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風任せで人任せな俺がここにいる理由  作者: 明月 文


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048 対応に困る尾行

 出際に変なのに声は掛けられたがなんとか無事に追い払い、冒険者ギルドで懐が温かくなったせいと、貰った牙の使い道が決まったこともあって、少しウキウキした気分で町を歩いた。


 リバードア王国の首都リバードアは俺がイーストキャピトルの名で記憶していた頃と何も変わらない、この世界でも屈指の巨大な都市だ。

 国自体がこの巨大都市イーストキャピトルとその衛星都市で出来上がっている構造は、リバードアと呼ばれている今も変わらないらしい。


 冒険者ギルドは比較的、門から近い所にあるが、ギルドで聞いた宿屋街はもう少し先だ。1時間以上は歩かなくてはならないだろう。

 折角、良さげな武器屋はギルドの美人の買取窓口嬢に紹介して貰いはしたが、ここから宿への移動時間を考えれば、今日は武器屋街に顔を出すまでの時間はない。

 

 別に急ぐ話でもない。

 俺は今日は武器屋はパスして宿屋街に向かう事にした。


 周辺を眺め、時折店先を覗き込んだりしてすっかりお上りさん観光客と化して歩き続けて20分ぐらいだろうか。俺は少し変な事に気が付いた。


 後ろから誰かが付けて来る。

 歩いて宿場街に向かっている俺は、後ろに気配を感じるのだ。


 勿論、今の俺に誰かに付けられる事情はない…と思うので唯の自意識過剰という線もないではない。

 が、試しに通りにある露店でモノを眺めるフリして立ち止まるとその足音も立ち止まる。俺が動き出せばまた同じ歩幅で動き出す。


 足音の見分け方はまずは森での狩りが専門のミリーから習った。こっちは魔物、野獣の見分け方と比較的範囲の広い気付き方である。森で狩りに使う、あるいはヤバい何かの接近にいち早く気付くことをメインにしたものだ。


 こと人間相手のソレを教えてくれたのはアイーシャとリリアだ。


「正式な武芸を修めておられない勇者様方には分かり辛いかも知れませんが、各武芸の特徴を掴む初歩はその歩法です。」


 俺らは旅をしながら町に着くとそこでの武芸場を借りて彼女達の特訓を受けていた。

 彼女の言う通り俺らはマトモな軍事教練とか武術の訓練とかは全く受けていない。謂わばスキルのゴリ押しで、スキルが無ければただのパンピーなのだ。

 そんな状況では何時迄も彼女達におんぶに抱っこの旅だし、肝心の魔王とかに勝てる気がしない。


 今になって考えてみれば、ド〇ゴンクエストの主人公と状況は同じだ。


 そもそもスライムにも苦戦する程弱い主人公が何故か魔王…いや、竜王だったかな?…討伐を国王から丸投げされ、しかも担当者は彼唯1人なのは今になって冷静に考えれば全く意味が分からない。

 誰も叶わない竜王を斃す大役が何故か木の棒しか持たずスライムにも負ける最弱の主人公に下されている事自体が理解出来ないし、おまけに経費は何と100%自腹で武器1つ買うにもモンスターを倒しまくって金を貯めなきゃいけないのも理不尽過ぎる。

 まあ金目に関して言えば、ビジネスに有用な資格とかを取るなら自腹で講習とか受けなさいって言ってる会社と変わらんという言い方も出来なくはないけどね。


 最早騙されたとしか思えない主人公君と比べれば、俺らは彼と違って3人だったし、スライムにすら苦戦する主人公君よりかは特殊能力がある分、かなりマシだった。経費も全額自腹とかではなかったし。

 が、旅立ち初めて比較的早い時間帯で、俺らはこのままでは魔王を斃すはおろか魔王の元まで辿り着く実力すらないのは認識した。スライムには苦戦しないが結論は主人公君と同じである。むしろ、なんで最初は3人だか5人だかの俺らだけで魔王を斃しに逝こうと思ったのかが分からない。

