061 初回の宴会前の芋3匹
公爵殿のお招きを全員で受けると決定した俺らは、その重い決断に精神的に疲れてしまって(笑)、賞金も出たのに皆で打ち上げするとかもなく、その日はなんとなく流れ解散で宿に引き揚げた。
ま、明日は昼から豪勢な食事が決定してるのにわざわざ前日に派手な飲み会もないもんだけどね。
ちなみに領主の館に相応しい小綺麗な服装など持ってないので、宿に荷物を置くと服は買いに出掛けた。みんな同じような感じだから、店ではバラバラと皆顔を合わせて苦笑いだ。皆カブらないように服合わせ出来たし楽しかったけど。
そして宿に買ったばかりの服を置いて申し合わせた様に風呂屋へ直行。これも風呂屋でみんなバラバラと顔を合わせてまたもやみんなで苦笑いでワイワイと風呂に入った。やっぱり領主に招かれたとあって皆少し浮かれてた。
数人はそのままメシ屋へなだれ込んだらしいが、今晩は流石に深酒はしないだろう。
俺はみんなより一歩早く動いてる感じだったので、メシは1人で適当な店で軽くササっと済ませ、早々にご就寝、とベットに入った。
が、普段よりだいぶ早いベットインだから、なかなか眠れない。
眠れないままゴロゴロしていたら昔の事を思い出していた。
前回は優雅とはマジ無関係な魔獣を殺しまくりの殺戮旅を続けていた俺らも、立場、つか名称だけは皆に尊敬される勇者様だった。
実際には魔獣駆除係として各地で手に負えない類の魔獣退治を押し付けられていただけだけど。
控え目、というか良く言っても勇者という名前のシロアリとかゴキブリとかの駆除業者と同じだ。
しかも駆除業者と違ってその卓越したテクニックを褒められもせず、挙句、その全てロハである。その上、これまた駆除業者と違って勇者の当然の仕事として感謝すらもされない。
やってらんねえよ!というのが俺らの正直な感想だった。
そういった意味じゃ字面的には立場が低くなっていても、魔物を退治すれば金も貰えるし、時にはビッグヘッド討伐の時みたく褒められて感謝もされる今の冒険者の方がずっとマシだ。
しかし、勇者に相応しい歓待を受けた事もある。(土下座で毒饅頭喰らわされた1回目を除く。)
我々が立ち寄ったある王宮では、我々の激励会という名目の盛大なパーティーが開かれたのだ。
招かれたはいいが、あの時も問題になったのは服だった。
魔獣ワールドをウロウロしているだけの我々に正装なんぞはない。
つか、そもそも勇者の正装なんぞはない。
それに当時の俺らには休日というものが基本的に存在しなかったので、そもそも私服すらほぼない。強いて言えば、鎧を着けていない服装が私服だ
初回の毒饅頭会は平服でいいと言われたが、流石に王宮主催のパーティーはアカンやろ。そのぐらいの常識は俺らにだってある。逆に「平服で結構です」とも言われていない。
招待された俺らは急遽、城の奴らの紹介で行った高級店(?)で、しかも(この世界の)常識レスな俺らじゃ選べもせんという事で店員の見立てとアイーシャ達の意見で、高そうで着難そうな既製服を適当にその場で直して(本来はこの種の服はオートクチュールだそうな…)、出席した。
とはいえ、普段着慣れないコッチ的にはキチっとした格好しても生まれ育ちは隠せない。
マサさんは、突然、金が出来たので取り敢えず近場の駅ビルにも辛うじて店舗があり、唯一知っている高級ブランドであるラ〇フローレンだかグ〇チだかで全身派手目に揃えてみました的な成金そのものだ。ぶっちゃけ横にいるのは少しハズい。
シイちゃんは金のかかった服装のハズなのに就職活動時期になったのでスーツ量販店でサイズは合ってないが2着1万円で揃えたスーツを初めて着た就活生の様な、どこがどうと指摘は出来ないが全く社会人には成り切れていないチグハグ臭しかない学生感が凄い。
