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風任せで人任せな俺がここにいる理由  作者: 明月 文


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062 女組の再謀議

 表で勇者組が馬子にも衣装状態、いやそれ以下の田舎者(?)かつバカ丸出しでパーティーに出ている間、当然、裏番組はある。お付きの女騎士団4人組による謀議だ。


 そしてその主要議題は、不本意ながらも意識的に清らかな体を守り続けているDT3人組が宴会待合室で想像していたのとほぼ同じである。


「どうだ?」


 アイーシャに聞かれているのはレニだ。

 彼女は一応、シーバ狙い一択を宣言しており、彼の調略を任されている状態である。

 なので真っ先に聞かれたのだが、いつもならアイーシャの問いに憎まれ口の一つも叩く彼女は苦々しい顔で首を振った。


「ガードが固い。」


 彼女の言葉にリリアもミリーも「分かる!」とばかりに頷いた。


「結構、近い距離感は出してるつもりなんだけどねえ。」


 ミリーも同意する。


「目付きはちゃんとエロいんだけど、踏み出しては来ねえんだよな。」

「いっそ押し倒してみるかって思ったんだけど、その隙もねえときたもんだ。」


 レニの言葉にリリアも呆れた様に首を振った。


「DTヤバい!こんなにオンナに慣れてないと思わんかったわあ。」

「「「……」」」


 美女4人が露骨な色仕掛けではないものの「手を出していい!」感をさり気無く醸し出しながら迫っているのである。

 しかも彼女達はそういう任務の素人ではない。

 そしてDT3人組も全く興味がないという感じではない。むしろ目付きはギンギンだ。

 

 にも関わらず、ノって来ない。


 もちろんリリアの言う通りDTだから、というのもあるだろう。

 もう少し穏やかな表現をすれば経験が極度に足りなく、それとなく迫るアイーシャ達に対する行動が決定できないのだ。一言で纏めればヘタレなのだ。

 だが皮肉な事に相手がヘタレであるからこそ、ヘタレではないアイーシャ達の攻略は難航していた。


 けど、それだけではない。


「つか、アイツらこの状況で充分楽しんでないか?」


 レニの言葉にアイーシャが首を傾げた。


「DTのクセに駆け引きを愉しんでいるのか?」

「んにゃ、そうじゃなくってさあ…」


 アイーシャの言葉をミリーが否定した。


「…ん~何て言ったらいいのかなあ…アタシらにベタベタされて喜んで…でもそこで終わり。むしろ、それ以上を最初からやるつもりがないから、コレで充分満足的な?」


 レニもそうそうとばかりに頷く。


「奴ら町に出ても娼館に行こうって話すら出ねえもんなあ。」


 この世界の常識では男の遊びとして娼館は普通だ。商人でも騎士団でも冒険者でも変わらない。

 彼女達も別に奨励したりはしないし、正直いい顔もしないだろうが、止める様な事もまたしないだろう。妻でもカノジョでも婚約者でもないのに止める権利も何もない。


 けど勇者3人組は彼女達に遠慮してる風もなく、最初からその気配はゼロだ。

 日本人、しかもフリーアルバイター、大学生、高校生という娼館やソープはおろかキャバクラにすら行けてない世間経験値が全く足りてないバカ3人には、そんな大人の遊び(?)が普通に思い付かないなど彼女達には分からない。