 そしてそんな俺らが、俺らだけでラスボス担当とされているのも主人公君と同じだった。


 要は仕事と実力が見合ってない。

 会社に入ったばかりの新入社員が、入社式の次の日にロシアの大統領から核兵器の購入の約束を取り付けて来い、と言われている様なものだ。例え新入社員がハーバードを飛び級で首席卒業したロシア語を含む5か国語を操る天才であってもミッションのインポシブル度合いは変わらない。


 なので、旅の途中では流石に難しいが、町に入り周囲の警戒に気をつける必要のない時に稽古を付けて貰う事にしていた。何事かアタマを下げて頼み込んだわけではないが自然体でそうなった。

 受ける彼女達もこれまた自然体で引き受けてくれた。特殊能力ゴリ押しだけの俺らを見て、正規の騎士団員である彼女達もこのままではヤバいと分かったのだろう。

 無論、(変なクエストが入らなければ)移動9、町1ぐらいなので、勢い稽古=特訓となる。


 そんな旅の途中でアイーシャが言った。


「対人戦で重要なのは相手の得意技を見切る事です。」


 対する俺はヤル気なく彼女に言い返した。


「俺らは素人だ。見切る、なんて高度な技は出来ねえよ。」


 東大は勿論、早稲田とか明治とかって言われてもムリだろ!って具合の厭世的でアタマの極悪い感じ丸出しな俺の返答に、アイーシャは「東大は簡単だ!」と浮世離れした名言を言い返す事はなく、イラっとした感じを出す事もなく、駄々を捏ねる幼稚園児を見る時の様な苛立ちが直接顔には出ないが目は全く笑ってない笑顔で微笑んだ。


「言い方が悪かったですね。相手の得意技に警戒する、という意味です。」


 彼女は剣をゆっくり抜いた瞬間、踏み込んで来て俺の喉元にビュッと剣先を当てた。

 実力で俺の戯言というか寝言を粉砕した彼女は、硬直する俺に満足した様に優しく微笑んで剣をしまった。但し目は相変わらず笑ってない。


「例えば今の様な帝国流ですと、レイピアを基本としてますので突きが得意で、そうでなくとも先ずは自然体で胸か喉元を狙ってきます。なので、それが分かっていれば少なくとも第一撃は避けられます。」

「な、成程ねえ…」


 得意技を見切るってそういうことか!

 相手の動きを見て得意技を見切るなんて芸当が俺ら素人衆に出来るはずがない。だけど、予め相手が何で攻めてくるか分かれば用心は可能だ。

 相手が柔道着を着ていれば「掴まれたら負けだ!」と予め距離を取れるし、銃を持っていれば物陰に隠れることも出来る。

 言うなれば、知識との組み合わせによる用心ってことだ。


「そして、ここからが本番ですが各流派の違いは意外と足にでます。」

「アシ?」


 自分でも言った通り兎に角素人で何も分かってない俺に彼女は辛抱強く微笑みかけた。


「各流派で歩法が違う、と言うのは、各流派ともあまり意識はしてません。しかし確実にあります。」

「……」

「構えを見れば流派の違いは大概分かりますが、構えを確認する前に歩法を感じ取って分かる場合も多いです。」

「…う、うん…」

「しかも相手がレベルが高い程、その歩法の癖は顕著に出ます。」


 これも言われてみれば成程ではあった。

 基礎も出来てないヤツはその流派の基本的な動きもいい加減だが、みっちり身に付けたヤツなら自然体で流派の歩法が出来ているはずだ。


 俺が感心した風に「ほうほう…」と頷くと、俺の理解度の進んだのを確認したアイーシャの目尻が優しく少し下がった。バインバインだけではなく、こういう所が密かに俺ら3人の中ではアイーシャが一番人気に推されるところだ。


「なので歩法を見るか、足音に敏感なのは重要なのです。」

「ふ~ん…」


 そもそも特殊技能を除けば俺らよりは遥かに腕の達ち経験豊富なアイーシャの見解に逆らうとかは最初からナイわけだが、無知故に意味がよく分からない事は結構ある。しかも小学校低学年的に何が分かってないのかも理解出来ておらず、適切な質問を投げかける事すら出来ない。

