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風任せで人任せな俺がここにいる理由  作者: 明月 文


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039 王の決断と王妃の思案

 そこそこなイケメンで、能力的にもそう悪くはなさそうな年下の夫ブライアンが、後宮でカリーナの前では常に宰相ブルックス以下家臣達が彼の発言など実質的にシカトして流す事に対してブチブチ言ってるのを聞き続け、彼女は内心ではウンザリしながら相槌半分で、というより相槌95%で、そんな宰相なんか追い出してしまえば良いのにと言い続けた。


 ひたすらウザいので上の空で聞き流していただけという言い方も出来るが、結果だけ見れば煽った様なものだ。

 彼女もまた帝王学に類する教育は受けていない、ただの良家のお嬢さんなのだ。


 冷静に考えれば、実力があろうがなかろうが、国王ブライアンには最終決定権限はあった。

 その上、現状の彼は宮廷内では軽く見られているとはいえ、国民の支持はまだまだ高い。そして何よりすぐさま彼の代わりと成りうる王家の血族は誰もいない。


 後宮で常にブチブチ言って姉さん女房に内心呆れられてはいたが、ブライアンは地頭は悪くない。


 最初こそ慣れない国政にワタワタして宰相から冷たいダメ出しの視線で見られ、後宮で新婚の姉さん女房に愚痴ってモンモンとしていたが、1年もすると流石に自分でも実は自分は最高決定権者で自分の代わりはいない事に気付いた。

 だが、いきなりそれを態度に出す程、バカではない。

 繰り返しになるが、彼は地頭は悪くないのだ。


 彼は3年目以降ぐらいから慎重に機会を狙っていた。

 優秀で全てにソツがないベテランの宰相ブルックスを攻撃出来る機会は滅多に訪れない。


 そしてある日、ある政策がブルックスの事前説明通りに進んでいない事を、国王ブライアンは突然、厳しく叱責した。

 宰相が立案、実行したにも関わらず、事前説明通りに出来ていないのは、そもそも臣下としての能力が欠けているからではないか、とまで言われ、王の突然の激しい叱責に驚き、全閣僚の前で若い国王に面罵されて完全に面目を失った老宰相は、怒り半分、脅し半分でその場で辞表を叩きつけて見せ、しかし本人も周囲も驚いた事にアッサリ了承され渋々宮廷を去らざるを得なかった。


 やはり長い事、政治行政を実質的に支配していたが故に、国王と言う存在が自分の生殺与奪を握っているという事実に鈍感になってしまっていたのだろうし、仕事が出来ようが立場があろうが相手を小馬鹿にした態度はその相手を怒らせ、時には返り血を浴びる覚悟で報復に出る可能性もある、という世の中の普遍的な心理が分からなくなっていたのだろう。

 いずれにせよ、由緒正しい伯爵家出身で政界のエリート道を突っ走って来た頭脳明晰なブルックスの最初で最後の計算違いであった。


 実際、返り血は浴びている。

 何もかもを差配していた宰相ブルックスが突如いなくなり、国政は少なからず混乱したし、国王自身も(認めたくはなかったが)最初は多少困りもした。

 

 が、意外な事に混乱は直ぐに治まった。

 彼の若い友人達や比較的年若い家臣達がかなり積極的に助けてくれたからだ。


 ブルックス宰相は前国王時代から、しかも前国王も彼自身も若い頃から宰相であった。

 従ってその組織、人材は既にブルックスを中心に完成形として出来上がっていた。

 彼及び彼に引き立てられた人材達は優秀ではあり、それを自認していたが故に、若き現国王の周囲にいる若い家臣達、ましてや王弟殿下の第3子に過ぎないブライアン自身の些か出来の悪いご学友達など、ブルックス宰相とその子飼いの優秀な部下達には全く相手にされていなかった。


 だがボスであるブルックスは突然失脚した。


 何だかんだで権力者だった彼は若い優秀な手足を集め、引き立てる一方で、通常の権力者と全く同様の行動をとってもいた。即ち出る杭は早いうちから全て叩き潰して、それだけでは飽き足らず完全に引っこ抜いて必ず溶鉱炉に放り込むという行動だ。

 本人的には自身の政策遂行に妨げになる、あるいはその可能性のある人物を早めに発見、即時完全排除しただけだったのかも知れないが、結果も周囲からどう見えるかも通常の権力者のソレと全く変わらない。


