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風任せで人任せな俺がここにいる理由  作者: 明月 文


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058 後始末と通らない言い訳と配分

「ヨーシ、オメエら!穴掘って埋めるぞ!」


 ボブさんと思しき男が全員に向かって叫ぶとデイブが噛み付いた。


「なんでオメエが仕切ってんだよ!」

「固え事言ってんじゃねえよ!誰が言ったってやる事一緒だろ?」

「…ちっ!まあな。」


 デイブは渋々頷いたが、やはり自分達の号令は自分でかけたかったらしい。

 俺らの方を向いて言った。


「おし!俺らもやんぞ!」


 と、ここでホーケーが口を挟んだ。


「お、俺らどうしたら…」


 だから今、ボブさんが言ったじゃん?

 そう思ったのは俺だけじゃないらしく、ジェフが逆に聞き返した。


「別に手で穴掘れとは言わねえよ。スクロール、あんだろ?」


 対するホーケーの1人がボケッとした顔で言った。


「そんなん、普通に持って来てないっすよ。」


 ……おい、こら!なんだって!?

 しかもお前、今、「普通に」とか言った?


 俺が嫌な予感がして彼らを見直し、ボブさん達やデイブ達は呆れ返ってホーケー達を見た。


 獲物を殺った後は討伐部位と有用な部分だけ剥ぎ取って、残りは埋めるか燃やして埋めるのは基本である。

 手で掘るとかはないって事で穴掘り用のスクロールは火のスクロールと並んで冒険者の必需品だ。


「普通に持ってねえって…じゃあ、お前ら今まで仕留めた獲物どうしてたよ?」


 思わず、という調子で訊いたミハイルに彼らは顔を見合わせて言った。


「えっ?そのままそこに?」


 「それが何か?」的に答えられ、彼らを除く全員が益々呆れ返り、それどころか数人の目元には怒りの表情が浮かんだ。

 そして抑えた調子で全員を代表してボブさんが噛んで含める様に言う。


「あのな…そういう事されると死体に他の魔物とか野獣とかが集まってくるだろ?野獣が魔物喰ったら半魔獣化すんだろ?そうすっと他のヤツとか地元が迷惑すんだよ。そんな基本も分からず今までやってきたわけ?」

「………??けど今更メーワクとか言われても俺ら穴用のスクロールとか持ってないッスし…要るとかも聞いてないッスし…」


 全員から非難の眼差しを浴びても、彼らはまだよく分からない風だった。

 なので「何言うてはりますのん?」と全く無反省な様子の反面、ボブさんや周囲の怒りの波動は感じているらしく不安げに互いに目をキョトキョトさせていた。

 ここで「ナニキレてんすか?」とか言おうものなら、ボブさんとその仲間にこの場でシープと一緒に埋められていただろう。俺もウチの仲間も手伝いをする可能性はゼロではないが、止める可能性は間違いなくゼロだ。

 が、幸いなことに流石にそこまで空気が読めないわけではないらしい。


 まあ、彼らの場合は若いから経験不足がなせる業とも言える。

 誰も教えてくれなかった、は言い訳には全くならないが、彼らが常識レスな原因としては挙げてもいい。


 日本にもこういうのはいた。しかも歳をとってからもいた。

 いい歳こいても列に割り込みをするジジイとか、混み合った電車で複数席を占拠して荷物を置いたりするオバさんとか、後方の車が出入り出来なくなるのを無視してラーメン屋の前の道路にバチクソデカいバンとかを平気で違法駐車するお兄ちゃんとかだ。


 彼ら、彼女ら的には実はそんなに悪気はない。

 ジジイは「途中の空いたところから入っただけ。年寄りを長く待たせる気か!」とゴネるだけだし、オバサンは「荷物よぉけあんねんからしゃーないやろ!ほなアンタ、ウチに荷物ほかせっちゅうんかいな!」と逆ギレするだけ。お兄ちゃんは「3日に一度はここでラーメンを喰わないと俺は死ぬ。だから車で来たけど駐車場がないんで仕方ねえだろ!ほんの1時間ぐらいだけだし後ろの車がここを通らなきゃいいだけだろうが!」とジコチュー全開で喚くだけだが、年齢が一般常識を学ぶ経験にならず、犯罪とまではいかないので厄介ごとを避けた周囲が注意しないのをいい事にただ30年、50年、70年もの間、人知れず社会に迷惑をかけ続けて生きてきた輩である。

