042 初回の落とし穴
温泉の町ホッシーで温泉の他諸々(?)を堪能した俺らは翌日には予定通り渡し守を探した。
とは言っても、観光地でもあるホッシーはここらでは大きな町で、河岸の港らしき場所に行くと幾つもの業者が運営しており、俺らはただ適当な業者を選ぶだけだった。河の反対側からも観光客が来るんだろうなあ。
温泉宿こそ自分達へのご褒美&クラウの初温泉体験の為に少し値の張った場所を選んだが、目先の金に余裕があるからといって別に散財するつもりはない。
だが、河にリザードマンが巣くっているのは今も昔も変わらず、渡し守の料金差は乗り心地とヤツらへの対応度合いに比例していた。
しかもどちらもPCの性能と同じで急角度な正比例だ。
高性能なCPUを使っている機種はディスプレイも良いモノを使っていて軽くて薄くてメモリーもバッテリー容量も充分で使い易い。その代わり10年前から値段が全く下がることなく非常に高価だ。
だが安物は安物のCPUを使っている分、値段が安いことだけが取り柄で、演算能力は低く3D表示はカクついて止まり、ディスプレイは額縁が妙に太くて実際に映る画面は狭く、液晶も安物でコントラストも悪い。その上、デカくて重い割にバッテリーは長持ちしない。
高価だが値段以上に高性能で軽くて薄いコスパの良いPCを販促費をかけない通販で法人に大量に売り込む事に注力した海外メーカーに対し、中途半端な性能なのに海外メーカーより高価なマシンを家電量販店で情弱な個人へ騙し売りし、企業向けには安いだけが取り柄の低性能で重くて画面が狭くてバッテリーが長持ちしないマシンを持ち込んだ日本メーカーの多くは滅んだ。生き残ったのは法人向けに丈夫、あるいはスタイリッシュに特化したメーカーやゲーミングやデイトレーダーなど超高性能なPCを性能最重視で高い価格も厭わない少数の個人への販売に絞り込んだメーカーだけだ。
それと同じで乗り心地のいい船は広くて快適でC、Dクラス相当の魔術師に加え弓師、剣士まで乗せている場合もあって防御も完璧だが、船賃は高い。
逆に安い船は小さく乗り心地の悪さは我慢するにしてもレベルの低い魔法使いしか乗っていないから魔物襲来には大いに不安がある。中には激安だが小舟程度の大きさで護衛はおろか守りの護符も持たずにリザードマンが現れればスピードと操船テクニックで逃げ切り勝負、という猛者もいる。
いずれにせよ前回は方向は反対だったが、あまり選択の余地がなかったのに比べ、今回のホッシーの町ではそこそこに選べたから、俺はクラウの意見も聞きながら、この町の基準では上の下くらいのレベルの船に乗った。
とにかく今は金はあるのだ。
結果だけみればビッグヘッド討伐で体を張った甲斐はあったというものだ。
ちなみに前回はお約束の様にBクラスの変種、リザードジェネラルの率いる約50匹もの群れに襲い掛かられ、守りの護符はほぼ役に立たず、船の護衛役の半端なDクラスの白魔法使いの結界も簡単にぶち破られた。
リリアの結界展開も間に合わず、一斉に襲ってきた彼らに対し、もう1人の護衛のEクラスの剣士は今思えばEクラスとしてはそれ程悪くなく、Bクラスのリザードジェネラルと何と正面から三合も打ち合ったが、結果的にはアッサリ殺られた。
結局は俺らが戦うハメになり、まずは俺がレーザーで5匹程殺って、マサさんが高圧の水魔法で20匹程を一気にぶっ飛ばした。レーザーでキレイに(?)死んだ5匹はいつものようにシイちゃんがゾンビとして再利用して操り、残りを掃討した。こういう数多い敵の場合、倒せば倒す程、味方の増えるシイちゃんの死人使いの技は絶大な威力を発揮する。
ザコは比較的早めに何とかなったが、やはり最後まで残った親玉のリザードジェネラルには手を焼いた。
リリアですら素早く動き回るヤツの強力な攻撃から船全体を守る結界は張れず、襲ってきた箇所に部分的にシールドするのが精一杯で、しかもその物理攻撃が物凄い。リリアの結界がなかったら俺らは無事でも2、3撃で船の方が沈んでいただろう。
結局、極めて視界の効かない水の中を水上バイク同然のスピードで動き回って攻撃してくるリザードジェネラルに対し、まずはマサさんが強力な魔法で水面を凍らせて、ヤツの全身が水上に出たところをアイーシャ、レニが剣、ミリーが弓、そして俺がレーザーで総攻撃して倒した。
2m以上のガタイでしかも水中でもないのに素早く、その上、頑丈なヤツにはミリーの弓も俺のレーザーも一発で急所というわけにはいかない。おまけに対毒耐性が高くミリーの毒矢が掠っても何も起きない。魔法に弱いと聞いていたが、素早い単体の相手には詠唱が必要なマサさんの魔法は相性が良くない。下手に広域魔法でも使えば俺らの船や周囲の他の船を巻き込んでしまう可能性もある。
