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風任せで人任せな俺がここにいる理由  作者: 明月 文


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047 闇バイト?

「おう!」


 カウンターで買い取りも終わり、懐も温かくなり、牙の加工先も美人と和気藹々と話しながらしっかり相談させて貰ったところで、さあて次は宿かと出口に向かって歩き始めると、1人の男が自分が敵意がないことを見せつけるかの様に笑顔で声を掛けて来た。

 勿論、知らない男だ。


「さっき買取窓口の会話がちっと聞こえた。アンタ、Cクラスか?」

「ああ。」


 誰だよ、お前?という俺の怪訝顔を笑顔で無視して男はグイグイ来た。


「見た事ねえな。ここへは来たばっかりか?」

「ああ。まあな。」


 俺の怪訝顔をものともせずに男は小声で囁いてきた。


「ちっと小遣い稼ぎに興味はねえか?」


 小遣い稼ぎねえ…


 この種の話はまず大きく2種類に分類できる。

 ギルドの仕事の手伝いか、ギルドを全く通さない仕事だ。


 ギルドの仕事の手伝いは文字通りだがパターンは2つだ。


 誰かがギルドの仕事を請け負ったとする。

 だが1人または普段の仲間だけじゃアタマ数か何かしら不足と考えて、周囲の冒険者に手伝いを頼む。3人組で魔物退治を請け負ったはいいが、遠距離戦力を補完したいと考えて、弓師の俺に臨時で声をかける様なものだ。魔法使い中心のパーティーが剣士に声をかけて物理戦闘力を補完する、なんてのもよくある話だ。俗に助っ人と呼ばれる。

 複数人のパーティーでも臨時に戦力を補完出来るし、受ける側もボッチでも複数人を必要とする依頼に混ざる事も出来るから悪い話ではない。


 反面、ギルドを通じた仕事扱いにはならないから、ギルドの討伐記録には残らない。

 けど金は稼げるし、時と場合によっては助っ人の手取り金額は多めになる事もあるので、ギルドにはこの種の助っ人が専門でタムロってる人間も場所によってはそこそこにいる。

 既に実績を示し済で討伐記録を積み上げなくても困らないCやBクラスのベテラン、何か尖った特技を持つ者が多いと聞いている。


 フルハットで一緒に戦った軍人崩れのユーリなんかもそのタイプだろう。

 士官学校出の元将校という尖りまくった経歴を持つ彼は決まったパーチィーに所属するのではなく、各パーティーに参謀役として参加するのがメインだ。


 また、一緒に戦ったと言えばジムみたいなキャディなんかだと、むしろ職業的に助っ人専門だ。

 彼らは魔物を直接相手するわけじゃないから、冒険者ランクはある意味どうでもいい。Eは流石に素人と見られかねないからないが、地元で信頼あるベテランと見られている連中ですらDクラスぐらいしか持ってないのが普通だ。それだけ貴重なスキルだから、ギルドに記録の残る魔物退治の実績を積む必要はない。

 そもそも魔物を退治するのは仕事じゃない。それに、むしろ一つのパーティーにいるより助っ人の方が回数がこなせて稼げる。


 一方で、ギルドを全く通さない仕事は大きく4種類に分かれる。


 依頼主が最初から決まった冒険者、決まったパーティーに声を掛ける場合、ギルドを通さない事もある。最初から依頼する相手が決まっているから、ある意味当然だ。

 依頼主からすれば直接、声を掛ければ、ギルドへの依頼手数料分が浮くからコストダウンでもあるし、受ける方も依頼主がコストダウン出来た分、少し報酬が上乗せされる、かも知れない。


 だが、依頼する側は相手が決まっていても、受ける側がどう判断するかは別問題だ。


 ギルドを通じての依頼なら報酬は必ず払われるが、ギルドを間に挟まなかった場合、依頼主がバックレれれば報酬が取れない事態も起こり得る。その場合、自力で債権回収が必要になるし、そこまでいかずとも依頼達成後になってゴネられて値切られる恐れだってある。その点、ギルドを通じていれば依頼人との交渉は全てギルドの仕事だ。

 つか、そもそもギルドへの依頼は基本、前金である。ギルドが賞金を前金で預かり、依頼が達成されれば手数料を除いて冒険者に渡す。


 なので、受ける冒険者側からすれば直接声が掛かっても、かつ受けるつもりでいても、真っ当なヤツ程、報酬の大きい仕事である程、「一応、話はギルドを通してくれ」と言う方が多い。

 ギルドを通したって全てが掲示板に貼り出される訳ではないし、依頼を受けさせるかどうかは最終的にはギルド窓口の判断だから、依頼主が予め言っておけば掲示板に貼られる事無く、予め話がついている依頼主の望む冒険者に声が掛かる。双方ともそこに問題は生じない。普通に指名依頼なだけだ。

