056 3つのパーティー
楽しい宴会の後はキチンと仕事が待ってるのが、どこの世界でも世の摂理だ。
……前にも似た様な事を言った気がするな。
そしていい酒の条件は翌朝スッキリな所で、昨夜、クラウがチョイスしたバルミールの30年物は最高級クラスの逸品だ。
ちなみに2人で1本を飲み切ったわけだが、本来はそんな飲み方をする酒じゃない。フルハットの打ち上げの時ほどではないが、結構へべれけになって、最後は辻馬車を拾って淑女騎士団の宿舎まで俺が送って帰った。
クラウの腕前から考えれば女性1人で帰らせる云々は然程心配ではないが、慣れない町で途中で迷ったり、挙句、倒れて寝てしまったりは問題だ。それに俺自身が宿まで歩くのも億劫だった、という事情もあるので昨晩は奮発してクラウの淑女騎士団宿舎→俺の宿という行程の辻馬車となったのだ。
その道すがらに酔っ払ったクラウから「必ず帰って来いよ」と何度か念を押された。
リバードアが本拠地になったわけではないが、今回は行った先をなるべく明らかにしないという機密(?)保持も兼ねての遠征なので、サウザンリーフに行ったっきりとか、そこから別の場所に移動とかは考えていない。リバードアに帰って来るつもりだ。上手くいけば、周囲にかなり聞いて回らない限り、俺がサウザンリーフに行った話は浮かび上がらないかも知れない。
それはともかく、何度も念押しする彼女の言葉を聞いて、俺はやっぱり帰って来たら真っ先に彼女に連絡しなくてはならないな、との思いを強くした。
そんなこんなで大盛り上がりの昨晩だったが、翌日はあれだけクラウと深酒したのに何故かスッキリ目を覚まし、ブラックメイジズの面々と某広場に集合してベテランのジェフが手配した馬車に揺られて気分良くサウザンリーフへ出発した。
滅多に飲むことはないけど高い酒はやはりイイね!
途中は特に何もない。平和だ。実に平和だ。
サウザンリーフとリバードア間の街道はかなり整備されていて道幅も広く、警備も双方の軍だか警邏だけでしっかりされており、山賊も盗賊も魔物もいない。
「…平和なもんだろ?」
デイブに言われて俺は頷いた。
「珍しいですね。こんなの久々に見ますよ。」
「サウザンリーフ公国とリバードア王国は、今の関係になる前からもあんまし争った事がねえって聞いてる。だから昔から結構、行き来が盛んらしい。なんでこの街道もかなり昔から手間暇掛けて整備が進んでる。」
詳しくは知らないが、サウザンリーフ公国とリバードア王国は体裁こそ別の国だが実際には主従関係にあるらしい。デイブの言ってる「今の関係」とはそのことだろう。リバードアが「王国」でサウザンリーフが「公国」であることからも何となく想像がつく。
それはともかく、確かに道自体も整備状態がハンパない。
こっちの世界には珍しい馬車が通れる幅での片側2車線の4車線道路で舗装もしっかりしている。
広々しているのもさる事ながら、周辺の森もキレイに疎らに刈り込まれている。
全部切り倒しているのではないが、道から結構奥の方まで見渡せる様な木の間引き方は明らかに魔獣、猛獣、そして盗賊対策だ。
「俺も最初にコッチに来た時はちとビビった。なんせ隊商に碌な護衛もつけねえんだからな。」
「前から思ってだんすけど、なんで他のトコはこうしないんでしょうね?」
一番若いロジの疑問にジェフが笑った。
「ワッハッハ!そりゃあ金がかかるからさ!」
リーダーのデイブが補足する。
「街道沿いの魔物狩りにはお上が冒険者ギルドに結構な金を遣って冒険者を雇ってる。山賊やら盗賊やらの見回りもそうだ。周囲を定期的に見回ったぐれえで金が出るのはこの街道ぐらいだし、街道そのものにはあんな風に兵が張り付きで万が一がないようにしてる。」