結局はアイーシャ、レニが接近して攻撃してくるヤツを散々斬り散らかして動きが落ちたところで俺が手足をレーザーでぶち抜き、動きが止まった瞬間に最後にミリーが急所に矢をぶっこんで漸くトドメが刺せた。
そうそう、あの時に滅茶苦茶苦労したから、その後は素早い動作、あるいは体が崩れた状態でも如何に正確に狙いをつけるかをよく練習するようになったんだったなあ。
が、これもお約束の様に今回はそんな事も全くなく、一応、船長(?)からは魔獣が船まで来た場合には冒険者の方々は手伝って下さいね、といったお願いもあったが、何も襲って来なかった。
護衛もCの魔法使い2人にDの弓師1人と長距離砲は足りていたから、前回みたくリザードジェネラルクラスが来なければ俺らの出番などなく、結界の外側で悠々始末出来ただろう。
そうは言っても俺は前回の記憶あるから少し緊張しながら、いつでも戦える様に密かにボウガンを用意していたけど、クラウなんか手摺に凭れて雄大な河を気持ちよさそうに眺めながら鼻唄交じりで短い船旅を楽しんでいた。
…いや、楽な旅に何の文句もないけどね。
こうして前回とは全然異なり至極平和にビックウェル河を渡った後も旅は続く。
ビックウェルを渡ってからの旅もそこそこに順調だった。
俺とクラウの組み合わせは何度も言う様に長短のいい組み合わせだからEやDなら多少の群れでも問題なく突破出来る。Cの場合でも単体なら何とでもなる。Cが群れてくるとちょい厄介だが、そんなのは滅多にいないので遭わなかった。
えらく順調だな。
旅の途中の野営で火の番をしながら俺は考えていた。クラウは先にテントで寝ている。3時間後ぐらいに起こして番を代わって貰う予定だ。2人だとこういう事も出来て、やはりうんと楽だ。
魔王城までの3人プラス4人の7人での旅も楽ではなかったが、その前の試練の迷宮の方が今考えれば3か月程の短い間だったがもっと大変だった。なんせ10人近くも死んだのだ。
俺らは幸田さんを中心に3班に分かれて探索を続け、途中でメンバーからリタイア組が出たりしながらも、30階層まではまあ順調に登っていた。
けど落とし穴は31階層に行く途中にあった。
31階層までの階段を発見し、その後、31階層の休憩室も発見した俺らは、いつもの様に全班一緒に集団でぞろぞろと休憩室へ向かっていた。
小回りは班毎の方が利くのだが、休憩室には全員が早く移動したい。班毎だと最後の班が何となく不安になるので休憩室行きだけは全員で移動する事にしていた。幸田さんはこういう人の機微にもちゃんと気が回せる人だ。
普段の様に探索で歩き回る必要なく真っすぐ休憩室だが、今は足手纏いにしかならないリタイア組3人も一緒なので小回りより頭数で防御を固めた方がいいという判断もある。
ここまでは休憩室への移動中で襲われた事はなかったが、それがこの31階層で破られたのだ。
全員で移動する時の隊列は予め相談して決められていた。
先頭を歩くのは物理戦闘力のある槍の新宮と剣士林田。戦闘力と言う意味では同じく剣士の幸田さんでもいいのだが、彼はリーダーなので一応二列目に控え、いざとなれば戦闘指揮の予定だ。
俺の位置は幸田さんの少し後ろの2.5列目というところ。その頃なら既にかなりレーザーも習熟し、最後列でも良かったけど射程の短かった頃に決まった定位置だ。弱い魔獣なら連発で倒す事も可能なので前列もそんなに問題ない。
横にはシイちゃんがいる。先頭陣が倒した魔獣をすぐさまゾンビ化して操る為だ。
そして後ろには魔法使いの石原さん、マサさんが控え、その後ろに白魔法使い佐藤さんと聖者の坂本がいる。彼らは戦闘になれば魔法攻撃陣より前に出て先頭陣にバフをかけ、その間に魔法攻撃陣が詠唱、怪我人が出れば近くに駆け寄って治療する役目だ。
そして最後列にはリタイア組3人と格闘家萩田さん、棒術士高橋(翔)さんがいる。リタイア組以外の2人は後方の見張りだ。
皆で相談し、幸田先生が決定したこの陣形で俺らはいつも通り進んでいた。
これまで、全員で移動していた時に問題が起きた事はない。が、この時、初めてその全勝記録が破られた。
「…!!何かいる!」
先頭を歩いてた新宮さんが鋭く小声で言って俺らは全員が止まった。
「…?…よく見えないッスね。」
林田さんも剣を構えながら前を見た。俺らも緊張して前を見たが暗くてよく分からない。
迷宮内は街灯宜しく一定間隔でボウっと光る石が上方にあって通路を照らしているが、それこそ暗い夜道と一緒ぐらいにしか先は見えない。
ヒュッ!!
