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風任せで人任せな俺がここにいる理由  作者: 明月 文


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043 初回の逃走

少し遅くなりました。

「お、終わり?」


 崎本が呟き、俺は手を降ろしてその場に体育座りで座り込み、マサさんとシイちゃんもその場でドサっと手足を投げ出して座り込む。その隣では蒼褪めた顔で直哉が立ち尽くしていた。

 石原さんは「はあ…」と溜息をついて壁に凭れ、顔を片手で覆っている。


 そして漸く治療が終わったらしい幸田さんが顰めた顔のまま立ち上がって周囲を見回す。


 喉に手裏剣だか投げナイフだかが刺さって死んでる新宮さん。

 そして坂本が横でブツブツ言いながら治療呪文を唱えているがピクリともしない片腕のもげた萩田さんに目をやって、その顔は泣きそうな感じに歪んだ。


「…チクショウ!こんな…チクショウ…」


 幸田さんも含め、生き残った俺らの大半がこのメンバー初の死者、そして重傷者の発生に呆然とする中で、意外な事に真っ先に立ち直ったのは高橋(翔)さんだ。

 彼は金棒をガンと地面に突き立て、それにグッタリ凭れ掛かる様にしながら萩田さんを治療する坂本の方を向いた。


「坂本!萩田さんはどうだ?治りそうか?」


 萩田さんの横でブツブツと治癒の魔法らしきものを唱えていた坂本は振り向きもしないで叫んだ。


「死んでない!まだ死んでない!ケガは酷えけど何とかします!」


 ショータローさんは疲れた表情ではあったが変に冷静な眼差しで俺ら全員の無事を確認する様に順繰りに眺めた。

 

 その時、俺は不謹慎ながら「ああ、なるほど!」と思った。

 この時。なんとなく翔太朗さんを理解したのだ。


 簡単に言えば、彼は少しズレている。別の言い方をすれば空気が読めないと言ってもいい。だからいつも言う事が少し頓珍漢なのだ。

 そして本人もそれが感覚的に分かっている。20年も生きていれば、自分が何時も外し気味なのに自分自身が気付く機会は沢山ある。しかもややもすると自分で自分を矯正しようとしてしくじり続けているか、今の状態を見る限り完全には直せなかった可能性もある。

 なので恐らくだが普段は積極的には周囲と絡まない、そんな生き方をしてきたのだろう。


 一方で班では一番の年嵩だったから柄でもないリーダーを引き受けざるを得なかった。

 この状況では断って和を乱すなど出来ず止むを得ず彼は引き受けたものの、普段の生き方とは違うので積極的に俺らを引っ張ったわけではないし、出来ない。

 キャラではない事を押し付けられているので結果として言う事も毎回、微妙に最適ではなかった。


 だが思い返して見れば、最適じゃないかも知れないが、戦闘や探索とかであからさまに変な指示カマしたりした事もない。まるでデキない子ではないのだ。

 そして、ズレてる分、こういう事態になると仲間が死んでも、死体が目の前に転がっていても俺らや幸田さんの様に動揺したりはしない。傍目には冷静な対応も可能なのだ。


 高橋(翔)さんは未だ動揺してブツブツ言ってる幸田さんの状態も自分1人がズレた立ち位置から冷静な眼差しで確認して、珍しくテキパキと指示を出し始めた。


「佐藤さん、萩田さんはヒデそうだ。幸田さんがもう大丈夫そうなら坂本を手伝ってやってくれ!」

「!…ハイ!」


 ショータローさんの指示に佐藤さんも萩田さんの方へ行く。

 それを見ながらショータローさんは同時に今一度、萩田さんの方をジロリと見やった。


「取り敢えず意識戻して歩けるとこまでだ。」

「は?ハイ!」

「萩田抱えて移動とかしたくねえ。」

「「「……」」」


 千切れた腕の出血は坂本が止めたっぽいが、傍目に見ても萩田さんは重傷で他の手足3本も変な方向に折れ曲がり、足の一部からは骨らしきものが突き出してる。アタマを打ったのか意識もなく顔も血塗れだ。