 それにギルドを通さなければ討伐記録にならないのは先の助っ人の場合と同じだから、助っ人専業のヤツ以外は普通は皆、嫌がる。


 ギルドを通さない話でこの他によくあるのは、必ずかかるギルド手数料を浮かせる事が目的の仕事だ。

もっと端的に言えば、めちゃくちゃ安い仕事だ。

 ギルドに手数料を払う余裕のない仕事やら、逆にギルドから手数料が安すぎて断られる類の所謂雑用と呼ばれる仕事である。

 内容的には、魔物退治とかで流石にそれはなく、側溝の掃除やら建物の解体工事の手伝いとかが多い。俺が逃亡中に受けた倉庫での荷物運びなんかもそうだ。

 雇う方からすればなるべくコストダウンしたいのでギルドを通さず、ギルドにタムロってるヒマそうなヤツに直接声をかける。ギルドの依頼掲示板の横辺りにシレっと紛れて依頼書宜しく貼ってあることもある。ザンビアナから逃げてる最中にやった俺の荷物運びのバイトも、それを見て自分から倉庫に足を運んだ。

 当然、魔物退治に比べれば単価は落ちるものの誰でも出来る簡単なお仕事でもあるので、仕事にアブれた駆け出しのEクラスなんかが受ける。俺も受けたのは逃亡初期の頃は手っ取り早く逃亡資金を稼ぐ必要もあったから、という理由が一番ではあるが、その頃はまだランクEだったので、すぐさま受けられる、しかも旅(逃走)の途中でも受けられる仕事はこのぐらいしかなかったという面もあった。

 これもギルドを通じてないから正規の経験には当然カウントされないけど、キャディーとかならともかく、倉庫での荷物運びや側溝の掃除などランクアップに何ら寄与しないので逆の意味でも問題はない。


 今1つは恒久的な雇いを求めている場合だ。端的に言えば就職である。いや雇う方だから採用か。

 

 ギルド経由の仕事は基本的には臨時雇いだし、一ヤマ幾らの扱いだ。その仕事が終われば一旦、関係は終了だし、指名依頼を除けば仕事を任せる連中もどんなヤツかは応募者次第だ。無論、それがいい所でもあって、ギルドを通じて人集めをすれば雇用などという余計な固定費を抱え込む必要はなく、雇ったヤツがどんなに嫌なヤツでもその仕事が終われば終わりだ。

 一方で継続した仕事を任せる場合、毎回ギルド手数料を取られるのもアホだし、毎回、ギルドに依頼を出すのも手間だ。そういった場合には正式に人を採用するわけだが、その声掛けもこのギルドで行われる事もある。


 募集される商売は勿論、商会で帳簿を付ける様な仕事のはずはない。冒険者に相応しい暴力系肉労だが、具体的な内容は護衛関係が多い。隊商の護衛や個人のボディーガード、お貴族様の私設警備隊なんかがそうだ。

 繰り返しになるが、ギルドを通じて募集すれば毎回手数料がかかるが、採用してしまえばその分は浮くという経済効果に加え、ボディガードや私設警備隊なんかだと仕事の内容的にも常に同じメンバーの方が双方の意思疎通、信用面で都合がいい、という場合もある。


 最後はギルドを経由できない類の仕事だ。


 ギルドは表通りに大きな看板を掲げたお上も認める合法的な組織だから当然、非合法は受け付けない。

 強盗もなし、襲撃もなし、誘拐もなし、暗殺もなしだ。町のど真ん中に看板を掲げている組織が闇バイト仕切るとか有り得ない。

 だがギルドがアタマから拒否しているこの種の仕事を誰かにさせたい人物も世の中には数多く存在し、個人の持つ能力として出来る出来ないを言えば、出来そうな人材は一般社会よりギルドには多くいる。

 なのでその辺りのマッチングというかリクルーティングもギルドの片隅でコソコソ行われる、こともあるらしい。当然の事ながら俺は経験がない。

 経験はないが何処の世界でもこの種の話は最初は無害を装って近づいてくる。必殺〇事人とかシ〇ィハンターじゃあるまいし「アイツ殺ってくれませんか?」と近付いて来る例は滅多にない。


 声を掛けて来た男が言う「小遣い稼ぎ」がどの類型に属する仕事を指しているのか当然分からない。


 先ず、リバードアに来たばかりの俺に指名依頼はない。

 それと、俺がCクラスと知って声を掛けて来ていることを考えれば、ドブ攫いとか雑用もない。

 ギルド仕事の手伝い、所謂助っ人ならギルド仕事を請けた本人達が声をかけて来るだろうが、この男はそんな感じの見た目ではない。腰に剣は見えるが冒険者には見えないのだ。

 