 けど、小学校低学年ではないので「なんでー?」と反射で叫んだりはしない。

 サッカーのリフティングの練習宜しく、今は意味が分からずとも後でその重要性が分かる事もあるし、最後まで意味が分からずとも指導者の言う通り黙って努力すれば上手くなる事もあるのは、俺らも経験則的に知っている。


 そうは言っても体験はしていないので完全に理解出来たとは言えないが、取り敢えず素直に頷いている俺に後ろからリリアも教えてくれた。


「後衛役はリーダーじゃなくても戦闘中の指示出し役を兼ねてるの。」


 イヤに近い位置からリリアが何故か耳元で囁いた。


「そ、ソウナンダー。」


 高2のDTである。

 可愛らしいリリアが耳元で囁いてくるのに動揺しないとかムリである。


 俺の動揺がモロに出た棒読みにリリアはクスッと笑った。

 完全にバレてるし遊ばれてる。


「どんな敵が来るか後ろから叫ぶだけで前衛は心構えが出来ます。」


 アイーシャも補足する。


「それに上手くすれば見破られた相手も動揺します。」


 なるほど!その発想も無かった!


「だから出来るだけ遠間から相手を見破るのは重要。足音が一番よ。慣れてくれば熟練度合いとかも感じられるようになるわ。」


 今度はリリアが補足するとアイーシャも続けた。


「リリアの言う通りです。この種の技は指示を出す役のケータよりも、詠唱に集中しなきゃいけないマーサよりも、後衛で周囲を見回せるタッカートの方が合ってる気がします。是非、モノにして下さい。」


 今まで深く考えたことはなかったが、要するに俺の歩法見分け術は元々ミリーから習ってた狩人としての周辺警戒術とアイーシャ・リリアからの人間相手の術が微妙に混ざっているわけだ。ミリー譲りの周辺の足音を広く拾う技術とアイーシャ・リリアの人間の足音を聞き分ける技術の混合だ。

 これは流石にシーフだか斥候だかが持っている索敵、探索スキル程ではないだろうけど、その簡易版の様な感じで機能する。


 そんなこんなで、そもそもの身に付けた理由は尾行を見破る為じゃあないが、後ろから来る変な足音を察知したわけだ。


 しかし何だ?


 俺を尾行してくる相手にはあくまで可能性の問題だけだが幾つか候補が挙げられる。


 まずは町への入門の際に何かしら疑いを招いた可能性だ。その場合、相手は官憲筋ということになる。

 だが、それならコソコソ尾行なんぞせんと、とっとと捕まえればいいだけだ。彼らが一介の冒険者に遠慮する理由は何もない。


 冒険者ギルドで目を付けられた可能性もある。


 だが、初めて来て買取窓口に寄っただけの俺に何か因縁を付けようというヤツがいるとは思えないし、それならギルド内で絡まれているだろう。わざわざ外に出た後に尾行する必要はない。

 出掛けに裏稼業と思しき人間から声が掛かったのを見て分かる通り、俺と受付の会話を聞いてた人間は他にもいるだろうし、討伐部位換金の結果、懐に纏まった金があるのも知った人間はいるかも知れない。そして、その金が欲しい!いや戴く!と思ったバカもいる、かも知れない。


 けど、それなら俺はクラスCなのも同時に聞いていただろう。

 強盗またはカツアゲをかける相手として冒険者クラスCは極めて不適切だ。日本でなら相手がプロボクサーと知った上で路地裏で声を掛ける様なものである。


 強盗またはカツアゲは楽して金を稼ぐ行動の一形態で、クエストである事を好む人間はいない。

 プロボクサーと殴り合った挙句、勝って金を奪えれば満足度は高いかも知れないが、自分も無事では済まないのはやってみなくても明らかだ。


 その上、尾行の足音は1つだけだ。


 例え相手が近接戦闘職ではない弓師であっても、たった1人でクラスCにカツアゲをかけようとするバカが世の中にいるとは俄かには信じ難い。無論、同クラスまたはB以上の上位クラスなら理屈の上では可能は可能だが、常考すればタイパ、コスパともに宜しくないのは同じだ。