 その萩田さんを歩かせようというショータローさんのいつものように空気の読めてない発言に俺らは全員がドン引きで言葉も出なかったが、ズレ方最大値のショータローさんは全く頓着せずに萩田さんの方からは興味を失ったかの様に視線を外し、今度は前の方を見た。


「林田!前は?全部死んだのか?」

「…多分。」


 林田さんの返事を聞きつつ、マサさんが焼き払った前方に目をやったショータローさんは、立てた金棒に凭れたまま俺の方を向いた。


「…ったく!やってらんねえぜ!…海野!その辺に萩田さんの腕、転がってんじゃねえか?ちと探して拾って来いよ。坂本か佐藤さんが何かすりゃあ、くっつくかも知んねえ。」


 ショータローさん的にはどうともないのかも知れないが、体力的な話はともかくその他の全員が初めての人死を目にして気力を削られていた。

 更に俺の場合、全力で集中してゴーレムを潰したせいで精神力を使い果たしてグッタリだ。この状況で千切れた人の腕を探すとかってグロい話は全く気乗りしない。


「俺っすか?」


 反論とまではいかないが俺がグッタリ感モロ出しで思わず言い返すと、ショータローさんは口元に小馬鹿にした様な嗤いを浮かべながら言った。


「何だよ?1人じゃ怖えのか?もう敵は来ねえから何もねえよ。」


 が、足を投げ出して座り込んでいたマサさんがふっと周囲を見回した。


「いや、待て……」

「んだよ、マサさんよう?もう何もいねえだろ?」


 マサさんはショータローさんに言い返す事無く目を瞑った。


「……いや、変だな…」


 マサさんが呟いた瞬間、崎本の背後の地面からヌッと朧げな影が現れる。


「「「…!!!」」」

「…?」


 全く背後の影に気付かず「ナニ?」という顔をしたままの崎本を、直哉がタックルする様に押し倒す。


「ギャ!テメエ、ナニすん…!!」


 崎本の悪態なんぞ当然無視して重なる様に倒れた2人のすぐ上を、ブンと振られたニンジャの腕が通り過ぎる。


「まだいたのか!」


 ショータローさんが金棒を構え直し、俺らも慌てて立ち上がる。


「おらあああ!!!」


 先まで1人ブツブツ言ってた幸田さんだったが、敵を見て我に返ったらしく真っ先に斬り掛かったが、ニンジャはスイスイと避けて壁の中にめり込む様に消えた。


「ちっ!厄介過ぎねえか!ニンジャ!?」


 ショータローさんが愚痴るが、それどころじゃない。


「まだ来るぞ!全員固まれ!」


 幸田さんの指示で萩田さんを治療中だった佐藤、坂本組も含めて全員が幸田さんの近くに駆け寄る。萩田さんは動かせる状態じゃないし、無論、自分では動けないからその場に置きっぱなしだ。


「…う…ううう……」


 その萩田さんから微かに声が上がり、一瞬、俺らの視線は周囲から外れて萩田さんに集中してしまった。


「うっ!」


 そして今度はショータローさんがと声を上げた。腰に手裏剣というには大き過ぎる短刀のようなものが刺さっている。一瞬、脇見をした隙に別のニンジャが潜り込んで刺したのだ。


「コノヤロー!」


 幸田さんが踏み込んで剣を振るうがニンジャはヒラリと後ろに躱してかき消すようにまた壁に消える。


「んにゃろ!」


ビビビッ!


 が、その前に俺がレーザーを一気に3発散らして放った。ゴーレムは耐久性が高いので集中が必要だが、ニンジャは少なくとも見た目はゴーレム程固くはなさそうだ。なのでそんなに集中を必要としないレーザーなら3本の指から同時も可能だ。


グラリ


 そのうち1つが肩当たりに当たったらしい。ニンジャが壁に消える寸前にグラリと前のめりになった。


ビッ!