そして俺に至っては明らかに服に着られていて、本人も些か恥ずかしいが、周囲は生暖かい目で見る七五三のガキ、といった具合だ。背中に何故か描かれているデカい鷲の絵が田舎ヤンキー臭しかしなくて超ダサい。
中身は3人ともどっこいどっこいだが、外見的なダメ度合い一番は、まず間違いなく成金でも就活生でもなく、鷲の背中の七五三ルックの俺である。どうせ鷲を描くなら栄養ドリンクのマークとかなら内輪で笑いがとれるぐらいには役に立ったのに(笑)。
……今から考えれば、この世界の風潮からして普段は貴族、王族しか相手にしない高級店の連中にさり気無い嫌がらせをされていたのかも知れない。特に俺は一番年下ってことでナメられてたんだろうなあ。
その些か恥ずい俺らの中で日常会話をリードするのはマサさんだ。
中年太り…って言っても今の俺より年下なわけだから中年って程の年齢じゃなかったのでオタク太りの腹を遠慮なくパンパンしながら成金ルックのマサさんは会場、つか控室に入った段階で目を見張って言った。
「うむ。この世ではない様な美しさだ!まるで二次元だな!」
「まあ、二次元は確かにこの世ではないな。」
早速ボケたマサさんに対し、シイちゃんのツッコミは俺が後を続けるのが難しいという意味でいささか素っ気なかった。やはり緊張していたんだろう
「つか三次元から二次元ってランクダウンっぽくないすか?」
そうは言ってもボケが入ったのにツッコまないのはルール違反で、大阪なら刺されても文句も言えない。法律の恣意的運用を得意技としている大阪地検は起訴もしないだろうから有罪か無罪かすら判断されない。
それを踏まえて俺がちょっと無理してツッコミを返したのにマサさんはう~んと考え込んでしまった。スベるより悪い事態である。
不発に終わった場合には自分でフォローするのが礼儀正しいボケツッコミだ。
仕方なく(?)俺はアタマをフル回転させて続けた。
「あ…いや…何て言うか…三次元を二次元で表現すんのは表現法としては困難度が上がるんで、ソッチ方向ととるなら、まあレベルアップっすかね?」
関西人が聞いたら無言で鈍器で殴られそうな俺のボケなのかツッコミなのかも不明確な言葉に、しかし心の広い成金マサさんは、田舎から出て来た純朴な大学生を騙して高い部屋を借りさせる事に成功した不動産屋の様な笑みでニヤリと笑った。
「…難しい事言うな、タッカート君。」
「タッカートは止してくれません?マーサ。」
「そうなんだよなあ。タッカートも笑えるけど、なんかマーサはマサさんのイメージと全く合ってねえんだよなあ。」
成金マサさんはシイちゃんの方を成金社長的な上から目線でジロリと見た。
「アイーシャ達が親しみを込めて呼んでくれている名前にキミはケチをつけとるのかね?」
口調、つうか喋り方まで成金社長そのもののマサさんに、シイちゃんは安心した様に微笑んだ。
「うん、大丈夫だ。字面は威厳があるのに全く圧を感じない通常通りのマサさんだ。俺達は緊張とかしてない!イケるぞ!」
「どこに逝く気なんすか?つか、どっちかってえと言葉的にはもう来ちまったって感じなんすけど。」
ちなみに今日はアイーシャ達は別行動だ。パーティー自体に参加していない。
一応、彼女達の扱いは俺らの護衛だから招待されなかったらしい。
「パーティーと言えば旨い飯!旨い酒!そんでイイ女!」
叫ぶシイちゃんに成金社長が珍しく冷たく言った。
「恥ずいからやめてくんない?」
「俺らだけじゃ何か浮きっぱなしっすね。やっぱ無理矢理でもアイーシャ達を混ぜるべきだったですかねえ?」
まあ、そう言ってはみたものの呼ばれてもないのに彼女達も来れはしない。