 悪気はないが、そもそも常識を理解するアタマもなく、かつ常識を身に付けられずにこの歳まで来てしまい、年齢的にも元から持ってる脳のCPU的にももうバージョンアップも困難なこういう連中が社会では一番厄介だ。


 しかし繰り返すが彼らはまだ若い。

 昭和のジジババの様な遺伝的に治しようがない生まれついてのパブリックエネミーではない。

 平成の一部にいる、失敗も笑って許される若い頃に勉強する機会を持てなかったお気の毒な常識レスなゆとり世代でもない。

 単に若いが故、経験不足が故の過ちだ。

 そして冒険者ワールドの掟は理解する事に重点は置かれていない。理由も理屈も1mmも理解せずとも「やる事は直ぐやる!今やる!キッチリやる!」が最重要視されている。


「テメエらナニ聞いてんだよ!だから持ち歩けって言ってんだよ!分かったか!!ナメた口利いてるとブッ殺すぞ!」


 そして特に強調しなくとも分かると思うが、冒険者業界は超体育会社会である。

 強い弱いが完全に上下関係として固定化し、相手を分からせる手段として暴力は当たり前である。「可愛がり」の用語的使用法は完全に相撲部屋のそれと同じだ。


 即ち理解も納得も出来ずとも、先輩若しくは上位ランカーの言う事は絶対だ。

 反抗するならそれは実力にものを言わせるしか無いが、EランクとCランクの実力差は帰宅部の中学生とこの道10年のプロレスラーぐらいの差がある。ワンチャンとかなくトライするだけ時間の無駄だ。


 自分達だけにしか通じない変な言い訳とかカマして、終いには同じギルドの先輩かつ上位ランカーのボブさんにマジキレられ、ホーケーのリーダーらしき男は慌ててアタマを下げた。


「すんません!」

「次から、グダグダ言う前にキッチリ準備してテメエの獲物の始末ぐらいキチっとしろよ!分かったか!分からねえなら、全員この場で火付けて埋めるぞ!」

「「「はいっ!!!分かりました!!!」」」


 ボブさんの念押しにホーケーリーダーのみならずメンバー全員がアタマを下げて素直に返事をしたのを見て、本質的には悪い人ではなさそうなボブさんはどうしたもんか、と考える表情になった。


「………ちっ!しゃあねえ。んじゃあオメエらは剥ぎ取り係だ。討伐部位、残らず剥ぎ取れ!」

「「「はい!」」」


 こういう連中は自分で考えて自分から動くのは苦手だ。出来ない、と言ってもいい。

 けど、命令には即座に反応し、言われた通りの動作はキチキチとまではいかないまでも文句は言わずにやるという美点を持つ連中は多い。

 自分で判断は出来ない自分がいるのは自分でも分かっているから素直に従う。


 日本の体育会なんかも大方同様の行動体系だ。

 一応、名称的には大学という名のつく学校の生徒であっても、監督が「反則を恐れるな!殺す気で行け!」と発破をかけると自分で一切考える事無く「はい!」と素直に返事をして、プレーを終えた相手チームの中心選手の無防備な背後から相手に怪我をさせる(殺す?)事を目的に本当に襲い掛かったりする。

 しかも自分としては監督の指示に従っただけで悪気はなかったので、ケガさせたら今度は一転して素直に相手に詫び、詫びは済んだということで何事も無かったかのように平然と競技を続ける。


 監督は監督でこれまた純粋体育会だから、いつも通り選手に強い言葉で気合を入れただけで、少なくとも彼的には「反則を恐れるな!」という言葉は「反則をしろ!」という意味ではないし、「殺す気で行け!」と言ったからといってプレー後の無防備な相手選手の背後からマジに殺しにいく事は想定していない。「言う通りに出来なけりゃレギュラーから外すぞ!」なぞ脅し文句でもパワハラでも何でもなく、当たり前の話の念押しで部員全員に常に言っている。むしろ言われて強いプレッシャーを感じ、いつも通りのプレーが出来なくなる様な根性無しは競技場から去れ!としか思ってない。