デイブの指差す先には冒険者とは違う兵士達が数人、馬に乗って歩いている。
ギルドを通じて集められた冒険者達は周辺の魔獣狩り、街道の警備は軍の仕事となっているものと見える。
そんな平和な街道のノンビリした旅を3日間程続け、暇だった俺が途中で弓で仕留めた丸々太ったホロン鳥を御者も含めた6人で堪能したりしながら俺らはサウザンリーフの首都を超え、更に2日後に少し南の目的地であるヒーフスウェルの町に到着した。
ちなみにホロン鳥とは魔獣ではなく駝鳥程には大きくないがデカい七面鳥の様な鳥で、草食(?)だから襲ってきたりもしないが肉が旨い。俺は自分の弓の腕前を少し見せるつもりで1匹を仕留めて見せたのだ。
腕前を重視する冒険者業界ではこういうデモは重要であるが、約1週間の旅で猛獣も夜盗も魔獣も出ないこの街道では互いに腕の見せ所もないので、ホロン鳥の5匹程の群れを見た時、ちょうどいいやと思ったのだ。
狙い通り、人間を見て即座に身を翻して駆け足で走り去ろうとした群れの最後の一匹を碌に狙いも定めない速射で仕留めて見せた時は、これも御者も含めて「「「おおっ!」」」と感嘆の声が上がった。
普段はソロで狩りをしてるから、腕前を褒められる事は滅多にない俺もちょっとドヤ顔で戦果を誇った。
そんな昼寝半分ぐらいの穏やかな旅を2日半ぐらいして俺らは目的地であるサウザンリーフ公国ヒーフスウェルの町に到着した。
早速、町のギルドで俺らを代表してデイブが手続きをした時に、ギルドの受付が周辺の簡単な地図を渡しながら言った。
「ウチの地元のチーム以外にリバードアからもう2チーム程来てる。フライングシープは今年は結構いるから現場でかち合っても揉め事すんなよ。」
「来てるってビールズ?」
受付は半笑いした。
「知ってんのか?」
訊かれたデイブも半笑いだ。
「ボブの奴、毎年、来てるんだろ?」
デイブの返しに受付もニヤニヤしながら言った。
「まあな。もうコッチに移っちまえばいいのにな。」
まだ会った事もないがボブさんに関しては皆、同じ事を言うのがウケる。
俺が心の中でニヤニヤしていると、受付はちょっとこちらからは見えない自分の机上の書類に目を落とした。
「他にも……えっと”カイルの咆哮”って奴らが来てる。」
今度は聞いたことのないパーティー名だったらしい。
デイブが「誰だ?」という風に首を傾げ、その後で俺らの方を見て目顔で「知ってる?」と訊いてきたが、リバードアに来たばかりの俺が知ってるわけもなく軽く首を振り、横で聞いていたジェフ、ミハイルの2人も無言で軽く肩を竦めて態度だけで「知らない」と答えた。
が、一番若いロブだけが小馬鹿にした様な薄ら笑いを浮かべた。
「ああ、アイツらね。歳だけなら俺と同じくらいの、まだEクラスだけのパーティーッスよ。アイツらだけでフライングシープ、いけるんかねえ?」
ロブの言葉に受付は今度は苦笑いして、窓口の中から俺ら全員をグルリと見回した。
「全然ダメってことはねえみてえだけど…まあ、苦戦はしてるらしい。お前さん達は魔法使い2人に弓師まで揃えてるからいいけど、アイツらEの魔法使いが1人だけで後は剣士ばっかだからな。まあ…なんだ…いい勉強になんだろ。」
繰り返しになるがフライングシープは戦闘力は大した事がない。厄介なのは直ぐに空中に逃げ散る点だ。
流石にヤられはしないだろうが、遠間への攻撃手段を持つのがEクラス魔法使い1人だけでは、数を仕留めるのは難しいかも知れないな。それでもフライングシープはDクラスとは名ばかりでとにかく戦闘力はないから、Eクラスだけのパーティーでも受注は可能だったのだろう。