「…少し攻め手を変えてみるか?」


 アイーシャの呟きにリリアが首を傾げた。


「もちっと露骨に行くって事?」


 レニが同意するように頷いた。


「この際だからこっちから押し倒すか!」

「その前にそこらの娼館でDTだけはとっとと捨てて来いって言う?」


 リリアの露骨と言えば露骨過ぎる発案にアイーシャは首を傾げた。


「特に明解な理由はないんだが……逆効果な気がするな。」


 慎重なアイーシャの意見にミリーも同意する。


「今更だけどよ…最初からそうすりゃよかったのかも知んねえ。でも今は余計に警戒するんじゃねえかな。」


 レニも首を傾げて考え込んだ。


「う~ん…確かにコッチからムリムリ押し倒しても…なんというか…心の距離感って言うのかな、そういうものは縮まらないような気もするな……」


 レニの言う事は他の3人も薄々は感じていた事だ。だから今までしなかった。

 2人の言葉にリリアもこれまた「う~ん」と考え直す素振りをした。


「ヤられ損ってことよね。」


 リリアの微妙に明後日な理解にミリーが苦笑いする。


「…いや、そういう意味じゃねえけど……まあ上手い方向じゃねえわな。」

「押し倒すまでいかなくてもさ、コチラから正面きって告るってのは?」


 レニの発案にも隊長で一番年上でもあるアイーシャは少し考えたもののやはり首を振った。


「……理由はよく分からん部分があるが散々警戒された後だ。今更感が激しい。ホントに今更なんだが、ミリーもさっき言った通り、それもやるなら最初の方でやるべきだった。」


 アイーシャの賛同を受けたミリーも頷き、更に付け加えた。


「もっともよ、最初にやっても上手くいったかどうかも分からんけどな。」

「「「……」」」


 リリアもレニも反論せず、女組は黙った。


 最初は彼女達4人は4人とも、自分達の手に掛かれば彼らを骨抜きにするなど簡単だ、と思っていたのだ。

 無論、曲がりなりにも騎士団を名乗る彼女達は色仕掛けが必ずしも本職ではないが、それぞれに容姿には自信があり、その種の仕事の経験もある4人だ。その彼女達からすれば明らかに与しやすそうな3人に見えたのだ。

 一言で言えば甘く見たのだ。


「どう報告する?」


 今迄の話し合いで今後の方針は全く決まってないし、簡単に結論が出そうにもない。

 話を巻き戻したレニに対し、話を振られたアイーシャはう~んと考え込んだ。報告書を書くのは勇者護衛隊の隊長たるアイーシャだ。


「…取り敢えず悪い雰囲気にはなってない。我々の言葉にもよく従って順調に魔王城へは向かってもいる。だから上手くはいってる。そこは強調していいだろう。」


 アイーシャの言葉に残り3人もまあまあ頷いた。


「まあ…順調に魔王城には向かってるのはそうだよな。」

「そこは特に嫌がってる様子もないよね。」

「でもさ…」


 ミリーが口を挟んだ。


「アイツらが腹の底までアタシらが思ってる方向かどうかは分からん…かな。」


 思わずアイーシャが微妙に顔を顰めた。しかもそれを全員に悟られた。


 確かに3人組は個々の魔獣退治には文句タラタラだが、魔王城に向かう事自体には文句は言ってない。

 が、コントロールしきってるとはお世辞にも言えない。個々の討伐に文句タラタラなのもそうだ。

 それもこれも本来の予定(?)なら今頃は彼女達の色香でメロメロで何を言っても文句を言わない状態になっているはずだったが、全くそうはなってないからだ。


「シーバは予想以上に警戒心が強いし、マーサにはのらりくらりと躱される。挙句、背後からタッカートが変に冷静な目付きで見張ってるで、やり難いったらありゃしない!」


 リリアのコメントは正に彼女達の現状、そしてそれに対する思いを短く的確に纏めたものだった。

 しかし現状の困難さを的確に表現できても壁を乗り越える手段は見当たらない。


「もう、このままでも良くねえか?アイツらも表立って文句も言ってねえし、ヘタな事して雰囲気悪くするよりいいんじゃねえか?」


 ミリーの意見も一つの考え方ではあった。

 彼女達の目的は彼らを魔王戦に向かわせる事であって、彼ら自身を堕とす事ではない。あくまでメロメロにさせた方がより上手くいくだろう、という話なだけ、という見方も出来る。


 もっとも送り出した国王の思惑は少し違う。


 国王からすれば最終的な魔王退治は謂わばギャンブルで成功するかどうかは分からない。

 なので、アイーシャ達がメロメロにした彼らを使い、行き先々で様々な恩を売りまくり、自国民にアピール、または他国には外交上の貸しを作るというのも目的の1つだ。謂わば長期的な目標である魔王退治に失敗しても短期的には領内、あるいは周辺諸国への貸しは残る。

