。逆に俺らの話を聞き流しているのでもない。敢えて言うなら誰もが誰かより勇者の情報を得ているというのを競っているというのか…やっぱり上手く説明出来ない。
ちなみにビビってた(期待してた?)草叢タイムなど勿論なく、ご令嬢も数人寄っては来たがお愛想程度にお相手されただけで何もない。
まあよく考えてみれば勇者とか言ってるけど所詮はちっと強い冒険者に過ぎない。やんごとなきお嬢様達は冒険者風情に興味はないだろう。俺ら別にイケメン揃いとかでもないしね。成金、就活生、七五三なのだ。
魔王を倒した後とかなら名前だけでも何か利用価値があるかも知れないけど、今はなんもないからなんもない。しかも魔王斃したら俺らは速攻、日本に帰るつもりだから俺らから人脈を増やそうとかって気も全くない。
会話状況はともかく、良い点を言えば王宮の宴会だから流石に食い物はどれも旨い。
その旨いものをちょいちょい摘まみつつではあったが、立ちっ放しの1時間程の後、色々な意味でちょっち疲れた俺は、隣の休憩室っぽい所に入り、弱い酒を片手に座っていた。
飲もうというのではなく、中身の入ってるグラスを片手にしていると飲ませようとしてくる輩が寄り付かなくなるのだ。
ちなみにこの辺りは変形版として狙いは会社の飲み会で自分の前にわざとジョッキを飲み切らずに置いておくのと一緒だ。もっとも会社の飲み会の場合は上の人はそんな事に全く頓着せずに飲ませたい時にビール瓶片手に「おい!」と言うだけだったから効果半減だったけど。
最近は上司が部下に飲ませるのはアルハラという見解が主流みたいだが、社内は元号がいつまでも変わらず昭和のままの会社は今も世間にはゴマンとあるのだ。
「勇者様?」
ちょっと気が抜けて特に見るべきものがある訳でもなかったが窓の外の夜景を眺めつつ座っていたら、背後から声が掛けられた。
振り向くと優雅な姿の少し小柄な女性が立っている。
こちらでの女性の優雅な姿とは全体的にはフリフリで腰はコルセットでグバっと締めた中世スタイルである。
中世の絵なんかを見ると、胸が膨らみ不自然に腰が細くスカートがドバっと広がっている姿は現代人かつ日本人の俺なんかはどうしても多少の違和感を禁じ得ないわけだが、実際に見る彼女はそれが自然体で似合う優雅な雰囲気を醸し出していた。端的に言えば人形の様に美しい。
日本では勿論の事、こんなリアルフランス人形みたいのは見た事が無い俺は、立ち上がる事も忘れて思わず暫くポケッと見とれた。
「……」
「……」
暫く2人で黙って見つめ合った後、彼女がニコっと笑って俺はハッと我に返って立ち上がった。
「えっと…た、タッカート・ウンノウです。失礼ですが?」
その瞬間、後ろに影の様に控えていた侍女(本当に影の様で俺は気付きもしなかった)から厳しい声が飛んだ。
「無礼者!この御方を何と心得る!控えよ!」
誰だか皆目分かってないから、何とも心得ていない。
無礼なのはこの世界の常識レスなのだからカンベンして欲しい。
現代社会でもトップより腰巾着が偉そうなのと同じく居丈高な侍女とは異なり、彼女はふんわりと笑った。
「良いのです。勇者様は異界からお越しになったとの事。我らが世界の礼儀作法にお詳しくないのは当然です。」
今考えるとこの段階で既にちょっと毒入ってるよね。
「気を楽にして戴いて結構です。勇者様。」
が、この時の彼女は言葉以上には毒を見せず、映画のワンシーンの様な満面の笑みで座席を指した。
とにかく映画とかに出て来る姫君が目の前にリアルで立っていて、ニコヤカに話し掛けてくれているのだ。
俺は心拍が高くなるのを感じた。生まれて初めての事だ。
「こちらにお座りになって少し旅の話を聞かせて下さいまし。」
依然としてこのバービーとかリカちゃんではなくフランス人形的なこの美し過ぎる女の子が何者だかはよく分からなかったが、座ってお話ししましょう、というのは分かった。
礼儀作法とかよく分からないが、俺は椅子を引き、「どうぞ」と言った。
彼女は10角ぐらいの漢字が上手く書けた小学生を見る様な笑顔で「まあ!有難うございます。」と言って腰掛ける。それを見てから俺は「では失礼します」と言って彼女の対面にカチコチになって座り直した。近くで彼女と正対し、自分の顔に血が昇っていくのが分かる。
胸はドキドキで緊張しまくった俺に対し、人形的に美しい彼女の方から名乗った。
「申し遅れました。私は私はエレノア・マークス。今夜最初に挨拶をさせて戴きました国王陛下の娘です。」
国王の娘って王女様ってことか!?
