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風任せで人任せな俺がここにいる理由  作者: 明月 文


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041 今回は自分達だけで決めた旅立ち

 結局、米沢は4層上がった10層一歩手前でゴーレムに捕まり、手足をもがれ、最期はペシャンコに踏み潰されて呆気なく死んだ。

 戦闘ではあまり役に立ったとは言えなかったが、福井を支えると言い続け、戦闘以外の部分では皆を落ち着かせる役割を果たしていた堺も、半分の25層を過ぎたところで何か強そうな鎧を着こんだ大きなコブリン(当時の彼らは正確な名称を知らなかったがゴブリンジェネラルである)に一瞬で首を跳ね飛ばされて死んだ。


 残ったのは物理戦闘力のある福井と松本、それに後衛の魔法使い江東だった。この3人で、3人だけで実に20層以上、半分近くを踏破して試練の迷宮を這い出て来たのだ。

 そしてその頃には3人は福井をリーダーとして行動する体制が出来上がっていたのだった。



 江東がマイチング先輩、と口を開いた。


「お付きの護衛、断って良かったんですか?」


 試練の迷宮から這い上がり、その後にあった国王 with 重臣達との謁見の場で、残り2人に図る事無く、即答で断った福井が言った。


「護衛とか言って、アタシらを魔王のトコに早く行かせる為だけでしょ。アタシらにとっていい事殆どないし。」


 福井の言葉に同意する様に松本が薄く笑った。


 小柄な彼はそもそも荒事は苦手だ。腕力で物事を解決しようと考えた事は殆どない。なので最初は格闘家という超近接物理攻撃職に馴染めず苦労していたが、徐々に慣れて今は自信を持って前衛を務めている。

 今はむしろ彼が先頭切ってまず特攻、小柄な身体も活かして前線で動き回り暴れ散らかし、魔獣の隊列(?)が乱れたところに福井がザクザク斬り捨て、江東の魔法が準備が出来たところで残りを魔法で薙ぎ払うというのが通常の攻撃パターンだ。

 ケガを治し、ガードを固める白魔法使いのいない彼女達の戦闘スタイルは、常に相手の即時殲滅だけを図る正に「攻撃こそ最大の防御なり」だった。


「後ろから竹刀持って追いかけてくる鬼コーチみてえなモンすかね?」

「そこまでは言わないけどペースメーカーかな?自分達は途中でいなくなってもいいからコッチの都合は考えずに勝手にペース上げるみたいな?」


 陸上部出身の福井らしい例えに2人は乾いた感じでハハハと笑った。


「護衛なんかいなくたって今のアタシらは大概は負けない。」

「そうっすね。」


 福井の力強い言葉に松本も同意し、江東も頷く。

 だから護衛と称して自分達に指図するうっとおしい連中など不要だ。


「そう言えばさ…」


 江東がまたボソッと呟いた。


「最初にいなくなった…えっと…サトーさん?ってどうなったのかな?」


 誰も知らないかと思いきや福井が言った。


「誰も特に詳しい説明とかはないけど、結局、捕まんなかったっぽい。なんかとっとと町からも逃げちゃったって。」

「タダのリーマンっぽかったから、町出たはいいけど今頃フツーにどっかで死んでんじゃね?」


 松本が冷たい感想を吐き捨てる様に言い、福井が苦笑いした。

 松本が言う通り海野は見た目は唯のサラリーマンだったし、米沢の様に体格がいいわけでもなかった。そして試練の迷宮で彼らが学んだのは、そんなんではこの世界ではとても生きていけない、という現実だ。

 海野が2周目であるなんて全く知らない、そしてこの世界の現実を身に沁みて知った彼からすれば当然の感想だ。そしてどう見ても一番の年長者だったのに彼らを見捨てて1人で逃げてしまった海野にいい思いなどカケラもない。反面で直ぐにいなくなったせいで思い出も薄かったから、シねばいいのに、とまでは思わないが、彼女達からすれば大人なのに最初から全くヤる気の無さそうな態度も好感の持てるものではなかった。


 但し、松本の怒りは逃げたサトーに向いているのではない。今の自分達とは何の関係もない話を訊いた江東に向いていた。

 江東の後ろ盾になっていた米沢が死んで以来、松本は常にトンチンカンな発言の目立つ江東に対する苛立ちを隠さなくなっていた。


 一方の江東の方は、目の前で米沢がスピード違反速度でドリフト走行中のヤンキー車に面白半分で弾き飛ばされたカエルの様に手足が千切れ飛び、その後に対向車線を走ってきた会社方針として道交法を守る気のない何とか便のトラックに勢いよく轢かれたかのように簡単にペシャンコの血の塊になったのを見て、やっと現実を理解した。今までの自分、不得意な事、気が向かない事は他人にお願いしてやって貰うという自分ではここでは生き残れないかも知れないという現実をだ。

