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風任せで人任せな俺がここにいる理由  作者: 明月 文


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040 今回の内輪揉め

この3人は30数話ぶりの登場です。読者の皆様は覚えておられますか?(笑)

「どうするかちょっと考えよっか。」


 迷宮から生還した福井、松本、江東は王宮に用意された部屋に集まり、その場で福井が言った。彼女の言葉に残り2人も異を唱える事無く頷く。


 3人組のリーダーは剣士福井だ。

 年上という事もあるし、彼女は前衛を務める剣士で残る2人は黒魔術師、格闘家という攻撃一辺倒のパーティーにおいて戦闘時においては真っ先に指示を出す立場、というのもある。

 彼女達は福井を彼女曰く「主将」として、彼女の指揮下で戦って、戦って、戦って地上に戻って来たのだ。絶対リーダーの「考えよっか?」という言葉に否やがあるはずもない。


 同時期に召喚された6人のうち、一番年嵩であったサトータカシことヒラリーマン海野隆人は彼らを置いて真っ先に逃げ出し、残る5人、女子大生福井真衣、同じ高校の同級生米沢武人、江東美紀、松本翔平、それにフリーター堺高太郎は、前回、海野達が放り込まれた試練の迷宮に同じ様に放り込まれた。


 この段階でリーダーシップをとったのはガタイが大きく、声も大きく、態度もデカい米沢だった。

 デカい図体でそれなりに喧嘩慣れした米沢と、実は小学校4年生まで剣道をやってたという堺が中心になって次の階層は突破して、海野達が知識を得た図書室まで来た。そこまでは良かった。


 しかし早くもここから歯車が狂い始めた。


 本を開いても自分と関係ないものは白紙にしか映らず読めない。

 読めるのは1人1冊だけなのも前回、海野達が来た時と変わらない。


 問題は読めた内容だった。


 本当なら米沢がファイター的な剣士とか侍とかになれば良かったのだが、彼が読めた本は奇術。要はマジシャンの本だ。

 それまで前衛での戦闘のもう片方の中心だった元剣道男子の堺も剣的何かではなく投擲。海野達の時は高橋(直)が苦労した技だ。

 残りは松本が格闘、江東が黒魔術、福井が剣士だった。


 大学でも体育会系部活で運動神経のいい福井は元ある素質を活かせそうだった。

 が、喧嘩自慢の米沢はその体格の良さと攻撃的性格が活きる職ではなく、逆に米沢に比べれば体格も大きくなく荒事とは無縁な松本が純粋戦闘職でしかも最も近接な格闘だ。

 その上、アタマを使うのが好きでも得意でもなさそうな江東が黒魔術で、投擲を手に入れた堺に至っては高橋(直)同様にどうしていいかもよく分からない。

 投擲は命中率はスキルで90%近くまで補正され、投げれば投げる程威力も上がっていくので本来は投げ槍でも投げれば実は相当な威力がある技だし、奇術はタネも仕掛けも必要な地球のマジックとは違い、こちらでは魔法の一形態だから実は上手く使うと攪乱戦闘補助として物凄く使い勝手がいいのだが、どちらも海野のレーザーと同じくある程度レベルが上がらないと使い物にならない。戦闘中に帽子からハトを出しても何の意味もない。


 その上、この時の彼らは考えつきもしなかったが、海野達の初回に比べ人数が少ない事も完全に裏目に出ていた。

 怪我を治せ、防御も出来る白魔術師がいないのもそうだったし、人数が少ないが故に海野達の様に分散して効率よく上層階への階段を探す事も出来ない。

 福井達は最初の海野達より格段に不利な内部環境を抱えて上を目指す必要があった。


 それでも次の2層ぐらいは何とかなったが、早くも3層目、下から6層目ぐらいから元々の性格と言うか素質の違いが問題になってきた。


 米沢は彼の頭脳では役立つ使い方を思いつけない奇術を使うのはとっくに諦めて今までの様に前に出て喧嘩しようとするが、奇術師は体力的には一般人並みで5層以上の魔獣には腕力でもスピードでも全く歯が立たない。日本とは違い手に武器を持ってはいるが同じ事だ。

