059 予定外の手掛かり
結局、ブラックメイジズ、ビールズそしてオマケでカイルの咆哮の3パーティーは6日に渡り行動を共にした。
ビールズのボブさんともう1人の魔法使いビリーさんが羊を追い立て、その先で待ち受けているウチのデイブさん、ジェフさんの魔法使いコンビとが魔法で落とし、ビールズの剣士バッチャムがウチのミハイルやロブ、ホーケー達にも指示出ししてトドメを刺すというコンビネーションだ。
羊を堕とす程の魔法を使えないホーケーの魔法使いは最初と同じく地上戦闘補助に回る。
俺とビールズの弓師リロイさんは左右に分かれて遊撃として魔法を避けて拡散して逃げようとする羊供を中央に追い立てたり、ミハイル達の死角から飛び掛かって来る活きのいいヤツを始末する役割だ。
今回はビールズとブラックメイジズは完全混成で役割を分けたし、ホーケー達もちゃんと役割を持たされての参加だから報酬は4:4:2で分けられた。
これでもまだホーケーの取り分が少ないと思う向きもあろうが、Eクラスのズブの素人とベテランCクラスの取り分が倍半分以上違うのは当たり前過ぎで、むしろ少し色が付いてるぐらいだ。
「そう言えば全然会わねえけど、地元のヤツらはどうしたよ?」
1週間程もヒーフスウェルの周辺をグルグルしながら羊を追い立て、狩り周る小旅行をしてれば、それなりに仲良くなる。
デイブ、ボブさん、ジェフ、それにベテラン弓師のリロイはリバードアのギルドも長いみたいで以前から顔見知りではあった様だが、一緒に仕事したりはなく、今回が初めてだということだ。
まあ、リバードアのギルドは大きくて多数が所属してるから、長くいても知り合う機会がない場合だってあるだろうし、ましてや美味しい仕事は奪い合いだ。それこそ討伐でもなければ複数パーティーが共闘する機会は滅多にない。
言うなれば大学みたいなモンだ。
同じ学部、同じ学年に所属しているからといって全員が知り合いなわけじゃない。一緒に何かする機会も少ない。
だが今の我々は1週間も一緒に仕事している。
仕事の後の雑談、特にこういう町の外での野営での雑談は結構ハズんだ。
「地元の連中は畑の方に回ってる。アイツら俺らより土地勘があるから農家から依頼があったら直ぐにすっ飛んで行けるんだ。俺らがどこらにいるかはギルド通して連絡してるから、数が多けりゃコッチに追い立てときゃあいいって言ってる。」
ジェフの問いにボブさんは何でもなさそうに答えた。
地元とナシつけて役割分担をしてるのか。しかも悪くない発案だ。
そもそも魔獣狩りは早い者勝ちだ。獲物は基本、奪い合いである。
いくら地元のギルドが呼んだからといって、自分達だけでは処理しきれないのも理解してるからといって、地元の冒険者達から見ればボブ達が自分達の縄張りに入り込んだ余所者なのは間違いない。
本来なら一番弱い立場になりそうだが、そこはしょっちゅう来ているのが活きているんだろう。
「まあ、しょっちゅうコッチに来てるお前が一番、コッチは詳しいからな。地元と話つけるんは任せるわ。」
デイブもそう思ったらしく、コーヒーを啜りながら頷いて、以前から思ってる事を訊いた。
「実際、ここの何がそんなにイイんだよ?」
ボブさんは即答した。
「サウザンリーフは自由だ!」
「自由ねえ……」
ボブさんの力こぶの入った返事に、対するデイブは生返事だ。
「このサウザンリーフは見ての通り、リバードアに一番近えのにイマイチ発展してねえ。」
顔付きからデイブも俺らもイマイチ納得してないのは分かったのだろう。ボブさんが力こぶ入ったまま言葉を続けた。
「だから今のサウザンリーフの当代ケーンサック公爵様は、そこを俺ら庶民の力も借りて打開しようと考えておられる!貴族だけじゃねえ、庶民からの成り上がりを歓迎してるし応援もしてる!」
「「「おお!」」」
何時の世の中でも支配者層は自分の事が最優先で、かつそれしか考えていない。
基本、総取りしか考えておらず、民に渡すのは施しという理解だし、中長期的には生かしておいた方が自身の利益として返ってくる可能性が高いからに過ぎない。
謂わば投資である。
投資の妙味は如何に小さい投資で大きく稼ぐかだから、その額は常に最低ラインに固定される。
だから逆に植民地時代の賢い欧州人達は南米、アフリカの異国民に施ししても自分達には靡かない未来が見えていたので、民に投資は意味がないとして、一切の優しさもなく搾取出来るだけ搾取した。