俺らが宴会に出ている間に彼女達は旅の準備を進めておく、と笑って言ってたし、彼女達もたまには俺らから離れた休みも必要だろう。宴会での世話まで焼かせるのは些か本筋から外れる。
そして彼女達は彼女達で俺らがいない間にする事もあるだろう。
「まあ…」
俺は続けた。
「今頃は俺らいねえってことで彼女達だけで作戦会議中で…後は本国に俺らの報告書でも作ってんのかな…」
俺の意見にシイちゃんも冷たく同意した。
「だろうな。」
マサさんもうんざりした顔で言った。
「報告書って言ったって何書くのさ?上手くいってます、以外に書きようがねえだろ?」
「もう誑し込みました、まだそこまでは言ってません、とかは書けるだろよ。」
「そこ、書くんすかね?」
「一応、彼女達の任務にゃソコは含まれるだろうからな。……これも一応、聞くけど彼女達の任務、成功させたヤツいる?」
シイちゃんの問いには俺が問いで答えた。
「シイちゃんもマサさんもDT続行なんでしょ?」
「まあな!」
成金社長が何故か胸を張って返答するのを、同じ立場のシイちゃんが憐れみの眼差しで見た。
その視線の意味はマサさんも分かったのだろう。苦笑いで言った。
「お前の言いたい事は分かるけどよ…今日は言うなりゃガードもいねえし、別口が大勢来るかも知んねえぜ?」
シイちゃんも首を回しながら同意する。
「やだねえ。飲ませ食わせ抱かせでなんかさそうって考え方。」
「いや、軽いタッチぐらいまではともかく、抱かせまでサービスがあるかは分からんでしょ?」
成金は少し頬をポリポリしながら思案顔になった。
「やっぱ俺らDTなんがバレバレなんかいな?」
そこ論点じゃねえな。
そう思ったのは俺だけじゃなく就活生も同じで、彼が反論する。
「いやあ、そこは無関係だろうけどDTだから少し舐められてるトコはあるかも?」
「前から思ってんですけど、誰もDT、否定しないんすね。」
俺のツッコミに就活生は何故か胸を張った。
「この面子で一番、DT率が低いんは俺だろ?その俺が3人はDTを確信してんだ。間違いねえ。」
言ってる意味は何となく分かるが、理屈も結論も正しくないのも分かる。
「DTはDTかそうでないかの2択だから、率はヒフティヒフティじゃねえのか?」
マサさんの極めて正しく、かつ統計の初歩の初歩的なツッコミにもシイちゃんは負けない。
「いいや!そうじゃない!DT率はイケメンパーセンテージとイケてる男パーセンテージの掛け算だ!個人の評価指標なんだよ!DTかそうじゃないかの2択じゃない!」
…シイちゃんよ、パーセンテージ(小数点以下)にパーセンテージを掛け算したらより小さな数になるだけじゃねえかい?
言っている内容からして意味不明なシイちゃんの意見に対し、マサさんが思いっきりワザとらしく俺らも含めて周囲を見た。
「基本の確認なんだが、どっかにイケメンがいるか?」
就活生も対抗してワザとらしく胸を張った。
「目の前にいるじゃねえか!」
「もしかすると目の前の初めての会社訪問でビビりまくってる就活生のこと言ってる?」
「なんだと!この田舎成金が!」
互いの容姿に褒める箇所がまるでない俺らは互いにツッコミたい放題である。
普段ならアイーシャ達がいて、まあ、心でどう思っていようが立場として俺らの良い点を無理矢理探し出して褒めてくれるだろうが、今日はいない。
そしてそのアイーシャ達には言ってないが、俺らは彼女達が来てから一つの行動指針を共有していた。
それは単純、俺ら以外は信じない、である。
本来、俺らは勇者、つまり魔王退治に欠かせない立場のはずだ。
にも関わらず、最初の試練の迷宮とやらで人数は3分の1まで減らされた。
ここまでは、まあ、ある種のハードルだと思う事も出来るが、脱走した2人に至ってはあっさり人間の兵に殺された。