 魔獣のスピードについていけないので、攻撃はほぼ当たらず、当たっても最早嫌がらせ以上には効かずダメージを与える事が出来ない。


 皆が嫌な事、嫌いな事、キツくてツライ事を若者に押し付ける為に「若いうちは苦労は買ってしろ!デキない事は出来るまでやるんだ!」と教育してた昭和世代とは真逆なデキない事、嫌な事はしない、やらない、やらなくていい、という教えを受けてここまで来た世代である米沢は、そういう現実の壁にぶち当たっても自身の技である奇術を伸ばそうとは全くせず、自分で役立たせようと考える事もなく、相変わらず得意の喧嘩殺法に逃げていた。


 逆に格闘家だが小柄な松本は、米沢と違い腕力で物事を解決しようなどと考えた事もなく、全く荒事慣れしていない。

 だからどうしても魔獣を前にするとビビッてしまって米沢の様に度胸よく前に出る事が出来ない。折角の格闘能力は魔獣の攻撃を避ける事には十二分に活用されているが、なかなか攻撃は魔物にクリーンヒットせず、最終的には倒しはするが掛かる時間が長過ぎる。

 白魔導士のいないこのパーディーでは戦闘中にケガを治す事が出来ない為、自身の損耗を避けるのを第一とするこの行動は実はそれなりに理にかなっていたが、それを彼らが理解したのはずっと後の事で、今は唯、倒すのに時間が掛かっているだけだ。


 江東はいつまで経っても長い呪文が滞りなく唱えられる様にならず、威力の低い魔法しか使えない。

 にも関わらずこちらもビビッて必要以上に後ろに下がっているから、ただでさえ低い威力の魔法では目くらましにすらならなくなりつつある。前で戦う福井から時折、「ミキちゃん!もうちょっと前で撃って!」と声が掛けられたりしているが、足が竦んでしまうのか前に出れない。

 魔獣の前では荒事慣れしてない格闘家松本はもちろん、時には喧嘩上等の米沢ですらもビビッてしまい、なかなか前に出れない中で、彼女の足が竦んでしまうのはある意味仕方がなかった。

 が、この状況を打開するには福井の指示に従い勇気を持って前に一歩出るか、後方からでも威力のある強力な長い呪文を覚えるしかないが、そのどちらも彼女はしようとはしなかった。


 小さな頃からある種上手に生きて来た彼女は、周囲の人に上手に解決をねだる事は出来るが、自分で解決しようとはしない。

 彼女的理解では、人間には出来る範囲というものがあるので、それぞれが出来る範囲で努力するしかなく、自分ではデキない事はデキる人がやれば良い。だから彼女の言う”自分で解決”とは周囲からデキる同級生、デキる先輩、デキる大人を探し出し、上手く「お願い」してやらせる事だった。

 ggrksとはよく言ったものだが、彼女に至ってはググることすらしない。全部、周囲に聞くかSNSに「それなに?」「答え教えて」と質問して済ませてしまう。それが彼女であり、そうやって彼女は今まで生きて来た、


 そういう意味では現状は彼女的には彼女の魔法では魔獣が倒せないので、倒せる福井先輩にお願いしている状況だし、倒せる松本がやればいいじゃん!というわけだ。

 自分は前には出れないし、長い呪文もいつかは覚えようとは思っているし、いつかは出来る様になれればいいなあ、とは思うが、今はムリなので仕方ないじゃん!出来る範囲でアタシは努力してんじゃん!という理解である。

 下層カーストの松本如きに責められる謂れなど彼女的には1mmもない。


 が、現実問題としては今の彼女は殆ど戦力にはなってなく、しかもそれが階層が上がり敵のレベルが上がるのと比例して段々酷くなっていた。


 唯一、福井だけが真面に戦える状態で、投擲の堺はまだ攪乱程度には効く段階なので何とか戦力になっていたし、魔物が弱れば松本も接近してトドメが刺せるようにはなってきてはいたが、毎回苦戦していた。