そしてそれが続かないと見るや否や恩着せがましく相手の言い分を聞いたフリをして独立は認め、利権だけは従来通り確保して面倒な政治からはサッと引いた。独立を認める、というのは経済的権益は今まで通り自分達のもので、現地民は自分の国になったんだからテメエの面倒はテメエで見ろ、という意味である。
異民族支配がお勧め出来ない実例であり、欧州人は昔から他民族支配に慣れている1つの証拠だ。
他方、他民族支配どころか共存にも慣れていない日本は占領地の人民を帝国臣民として扱おうとして、同一化に多大な投資をしたが返って恨まれるという悲しい結果に終わった。
欧州人達はその方式は欧州では既にローマ帝国で実験済で、非常に長い目で見れば最終的には瓦解するのが分かっていたのだ。
支配者が総盗りではなく民の取り分を残すのもバイトにバイト代を払うのと一緒で、バイト代も出さなけりゃ人手が集まらないから出すだけで、金額は常に最低賃金ギリしか考えてない。
時価が最も反映されやすいコンビニのバイト料は東京都区内でこそ最低賃金を1~2割程上回る場合も多いが、これは人手が集まらないからに過ぎず、川を挟んで50m程しか離れていない神奈川や千葉では最低賃金と完全同額か0.5%程の差しかない。最低賃金が1,000円なら1,005円以内が相場だ。
東京都区内では最近はコンビニ店員は外国人が多いが、グローバル化が進んだとかではなく、より弱い立場の彼らは周辺より安い賃金でも渋々仕事を引き受けるからだ。
その証拠に昔はコンビニの外国人店員と言えば中国人が多かったが、母国の給与が日本を上回り、行動の自由度が増して米国に行けば3倍の給与が固いと分かった瞬間に賢い彼らは瞬時にいなくなった。
今は東南アジア系の人間が多い。彼らの国の給与からすれば日本の最低賃金はまだ高く、彼らの国に比べれば日本には職があるからだ。
そして最近では最低賃金を払うことすら惜しんで最近はボランティアを搔き集めるという方法も流行している。
国際的な催し物があれば、現場運営やら案内、当日の会場設営など実労働はメシ代も宿泊代も本人達持ちでボランティアにやらせ、金は開催を決めたスイスの委員会と政府と委員会の間を取り持つ大手広告会社、そして広告会社でコネを積み上げた口利き屋が山分けというやり方だ。
分配はスイスの委員会が10、大手広告会社が7、日本のオリンピック委員会を含む口利き屋が5、その他大勢の関係政治家、増すゴミに3だから、常に費用は当初の予算の2.5倍以上に膨らむ。
ボランティアを大量動員するのは日本ではまだまだ馴染みの薄い部分もあるが、海外なら庶民でもボランティアに積極的に参加し、少額でも寄付をするのが上等な生命体という文化をローマ時代から長年かけて作っている。
その実例としてお金持ちや有名人、大手企業が率先して1万ドルとか10万ドルとか庶民には多額に見えるが本人的には全く大したことがない額を寄付して喧伝している。飴玉1つは我々アリンコには大きく見えるが、彼らにとっては一袋幾らで何時でもポケットから気軽に出して子供に「アメちゃん、いる?」と分け与える程度のモノであるのと一緒だ。
文字通り、庶民をタダで自発的に働かせるのに極めて優れた方策だから、日本でも遅まきながら最近は中学生にボランティアを単位として強制するなどして、若いうちから金が無いなら体で貢ぐ事の刷り込みを行っている。
言い方を変えれば、かつて聖徳太子が決めたとかって税制である租調庸の「庸」の自発的復活を目指しているものと想像される。日本の税法の基本は自己申告制度なのだ。
そして上層部がそのあまりに美味しいその地位を誰かに譲るなど考えた事もなく、生きてる限り君臨し、ややもすると世襲を仕組みとして構築して外部参入を基本排除するのも皆同じだ。
大企業の社長は定年でスパッと辞めた例はなく、皆、社長→会長→相談役と君臨し続け、首相経験者は首相を退任した後も議員を辞める事無く出身派閥のドンとして発言力を持ち続け、引退=息子または娘への代替わりでない場合の方が少ない。この点は業種も何も関係ない。与党も野党も関係ない。
芸能界も大物であればある程、子息も芸能界入りし、映画界もTV局も積極的に二世俳優を起用する。マスゴミも少なくとも芸能界に影響力のあるご両親が健在な間は「母親そっくりの美しさ」「演技は既に父親を超えた」とヨイショする。
