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風任せで人任せな俺がここにいる理由  作者: 明月 文


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057 羊と遭遇、羊以外にも遭遇

 サウザンリーフは大都会リバードアのすぐ隣にしては適度な田舎だ。町中心部とその周辺はそこそこだが、30分も歩けばいきなり民家も疎らになり田園地帯が広がる。


 その田舎風景の中をブッラクメイジズ with 俺はポクポクと歩き、田園地帯を抜け、小さな森も抜け、地図に描かれた辺りまではサクサクと移動した。

 目的地は森に囲まれた少し盆地っぽいだだっ広い野っ原だ。

 

 が、そこには羊もいなけりゃ人気もなかった。


「さって、ここらなんだが…」


 デイブが周囲、というか空を見上げる。


「シープ、いないっすね…」


 斥候のミハイルも周囲を見回す。

 周辺の危険察知は斥候のミハイルの本業である。だから彼は空以外にも周辺に油断なく目を光らせたが何も見当たらなかったらしかった。まあ、俺らの目にも何も映らない。


 ちなみにフライングシープは空中を超呑気な感じでフラフラしている。なので空中にいる限り隠れる場所もなく大概遠くからよく見える。空中にフラついてれば斥候が能力を発揮するまでもない。


「ボブの奴、もう全部殺っちまったんじゃねえだろうな?」


 ジェフの言葉にデイブも一瞬だけ考えたが直ぐに首を振った。


「いやあ、ボブ達だけで殺れるぐらいの数ならリバードアに遠征とか依頼残ってねえだろ。」

「それもそーだな。」


 その時、斥候のミハイルの顔がちょっと引き締まった。

 そして斜め向こうの方の少し離れた位置に見える森の方を見る。


「何か…いや誰か来る。」

「ボブたちか?」


 ジェフの問いにミハイルは微妙な顔をしながら目を瞑り耳を澄ませた。


「いや……このドタバタぶりは多分違えなあ。地元の若えチームか…いやいや、冒険者じゃなくて地元の農民か何かですかねえ?」

「例のホーケーとかって連中じゃねえか?」


 デイブの問いにミハイルは苦笑いした。


「かも知れねえっす。けど、何も考えず逃げてるみてえな足音なんだよなあ…」

「シープ相手に追い回されてんだったら冒険者とかもう廃業するっきゃねえなあ。」


 デイブの呆れ顔にどうも彼らを知っているらしい若いロブが薄ら笑いで言った。


「アイツらその程度の腕しかねえっすよ。」

「例のアレか?ホーケーか?俺はリバードアでそんな奴らの名前、全く聞いた事がねえんだが。」


 ジェフが今更の様にちょっと首を傾げたが、これにもロブがつまらなそうな顔で答える。


「そりゃジェフさんの耳に入る程の実績はないっすからね。」


 そうこうしているうちに森の中からガシャガシャと何人かが走り出て来るのが見え、向こうもこちらを確認したらしく、こちらの方へ走ってくる姿が見えた。

 遠いからよく分からんが雰囲気は結構必死っぽい。


「やべええええええ!」


 俺らが無言でロブの方を向くと、ロブが半笑いで頷き「オメエら、いつだってヤベエだろ?」と呟いた。どうやらアレが例のホーケーらしい。

 彼らがなりふり構わず必死で走って来る姿を俺らは全員呆れ顔で見てたが、今度はリーダーのデイブだけが首を傾げた。


「でもいくら弱くたってシープ相手にあの逃げ方はねえだろう?」


 リーダーの見解にNo.2のジェフも同意して頷いた。


「地上に降りて来てれば時間かけりゃあ農民だって殺すのは出来るからな。…違うモンが来てるのかも知れねえ。オメエら油断すんな。」


 ジェフの言葉に反応して俺がキリッと弓に矢を番えるとその音を聞いたリーダーのデイブも満足そうに頷き、他のメンバーも顔を引き締めた。


