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風任せで人任せな俺がここにいる理由  作者: 明月 文


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051 方策と1人飯

 俺も好きな世界的に著名な小説家の書いた小説の主人公も言っていたが、一度アタマの中で変な話が始まってしまうと、なかなか元に戻すのは難しい。

 肝心な今後の方針はサウザンリーフに行くぐらいしか決まらないのに、俺のアタマの中の雑談的な物思いは止まらなくなってきていた。


 だいたいなんでか小中学生の頃を思い出し、当時も今も大して文句があったわけでもないのにグダグダと文句(やっぱり文句だよね)を書き散らかしたわけだが、さりとて対案があるわけではない。

 こう言うと「じゃあどうすりゃ良いんだ!?」と逆ギレして投げ返すバカな輩も多いが、そんな事は俺ら素人の一般庶民が考える話ではない。

 そういう事を死ぬ気で考える為に東大卒だけを集めた文部科学省が俺らの支払った税金で設置されており、各地に教育委員会と称する組織もあり、現場には大卒揃いの教員資格を持った教師がいるのだ。教育を権利として受ける立場の俺ら自身が代案を示して実行するなら彼らはいらない。

 教育委員会の仕事は年初に教科書を配った後は、イジメ発覚の時にマスコミの前で勢いよくロイヤルストレートフラッシュして、裏ではイジメた生徒と素知らぬ顔をしてやり過ごそうとした教師を庇うのがメインの仕事だけじゃないはずだ。


 我々が受けていた頃のように、全生徒が出来る様になるまで教えることもなく授業だけを進めるなら、生身の教師など不要で教室でYou〇ubeでも流せばいい。少なくともコスパは最強なのは間違いない。


 会社にも我々部下が何か言うと「じゃあどうすりゃいいんだ?」とだけ返すのが得意な上司がいた。


 ある日、親会社から購買品目の大幅値下げ指示が来た(?)時の事だ。

 当時の上司はまずは狡猾にシレっと通常の業務連絡に混ぜ込んで我々にそれを丸投げしようとしたが、気付いた俺がミーティングで質問した。


「サラリとコストダウンって書いてありますけど、表の金額見るとほぼ半値ですよね?」


 今にして思えば、まだまだ世の中の仕組みを知り、自然体でそれをあしらえる社会人に成り切れてなかった俺が、言外に「何か間違ってませんか?」という思いを滲ませて問うたが、しかし上司は平然と頷いた。


「そうだね。」

「え!?…半値にする交渉をするんですか!?」

「必要ならそうなるね。」

「必要ならって…」


 絶句した俺に代わり先輩が口を挟んでくれた。


「海野君が言ってる表だけじゃなくて後の文書には半分を目標にコストダウンって書いてありますよね?それって端的に半値にしろって意味ですよね?」

「そういう風にも読めるね。」


 他にどういう風に読めるんだ?と我々は呆れ返った。


「半値にしろって課長が言うなら交渉になりますが、時期が悪過ぎます。特に大概のメインの材料は先月、長期購入契約を更改したばかりですよ?本社(※親会社のこと)も知ってますよね?」

「勿論、知ってると思うよ。」


 上司はサラッと、しかし狡猾にも断定はせずに答えた。


「この時期に値下げを要求しに行くのはかなり難易度が高いと思いますよ。」

「じゃあどうしたらいいと思う?」


 半値にする、という異世界な思想は先輩が主張しているわけではない。

 が、何故か彼が主張しているかの如く問い返されて生真面目な先輩は、うぐっと詰まった。


「……何か公的な理由とかないんですか?本社から言われたからなんて供給先には理由になりませんよ。」

「そうだね。何て言ったらいいと思う?」

「……」


 またしても問い返されて、またしても詰まってしまった先輩の代わりに、今度は課で一番年嵩のベテランでTLの石田さんが口を挟んだ。


「時期も悪けりゃ、値下げを要求する世間一般的に納得できる理由もない。しかも半値はハードルが高い。やれ!は、いいけど、どうすんです?」

「どうしたらいいと思う?」


 それを聞いているのは我々である。


「……ウチがって言うより本社のご意向なんですから、本社購買から何か書面が一斉に出るとかあるんですか?」


 本社(親会社)は世間一般に知られ、業界では最大手の一角でもある大企業だ。そこが宣言すれば、理由にはならずともそれなりに威力はある。

 愛知県では県内を完全支配する企業は、円高になれば製品輸出が厳しくなったと配下の企業に納入金額の一律カットを通告し、円安になれば部品輸入が厳しくなったと紙切れ1枚で納入先に値下げを強要と事実上、半期毎に納入価格の低下を命じているわけで、必要なのは理由ではなく口実だ。

 親会社の一言は我々とすれば持って行く口実にはなるし、上手くすれば交渉の糸口ぐらいにはなる。


 だが、課長の返事は素っ気なかった。


「ないね。」

「…じゃあウチから何か出すんですか?」

「本社が出さないのに、ウチが勝手に書面作るとかナイよね。」

「対象は全品目なんですよね?何かしら購買先にお願いする書面もなく、理由もなく、何をどう説明するんです?」

「石田さんはどう説明したらいいと思いますか?」

「どう説明したらって……」


 結局のところ我々が納得しようがしまいが、上司の指示はイコール会社命令である。

 加えてTLの石田さんが詰まった所で俺らは納得したとされてしまい、調達先に交渉に出向くことになってしまった。

 民主主義でも多数決でもない上意下達を基本とする会社組織では、上司との会話にそもそも我々部下の勝ちは最初から設定自体がなく、引き分けも負け、会議時間切れも負けである。

 しかし具体的な指示はなく、全て担当に丸投げで理論的には我々より優秀なはずの上司からは何の知恵も出されず、俺らは手足もアタマも文字通り徒手空拳だ。


 仕方なく交渉には出向いたものの、結局、この話、手ぶらでただ売値を半値に下げてくれでは何の話し合いにもならず、それどころか殆どの取引先では冗談と取られて終わった。

 つか、まだまだ若手だった俺も含めて怒らせなかった我々の交渉術を褒めて欲しい!