 しかも手練手管でお願いの利く米沢はもういない。クラスでならカーストの力で言う事を利かせられたはずの松本はもうここでは彼女の言う事を聞く気はないのは明らかだ。


 元々彼女は勉強は苦手だし嫌いだ。

 しかし、それどころではない。

 敵が倒せなければ死ぬのだ。学校の期末テストとは次元が違うのだ。


 彼女は彼女なりに必死に黒魔法を覚え始めた。

 彼女的には高校受験以来といっていい猛勉強と言って良かった。


 実際に冷静に考えれば、勉強が苦手な割に底辺校ではなく、松本と同じ学校には滑り込んでいるのだ。持っている地頭は実はそれ程悪くはなかった。

 しかしながら成績の悪い人間の大概は、勉強が苦手である事もさることながら勉強法が極めて効率が悪い事が多い。

 逆にトップ進学校の人間達は常日頃から勉強そのものと同じくらい自分に合った参考書探し、自分で出来る最も効率の良い勉強方法を工夫する事にアタマを使っている事が多い。

 東大生のノートはキレイ、と言われるのは彼らが真面目に勉強しているからではない。彼らは普段は多少面倒でもキレイに整理してノートを書けば試験前に見直す時に効率がいい事を知っているのだ。そして自分が何が分かり、何が分かってないかを常に把握しながら分からない部分のみを詳細に丁寧にメモり、今、目の前の先生が教えている話のどこが重要点かを常に判断しながらその場でノートを整理できる高い事務処理能力があるのだ。

 普通の生徒は遊び、部活の合間に勉強しているが、トップ進学校の連中は基本は全て勉強だから、それを効率よく短時間でこなして遊び、部活の時間を捻り出しているのだ。


 江東的には一生懸命と言ってよかったが、トップ進学校の生徒でも何でもなく所詮は同じ学校の同級生に過ぎない松本の目から見ても、江東の黒魔法の勉強は効率が悪かった。つか悪過ぎた。


 そして、それにシビレを切らした松本が途中から手伝いはじめた。

 試験勉強と違って事は江東だけの問題ではなく、彼女の魔法の出来不出来は彼ら全員の命に関わるのだ。


 紆余曲折はあったものの。目覚めた江東自身の努力、そして松本のフォローによって、彼女の黒魔法は漸く30階層、40階層の魔物達に通用するところまで上がった。だからこそ迷宮を突破出来たのだ。


 以来、2人の仲は昔程には悪くない。

 もっとも、迷宮をたった3人で突破しなくてはいけなかった彼らはいがみ合ってる場合ではなかったのも確かで、学校では小柄というだけで常に小馬鹿にした目で相手にもされてなかったが、今や自分の方が優位に立った松本の方も、反対に学校にいる頃は松本なんで公園の1970年代に設置されたまま放置されている犬の小便で錆びて朽ちて腐りかけのベンチ程にも眼中になく、女の子にありがちな自分の好みでないものは全否定する態度で、何か彼女に迷惑を掛けていたわけでもないのにキモいからとっととシネとしか思っていなかった江東の方も、ハラの底ではどう思っているかは分からなかったが。


 そんな微妙な感じの残る2人を率いる福井の方はすっかりリーダー、彼女の言う所の主将としての役割に馴染んでいた。


「一応、アタシら勇者って事で魔王退治には行くけど…」

「魔王、倒せば日本に帰れるっぽかったしね。」


 松本の相槌に江東が反応する。


「日本に帰れる!」

「だから魔王斃したらって話だろ。お前、何見てんだよ!」


 うんざりした様に松本が言った。

 彼らは、迷宮の最終層近くで、魔王を倒した成果として勇者達が元の世界に帰った様子を描いた、凄く分かり易い説明壁画を発見していた。松本が「見た」と言ってるのはソレだ。