「んだ?」


 ホーケー側も俺達の姿を漸くしっかり視界に捉えたらしい。

 先頭の1人が走りながら自分達の背後、具体的な背後の空を指差して俺らに向かって叫んだ。


「凄えのが来んぞおおおおお!」


 ホーケーの叫び声に俺らが彼らの後ろに視線をやると、森の向こうの方から大きな雲が迫って来るのが見えた。いや、よく見るとそれは雲ではなかった。


「うわあ…」

「マジかよ…」


 空一面を埋め尽くす勢いのフライングシープの群れを見て、俺らも暫し呆然とした。流石にこんなのは滅多にあるもんじゃない。


「こりゃあ…マトを選ぶ必要はねえけど矢が足りねえなあ。」


 俺が思わず呟くとデイブも呆れた様に言った。


「一斉に降りて来られたら押し潰されるぞ。」


 確かにフライングシープの戦闘力は低い。けど1体30から50kgもある物体が上空から落ちてくるとなればそれだけで脅威だ。実際、フライングシープは草食だから自分から攻撃して来るのは少ないが、その攻撃の殆どが体当たりだ。


「全員、固まれ!」


 デイブの指示で俺らは円陣を組んで外を向く。

 下手に散らばったりすれば、上から一斉に奴らが降って来た場合には手数が足りずに押し潰される。


 その背中からデイブの次の指示が飛ぶ。


「直ぐに落ちてくる事もねえだろうから、少しやり過ごす!んでジェフ!俺とお前で取り敢えず真上、片付けるぞ!」

「おう!」

「弓師!こんな状態だからもう誘導はいい!俺らの死角に個別に落ちて来たヤツを片っ端から撃ち落とせ!」

「了解!」

「ミハイル!ロブ!お待ちかねの羊狩りだ!俺とジェフで穴開けたトコで弓師が撃ち漏らしたヤツをさっさとぶっ殺せ!」

「おお!」「はい!」


 俺も叫んだ!


「撃ち漏らした言うな!でも全部はムリだから近接組、先に頼むぜ!あんたらの死角に回った奴を俺が片付ける!」

「おうよ!」


 ミハイルが剣を振り回しながら答えた。

 すると何故か別のところからも声がかかった。


「ハァ!ハァ!ハァ!……お、お、俺らどうしたらいい!?」


 逃げて来たホーケーの連中だ。

 自分のパーティーには指示出ししたデイブは答えもしなかった。


 当たり前の話で、今回の羊狩りは別に討伐でもなんでもない。一緒に動いているわけではないので、格上であるとは言えデイブはホーケーの奴らにまで指示を出してやらなきゃいけない義務はないし、ホーケーの奴らだって格下だからって従わなきゃいけない義務はない。

 逆の見方で言えば、ホーケーが何してようが俺らに口出す権利はなく、ホーケー達は困っていようが苦戦してようが俺らに無償で助けてもらう権利などない。

 要するにこの2つのパーティーは偶々ここにいるだけで全くの無関係なのだ。


 だからリーダーのデイブは相手にもしなかったのだが、若い連中が羊が落下してくるのを前にして全員が蒼褪めた顔で棒立ちになってしまっているのをチラリと見たジェフが、哀れに思ったのか律義に怒鳴り返した。


「カエルだかホーケーだかなんぞ知るか、バカ!自分ですることぐらい自分で考えろ!」


 必死で逃げてきた挙句、魔物を前(つか上?)にして格上の冒険者に怒鳴られたホーケーのリーダーらしき若者は青褪めた顔で半泣きだったし、ジェフの言葉の内容は具体的な指示でも何でもなかった。

 けど、彼は怒鳴られて何かハッとした顔をした。


「……あ、ああ…こ、こっちは先輩方に任せて、俺らは向こうのハジに回るぞ!向こうの端の方のがまだ数が少ねえ!」

「「「…お、おう!」」」


 若い連中がホーケーのリーダーらしき男の指す方向へ走る。

 そして走り際にリーダーらしき男は俺らの方を肩越しに振り返って怒鳴った。


「俺らはカエルでもホーケーでもねえ!”カイルの咆哮”だ!」

「「「……」」」


 今はそこはハッキリ言ってどうでもいい!