 ともあれ都合の悪い質問には答えずに、ボールを投げ返し続ける事で議論は有耶無耶にして、結局は立場で部下を論破したところで仕事は前に進まないのだ。


 しかも、半年後ぐらいに分かったのだが、実際には本社購買は正式に半値にしろと言ってきたわけでも何でもなく、ましてや単品の半値購買を目指しているのでもなく、長い目で購入金額全体で様々な手段を駆使してそういう検討に着手している、という話だったらしい。

 もっと言えば、今は中東から買ってきているLNGがオーストラリアの方が安いなら、そういう検討もする、という俺らがやってるような日々の細々とした話ではなく、本社購買様が直接コントロールする様な類の超スケールのデカい話もコミコミかつ息の長い話ということだ。


 それを耳にした課長が既に着手しています、という事にして点数を稼ぎにいったのだ。

 本社からはおろか、こちらからも正式書面も何も出ないわけである。


 本社上がりはこの辺が上手い人間はいた。

 けど、それで済む場合と済まない場合があるわけで、件の課長は今までこの技で済ませてきていて、それで済まなかったからウチへトバされたのだろう。


 ちなみにこの話は当然1mmも進展しなかったが、本社総務部から来ていたのに何故か我々営業部の課長になっていて「総務に帰りたいんだよね」と言っていた彼は、年末の会議で着手した、結果は出ていないが進展はあったと針小棒大に、そして上手にプレゼンし(本社上がりはこの技に長けているのも多かった)、次の異動で立場は横滑りだが無事にウチの総務部に異動になった。

 結論から見れば、行った先々で「半値とか、面白い冗談ですね(怒)」と言われて顔が引き攣った笑いで誤魔化すしかなかった我々は時間と気力を無駄に削られただけで終わったが、早く総務に戻りたかった彼的にはまるで無駄な行動ではなかったのだろう。


 …ふむ。

 そう考えるとサウザンリーフに行くって言ってもレニのところに真っすぐ行くだけが能ではないな。


 俺は1人であちこちに脱線しながらも考えた。

 方針が決まれば次に必要なのは方策だ。


 取り敢えずレニに会いには行く。

 色々聞きたい話、確認したい事柄はあるのだ。それに現状、ヒマとは言わないが差し迫った用事があるわけじゃない。


 しかしながら、まず、それだけでわざわざサウザンリーフまで旅をするのもアホな気もする。

 日本人は旅行の計画を立てるのはヘタで、折角の休日なのに宿に戻れば動けなくなるまでに予定を詰め込みまくって駆け足で観光地を巡り、余裕を持ったスケジュールで悠然とリラックスした旅行をデフォとする欧米人の失笑を買うが、忙しいはず、仕事中のはずの出張の合間に全く関係のない予定や観光を入れるのは得意なのだ。


 だいたい、俺が聞いたのはレニがサウザンリーフで村長(?)してるって話だけで詳しい場所は聞いてない。

 現地でもう少し詳しい話を聞いて回らなくてはならないだろう。


 そうなれば用心という話もある。

 万が一、億が一、俺の行動を後からでも詮索するヤツがいた場合、今回の旅の目的、ひいては俺とレニの関係が簡単にあからさまになる可能性があるからだ。

 もうかなり時間も経っているので、今更、サンビアナから追手が掛かっているとも思っていないし、場所もかなり離れているので心配はしていないが、繰り返しになるが万が一、億が一はある。


「……うん、そうか!」


 俺はベットから身を起こした。

 漸くアタマが無駄そのものの雑談から現実に戻って来て、なるべく自然体でサウザンリーフへ行く手段を捻り出せたのだ。


 このリバードアのギルドでサウザンリーフ方面の依頼を受ければいい。単純かつ簡単な話だ。

 そうすれば、こちらに残る俺の足跡としてはサウザンリーフに仕事で行った、という事がメインになり、課長が自身が総務部に帰りたいという目的を隠したまま、手柄をムリヤリ作り出す為に俺らに値上げ交渉をさせた様に、ギルドで請けた仕事が隠れ蓑になってレニに会うという真の目的は表面化しないだろう。


「……ま、今日は取り敢えずメシだな。」


 漸く今後の方針、方策まで決まったが、今から冒険者ギルドに依頼を確認に行くのもメンドくさい。

 大まかな方針が決まったことで今日は良し!ということにして俺は予定通りメシを食いに行くことにした。


 適当な店を見付けて入ったはいいが、来て早々に嫌な思い出に直面し、そのせいか宿では昔のあまり愉快ではない話を脈絡もなく思い出して1人ブチブチした。

 そのせいかクラウと一緒でない久々の1人飯は、元の世界でもこちらの世界でも1人飯が普通だったはずなのに、何故かかなり味気なく感じられるものだった。


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