 当然の事ながら、アイーシャ達パシリには「勇者として立場上、周囲の救援要請を無碍には出来ない。なのでなるべく受ける方向で進む様に」としか言われていない。

 そしてそのやり方は「分かっているな?」というわけだし、彼女達も「分かっている」という事だ


 更に国王からその思惑を詳しくは説明されてはいないが、隊長のアイーシャは別の観点から首を振った。


「いや、魔王の事より目先しか考えないヤツは多い。彼らが戦歴を重ねれば重ねる程、彼らを手元に置いて自分の戦力にしようと考える輩は増えるだろう。そうなれば自分の娘や自分自身をエサに近付いて留めようとする連中も増えるはずだ。」


 現状維持を提案したミリーも、アイーシャの見解にはもっともだと頷いた。

 彼らをとにかく色仕掛けでも操って魔王戦にもっていく、というのが勿論、主要任務ではあるのだが、他からのチャチャも防ぐ、という目的もある。

 ハニトラで男を操るのは古今東西よくある手段であり、彼女達以外が同じ手段で攻めてくる事は当然想定の範囲内だ。


 レニも言った。


「死人や、れえざあはともかく、魔法使いのマーサだけでも残しておきたいとかはいるかもだしな。」


 リリアも同意する。


「陛下も勇者が間違っても他国に永住したりするのは避けたいって仰ってたしね。」

「リリアの言う通り陛下のご命令は魔王城に向かわせろ!だけではなく、勇者をガッチリ掴まえろ!だ。下手をすると魔王を倒したはいいが、他国の手柄になって我が国は苦労しただけ、という話になりかねない。」

「アタシらもな。」


 ミリーの短い相槌には他も全員が頷く。

 今迄、散々苦労して護衛してきたのに勇者が他国の帰属になれば、流石に他国で処刑はされないだろうが「お疲れさん」の一言だけで身1つで返され、挙句、母国では勇者を奪われた責任を問われ、こちらは本当に処刑されてしまうかも知れない。

 骨折り損のくたびれ儲け、と笑って済ませられる事態ではない。


「……そう考えると今日の歓迎会でも何かあるかも知れねえな。アイツらだけ行かせて良かったんか?」


 レニの問いにアイーシャが苦笑した。


「良くはない。」


 「おいおい…」という風のレニにアイーシャは苦笑しながら続けた。


「良くはないが、恐らく今回は大丈夫だ。」

「何で言い切れんのさ?」


 レニが重ねて聞いたが、アイーシャの苦笑は変わらない。


「この国の危機意識は薄い。精々が彼らに余分に魔獣狩りをさせようぐらいしか考えていないだろう。」


 アイーシャの返答にミリーが思い当たるフシがあるとばかりに言った。


「まあなあ。何かこの国はなあ……なんつうのかなあ…纏まってる感が傍目にちょっと見ただけでも全然ないよなあ。」


 リリアもミリーの方を見て頷いた。


「それ、分かる!貴族同士とか騎士団の会話とかもさあ、何て言うのかなあ……ほら互いに変に空気見てるっていうかさあ…」

「一言何か言う度にアタシら関係なく周囲とめちゃめちゃ目で会話してるのが分かるよな。」


 繰り返しになるが淑女騎士団は諜報も担当している。男性から色香で聞き出し、近くで護衛をしながら男性より脇が甘くて表現が露骨な女性同士の会話を小耳に挟んで上に報告するのだ。


 その諜報経験もある彼女達から見て、ここの国は今まで立ち寄った他の国に比べ、ちょっと一種異様な雰囲気があった。

 敢えて無理矢理一言で纏めると、全員が全員、異常に内向きなのだ。自分達の中の話だけでいっぱいいっぱいで外の情勢に気を回す暇などない、というのが態度に滲み出ているのだ。

 だから、彼女達勇者一行が魔王退治の旅をしてます、と説明しても上の空で「ほう、ご苦労な事だな」ぐらいの感想に留まっていて、そのくせその話を聞いた周囲がどう思ってるかを異常な程に気にしている。