この辺りは何処の世界でも庶民は皆、理解しているから、逆に庶民にも特権階級への扉が開かれる、という話は成功率は限りなく低いと分かっていても、あるいはまるでウソと分かっていても皆を惹き付ける。
だから、サウザンリーフの領主が世襲貴族以外、冒険者からでも登用しようとしているという話にも、確率論として極めて低く、その最終的な目的は自身の領主としての地位固めに過ぎず、しかもそもそも嘘かホントかも分からないにも関わらず、全員が何となく関心を持ってしまうのだ。
「ああ、そんな噂は俺も聞いた事はある。実際の話、オンナの村長の村ってのもあるって聞いてるし。」
ボブさんの言葉にジェフも頷いた。
「ああ、そりゃあ俺も聞いた事がある……えっと…もちっと南の方のタイクンポートの方だったかな。生まれつきの貴族様なら女当主もいるんだが村長に取り立てられたってえと珍しいからな。」
「なんかメッチャ凄えんかな。」
「あんまし詳しい事は知らねえけど、騎士か何かの出身で昔、何かで手柄立てて貴族じゃねえけど領地として貰ったって話だ。だから村長とかって言ってるけど騎士爵ぐらいは持ってんのかもな。」
「「「ふ~ん。」」」
ロブが含み笑いで言った。
「ボブさんも狙ってるとか?」
「いやいや!そんなん…まあ、あればいいけど…いや!ねえねえ!絶対ねえ!」
領地でも貰った自分を想像して自分1人満更でもない顔になって、ハッと現実に戻って慌てて否定するボブを見て、俺らは皆、ハハハっと笑った。
「……そうそう、思い出したぜ!タイクンポートの先の…名前は忘れたけどそこらの村だ!元々は何もねえ野っ原だったトコをその女村長の……ああ…タルキ?トッキ?…えっと何だったっけなあ」
俺が口を挟んだ。
「トルーキン?」
「そうそう!何とかトルーキンって女村長が開拓して出来たって話だ。」
「へえ~」
縁ってのは面白い。
そもそも今回のクエストはこっちに来る口実みたいなモンで、居場所も含めレニの情報は別途集めるつもりだった。
けど、思いも寄らぬところで居場所を掴む事が出来たようだ。
「まあ、今回はこんな大人数での話になっちまったけど…やってみると結構、楽しいな、コレ。」
「こんなのもタマには悪くないだろ?おお、オメエらも相手は弱えけどいい勉強になったろ!?」
ジェフの言葉にボブさんも頷きながらホーケーの連中に声を掛ける。
彼らもミハイルやビールズのベテラン剣士の指示を受けながらだいぶ手際よく羊のトドメが刺せる様になってきていた。
「どうしたら俺ら今回みたく経験、積めるんすか?」
彼らは冒険者としては駆け出しもいいところで、俺らから見ればボケっとしてるし、穴掘りスクロールも持たないなど基礎知識にも欠ける。腕前も何かを学んだ感もなく、我流そのもので見るべき点は何もない。
けど、彼らなりに真面目にやってるのは一緒にやってて分かった。
技量的にはチンピラが群れてるだけで、アタマのデキもモロにチンピラで、態度は唯のチンピラのパシリだ。社会常識的な礼儀作法には著しく欠け、敬語も碌に使えないが、先輩方を前にして失礼は死だとは理解はしている程度の態度だ。
だがチンピラにしては働く気があり、でも今は所詮はチンピラ程度の能力しか持たないが、まるっきり悪いヤツらじゃない。見るべき腕前はないがまるっきり筋悪でもない。やる気はある。
総合評価としては見込がないわけじゃない。
だからベテラン勢を中心にワイワイと俺らはアドバイスを始めた。
「いっちゃんいいのは、助っ人を混ぜるこったな。」
ボブさんが口火を切ると、そんな事すら考え付かなかったらしいホーケー達は一斉に「なるほど!」という目で見た。
経験者への純粋な尊敬の混ざるその視線に気分を良くしたボブさんが続ける。
「Eクラスだけだと受けられる仕事は限られるし、Eの仕事ばっか受けて薬草とか探して回っても碌な経験になんねえ。助っ人にCクラスが1人混ざれば、Dもそこそこ受けられる様になるから悪くねえ!」
「ははあ、なるほど!助っ人っすか…」
とても素直に感心してる若者達の横で聞いてたデイブがお約束の様に混ぜっ返す。
「けど、金の話はある。」
「「「…!」」」
「Cの助っ人を呼んだら軽く報酬の半分は持ってかれる。」
ビールズのDクラス魔法使い、ビリーさんも頷いて補足する。
「いや、半分じゃ済まねえかも。CでDの仕事受けるなら7割方は取らねえと助っ人の方も割りが合わねえだろう。」
思ってたより手取りが減るとあって、ボブさんのアドバイスで助っ人案に傾いていた空気が一気に戻る。