 非常に長い間、宰相として君臨していたブルックスは爵位、または能力的に彼のライバル及びライバル予備軍になりそうな人間も、No.2になれそうな実力者もNo.3が出来そうな有望株も完全に排除し尽くしていた為、ブルックス強制引退後は後を引き継げる気力、能力がある者は皆無で、その派閥は一気に散り散りになった。権力者の長期政権が続くと下にはイエスマンしかいなくなるのはどの組織でも一緒だ。

 それで結果的に今迄はブルックスの目に留まらず脇で腐っていた家臣達、ご友人として国王の近くをウロウロしているだけで今まで何ら実権を持たなかった若手の貴族達に出番が回ってきたのだ。


 ブルックスとその周囲のエリート達に全く相手にされていなかった若い家臣や数少ない国王のご友人達も出番に飢えていた。

 彼らは執務能力はブルックスに認められる程ではなかったが、役所に生きる人間または権謀術策が渦巻く貴族界に生まれた人間として他人を蹴落とす技術は自然と身に付けている。

 若い陛下のご友人貴族と出番の少なかった若手の役人達は、宰相派閥の当然の崩壊に乗じてブルックス子飼いの連中の地位を精力的に奪い取り、結果として精力的に動いてくれた。


 そしてカリーナが薄々感じていた通り、ブライアン自身も世間巷で言われている程、無能ではなかった。


 前国王の王子はおろか、その補佐役として期待されていた兄達程、キッチリとした帝王学を施されてはいない。


 だか、やはり一番側で見てはいたのだ。


 王太子やその取り巻きだった兄達の様に既に実務の一部を引き受けていたわけではないからOJTとまではいかない。けれど、門前の小僧ぐらいには何事も見てはいた。そして、この国で王の政務を門前の小僧できた人物はブライアンぐらいしか存在しない。

 そして即位してからこの方、ブルックス宰相は彼が何を言っても全く相手にもしなかったので、あたかも彼には何の意見をないかのように宮廷の内外では捉えれらていたが、宰相がいなくなって、彼の言葉を途中で遮り、ビデオテープにオーバーダビングする様に記録に残らないまでに無かった事にする者がいなくなり、国王自身の見解を聞いて(聞かされて)みると意外と傾聴に値する部分も…まあ全くないではないと多くの家臣が気が付いた。


 加えて国王自身は認めないだろうが、やはり宰相ブルックスは優秀であった点も大きかった。


 前国王の全面的な信頼と信任を受けた彼の指導の下、国はある一定方針を持ってある一定のスピードで着々と政策を進めていた。


 まず外交であるが、近隣国との安定に資するのは何と言っても王族による縁談だ。縁談は自動的に同盟だからだ。

 だが、それは同時に近隣国がサンビアナへ介入する口実にも成り得る。


 そして近隣国も立場が逆なだけで事情は同じだ。

 王族の縁談で関係の安定を図るのはウェルカムだが、自国へ介入される糸口となっては困る。


 ブルックスは近隣国と秘密裏に交渉を重ね、王位に就く可能性のない(と当時は思っていた)王弟殿下の3番目の息子であるブライアンと、名ばかり公女であるカリーナとの縁談を推し進めた。

 ザンビアナに侵攻または介入する意図は更々なく、近隣国からすれば、こんな時の為のカリーナである。

 繰り返すが他国の王族同士の結婚は単なる両家の慶事ではなく国同士の外交である。ブライアンが急遽王位に就く事が決まっても当然簡単にナシにすることなど出来ない。こうして2人は結婚したのだ。


 内政的には北の外れにある事から農業は厳しい環境である事を打開する為に、従前からある牧畜業に加えて、新たに高級食材であるマリラの導入を図った。比較的南方の草原地帯を住処とするマリラだが、意外にも寒さに強い事が分かったからだ。

 元々得意としている牧畜業の手腕も活かせる。高級食材だから輸出も可能だ。


 だがこれも一言で導入と言っても、大型獣のクセに魔獣が遠目に見えればそれだけでパニックになって暴れ出す超臆病なマリラを飼う為にまずは時間をかけて周辺の魔獣、害獣の一掃から始めなくてはならない。

 しかし、これも国が主導して冒険者を優遇したりしながら着実に実施され、同時並行で他国輸出も含めた流通経路が有形無形の国の支援を受けた商人達を中心に整備され、マリラ肉の生産・販売は着実に進んでいた。