 俺はすかさず追い討ちをニンジャのアタマに打ち込んで叫んだ。


「椎葉さん!」

「おら!テメエ!死んだならこの椎葉の命に従って残りを片付けて来い!」


 俺のレーザーを受けて座り込む様に死んでいたニンジャが跳ね起き、何と後ろに向かって駆け出した。


「後ろにもいるのかよ!」


 幸田さんが腹を刺されて非戦闘員と化しているショータローさんを庇う様な動きで後ろに回り込んで剣を構えたが…


グサ!グサ!


 その幸田さんの目の前に天井から現れたニンジャ2人が刀を刺した。


「幸田さん!」


 漸く坂本が我に帰り、刺されて声もなく棒立ちになった幸田さんの方へ慌てて駆け寄ろうとしたが、ニンジャに腰辺りを刺されて苦悶の表情で座り込んでいたショータローさんがズレ方最高角度で叫んだ。


「坂本!俺の方が先だ!」


 その声に坂本が思わず一瞬立ち止った瞬間…


バッシュ!


 幸田さんの首が跳ね跳んだ。


「きゃあああああ!」


 目の前で見た崎本が座り込んで悲鳴を上げる。

 それを嘲笑うかの如く1人のニンジャは壁に消え、もう1人が崎本の方を向く。


「ちっ!」


 それを見た林田さんも後ろに回り込もうとしたが、横の壁からニンジャがまたもヌルリと現れた。


「林田さん!右!」

「ちっ!おう!来いや!オラぁ!」


ギン!ギン!ギン!


 完全にキレた表情の林田さんが何と2人のニンジャの攻撃に応戦し、ニンジャ達は一歩後ろに下がってまたヌルリと壁に消える。


シュッ!


 が、1人が消える前に何かを投げ、それは林田さんの耳元を掠めてその後ろに飛んだ。


「…アゴオッ!」


 ニンジャの投げた手裏剣は刀の刺さった腹を押さえて膝立ちになっていたショータローさんの口の中に飛び込み、ショータローさんは変な声を上げてそのまま後に倒れた。


ボキン、ボキン


 膝立ちの変な恰好で真後ろに倒れたから骨が折れた音だろう。聞きたくもない音が変に静寂した周囲に響く。


「ショータローさん!」


 俺は思わず叫んだが、細長い手裏剣だか短刀だかが口から入り首まで突き抜けている高橋(翔)さんは絶命していた。


ゴロン。


 首が横に倒れて偶然、腰が抜けた様に座り込んでしまっていたレイナの方を向き、レイナが「ヒッ!」と短い悲鳴を上げる。


「海野君!場所分かる?」


 石原さんの叫びに完全に言葉足らずだったが、俺には意味が分かった。

 今回の探索で上の階の休憩室を探し出して来たのは俺ら高橋(翔)班だ。だから今回の目的地が俺は完全に分かる。

 

 俺が「分かります!」と答えると彼女は頷いて叫んだ。


「きりがないわ!みんな、逃げるわよ!」

「萩田さんはどうしますか!?」


 ナオヤの叫びに俺らは向こうに寝かされていた萩田さんを見た。

 俺らが襲われていたのは僅かな時間だ。萩田さんから目を離したのもその僅かな時間に過ぎない。


……けど、萩田さんには2本の刀が突き刺さっていた。


 それを見た俺らは一瞬沈黙した。

 萩田さんは元々重傷で意識も無かった。自分では身の守り様もない。だから坂本と佐藤さんが治療していたし、その間は3人纏めて俺らが守ってやるつもりではいたのだ。それがこのザマだ。

 全員が悔いや後悔までは昇華されていないショック受けて押し黙る沈黙の中、遠くでシイちゃんの死人ニンジャが戦っているらしい剣戟が響く。


タン!タン!タン!