 このままだと戦闘は全くの素人の彼ら自身の目からしても、遠からず超えられない壁に突き当たるのは目に見えていた。


 そしてその予感は彼らの空気を悪くさせた。


「だいたい松本が真面目に戦わねえのがいけねえんじゃねえか?ええ、おい!?」


 漸く辿り着いた7層の休憩室で、休んで体力の回復を図る間もなく、米沢が松本を責め始めた。

 対する松本も、普段なら「ああ、ごめんな」とかっていい加減に謝って終わったかも知れないが、今さっきの戦闘では中心になって戦って気が高ぶっており黙ってなかった。


「俺だってやれる範囲でやってんだろ!あんな魔獣にド正面から突っ込めるかよ!江東の援護も碌にねえし!」


 松本に言及されて自分でも身に覚えのありまくる江東は完全に逆ギレしてヒステリックに喚き返した。


「アタシが悪いってえの!?じゃあアンタが魔術師やんなさいよ!」

「出来りゃ俺がやってる!出来ねえから言ってんだろうが!」

「自分で出来ない事、人に押し付けて恥ずかしくないワケ?アンタ、見た目同様サイテー!」

「それがお前の役目だって言ってんだよ!あんなショボい炎じゃなくて、もっと強いヤツで援護しろって言ってんだよ!」

「ちゃんとやってるでしょ!魔獣が倒れないのは魔獣が強いのが悪いんじゃん!アタシのせいとかじゃないじゃん!アンタ、バカじゃねえの!もういいからサッサとシネよ!」


 喚き散らす江東に米沢が加勢する。


「美紀に文句言ってるヒマがあんなら、お前がサッサと片付けたらいいんだろうがよ!」


 海野の時は全員が互いを全くの知らない人間だけで構成されていた。

 が、イケメンで社交に優れる坂本が音頭をとり、年嵩のエリート大学生幸田がしっかりリーダーを務め、実力者であった槍の新宮や雷の石原らが従って、少なくとも途中までは統制がとれていた。

 幸田先生のご指導宜しく、今の様に魔獣に苦戦しはじめたら、一応は何とかしようと各自努力する方向で纏まっていたし、誰も完全な解決策など持ち合わせていないが相談できる空気もあった。

 格闘家萩田が初期は使えない子だったレーザー海野を責めた、あるいは元からガデン系で体力のある槍の新宮が投擲の高橋(直)に使えねえと漏らす場面も陰ではあったし、強力な雷魔法の遣い手で戦闘では中心の一角となっていた石原は聖者坂本は後方で何もしないと密かに不満は抱いていたとかもあった。

 が、その反面で新宮はグループのリーダーとしての役割を果たし、萩田にしても格闘家として自身が戦闘の中核という自覚を持って先頭きって戦って魔獣を倒す事に努力はしていたし、石原も普段は坂本の責任を問うたりもせず、いざ戦闘ともなれば後方で戦場全体をよく見ている坂本の指示にも従って戦っていた。


 対するこの5人の場合、米沢、松本、江東は同じ学校の同級生で顔見知りである。

 上手くすればもっとチームワーク良く話が進むはずが、残念ながらそうはならなかった。むしろ逆だった。


 学校ではそのガタイの良さで上位カーストの一員だった米沢が松本を下目に見る仕草を隠そうともせず、松本は当然、それを面白く思っていない。学内カーストは米沢の方が上かも知れないが、松本は別のカーストなだけで米沢の下に入ったつもりは更々ないのだ。

 女子の江東はと言えば、クラスの中心人物の1人である米沢とその他大勢の主役でない方の一般男子カーストの松本を比較すればどちらにすり寄るかは明らか杉る!ということで、米沢の尻馬に乗って松本の存在を普段は半ばシカトする様な態度をとっていたし、ちょっとでも何か言われようものなら米沢以上に口汚く罵った。


 なので、元からこの3人は顔見知りという事が全くプラスに働かずマイナスだけの掛け算で、しかも通常算術の様に計算過程という瞬間だけであってもプラスになる時間はない。絶対値だけがマイナス方向に掛け算されているだけだ。

 例え相性が悪くとも普段の教室内と同じで何もなければ互いに不干渉で終わったかも知れなかったが、3人の運命が密接に絡んでしまった今、その仲の悪さがモロに露わになってしまったのだ。


「格闘家って言ったってな、そんなに簡単にはいかねえから苦労してんだろ!あんな巨人の一撃、喰らったら一瞬で終わりだろ!だいたい米沢だって何の役にも立ってねえじゃねえか!奇術って何だよ!」