 世評程は無能ではないブライアンも、気に食わない宰相が始めた施策だからといって、上手くいっている話を即座に廃止したりする様なマネはしなかった。

 むしろ彼から言わせれば政策実行に私情を混ぜていたのはブルックスの方であって、彼ではない。なので、ブライアンとカーリナの政略結婚も含め、少なくともブライアン的に見ても上手くいっているブルックスの政策は、基本的にはそのまま踏襲されている。


 その前宰相が始めた政策の1つである高級食材マリラ肉の増産政策だが、その実行過程で初めて自国の詳細な魔獣の棲息状況を網羅的に調査したブルックスは、事前の予想よりもかなり広範囲でかなり数が多く、かなり強力な魔獣もいる事に気が付いた。


 これは一体、何故なんだ?


 国内の学者陣に時間と手間暇と金をかけて更に様々に調べさせた結果、数年前に復活したと噂される魔王の影響が指摘された。もっとも復活したのは遥か南の彼方である旧魔王城近辺で、少なくとも今のザンビアナにとっては直接的脅威ではない。だが影響はあるという。


 これに対する一番確実な方策はやはり魔王の打倒ではあったし、30年程前に一度経験もある勇者召喚の儀式を行い勇者達に魔王を倒させるのが一番の正道とは思われたので、一応、当時の記録も調べさせてはいた。

 ちなみに前回の勇者召喚は実際に召喚したのは他国で、しかも勇者を召喚した国から魔王城に行く方向とザンビアナは真逆である為、勇者が立ち寄った記録もなく、ブルックスの認識も薄かった。


 もっともブルックス宰相としては今回、勇者召喚まではする気はなかった。


 先に書いた通り、魔王が復活した、というのもあくまで噂であり、何と言っても前回と違い、周辺国も含めて直接的に魔王軍の侵害を受けているわけではない。無論、ザンビアナも直接影響を受けているわけではない。

 なのでブルックスはクセとして子細に調査はさせていたものの、勇者召喚の件は早々に棚上げと結論しており、冒険者を集めた国内の魔獣退治とマリラ肉の増産に注力していた。


 ところが、ブルックスがいなくなり、この老宰相の残した政策検討結果を改めて眺めた若き国王ブライアンの判断は違った。


 いずれ倒すなら先送りする事に意味はない。

 むしろ魔王軍が直接攻めて来てからでは遅い。


 しかも自国で必要なのは、それ自体は実施のハードルは高いものの召喚儀式だけでそれ以外には然したる準備も何も必要ない。国レベルで見ればコストが殆どかからず、必要な召喚儀式も準備さえ整えれば1回で終わりという意味でコスパ、タイパとも悪くない。

 それに魔王を倒すと簡単に言うが、前回の例からしても魔王城に行きつくだけで数年掛かりの旅が必要で、直ぐには結果は出ない。


 ならば、やるのは今でしょ!


という事で海野、福井、米沢ら6名が召喚されたのだった。


 一方で話を聞いた王妃カリーナの考えは少し違った。

 

 召喚儀式自体はその実行困難性を度外視すれば然したる手間暇がかからず、しかも召喚しただけでは終わらず、魔王打倒という結果が出るまで数年かかるなら早めに手を付けるべし、という夫の判断には一理ある。

 が、夫ブライアンは勇者達が試練の迷宮から戻って来たら魔王城に向けてとっとと出陣!としか考えていない様だが、カリーナはそんな簡単な話ではない、と考えていた。


 前回の時も召喚した国は関係各国と外交交渉を重ね、その協力を取り付けていたと聞く。実際調べさせると、方角は全くの逆なのにザンビアナにも協力を要請する書面が残っていた。

 召喚して魔王に向かわせる以上、そういった交渉が必要なのではないか?