 だから結果的にヤられた方が声を上げない限り、選手は「(みんなが悪かったというなら結果的には)悪かったとは思いますけど、自分は監督の指示に従っただけっすけど?」とボケっと言い返すだけだし、監督は「俺は反則技で相手をマジに殺せなんて一言も言ってない!」と真顔で宣わって誰も責任を取らないという事態が往々にして起きる。


 監督、選手それぞれの立場ではまるっきりウソではない。彼らが嘘吐きなのではない。単に体育会で人間としての常識レスなのだ。

 それも加味されて、結論的には余程悪質で誰が見ても明らかな証拠でもない限り、「スポーツに不運なケガは付き物だから…」という言い分に押し切られてしまう事が大半だ。


 体育会の悪い点はともかく、体育会の良い点はとにかく上から命じられたら善悪も含めて無駄に自己判断する事無く素直に従い、即時実行に移す点だ。

 しかも体育会で即時とは手が空いたらという意味ではなく1秒フラット以内を指す。


 自分達では思い付けない彼らがやる仕事を与えられて、ホーケー達が怒鳴られてもちょっと嬉しそうに返答してエモノ片手に素早く散ったのを見て、ボブさんが小さく溜息をついた。


「ハア……まあいいや。今日は結構数あるから、スクロールは使わねえで俺ら魔法使いが適当なトコに魔法で直接、穴、掘るわ。そしたらみんなで剥ぎ取りの終わったクソ羊を投げ込め!全部投げ込んだら、魔法で火点けて燃やす。」


 ボブさんの指示に全員が頷く。

 さっきはボブさんの指示に反対はしないが噛みついたデイブですら、自分の後始末すら思いつかないバカの相手で気が削がれたのか今度は何も言わなかった。



 羊退治も難易度はともかく結構な運動量だったが、後始末もまた数が多くて大変だった。

 3組合わせて15、6名で小半日かけて漸く全ての羊を処理し終わり、我々は夕闇の中、盛大な焚火を囲んで、というか傍らで一休みしていた。


「羊なんぞ弱えって軽く考えてたけど、数多いと大変だな!」


 ウチのデイブがコーヒーを啜りながら言うと、ボブさんも一仕事終えた笑顔で頷いた。


「だろう?」


 が、2人がほのぼのしてたのは短い間だった。


「まあ、今日はこうなっちまったからには…賞金の分配はどうする?」


 通常だったら、どちらか強いパーティーが狩場を占拠する。

 けど、今回はブラックメイジズ、ビールズ双方ともどちらが格上もないらしく、しかも成り行きで共闘しての討伐となってしまった。

 そうなれば、賞金の分配はいずれは話し合わなきゃならん事柄だ。


 口火をきったデイブに対し、穏やかな口調で、というか極めて当然かの様にボブさんはサラっと言った。


「俺らが羊、集めたわけだけど、まあお前らもちょっとは働いたからな。そこらは大目に見てハチニーだな。」


 ボブさんの言い分にデイブは当然、異を唱える。


「ああっ!何言ってやがる!実際、コッチで殆どの羊仕留めたのは俺らだろうが!むしろ俺らがハチニーだろうがよ!」


 当然、ボブさんもガナリ返す。


「おめえらが俺らの獲物を勝手に狩り始めったってのにハチニーとか調子こいてんじゃねえよ!たまたまオメエらがいたから任せたけど、そもそも俺らだけで片付ける予定だったんだよ!」

「集めた羊にオメエらの鈍足じゃ追いついてなかったじゃねえか!しかも俺らがいる方に勝手に集めただけだろ!?……まあ、でも量を搔き集めたのは考えてやってもいい。ナナサンで手、打とうじゃねえか!」