 だいたいそのクラスなら素人じゃないので、デアコアイルの…何だっけ?…えっと…そうそうマライア君の様に金の話じゃなくて俺が相手じゃないと困る用事があるならともかく、同じ危険を背負うならキチンとギルドでの仕事で稼いだ方がいいと判断するだろう。

 それにデアコアイルのBクラス冒険者マライア君だって、衆目監視の酒場でその場で手出しするつもりなく穏やかに声を掛けて来た時こそ1人だったが、その後は当時Dクラスの俺を相手にするのにキチンと人数を集めてきたのだ。普通はそうする。

 ザンビーの朝市で声を掛けてきた唯のチンピラのアンジエラ君達だって数人で取り囲んだのだ。

 1人でカツアゲは有り得ない。


 そう考えると冒険者ギルドで他の冒険者に目を付けられたセンは、ほぼない。


 更に推測を加えれば、俺の技なんぞ所詮は付け焼刃だから、冒険者でも斥候とか隠密とか持ってるヤツだと碌に通用しない可能性が高い。

 だから逆説的に俺がハッキリ気付くって事は、暗殺も含めてその種の専門職でもないだろうと考えられる。冒険者ではないだろう。


 そうすると後はギルドを出た後になんぞザンビーのアンジエラ君的な誰かに目を付けられたか?

 それなら俺がCクラスとかも知らず、如何にもギルドで今日の賞金が手に入りました的なホクホク顔で出て来た俺に目を付けた可能性もなくはない。特に弓を持っているなら弓師だろう、と判断し、近接戦闘はそう得意じゃないはずだ、と考えたのかも知れない。だとすればバカだねえ、弓は肌が触れ合うぐらいの近場で撃っちゃいけないなんてルールは何処にもないんだが。


 でも、そうであっても武装してるヤツを1人で襲おうと考えるヤツはあまりいない気がするなあ。

 そんなヤツを襲ってる暇があるなら、他に獲物になりそうな非武装のヤツを探した方がいい。


 尾行の足音は続いている


 ……ん~


 悩ましいは悩ましい。

 着いたばかりなのに揉め事は正直気が進まない。


 しかも相手は今の所、穏やかに尾行してるだけだ。これは人通りの多い場所で何かをする気がない、という理解も出来なくはない。

 

 ならばこのまま宿に逃げ込んでしまえば何事も起きない可能性もある。

 例えば物盗りだった場合には、俺が宿に入った段階で「あ、コイツはダメだな」と諦める公算が高い。俺が宿から出てくるのを待つ程、ヒマではないはずだ。俺の事は簡単に諦めて他の獲物を探しに行くだろう。


 その他に俺を尾行する相手は思いつかない。


 …ああ、まあ、他には先のダニー氏かそのお仲間がついてきている可能性もないではないな。

 けど先はキチンと断りきったはずだし、C以上の冒険者は少ないが大都会のギルドには俺以外にもいるはずだから俺に粘着する理由が見当たらない。

 だいたい彼のあのアッサリした身の引きようは、如何にも手慣れた詐欺師然としていた。100人に声を掛けて1人モノに出来ればいいや、という慣れがあった。その代わり引っ掛かったヤツからは鼻血も出ないまでに搾り盗るか、ヤバい仕事を死ぬか捕まるまでやらせる。そんなタイプだ。

 もし彼が本気で俺になんかさせたかったのなら、一時的であってもこんなに簡単に離してもくれないだろう。


「……」


 俺は側の屋台(野菜売り)の軒先を覗き込むフリをして悩んだ。


 繰り返しになるが揉め事は気が進まない。

 けど、このままは気に入らない。


 これも可能性としては極度に低いが、尾行の彼の役目は俺の宿を確認する事で、夜中にお仲間が大挙して寝込みを襲ってくるってのもゼロではない。


 「問題は放置すれば大きくなり、爆発した後で対応するのは一番の悪手です。大きくなる前に素早く対処して小さいうちに揉み消しましょう。」はどの経営指南書にも書いてある基本中の基本だ。


 ……はぁ。

 仕方ねえか……


 諦めた俺は心の中で溜息をついた。


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