 一方で当時は各国も程度は別にして勇者組には協力したが、それは当時は現在進行形で魔王軍及び勢力を増す魔獣に脅かされていたからであり、それ故に魔王を倒す重要性を理解していたからでもある。


 だが現状は魔王復活はまだ全然噂レベルの話だ。


 そんな中で良く言って最北の中堅国に過ぎないザンビアナが率先して勇者を召喚し、各国に協力を求めてもあまり効果がないだろう。初手から眉唾と思われればいい方で、ヘタをすれば近隣の国からは何かの策謀ではないかと疑いを招く可能性すらある。


 こういう現状で勇者をネタにした外交交渉がこの国にとっていい手なのか、カリーナにも判断がつかない。

 判断がつかない以上、夫であっても国王でもあるブライアンに意見は出来ない。

 

 彼女もまた侯爵家の3女という唯のお嬢様ではあっても、立場のある人間が政策を思い付きで口にしていいものではない、という政治を預かるレベルの貴族の一員としての良識は持っていた。

 しかも自身は今や王妃でしかも外国出身である。ヘタな口出しは祖国に迷惑が掛かる可能性もあるし、年下の夫の判断を左右する様な話は軽々には出来ない。


 カリーナ妃の悩みは実際に召喚された勇者を見た瞬間に多少軽減された。

 彼女の目から見ても彼らはまるきり素人であったからだ。

 城の一般兵士にも劣る体格で、カリーナから見てもまだまだ子供な感じの若さの者すらいる。武器を扱った事のある様な人間はおらず、魔法が使える風でもない。


 しかも今回は僅か6人しかいない。

 伝説、という程には昔ではない前回は、20人近くを呼び出したが、召喚された勇者しか赴けないとされている試練の迷宮を潜り抜けたのはたった3人だったという。10人に1人程しか生き残らない確率論から考えれば今回は1人も生き残らない計算だ。その上、1人は早々に姿を消して、やる前から人数が減っている。

 要は今回の勇者召喚・魔王討伐は企画倒れに終わる公算が高い、と踏んだのだ。


 ところがである。


 実に半年程も経ってから、たった5人しかいないのに試練の迷宮からは実に3人もが生き残って這い出て来た。女2人、男1人である。

 

 カリーナは再び考え込む事になった。


 こいつら、どうすんだ?


 夫である国王ブライアンは戻って来たならとっとと出陣!と彼らに必要な武器防具(高価なものではあるが特別なものではなく普通のもの)を与える指示を出している。

 前回の時にやったであろう、各国への外交交渉などは依然として全く眼中にないらしく、何も言っていない。

 前回は3人の勇者に4人の騎士が付き従ったというのは吟遊詩人の唄にもある有名な話だが、今回はどうも本人達が不要と断ったという事で金と手紙だけ持たせて彼らだけで送り出すらしい。


 それでいいのか?

 そんなんでいいのか?


と、密かに思いはしたものの彼女は結局は何も言わなかった。


 別にいいではないか。

 

 勇者組が最終的に魔王の元へ辿り着けばそれでヨシ。辿り着かなくても現状と何も変わらない。

 各国との交渉もやるとなれば面倒だが、逆にやらないとなれば何もしなくていい。

 目先で魔王軍が暴れているわけでもないから、道中で勇者組が困ろうが何しようが知った事ではない。

 もし魔王軍が暴れ始めれば、逆にザンビアナ王家が先頭切って説得しなくとも各国も彼らに協力するだろう。


 そこまで考えてふっとカリーナは思い出した。


 今回の勇者達は5人のうち3人もが試練の迷宮から生還した。確率的には魔王を退治した前回の勇者組達よりもずっと高い。見た目はパッとしない連中だったが、実は前回よりずっと腕利きが召喚された、と考える事も出来る。


 そうなると最初に召喚した段階で1人は逃げているが、ソイツもそれなりにデキるのかも知れない。

 今になってよくよく考えてみれば、少なくとも王家の大捜索を振り切って姿を消せるぐらいにはデキるのだ。


 その彼は、今、何処で何をしているのか?


「失礼します。陛下がお戻りになられました。」


 カリーナの物思いを侍女の物静かな報告が断ち切り、彼女は夫を出迎えるべくいそいそと立ち上がった。


 別に好き合って結婚したわけではない。純然たる政略結婚である。

 新婚の頃は国王に即位したばかりで若いのに愚痴っぽい夫は正直少しウザかった。


 が、ウザくはあったが、彼女に対し愚痴る年下の男の子は何となく憎めないところもあった。

 外国から1人嫁いできた彼女からすれば、長年の友人にするように自然体で愚痴る彼は、逆に壁を感じない存在に思えたのかも知れない。

 そして問題のブルックスを追い払った最近はそんな事も少なくなった。


 ブチブチ言ってない時の彼は責任の重くない三男として育った気楽さなのか、気さくで明るく嫌味のない性格でもある。


 そんな年下の彼を彼女個人としては決して嫌いではなかったのだ。




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