挙句についた護衛名目で来たのはアイーシャ達美女4人組で、ムサい野郎よりかは良かったが、その思惑は丸分かりである。
俺ら3人は互いに言葉で明快に出さずとも意見は一致していた。
この世界ではも俺ら3人だけ、生き残った俺らだけが仲間だ。
だいたい冷静に考えても、俺らはここへ無理矢理召喚されて、魔王を倒せば元の世界へ帰れるってのをエサに魔王退治を丸投げされてるのだ。その丸投げした連中を信じるのは、仕事に失敗した時に上司が責任をとってくれる、百歩譲っても庇ってくれるのを信じるのと同じくらい意味がない。
誰かを刺した後に警察に自首すれば確実に情状酌量される事を考えれば、警察に自首して懺悔した方がまだマシなぐらいだ。
「まあ、でも、レニは最近、就活生にベッタリなのは認めるけどな。」
「もうメンドーだから押し倒せばいいじゃないすか。1回ぐらいはアヤマチって事でチャラかも知れんし。俺らも見てないフリはするし。」
「そんな気の迷いとかも結構あるけどなー。ゴム無しの場合よりもリスクが高えのがなー。」
ここでマサさんがボソッと言った。
「散々話した後なんだが…」
「んあ?何よ?」
シイちゃんの問いかけにマサさんが今日一番真剣な声音で続けた。
「これでタカトが実はDTじゃなかったらショックデケエな。」
「え?やだなー急になんすか?」
アタマを掻いて誤魔化そうとした俺に対し、2人は魔獣とやる時よりも真剣な表情になった。
「「どーなんだ!?」」
マジそのもので迫まられて俺は仕方なくカミングアウトした。
「あ…いや…DTっす。」
入社半年以上経っても全く仕事が出来てない新入社員を忘年会で褒める時の様な、全く心の篭ってない満面の笑みで成金社長は俺の肩を叩いた。
「実践経験こそ少ないが、知識だけならおそらく俺が一番、テクニシャンだ。何でも俺に頼るがいいぞ、タッカート。」
「自分で言ってて虚しくないっすか、マーサ?」
「実践経験少ないテクニシャンとか意味が分からん。だいたい実践は少ないじゃなくてゼロだろ?」
シイちゃんのもっとも過ぐる突っ込みに成金社長はさも心外そうな顔をして反論する。
「…そこは言わない約束ではないのかね?」
「んな約束、誰もしてねえだろ?もう魔法使いのダンナ?」
「……確かに私は偉大な魔法使いだ。でもキミももうすぐ魔法使いではないのかね?」
「プッ!偉大…やっぱ最初から魔法使いだから?(笑)」
「俺はまだだろーが!まだそんな歳じゃねえ!」
「…まだ?将来はやっぱり魔法使いなんすか?」
俺の自分の事を棚に上げた些か手厳しいツッコミに3人の間にちょっと沈黙が訪れ、俺は脱線し過ぎた話を多少戻すことにした。
「ま、俺らには人質もモノ質も効かないっスからね。何か使って何かさせようとかも出来ないっしょ。」
実際のパーティーでは相手の手練手管に見事に引っ掛かる寸前までいった俺だったが、この時はそんな未来も想像出来ずサラっと言った俺に対し、シイちゃんも頷いた。
「最初のタイスの時みたく、よく分からんと余計な話、引き受けなきゃいいだけだな。」
注意点はシイちゃんの言う通り、かつそれしかないと思っていたが、マサさんが真顔で異論を唱えた。
「まあそうなると、今日のコンセプトは、その辺で物陰とか草むらとかに引き込まれないようにってトコか?」
シイちゃんと俺は「天才か!?」という目でマサさんを見た。
「さっすがエロゲマスター、そこですかさず草むらに着眼とか凄えな!」
「マジ、1㎜も考え付かなかったっすよ!」
マサさんがキングオブエロゲ全開ボケに織り交ぜた「ないとは思うが、今日はアイーシャ達ガードもいないんで、一応、ハニトラにも気を付けよう!」という注意事項の再確認を3人が理解したところで控室に侍従が呼びに来て、俺らのバカで真面目な小作戦会議は終わった。