 彼女らは勿論知らなかったが、海野達もその壁画を見て、魔王を斃せば日本…かどうかは知らないが元の世界へ帰れそうだ、と思ったのだ。


 松本の冷たい言い方に対し、江東はと言えばちょっと口を尖らせて言い返した。


「分かってるわよ!ちょっと嬉しかっただけじゃん!」


 以前との違いはここでモロに険悪な空気にはならない点だ。

 江東は(多少引き攣り気味だが)半笑いぐらいで言い返し、対する松本も「だよな。ごめん、ちょっと言い過ぎた」という風に苦笑いを返した。江東はともかく、松本は元々他人を責めきったり論破して楽しむような人の悪さは持っていない、


「王様…ブライアン様はなる早でって言ってたし、アタシらもなる早で帰りたいけど、正直、どうなるかは分からない。」


 死んでしまった堺が「バイト先のリーダーみたいな」と評していた若き国王ブライアンは、軽い感じでとにかく「とっとと魔王退治に出発せよ!」という態度ではあったが、ただそれだけである。

 護衛を付けたらどうか、と言ったのも彼ではなく周囲の偉そうかつ超陰険そうな誰かで、その思い付きの様な発言に対し彼は「そうだな。必要ならそうせい」と軽い感じで同意しただけだ。しかも護衛と称して横に付けて彼女達を確実に魔王退治に駆り立てようとする陰険大臣の意図を読み切った福井が断れば、「そうか」とアッサリ引っ込めた。

 資金援助も松本の方から願い出て、これもその場でアッサリ許可されただけ。唯の学生に過ぎない福井たちの目から見ても、先々を深く考えて発言されてるようには全然見えなかった。


 こういう所がまるでパーではないにせよ、優秀で経験豊かでデキないヤツが嫌いなブルックス宰相からは経験不足、能力不足、事の重要性が理解出来ておらずお言葉が軽すぎる、ご親政あそばされるなら20年後ぐらいが適当でしょう、と見られていたのだ。


「だから魔王のいる南には向かうけど、最初のうちはスローペースで入って用心しながら向かおうと思う。」


 陸上部的なリーダーの言葉に残る2人も頷く。


「急がば回れってヤツッスね。」


 松本が言い、福井も頷いた。


 彼らは知らなかったがそもそも海野達の場合は当初は頭数もいた。

 その上、指揮を執ったのは名門大学卒業間近の幸田だった。

 優秀な彼は、幅は狭いが広さのある迷宮の階層を大人数でゾロゾロとウロウロしても効率が悪いと正しく、しかも早々に判断した。

 なので、幸田は彼らを3つに班分け、しかもまだ互いの能力がよく分かっていなかった段階にも関わらず、戦力がほぼ均等になる様に上手く班を分けた。


その上で、


  1)まず上層階への階段を探す

  2)探したら一旦戻って英気を養い、次の探索では上層階で休憩室を探す

  3)休憩室が見付かった段階で全員で周囲を警戒しながら素早く移動する


と明確かつ簡潔な目標、手順を全員に理解させ、毎日、夕食時に合わせてミーティングを開いて情報を共有、極めてタイパよく行動した。

 名門大学出身の面目躍如である。彼が中学校の先生になっていたら頼り甲斐のあるいい先生になっただろうし、その間違いのないリーダーシップで新宮、石原、萩田らも従えていたのだ。


 が、元々5人しかいなかった福井達は分散して1日で広範囲を探索する事も出来ず、初期はリーダーもハッキリしなかったから明確な方針も立てられずに闇雲にウロウロするだけで、階層探索に時間が掛かった。


 しかも戦力的にも問題があった。


 海野達の場合も、海野、高橋(直)、橋本レイナと役立たずが3人いたが、海野と高橋(直)は別班で橋本レイナはヤル気がないだけで自分の身を守る意味目的で魔法はそこそこ使えたから戦力にならんことはなかった。途中で離脱した弓師崎本も初期には充分戦力になっていた。投擲の高橋(直)は敵は倒すことこそ出来ないが堺と同じく攪乱要員としては使えた。

 ところがこの5人組の場合、奇術師米沢が奇術を使わず田舎町のチンピラ程度の腕力に頼りきりで最初期のごく短い間を除けば全く使い物にならず、堺は高橋(直)と同じく能力の適正な使い方が分からず、魔法を覚えようとしない江東は橋本レイナよりも全然使えない状態で、初手から実質戦っているのは福井と松本だけだった。だから単発の戦闘自体にも時間が掛かった。