 松本如きに言われて、上位カーストを自認している米沢は当然、言い負かされるつもりはない。


「俺は戦ってるだろうが!」

「奇術師が武器持って殴ったって倒せてねえから意味ねえだろ!」


 自身が一番感じていた事実を下位カーストの松本に痛烈に指摘されて、こちらも完全に逆ギレした米沢が真顔になった。


「意味ねえとか、お前、俺の事少しナメてねえか?おう!」


 米沢がゆっくりした脅すような動作で松本に近づき、対する松本はビビった顔で後退った。

 それを見た米沢が弱い者を見る小馬鹿にした表情になった。後では江東も「ざまあ!」という表情で松本を見ている。


 早くも勝ち誇った米沢は余裕たっぷりで松本に言った。


「格闘家が何だってんだよ、ああ!?ここにゃサツもセンコーもオヤもいねえ。テメエ死んだぜ?」

「ちょっ!米沢君!やめな……」


 流石にマズいと福井が止めに入るのも無視して米沢が悠然と拳を振り上げ、松本は思わずガードの姿勢をとる。

 それに構わず米沢の腕が大振りでブンッ!と松本に振られた。


バッカン!


 大振りの米沢の一撃は松本に軽く避けられ、逆に松本がジャブの姿勢から反射的に思わず放った一撃が米沢に炸裂した。そして彼が軽く繰り出したジャブが当たっただけなのにはるかにガタイのいい米沢が壁まで吹き飛んで、壁にゴンと後頭部をぶつけて前に転がった。


 止めに入った福井、米沢の背後で「松本、ざまあ!」と見てた江東、そして3人の言い争いを我関せずと聞き流していた堺、そして殴った当の本人である松本もビックリした様な顔になった。


 暫くの沈黙の後、かなりダメージが残っているふうだったが、米沢がフラフラと立ち上がる。


「……クソが!もう俺は止まんねえぜ!いい気になってんじゃねえぞ、コラ!ぶっ殺してやんよ!」


 自分が一番ビックリしていた松本は、米沢の怒りの篭る低い声に一瞬ビクッとした顔になったが、直ぐに事情が分かったらしい。まだ多少引き攣り気味ではあったもののニヤッと笑って「へえ?(笑)」と言った。


「かっ格闘家の俺に奇術師が勝てんのか?マンガみたくトランプでも投げるってかよ、おい?」

「…テメエ、マジに死にてえらしいな。ボコボコにボコってやるから、泣いてもチビってももう遅えぞ!」


キンッ


 この段階で福井が剣の鍔を鳴らした。


「その辺にしときなよ!松本君も米沢君も!ここで殴り合ったって何の解決にもなんない。違う?」


 先程は止めそこなった福井が現役体育会バリバリの厳しい口調で言い、今回はこれ以上やるなら実力で介入する、という構えを見せ、彼女の戦闘力の高さを毎日見て知っている米沢も流石に怯んだ顔をした。


ペッ!


 米沢が血の混ざるツバを吐き、それと一緒に折れたと見える歯が2個ほど飛んだ。


「美紀!行くぞ!こいつらとはもう付き合いきれねえ!」

「う、うん…」


 少しふらつき気味で顔が腫れてきた米沢と、言われてついては行っているが何となく躊躇のありげな、所詮は虎の威を借りる狐に過ぎない江東が、それでも今はまだ米沢について2人で勝手に奥の部屋に引っ込んで、バタンと扉が閉まるのを見て、それまで何も言わなかった堺が口を開いた。


「マツモっちゃんの戦い方は俺的には別に悪くねえと思うよ。ちっと時間が掛かんのがアレだけどな。」


 堺はフリーターと言っていた。

 高校卒業後、一度は就職したが直ぐに辞め、後はバイトを転々として暮らしている。

 

 ウリはコンビニや居酒屋での接客からコンサート会場設営、軽のミニトラを使った配送からファミレスでの簡単な調理まで何でも出来る点だと本人は笑って言っていた。今は大手通販会社の倉庫でのピッキングをメインにしてるらしい。