 残るは就職か裏稼業だが、これだけでは判断がつかない。

 無論、詳しく話を聞けば分かるだろうが、最後の類型の場合、闇バイトと同様に話は聞いたが断る、という事が非常に困難な可能性が高い。

 いや「小遣い稼ぎ」と言ってるからには一時仕事だろうから就職もないか。


 瞬間的に考えた結果、俺は殊更ヤル気が無さそうに答えた。


「悪いが、聞いてたかも分からんけど、ビッグヘッドの討伐はかなりヘビーだったんだ。暫くは楽して暮らしてえ。」

「そうか…」


 俺の婉曲な断りの返事を聞いても男は小柄だがゴツイ体形に似合わない笑顔を崩さなかった。

 その笑顔は、壺とか印鑑とか経典やらの高額販売を専門とする韓国系の団体とか、年率20%の利子支払いを確約する投資ファンドを名乗る団体とか、慈善や世界平和、オリンピックを口実にボランティアと称するタダ働き要員を搔き集める大手広告会社の孫請け自称ボランティア団体の勧誘員の笑顔だ。

 笑顔で中身のどす黒さを誤魔化そうとしているが、笑ゥせぇる〇まんのソレと同じで全然隠しきれていない。

 

 もっともこれらの団体の場合は上層部はいざしらず当の本人達にはそこまで悪意がない場合もあるだろう。

 怪しい団体でも末端構成員は、自身はタダ働きでも壺を高く売れば天国に逝けると信じているし、ややもすると相手も教祖様の有難い著作で幸せになれると信じるまでに脳内を改造されてる。

 オリンピックのボランティア団体だって大手広告会社に体のいいタダ働き要員として声が掛けられているとは微塵も思わず、スポーツによるグローバルな平和(笑)を振興する為の崇高な活動をしているつもりだろう。

 いずれも1人1人に悪意はないかも知れないが、結果的には平和に生きる他人様を不幸の底なし泥沼に引き込もうとする努力は止めない。


 謂わば不老長寿になれると信じて皇帝に水銀を飲ませ続けた大昔の医者の様なものだ。

 悪気はないが、正しい知識もなく、その行動の結果は害悪しかない。

 

 だいたい教会やら寺院やらが周囲に見合わない立派過ぎる建物で、教祖だか高位の聖職者だかが一般信者と隔絶したいい暮らしをしているのはどの宗教も一緒だ。

 オリンピックでも参加選手は「参加する事に意義がある」という貴族の言葉に騙されてメダルを獲っても20年内外の多大な努力に見合わないホンのチョッピリのお駄賃しか出ないが、裏で仕切っている委員会やら大手広告会社は、億単位の桁違いに多額のマネーを手にして世田谷の豪邸からロールスロイスで通勤しているのも皆が知っての通りだ。

 要は民間一般企業と同じ純然たる営利目的であり、違いは配下に真っ当な分け前を出すつもりがあるかないかだけである。


 しかも目の前で「へへっ」と笑い掛けて来ている男はこれらの団体所属員よりも一歩進んだ笑顔だ。人を騙して絞り盗りきるか使い潰すヤツの笑顔だ。


 俺が密かに身構えているのを他所に、声を掛けて来た彼は愛想のよい怪しげな笑顔を崩さずに囁いた。


「俺はダニーだ。…あんま大きな声じゃ言えねえが、この辺りで細々と仕事を回したりしてる。ちょっと旅の途中で稼ぎてえとかゴトにアブれる事があったらいつでも言ってこいや。」


 彼がどんな団体に所属しているかは知らないが、いずれにせよ、こちらの思ってる類の人間なら変に怒らせるのも損だし、変に記憶に残る態度もとりたくない。

 意外と言っては何だがこの種の団体は力を持っている場合も多く、本人はギルドに所属はしていなくとも陰に陽に嫌がらせを受ける可能性はある。ヘタすりゃギルドの外で、まあこの世からはなくとも町からは叩き出される事だって有り得る。

 日本でだって警察がいるとか、直接手出ししてくるかとかは関係なく、地元のヤクザに睨まれれば生き辛くなるのは間違いない。自前で政党を持っている様な大手の諸団体を不要に怒らせるのも考えものだ。

 建前はともかく、庶民にはそういうものを波風立てずに避けるという庶民の知恵は必要なのだ。


 俺は愛想よく笑いはしないがあからさまに不快な顔をしないように気を付けて、しかし如何にも興味ありませんという風にハイハイと手を振った。


「おう、縁がありゃあな。」


 明らかにその種のプロの香りしかしないダニー氏は、それ以上は深追いしてくる事もなく、怪しい笑顔を残して去って行った。


 俺はその背中を横目で見ながら思った。

 こっちの世界にもこういうのってあるんだなあ(笑)。


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