ボブさんもビリーさんの意見に反対はしないが言った。
「けど、経験は積めるし、いいヤツに当たれば結構、色々教えてくれる。どっち取るかだと思うが…」
ビールズの髭面ベテランCクラス弓師、リロイさんも口を出す。
「オメエら、人数いるから金も必要だと思うが、俺なら経験だな。早くDに上がれば手取りのいい仕事も増えて来るし、Cが見えてくんのも早くなる。」
リロイさんの意見に少し首を傾げたのがウチのジェフだ。
「いやあ、どうなんかな。ボブやリロイさんの言う事にダメ出しする気はねえけど、助っ人癖がつくと良くないってのもあるぜ?」
これには自身が何がしか経験があるのかも知れない。俺と同じ年頃のビールズの大剣剣士、バッチャムが大きく頷いた。
「確かにな。金だきゃあ持ってて、助っ人頼りで仕事受けてたけど結局モノにならなかった連中もいるしな。」
「そんなのは、アレだろ、なんか箔付けでやってる連中だろ?」
「いや、そーでもねえ。最初はそんなつもりは無かったけど、結局、楽な方に流れて自滅したんは結構見るぜ。」
皆がワイワイ言い始め、合間にカイルの咆哮の連中に「あーした方がいい」「こーした方がいい」と短いアドバイスしたりしてたら、俺に声が掛かった。
「クリス!お前、ソロなんだろ?お前の場合はどうだったんだよ?」
「俺かあ…」
俺は自分の過去の環境に思いを巡らせた。
「俺も駆け出しの頃はパーティーにいたんだけど…まあ、ちと環境が厳しくて殆ど死んじまった。」
「「「「……」」」」
ヤベ!
空気が一気に死んだ!
俺はちょっと慌てて更に続けた。
「その後、生き残りでまたパーティー組んで……その時はまあちょっと特殊で……何つうのかな、結構長い間、上のパーティーと組んで仕事してた感じだったんだ。」
「…結構な田舎か?」
田舎のギルドだと人数が少なく、冒険者の成り手も少ない場合がある。
そういう場所だと、若い経験不足のパーティーをベテランが連れ回して育てる場合もある。
カイルの咆哮達もリバードアみたいな大きなギルドでなく、所属員が10人そこそこ程度の超ド田舎であったなら、ボブやデイブの様なベテランが付いて手取り足取り教えてくれた可能性はある。
当然、俺の詳しい話は出来ないのでボブさんの問いに俺は「ああ、まあな」と曖昧に頷いた。
「だから最初の頃は…その…上のパーティーばっかしが働いてたよーなところもあったんだけどさ、いつまでもそういうわけにゃいかねえ。そんで俺らも必死でやったんだ。」
「へー。」
「さっきの話じゃねえけど、助っ人頼りきりは碌な話になんねえのは俺らも分かってたしな。」
俺の言葉にジェフが胸を張る。
「だろ?」
「まあ、楽して覚えたわけじゃねえけど、上のパーティーの連中は結構教えてくれたからな、先生には困んなかったかな。旅の仕方、魔物の見分け方、剣やら槍やらの使い方…」
俺はミリー直伝の一番のアピールポイントである弓をちょっと持ち上げた。
「んで俺は弓の使い方を教わった。」
ホーケーの連中が真剣な顔で聞いてる。
アタマはちょっと弱そうで、腕前も今はアタマ同然に弱いけど、口には出さないがこういう所が今回、ビールズもブラックメイジズも彼らが後ろから付いて来るのを許した理由だ。
「で?結局、お前のパーティーはどうなったよ?」
ボブが訊いて来たので俺は答えた。
「ああ…いや…何てのかな……結局、デカい討伐みたいのに参加した時、上の奴らも含めて半分方、死んじまってな…」
「「「「……」」」」
「んで、その後は……何つうのかな…まあ、その、アレだ、報酬絡み…みてえな話で仲間割れして…」
「「「「……」」」」
「なんやかんやで結局、もう現役の生き残りは俺だけだから、俺はソロなんだ。」
ボブさんが酒瓶を持って俺の方に向けながら言った。
「なんか悪りい事、聞いちまったな。」
俺は少し苦笑いでコップの中を飲干してボブさんの方に向けた。
「いや、もう昔の話だ。」
正確には生き残りは俺だけじゃない。
少なくともレニ・トルーキンはまだ生きている。
そして俺は彼女に聞くべき事は聞く必要がある。
例え今更な話で、今更どうもしようがなくてもだ。
租調庸の税制度は聖徳太子が導入したものではありません。念のため。
またボランティアの語源はローマ時代に遡ることができ、企業が文化活動を後援するメセナは語源こそフランス語ですが、元はユリウス・カエサルの時代の某実業家の活動が元になっていると言われています。