俺は些か慌てて机の上に手をついてアタマを下げた。
「これは…大変失礼しました!」
「そんな…アタマをお上げ下さい。」
姫様はまたふんわり笑顔になった。
「良いのです。この場は私共だけ。堅苦しい礼儀作法も礼を重んじた語り口も無用です。それよりも私にも勇者様の冒険のお話、お聞かせ下さいまし。私は勇者様ご自身の飾らぬお言葉で聞かせて戴きたいのです。」
「ハッ!……ははあ…それでは何からお話したものか…」
「我が国に来る直前にはどのような冒険でしたか?」
「ハッ!……一番直近はグールーの集団に囲まれまして…(←女性向きの話題が選択出来ないヘタレ)」
パーティーは続く。
俺はすっかり舞い上がったまま姫様に今までの冒険というか、領主の尻拭いというか無償の魔物退治の話をアワアワとし、姫様は興味深げにそれを聞いていた。そして暫くすると侍女に耳打ちされ、「名残惜しいですが、他の者へも挨拶をしなくてはならなくて…」とニッコリ笑って席を立った。
俺は今度はそれを立ち上がって最敬礼で見送り、座り直して、というか椅子に座り込んで未だドキドキしている自分の胸を押さえた。そして漸く治まった頃に改めて回遊に戻った。
目の先の方ではマサさんが貴族に囲まれて何か喋っているのが見えた。
フリーターで世の中からボッチっぽいのに、なかなか如才ない。こうして見ると場に少し馴染みつつあり、成金というより成り上がり貴族みたいだ。
そもそもマサさんは心が広くて嫌味がないタイプではあるから、ちゃんと就職して接客業か何かでちゃんとハマれば上手くいくタイプなのだろうと思う。
見回すとシイちゃんも向こうの方で何やら軍人っぽいのに囲まれて何か話をしている。
シイちゃんは普段はしっかり俺らのリーダーだし、基本はしっかり大学生で楽しくサークル(格闘同好会?)とかもやってるっぽいから俺らの中で社会性はグンバツだ。これで同じく女子プロレスとかにハマってるカノジョでも出来れば立派なリア充だ。
そう考えると彼はリア充まであと一歩なんだけど、その一歩が俺らフツメンヘタレパンピーには難しい。勇気を持って一歩踏み出してもデスバレーにボロボロ落ちて這い上がれなくなる者が続出だ。
俺は学校にこそ通っちゃいるし、友達がいないとかはないけどボッチ気味の帰宅部だ。彼らに比べりゃ人生経験も含めて実は一番社会性に欠けている。
「勇者殿、どうですかな?お楽しみ戴けておりますかな?」
白髪の一見穏やかな感じの人物が声を掛けてきた。
声を掛けられて俺も足を止める。
彼は俺に声を掛けつつ、彼は飲み物を持って近くをウロウロしている侍従を「おい!」と高飛車に呼びつけた。呼ばれた侍従はいきなりエンジンのかかったホバークラフトの様な音を立てない猛ダッシュで寄ってきて。我々はそこから飲み物を取った。
「楽しませて戴いております。」
白髪の人物は何故か周辺にいた人々をチラリとだがドヤ顔で見回し、周辺も何でか感心した様に頷いた。どうやら彼は俺と話がしたいのではなく、俺に声を掛け、俺が畏ってお答えするのを周囲に自慢する為に声を掛けたようだった。
なので、彼は短く俺と言葉を交わしただけで直ぐに上から目線態度で「今後も頑張るよーに!」的な言葉を投げかけ、俺が礼儀正しく「有難うございます。頑張ります。」的な返答をすると満足した表情で取り巻きを引き連れて去って行った。最初から最後まで自分の名前を名乗りもしなかった。
偉い人は何処の世界でも基本「俺の事は知ってるよな!」的な態度だが無論、世の中には無知な人間、常識のない人間、俺の様な全くの余所者も大勢いる、という事実、あるいは自分は実はそれ程の有名人ではない、という真実には目を向けない。
そんな風に周囲の偉い人ごっこを楽しむ偉そうな人のオモチャになったりしながら回遊し、今度は早くも30分後ぐらいに疲れてきた俺は、再び自主休憩タイムに入る事にした。
そして今度はテラス近くの座席に引っ込むと、隣の窓から声が聞こえた。
「如何でしたか、姫様?あの勇者どもは?」
どうやら隣の休憩室には例の姫様達がいるらしい。
同じように休憩かな?
「まだ1人しか声をかけてないわ。」
姫様の声もした。
その1人ってのは俺のことか?