 幸田さんの首が飛び、高橋(翔)さんが殺られ、いつの間にか萩田さんも殺られてるのを見てフリーズしている俺らとはあたかも無関係かの如く、天井から俺らと萩田さんの間に3人ものニンジャが軽快な足音で降りて来た。


 俺らは萩田さんの方を向いていたから全員がニンジャ達が下りて来たのが目に入ってはいた。

 けど、未だショックで呆然としていた。


 が、シイちゃんだけが「…っち!」と何か一瞬躊躇した様な舌打ちをして…そして叫んだ。


「死人を従える椎葉が命ずる!萩田さん!目の前のニンジャをぶち殺せ!」


 萩田さんが剣が刺さったまま跳ね起きた。


ドカン!


 そして残った左腕で物凄いパンチを放ち、ニンジャの1人を殴りつけて天井近くまで跳ね上げる。完全に九の字に折れ曲がって天井近くまで浮いたニンジャはそのままドサっと地面に落ちて動かない。


ドカ!ドカ!


 ニンジャ達もまさか完全にトドメを刺した後ろの死人が襲い掛かって来るとは想定していなかったのだろう。

 一瞬、反応が遅れた残る2人のニンジャにゾンビ萩田さんは足が折れてるはずなのに容赦のない物凄い蹴りをぶちかまし、ニンジャは車に轢かれたかのように壁に激突して膝をついて前に崩れ落ちる。


バン!バン!


 ゾンビ萩田さんは崩れた土下座の様な恰好で這いつくばった姿勢のニンジャに片足を引き摺る様な動作ながらも素早く駆け寄って、またもや容赦なく上から空き缶を踏み潰すかのようにその頭を踏み潰した。


「そのまま後ろを守れ!」


 シイちゃんの命令に、まだニンジャの姿は見えなかったがゾンビ萩田さんは後ろを向いてその場で片手だけだがファイティングポーズをとって仁王立ちした。

 足も折れてるから変に斜めになったポーズだったが、萩田さんの元々の戦闘力、それも今や自分の身を全く気にしない戦闘力なら暫くは持つだろう。


「ハルカちゃん!」


 石原さんの呼びかけはまたも言葉足らずだったが、その一言で佐藤さんは何を頼まれたかが分かったらしい。

 彼女は杖を握りしめて目を閉じて精神統一する。


「%&&$$…&&&…##…#$%…神の素早き行動を我が仲間に与えよ!」


 俺らの足が光る。

 説明は無かったが全員が意味が分かった。何らかの速度上昇のバフが掛けられたのだ。


「海野君!」


 石原さんの声に俺は頷いた。最早、探索には出ておらず休憩室の場所など全く分からないレイナを除けば、案内出来る高橋(翔)班の生き残りは俺とマサさんだけだ。


「みんな、俺に続け!」


 走り出そうとした俺の一歩前に前に何故かマサさんが出た。

 そして両手を前に構える。


「…$$…魔を打ち倒す怒りを秘めた青い炎よ!死の螺旋を描いて我の前を焼き尽くせ!」


 再び炎の渦が俺らの前方を舐め尽す。

 これでニンジャ全員が殺れたかは分からないが、先々まではともかく、少なくとも見える範囲にはいないだろう。


 正田さんが魔法で取り敢えず見える周辺を一掃して俺の方を向いて頷き、俺が走り出すとシイちゃんが、今度は何の迷いもなく叫ぶ。


「死人を従える椎葉が命ずる!新宮さん!タカトの前、頼みます!」


 死んで倒れ伏していた新宮さんがこれまた喉に短刀が刺さったまま弾かれた様に立ち上がり、槍を片手にあっという間に俺を追い抜いて俺の少し前を走りだした。


「逃げんぞ!みんな走れ!海野の後に続け!」


 林田さんが近場にいた佐藤ハルカさんの手を掴みながら叫び、シイちゃんも含めた全員が走り出した。



 地上に出て、勇者組として戦っていた時は逃げた事はないし、逃げるなんて立場的にも許されない場合も多かった。


 けどこの時は逃げた。そしてなんとか逃げ切った。

 それまで一度もなかった「逃げる」という決断を下した石原さんには感謝だ。


 普段は前に立って何かするって感じじゃなかったけど、いざって時に正しく即断出来て指示も発したリケジョ石原さんは、社会に出れば頼れる技術者になったんだろうな、と思う。


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