小さく風切り音が聞こえ、先頭で同じく目を凝らした様子だった新宮さんが「うっ!」と言って固まった。
「?……どうした?新宮さん??」
幸田さんが後ろから声を掛けると新宮さんの膝がガクンと崩れ落ち、槍を取り落としてドサリと前に倒れた。
「!……新宮さん!!!」
同じく先陣で横にいた林田さんが腰を屈めて倒れた新宮さんの方を向いた瞬間、その上を何か小さく光るものが通り過ぎた。
キンッ!!
幸田さんが咄嗟に抜刀して飛んできた何かを弾く。
「前に何か来た!」
シイちゃんが叫ぶ。前方を見ると7、8m程離れた所に黒っぽい何かが何故かボンヤリ見える。
「海野君!」
幸田さんが叫ぶ。弓師アオイがリタイアした今は詠唱無しの長距離砲は俺一人だ。
俺は手をそのボンヤリした何かの方に向けた。
ビッ!!ドサッ!
ボンヤリした何かは俺のレーザーに撃ち抜かれて倒れる。倒れると何故かボンヤリしたものがハッキリ見える様になった。黒っぽい服を着た人型だ。
倒れた新宮さんの様子を見ようと隣に跪いていた林田さんが、そのままの姿勢で倒れた人型を見て叫んだ。
「ニンジャだ!」
「「「ニンジャ!?」」」
俺らが驚きの声を挙げた瞬間、今度は斜め上から何かが降ってくる。
咄嗟に俺が指をそちらに向けてレーザーを放つ。
ビッ!
碌に狙いも付けなかったレーザーは上から攻撃してきたニンジャの右腕を貫く様に当たり、ニンジャは弾かれた様に一歩後ろに着地した。
ザクッ!!
そのニンジャを立ち上がった林田さんが素早く後ろから斬り倒す。
「椎葉さん!」
「おう!オメエらにこの椎葉が命ずる!敵を殺せ!」
林田さんの叫びにシイちゃんが素早く呼応して死体に命令すると、2人のニンジャの死体は電気を流されたカエルの様にビクッと立ち上がった。そして前方へ走っていく。
「坂本君!」
幸田さんの叫びに坂本がこれまた素早く「はい!」と返事をしながら、うつ伏せに倒れてピクリともしない新宮さんの方に駆け寄って仰向けにしたが、そのまま固まった。
俺も横目で見て坂本が固まった理由が分かった。
新宮さんの喉には投げナイフの様な刃物がキレイに、深々と突き刺さっていた。
それを見た幸田さんの顔が見た事がない形に歪んだ。
「…!…チクショウ!」
グサッ!
その時、横の壁から刀が突き出て来て、幸田さんの脇腹に刺さる。
「…!……ああっ!なんだ!テメエ!!」
ザクッ!
いつもは先生らしい落ち着いた感じの幸田さんは、らしくない怒声を上げながら壁に偽装して潜み、不意打ちを喰らわせてきたニンジャを一刀で斬り倒した。
が、そのまま片膝をついた所に佐藤さんが「幸田さん!」と叫んで血相を変えて駆け寄った。
「神の恩寵の下に…」
「…ウウ…クッ…ま、待て!まずは刀を抜く!」
幸田さんが苦しそうに言いながらも自分の脇腹に刺さった刀に手を掛けて、佐藤さんの詠唱を止める。
ギャンギャンギャンギャン……
見えない前方では何かと何かが斬り合ってる音が聞こえるが、またユラリと3体程のボンヤリした影が目の前に現れる。
「おおおおおおおお!!!!」
林田さんが剣を振り被って叫びながら突撃した。
それを見たシイちゃんが慌てて叫ぶ。
「バカヤロウ!お前も行け!」
シイちゃんの怒鳴り声に、たった今、幸田さんに斬り倒されたニンジャが素早く起き上がり、林田さんの方へ駆けていく。
俺も林田さんの加勢をしようと一歩前に出た瞬間だった。
ドシン!ドシン!ドシン!ドシン!…
後ろから大きな音が響き渡る。
「今度はナニ!?」
リタイア組の崎本が悲鳴の様な声を挙げて後ろを見る。
すると背後の暗闇から3m程の大きな影が現れた。それを見た高橋(翔)さんが金棒を構えながら叫ぶ。
「ゴーレムだ!」
ちっ!どっから来やがった!?
前から後ろからって俺はどっちに加勢したらいい!?