 加えてケガを途中で治せる白魔法使いがいない彼らはケガをすれば休憩室まで戻って治療するしかなく、休憩室にあった高度な魔道具を使ってもそれだけで2、3日ロスる事もザラ。挙句、半分ぐらいの階層を3人で踏破せざるを得ず、海野達が結果的に10人近くを使い潰したとはいえ3か月程で這い出て来たのに比べて、彼らは実に半年以上を費やして命からがら迷宮を踏破したのだ。


 だが悪い事ばかりではない。


 これも彼女達は理解していなかったが、海野達の2倍もの間、迷宮で戦っていた彼女達は、迷宮から出て来たばかりの海野達より遥かに高レベルではあった。特にこの3人は3人だけで半分程の階層を突破してきているのだ。


 そこまでは分かっていなかったが、迷宮初期の頃に比べて自分達が強いのは分かっている。

 そして海野達より経験が豊富な分、同時に慎重に慎重を重ねてもヤバい時はヤバいのもよく分かっている。


「マイチング先輩、具体的にはどうすんすか?」


 江東の問いに大雑把ながら3人の主将である福井は答えを用意していた。

 今やこの小パーティーを率いるリーダーとしてキチンと答えを用意出来るようになっていた。


「ほら、ラノベとかでよくある冒険者ギルドってこの世界でもあるらしいの。だからそこで冒険者登録して、魔物を斃しながら進もうと思うのよね。その方が経験値って言うのかな、色々慣れてくると思うから。地上と迷宮はまた勝手が違うだろうし。」

「途中で必要な金も稼げそうっすよね。」


 松本も賛成し、福井達は勇者組と言われる割には特に誰に見送られるでも逆に見咎められるもなく、勝手に3人だけで城から出発し、冒険者ギルドへ向かった。


 これを見ても分かる通り、国王ブライアンの彼女達に対する扱いは実に雑だった。

 本当に召喚しないよりした方がマシじゃん程度の認識で国として本気で、全面的に彼らをバックアップしようという体制もとられず、海野達を送り出したガリシアの国王の様に外交や国内治安維持に利用し尽くそうという思想もなかった。


 そういう理解の延長線上で考えれば、護衛を付けようという話も、国王自身には彼女達を見張って間違いなく魔王退治に向かわせようという裏もなく、福井が裏読みして言下に断ったのがアッサリ通ったのも彼自身は「援助を断るとは奇特なヤツだ」ぐらいの認識だったのかも知れない。


 何はともあれ彼女達はギルドに出向き、普通に冒険者登録をした。

 彼女達から城から来たとも異界からの勇者(?)であるとも説明したりはしないので、普通に最低ランクであるEクラスの登録だ。


 ギルドの受付は3人分の手続き済ませ、掲示板の場所とか彼らに一通りお約束の説明をした後に何かを思い出した様にボソッと言った。


「ああ~半年ぐれえ前かなあ。上の方がオメエらみてえな黒目黒髪の冒険者を追い回してた事があったなあ。」

「?」


 何を言われているのかよく分からない、という顔をした福井の顔をジロジロ見ながら受付は続けた。


「まー相手は男1人だったしオメエらとは関係ねえけどな。」


 福井は「?」というままだったが、松本がピンと来て訊いた。


「何て名前の男を追いかけてたんすか?」


 対する受付は自分から話を振っておいていい加減な感じで「ん~」と考え込んだ。

 彼にとっては所詮は雑談なのだ。


「ん~もう半年か、いやもっと…1年ぐらいか、そんぐらい前だからなあ……えっと何だったけなあ…ああ~確かアンジエラ何とかってヤツだったかなあ。」


 ギルドからすれば、海野の本名はおろかサトータカシの名前もほぼ聞いてないに等しい。

 海野がギルドで登録した名前はアル・ニージゲンであるし、その後、官憲がギルドで記録をひっくり返して調べたのはアンジエラ・タマスという名の冒険者だ。


 なので、事をいい加減にしか覚えていなかった受付は、意識せずして海野が描いた情報工作に見事に引っ掛かり、一番、アタマに残っていた名前を言っただけだ。

 海野が画策した情報攪乱工作は完全に上手くいったとは言えなかったが、とにかく後々までその界隈を混乱させ続けたのは確かだった。


 海野のタチの悪い、この世界の知識を悪用だけした情報工作など勿論、福井達は知らない。

 なので直接訊いた松本と後から話に追いついた福井、それに未だ何の話をしているかも分かっていない江東は「?」という感じで顔を見合わせた。


 知らない子ですね。


 福井達はサトータカシこと海野の事は全くアタマから消し去って自分達の戦いへ旅立ったのだった。


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