 彼はあまり口数は多くないし、基本、何事からも一歩引いた姿勢だった。

 現に米沢と松本が揉め始めても我関せずと止めにも入らない。


 それは元々は明るくそこそこには社交的な性格だった彼が、高卒で就職した微ブラック企業でその会社ではごく当たり前の謂わば伝統行事といってもよかった新入社員イジメに耐えられず早々に退職に追い込まれ、バイトを転々としている間に正社員からはとっくに遠ざかって、しかもだんだん状況が悪くなっていくにつれて何事にもテンションが低くなっていっているからだったが、彼より更に若い福井達にはそんな彼の事情は分からない。もし堺本人か他の誰かが説明してくれてもピンと来なかっただろう。

 それでもサトーこと海野が早々に抜けてここのメンバーでは最年長の彼は、大学生の福井、高校生3人組からすれば何となく年上らしい風格が感じられ、彼が何事か言うと、基本俺様な米沢ですら渋々聞く姿勢になったし、何となく場が落ち着くのが常だった。


「……すんません。」


 松本が謝ると、堺は人のいい笑顔を浮かべながらパタパタと手を振った。


「あ、いいって、いいって。そういう意味じゃねえ。俺の技じゃ敵が倒せるまでは出来ねえし、倒し切れんのはマイチングとマツモっちゃんだけだからな。」


 堺曰く超古いマンガの主人公の綽名だというマイチングこと福井真衣は苦笑いした。


「いやあ、堺さんの石投げも…直では倒せないかもだけど役には立ってるっすよ。牽制とかで。」


 福井がなんとかフォローして、それに対して堺は「ありがとさん」という風にちょっと微笑んで言った。


「とにかく仲間割れしてたってしゃあねえ。それはヨネ君も分かってっと思うからさ。とにかくお互い出来る事、頑張って前に進むっきゃねえだろ。」


 結局、その後は暗黙の了解で戦闘指揮は米沢ではなく福井が執ることになった。


 戦闘力からすれば当然だったかも知れないし、むしろ戦力にならなくなりつつあった米沢が今までデカい顔をしてたのが変だと言えなくもなかったが、理由がないわけではない。

 元々福井は格闘技が専門でもなければ、個人競技である陸上部の中距離選手で集団競技も経験がない。陸上は中学からやっているが、ずっと一部員に過ぎない。自分がリーダーで何事かをした経験はないのだ。


 が、米沢と松本の力の差が歴然としてしまった今、松本はもう米沢の言う事など聞く気はなかったし、米沢の方も未だ強がってはいたものの、松本にも敵わない自分がリードして戦う力がない事が自分でも分かってしまった。

 かといって松本の指揮下で戦うなど彼のプライドが許さない。その落とし所が戦闘力のある福井のリードだった。


 もっとも事情は福井だって分かっちゃいるし、嫌も応もない現状も理解していたが、さりとて最初から「任せなさい!」と胸を叩いたわけではない。


「アタシ、主将とかってガラじゃないし。どうしたらいいんだろうなあって…」


 米沢ら高校生達がいない所で弱音を吐くのを堺が慰めた。


「マイチングもスポーツやってんなら分かると思うけど、こういうのってデキないヤツがリーダーって言っても誰も着いて来ねえ。」

「でもアタシ、そんなキャラじゃないし、中距離のリーダーとかも今迄やった事ないし…」


 まだ逡巡する福井を堺は説得した。


「ここじゃマイチングが1番なんだ。俺じゃねえ。歳が上でも石投げるぐらいしか出来ねえ俺じゃダメなんだ。かと言ってマツモっちゃんじゃヨネ君達が納得しねえ。マイチングがやるっきゃねえんだ。俺も出来る限り横で支えっからさ。」


 繰り返しになるが、堺は現実社会では色々上手くいってなくて、テンションが下がっていた。

 が、ここで頑張らないとヤバい、という事だけは分かる。だからこちらもガラじゃないし、異世界に召喚されてすら敵を倒せる力がない自分への絶望を押し殺して、必死で福井を盛り立てた。

 

 福井の方はそんな堺の事情も心の内も全く知らなかったが、堺が彼女を必死でフォローしてくれようとしているのだけは分かった。


「…分かった。頑張る!」



 相変わらずキリが悪いですが40話まで到達しました。

 ここまで読んで戴いた方々にこの場を借りて厚く御礼申し上げます。

 

 作者にとっては読者の皆様の後押しこそが、これからも続ける力になります。

 気に入られた方は「読んでるよ」という印代わりにお気軽にブクマ、評価、感想をお願いします。

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