だが先よりも声音がちょっと冷ややかな気がする。いや、かなりかな…
「左様でございますか?して塩梅は?」
「そうね…」
彼女の言葉は途切れた。
「ここから離れた山荘の庭の警備なら任せられそうだわ。あの作法と会話なら王宮とか室内とか視界に入る範囲は勘弁して欲しいわね。」
周囲がクックックと笑う声が聞こえた。
「私としてはあのセンスの服装では当家の庭の警備はご遠慮願いたいですな。」
お姫様の感想に、誰かがお上手を付け加え、更にクックックと周囲数人の押えた失笑がここまで聞こえてきた。
「しかし…」
彼女は続けた。
「見た目も…何と言いますか…そう、貧相な感じで会話にもセンスもない。彼らが来た異世界とやらではアレが一般的であるなら、私は異世界もご遠慮したいわ。」
クックックック
更に笑いが広がった。
「まあ、彼らには幾つか退治をさせる予定ですから、姫様におかれましては…その…大変ではございましょうが、後の2人にも軽く声をお掛けして戴いて…」
廷臣だろうか。落ち着いた中年っぽい響きの声が遠慮がちに気の進まなそうな姫君に更なる交流を促すと、彼女は上品だが乾いた笑い声混じりで答えた。
「そうですわね。つい勇者という美名に惑わされてしまいますが、考えてみれば彼らは冒険者の類と同じようなモノなのですね。だとすれば、まあ、魔物退治以外の何かを期待するのが間違いなのでしょう。」
「彼らは所詮は下賤の生まれ育ち。高貴でお美しい姫様から一声掛かれば、それだけで舞い上がってしまって幾らでも魔獣退治に赴く事でしょう。さすれば、ここはご不快ではございましょうが今一度…」
「分かっています。どんなに不快であっても国の為に役目を果たすのが王族。私もそこは心得ておりますので心配は無用です。」
「姫様のご心中、御察し申し上げます。アリサ殿!」
「ハイ!閣下!」
落ち着いた声音の男性に静かだがビシッと返事したのは声からして先程の高飛車侍女だと思われる。
「そういう事である。その方にも苦労を掛けるが姫様の御心の内をよく慮り、次の勇者にはダラダラと下らない話をさせないように、しっかり気を配るのだ。」
「申し訳ございません、閣下!次は早めに間に入って切り上げさせます!」
「先程のはアリサのせいではありませんよ。あの小物の話が長過ぎたのです。それに…」
ホホホっと姫君は笑った。
「途中からは聞くに堪えない不快な音声が極力耳に入らぬように聞き流していましたから大丈夫ですよ。」
「有難きお言葉にございます。次回はご苦労をお掛けする事がなきよう努めます。」
「頼みましたよ。」
あまり大きな感じではないが数人がドヤドヤと立ち上がる音がして、彼女達は隣の部屋を立ち去った様だった。
まあ、そんなトコだよな。
先程までの胸の高鳴りが一気に醒めた、いや冷めた俺は手に持っていた弱い酒をグッと呷り、彼女の笑顔に心がグラついた自分自身を嗤った。
正に彼女の言う通り、この世界での俺らの存在意義は魔物退治が出来る事と魔王を倒せる可能性がある事だ。
他に取柄がなく、彼女達からすれば利用価値、いや存在価値はそこしかない。
そして彼女達もそれ以外の連中も遠慮なく利用しに来る。利用しにしか来ない。
その成果は享受しまくるし、子供のお遣いにお駄賃を渡す感覚で1回ぐらいメシを豪勢に奢ったりはするけど、所詮はあいつらは異世界人だしな、勇者だからな、とやって当然と感謝などしない。ヒマがあるならもう少し退治させるか、としか思わない。
俺はその現実を彼女の言葉で改めて思い知り、しかし特に文句を口にする事無く理解した。
けどアタマでの理解とは別に心の中の失望が深まるのは止められない。
大人になって社会で色々見た今だから「まあそんなモンだろ」と流せるわけで、当時は多感なお年頃だったのだ。
好感を持った美人に陰でとはいえ盛大に見下され、不快な音声とまでディスられて平静なわけがない。
そして礼儀知らずだろうが貧相だろうが今でも納得はしていない。
この世界は碌でもない連中が上にも下にも溢れ過ぎている。つかそれしかいない。
俺は思いを新たにした。
魔王を倒しに行ったのはあくまで俺ら自身の為であって、アイツらを救う為ではない。
進んで殺して回ったりはしないが、あんなヤツらがどうなろうが関係ないし、無関係を貫くつもりだ。
このスタンスがブレてはならない。隙を見せてはならない。
……貴族の宴会に招待されるなんざアレ以来だなあ。
久方ぶりの偉い人との宴会を前にして、もしかすると自分の中のゴーストが「浮かれるな!警戒を忘れるな!」と囁いてくれたのかも知れなかったが、不快な思い出であることには変わりはない。
俺は「嫌な事を思い出したな。忘れよ、忘れよ。」とばかりに本格的に寝るべく冒険者向けの安宿の薄っぺらい布団を引っ被った。
一目惚れした女の子に陰で盛大にディスられる、しかもそれを聞いてしまった経験がトラウマになるのは仕方がないですよね…