「おお!物分かりがいいじゃねえか!じゃ!俺らが7、お前ら3で決まりだな!お互い知らねえ仲じゃねえ。そこまでは俺らも譲ってやるぜ。」

「バカヤロウ!逆だ!逆!」


 双方のリーダーであるボブさんとデイブが代表してワーワー言い合ってる間、俺も含めたブラックメイジズとビールズの残りのメンバーは「お、この肉、悪くねえな!」とか「サウザンリーフの干し肉は炙ると違った味が出ますよね。コーヒー、飲みます?」「おう貰うわ。コッチの鳥肉もつまんでいいぞ。今朝方、仕留めて捌いたんだ」「アリです!」とか言いながら和気藹々とやっていた。

 何処の世界でも難しい交渉は偉い人の役割だ。


 が、そこに挟まってきた偉くないヤツがいた。


「あのう……」


 リーダー2人の話し合いに口を挟んだのはホーケーのリーダーの男だ。


「お、俺らの取り分は……」

「「ああっ!?」」


 ボブさんとデイブ、2人のリーダーの声がハモった。


「オメエら。ただ逃げて来ただけじゃねえか!」

「しかも俺らの堕とした獲物、勝手に横獲りしやがって!」

「オメエらが集めた羊も、オメエらが堕とした羊も一匹もいねえだろが!ああっ!」


 Cクラス2人にステレオでマジ怒鳴られて、Eクラスも駆け出しばかりの彼らは「ヒイッ!」と縮こまった。


「まあ、そう言うてやんなや。」


 間に入ったのはボブさんの連れと思しき、先程、鳥を捌いたと言った濃い髭面の男だ。

 俺と同じく弓を背負っているが、俺よりずっと年嵩で落ち着いた雰囲気がある。


「コイツらだって地上に堕ちた羊はちっとは殺ってるし、剥ぎ取りも結構な数、手伝った。タダ働きもねえだろよ。」

「…まあな。」


 ベテランの意見にデイブも渋々頷き、ホーケー達に剥ぎ取りを指示したボブさんがちょっと冷静になったのか同意した。


「人手って意味じゃコイツらもまるで何もせんかったわけじゃねえからな…」


 結局、配分は中途半端だが5:4:1で纏まった。

 あちこち駆け回りながら大量に堕としても被害の出なそうな場所つまりココに羊を集めて回ったビールズの苦労をデイブが渋々認めて5、集めた羊を地上に叩き落としたり、落ちた羊にトドメ刺したりで実質的に一番多く始末した俺らブラックメイジズが4、俺らとビールズが手が回らなかった分を殺ったホーケー達が1だ。


 ホーケーの取り分が極端に少なく感じるかも知れないが、厳しいようだがこれが冒険者ワールドだ。

 自分で羊を堕とす手段も碌に持たず、大群を見てもただ逃げて来ただけの素人に毛の生えた程度の彼らは本来なら狩場から追い出されてもおかしくなかった。

 横で地上に堕ちた羊を狩ったりしてたが、誰もそんな事は頼んでない。彼ら以外の全員が、彼らはいなくても問題なかったと確信している。彼ら自身もそれは分かっている。

 なので、ヘタすりゃ火事場泥棒扱いされても彼らの実力では文句も言えない、そんな弱い立場だ。


 が、デイブもボブさんも俺らもそこまで大人気ない事は言わなかっただけだ。

 剥ぎ取りと後始末代だけだったら、そこらの農民でも出来るのでもっと安かっただろう。


 完全実力主義&ヤクザワールドな冒険者業界は実力のあるヤツは楽で美味しい仕事を総獲り、下っ端はお零れを拾うのでもアタマを下げて上の許しを乞わなくてはならない。

 多くの冒険者が若いうちにこの悔しさを身に刻み、「くそう!いつか俺も!」と思って切磋琢磨するのだ。そしてそれを忘れず、切磋琢磨を続け、かつ運と才能のあるヤツが上にいくのだ。

 

 ホーケーの連中も彼らなりには一生懸命やったんだろうが稼ぎの9割方は持っていかれ、しかもそれすら上のお情けで頂戴した格好で、挙句の果てには「有難うございました」と礼まで言わなくてはならなかった今日の悔しさを暫く忘れないだろう。

 いや、むしろ忘れないで欲しい。


 頑張れ!


 自分は異世界上がりのチートなだけなのに、しかも若い連中に碌に指示も指導もしてないのに、紛れて偉そうに先輩風だけは吹かせてます(笑)。

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