前衛…と言っても今や林田さんだけだが…はニンジャ隊と戦闘中で指揮官の幸田さんは漸く刀を腹から抜いて佐藤さんが治療中だ。指揮をする余裕はない。後衛だけで何とかするしかないが、必要な時に必要な行動の取れない高橋(翔)さんは金棒を構えはしたものの指示を出す素振りはない。
俺が一瞬迷っている間に、後衛リーダーの高橋(翔)さんの指示はないまま、ペッ!っと萩田さんがツバを吐いてズゴゴゴと迫るゴーレムの正面に立って腰を落とした。
「セイヤー!」
ゴン!という音がして萩田さんの正拳突きがゴーレムの腹辺りに決まり、ゴーレムの腹に小さなヒビが入って一瞬動きが止まった。
「…!ちっ!コイツ、固ってえ!」
萩田さんが呆れた様に言った瞬間、ゴーレムは萩田さんの腕をガッチリ掴んだ。
メキッ!ボキボキボキ!!
「あああああああ!!!」
骨の砕ける音がして萩田さんの悲鳴が響き渡った。
「萩田さん!」
「う、海野おおお!助けろおおおお!」
俺がゴーレムに指を向けたがレーザーを発する前にショータローさんがワザとではないかも知れないが俺の射線を塞ぐように飛び出して、金棒を振り上げた。
「おらあ!!」
バキッ!!
高橋(翔)さんの重そうな一撃はゴーレムの肩当たりに決まった。
ゴブリンやらサーペントの類なら一撃でアタマが潰れていただろう。だが、硬いゴーレムの肩には少しヒビが入った程度で、ゴーレムは今度は高橋さんの方を向いて片手に握った萩田さんを振り回して攻撃して来た。
「「「「わああああ!」」」」
高橋さんも俺もリタイア組も後退って避けたが、ゴーレムはそんな事お構いなしに滅茶苦茶に萩田さんを振り回す。
ゴン!ガン!ゴン!ゴン!ゴン!
「ウゴ!」「アガ!」「テメ!ヤメ…ガフ!」「コノ野ロ…グゴ!」
萩田さんはされるがまま周囲の壁や地面に叩きつけられる。
ブチッ!!
「うわああ!!」
やがて萩田さんの腕が千切れ、萩田さんはゴーレムの手の中に腕を残したまま、飛ばされて壁に叩きつけられる。俺らは慌ててそれを避けた。
「坂本お!コッチ、何とかしろ!」
流石にいつもの何となく頼りなげな表情はどこへやら、鬼の形相でショータローさんが死んだ新宮さんの横で呆然としていた坂本に怒鳴り、彼は「は、はい…」と言いながら、投げ捨てられた壁際であちこちが変な形になって身動きもせず横たわる萩田さんの方に慌てて寄って行く。
ゴーレムは手の中に残った萩田さんの腕をつまらなそうにポイっと後ろに投げ捨て、俺と高橋(翔)さんの方を向いた。
「!!!」
ショータローさんの指示はなくとも阿吽の呼吸で、何時もの戦闘と同様にショータローさんが一歩前で金棒を構え、俺が半歩後ろで指をゴーレムに向けて咄嗟に迎え撃つ体制をとった。
「チクショー!!!」
ガン!
思い切り振り被った高橋(翔)さんの怒りの一撃が今度は反対の肩に炸裂して、またゴーレムにはヒビが入る。けど機能は停止せず、ゴーレムは戦闘姿勢で拳を振り上げた。
「下がって!」
ビリビリビリビリビリ!!!
佐藤さんが叫び、俺と高橋(翔)さんが反射で後ろにすっ飛ぶと石原さんの雷魔法がゴーレムに炸裂する。
バリ!バリ!バリ!
石原さんの雷魔法をモロに喰らったゴーレムは火花を散らしながら棒立ちになり、表面がバリバリとあちこち剥がれる。
薄皮一枚(?)剥がれた胸に赤く光る点を見た俺は指を向けて精神を集中した。
ビッ!!
……ズガン!!!!
核を撃ち抜かれたゴーレムは機能を停止して大きな音を立てて倒れた。
「林田さん!後ろまで下がってください!」
背後から襲ってきたゴーレムを避けてマサさんの近くまで移動していた直哉の大声に、先頭でシイちゃんのゾンビニンジャと共に3体の敵ニンジャを相手にしていた林田さんはクルリと彼らに背を向けて真っすぐこちらに走って戻る。
「……い炎よ!死の螺旋を描いて我の前を焼き尽くせ!」
ゴオオオオオオオオオオ!!!!!
ドラム缶程の太さの炎の筒がマサさんの言葉通りの螺旋を描きながら迷宮の廊下を駆け抜けて行った。敵ニンジャもゾンビニンジャも1人残らず炎に巻かれて消滅する。
周囲に静寂が戻った。