 流石にこれには誰も反応もせず俺らは駆除を開始した。



 フライングシープの大群相手に俺らは必死で戦う、というか必死で駆除した。

 なんせ空を埋め尽くす程の数なのだ。イナゴの大群の遥かに図体のデカいバージョンである。これだけ数がいると強い弱いという問題ではない。


 羊側からすればこの野っ原は人間の畑なんかに比べればエサに乏しく、空中から降りて来る理由がない。だから俺らを無視して前に進もうとするのを、先ずはジェフとデイブの魔法使いコンビが広範囲低レベルの省力魔法で叩き落とす。

 範囲を広くする代わりに威力が小さいから落ちても羊は死んでいないのも多かったが、上空から落ちて骨折だか何だかで身動きの取れなくなってるのは多かった。それぐらい奴らは弱っちい。そしてその碌に動けなくなってる羊たちに近接2人、ロブとミハイルの2人が駆け回ってトドメを刺す。刺しまくる。

 落ちて来た羊の大半はそんな感じだが、流石に魔法で宙に浮いているだけあって地面と激突しないヤツもいるので中には向かってくる元気が残っている羊もいる。そいつらがロブ達の死角から襲おうとするのを、俺が弓で仕留める。

 来る前に立てていた作戦とは完全に違うが、俺らは分業で羊の駆除を続けた。


 ちなみに俺らが半ば機械作業的に物も言わずに羊を屠っている場所から少し離れた所で、ホーケー達がデイブ達の魔法で落ちて来たはいいがロブとミハイルだけでは手が回らない羊を一生懸命潰している。

 ある意味、便乗だが、ギルドの受付の説明が本当なら魔法使いはEが1人、後は剣士ばかりで空中の羊を叩き落とす手段を殆ど持たない彼らからすれば仕方がないし、彼らは6人組でアタマ数はいるので俺らも微妙に助かってはいるから文句を言ったりもしない。


「おー何か誰かいるぜえ…」


 そうして脇目を振らずに羊達を潰してたら、いつの間にやら向こうの方から5人程がぞろぞろやってきた。

 

 先頭のローブ姿の男がブツブツ言いながら両手を挙げると、一心不乱に前へ進んでいた羊の列が乱れ、自分達でぶつかって下に落ちてきた。緩い風魔法かな?そして周囲の連中が落ちて来た羊に効率良くザクザクトドメを刺していく。

 やってる事は大まかには俺らと一緒だが、隊列を乱して羊同士を衝突させる事で地上に堕とす、デイブ達よりも更に省エネな魔法の使い方、羊が落ちて来る所へ待ち構える剣士のポジショニングなど、細部は俺らよりずっと洗練されいて手慣れてるのが見てとれた。


 それを横目で見たデイブが魔法の合間に叫んだ。


「ボブ!こりゃテメエか!」


 先頭のローブもデイブを確認して叫んだ。


「おー!デイブ!オメエらも来たんか!羊狩り、あんなにバカにしてたクセに!」


 デイブは返事もせずに、次の魔法を唱え始めたが、どうやら噂のボブさんらしい先頭の魔法使いが怒鳴った。


「バカヤロウ!折角、畑のねえ所に集めたんじゃねえか!勝手に散らすんじゃねえよ!魔法は奴らを散らさんよーに使え!」


 空を埋め尽くす程の大群だったが、俺らとホーケー達が鬼の様に駆除しまくり、そこへボブさん達が加わったことで空を埋め尽くす大群だった羊達も目に見えて減っていった。特に手慣れたボブさん達のやり方をデイブ、ジェフの魔法コンビがマネ始め、ロブやミハイルもトドメを刺すのに慣れてきてからは結構、効率も良くなった。

 そして地上で動いている羊がいなくなり、取り逃がした10匹弱が仲間が大勢死んだのを全く気にした様子もなく呑気な感じで空の向こうにノコノコと消えて行ったところで、漸く俺らは全員が手を止めることが出来た。全員がくたびれきってヘロヘロになっていた。


 羊狩りは経験もあるので正直ナメてたけど、いやあ、今回は思ってたよりずっと大変だった。

 短時間で大量に狩る、という面では効率は良かったけどさ。



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