俺らの場合は受付の言う通り、遠間専門が3人いる上にその3人はCとベテランのDでそれなりに攻撃力もある。それに斥候のミハイルもいるから、ややもすると遠くからシープの気配を探知して忍び寄る様な戦い方も可能だ。
ロブの言葉を聞いてデイブが興味を失った様に言った。
「ボブのビールズの連中は、まあ全く知らねえ仲じゃねえし、その…何とかのホーケーとかって奴ら、Eしかいねえんなら揉めたりもしねえだろ。」
サブリーダー格のジェフも頷く。
「ボブのとこはともかく、そのホーケーとかってのは会ったら邪魔くせえしとっとと追い散らそうぜ。」
冷たい様だがこの業界の対応としてはジェフの言い分が正しい。
上のレベルのパーティーが来たら、下のパーティーは先に来ていても既に戦闘中でもなければ場所を譲るのが業界の暗黙の了解だ。
戦闘中であった場合は追い散らしたりはしないが、上のパーティーの方は戦力として足しになるか知り合いでもなければ、親切に下のパーティーを手伝ったりもしない。
目の前で苦戦していても下手に巻き込まれてコッチが被害を受けても良い事はないとして平然と見殺す。ややもすると下のパーティーが苦戦の挙句に撤退、あるいは全滅するまで待って、その後で悠然と手負いの魔獣を仕留めるなんてのは全然普通でアリだ。
その場合、手柄は最後に仕留めた方、つまりは後から来た強いパーティーの総取りだ。最後に仕留めたのは強い方のパーティーだが、下のパーティーも弱らせるまでは戦った、なんて話は全く通用しない。下のパーティーは、実質的には仕留める寸前まで戦っていようが全滅寸前まで奮闘していようが、分け前に与れる事は一切ない。
けど、これがこの業界の当然の掟である。
逆に言えば、だから既に戦闘中であれば、上下に関わらず戦闘しているパーティーが優先される。強いからといって横合いから手出しして獲物を掻っ攫うのはこの業界では一番嫌われるルール違反だ。
どんなに強いパーティーでもそんな事をすれば無関係な他のパーティーからは白い目で見られるのみならず、掻っ攫われた方のパーティーがギルドで正式に苦情を訴えた場合には問題になることもある。
そして正式な審判の結果が出ずとも、窓口は弱い方の肩を持ち、倒したのは自分達でも賞金は掻っ攫われた方に全額払われることすらあり得る。ギルドの窓口は普段はただの窓口に過ぎないが、査定に関してはそれだけ強い権限を持っている。
だから戦闘が始まってしまえば、上のパーティーとて手出しはしない。更にこれを逆の立場から見れば、下のパーティーは上のパーティーが目の前にいてもその助力は全く得られないまま最後まで自力だけで戦い抜かなくてはならない。
そうしたこの業界の了解事項により、下の連中じゃ手に余りそうな強敵が出そうなポイントなら先にソイツらを追い散らしてやるのは、むしろ親切と理解するムキすらある。
ちなみに隊商なんかの護衛の場合は全く逆で、旅先で他の隊商が襲われてるのを見たら助けるのが基本だ。
同じ方向に行く途中ではどのみち巻き込まれるという現実もあるし、雇った護衛以外が助太刀に入った場合、助けられた方の雇い主が幾ばくかの謝礼を出すのがデフォルトだからだ。
雇い主からすれば、要らぬ足止めを喰うよりも退治にかかる時間を金で買った方がいい。正に「時は金也」といったところだ。
ギルドの受付もその辺りはよく分かっているから、最初に「揉め事すんな」と言いはしたものの、ジェフの言葉を当然の様に聞き流して言った。
「複数パーティーがいる狩場になるのは分かってるからな。こっちも念の為、伝える事は伝えただけだ。」
こうして受付は何の問題もなく終わり、楽な旅だったのは皆分かっているので休みを入れることもなく、リーダーのデイブは俺らの方に向き直って言った。
「よっし!んじゃ羊狩りに行こうぜ!」
「「「おう!」」」