「歳頃の王族で目立つのは跡取りの姫君ぐらいだ。この程度の認識なら一人娘の姫君を生贄にしてまで彼らを足止めしようとは思うまい。」


 ここの宮廷から受けている感触は皆同じだ。アイーシャの判断に全員が異論なく頷く。


「ま、王族以外の貴族の娘程度の話ならアイツらも用心深く振舞って逃げるわな。いつもアタシらがされてるみたく。」


 レニの皮肉気な言葉にも全員が頷く。

 彼らの女性に自分から近寄れない、近寄らせないヘタレな心の壁、DTフィールドの堅さは折り紙付きだ。


 彼らの扱いに話が微妙に戻って来たところで、4人はワイワイ言い始めた。


「あまり露骨なやり方は返って彼らの警戒心を高めそうだ。かと言って、このままズルズルやってても成果が出ない。」

「もう10cm程、距離を詰めていこう!」

「ボディタッチの頻度も高めたらいいんじゃん?」


 ミリーがレニの方を向いた。


「おい、レニ!お前、ちっと普段から服、閉め過ぎなんだよ!巨乳、役に立ってねえじゃねえか!」

「仕方ねえだろ!アンタと違って緩めると揺れて戦闘しにくいんだよ!アンタこそ、ないならないなりにもちっと寄せて上げれば!?」

「オレはムネで勝負じゃねえんだよ!オレは雰囲気作りとシリで勝負なんだ!」

「ミリーにムネで勝負させたってしょうがないでしょ。レニ、アンタはシーバ任されてんだからとっとと何とかしなさいよ。」


 さり気にミリーをディスりつつレニにボールを投げるという高等技術を見せるリリアに対し、レニも負けじと言い返す。


「自分の事、棚に上げて何言ってんだ、リリア!お前こそタッカートとマーサの間でどっちにも行けてねえじゃねえか!」

「タッカートの目って変に冷静でキモいの!それでも我慢してやってんだからしょうがないでしょ!」


 リリアの言いたい放題にミリーがクックッと笑った。


「でも、タッカートのオレらが迫った時のあのたまにキョどった目はウケねえ?」

「分かる!ミリー!分かる!あの辺は年下の男の子って感じなんだけどねえ。でもやっぱ何か可愛くない!アイーシャ隊長も何とかしてよ!」

「アタシはマーサで手一杯だ。」


 素知らぬフリなど許さないとばかりにボールを振られたアイーシャは相手にせず冷静に流すが、ミリーが喰いつく。


「レニの無駄巨乳と違ってアイーシャ隊長のバインバインが好評なのはアイツらの目、見りゃ分かるけど、成果は出てねえよなあ。」


 一周してまたしても火の粉が飛んできたレニも当然黙ってない。


「ムダとか言うな!アイーシャだって見られてるだけで唯の見られ損じゃねえか!」

「レニ!損とか言うな!……でも見てるだけで何もして来ないってのはそうなんだよなぁ。」


 隊長であるアイーシャの一言で少し議論が戻る。


「やっぱ物理で距離詰めるしかねえだろ?」


 という自称「雰囲気で攻める」タイプであるミリーの主張は変わらない。

 それに対し見た目はゆるふわ系だが、それは唯の擬態に過ぎないリリアが肉食系単純解決を再度推す。


「ホントに押し倒しちゃダメなの?DTなんだから1回、手取り足取り腰取りすれば終わりじゃない?」


 リリアの意見には慎重な判断の出来るアイーシャがまた少し考えはするがやはり首を振る。


「だから、相手は既にそっちは警戒してる!露骨なのは返ってヤバいってさっきから言ってるだろう!」


 レニは椎葉の専任みたいなものだから1人「う~ん」と唸りつつ言った。


「……ミリーの言う事にも一理あるか。アタシ、少し胸元緩めるわ。戦いづれえんだけどなー」

「おう!そうしろ、そうしろ!」


 ミリーの囃し立てに対して、レニは意地悪そうな目でジロリと見た。


「オマエはシリで勝負なんだろ?アタシはムネ使うんだから、オマエ、シリ出せよ!」

「出せるか!バカ!」


 女達の謀議は簡単には結論が出そうになく、しかも徐々に勇者組の想像とは少し違う感じの方向に逸れ、長くなりそうだった。

 

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