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風任せで人任せな俺がここにいる理由  作者: 明月 文


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034 煙噴く町へ走る美女

短いですがお約束(笑)への導入話です。

 俺達は今日入る風呂を探して……いやいや!今日泊まる町を探して川沿いに歩く。

 地図に依れば半日と掛からず町が見えて来そうなものだったが、果たして遠くに町が見えて来た。やれやれ、今日はあの町で泊まるとするか。


 だが、徐々に目に入る町の姿が大きくなって来るにつれ、まだ遠目に見えているだけだが、その風景は気にはなっていた。

 勿論、それは俺だけではなく、同じ風景を目にしているクラウも同じだ。


 もっとも俺は何となく想像がついたから特に何も言わない。

 だが、クラウの方はそうでもないらしく、時折こちらをチラチラ見ているが、直接何かを訊かれているわけでもないので黙っている。(←イジワル?)


「クリス?」

「ん?」


 遂に我慢できなくなったクラウが俺に訊いて来た。


「目の前の町のあの風景は何だ?」

「ん~」


 目の前にはまだ少し遠いが町を囲う城壁が広がっている。その風景はこちらの世界では通常の町の風景だから特段気を惹くものではない。


 彼女が気にしてるのはその城壁の向こう側に見えている風景だ。

 

 通常の町であっても炊事の煙が時間帯によっては幾つも立ち昇っている。

 が、目の前に広がる風景は全然違う。炊事とかいうレベルではない煙がもうもうと立ち昇っている。


 さりとて大規模火災発生中、という雰囲気ではないのは遠目からでも分かる。攻城戦の真っ最中ももしかすると量的にはあんな風に煙が上がるのかも知れないが、当然の事だがそれも違う。周囲にそれらしき軍勢がいるわけでもなし、上がっている煙は火災が起きた時の様な黒煙ではないのだ。


 そして俺はこの煙、そしてこの段階で既に微かに漂ってくるこの匂いを知っていた。


「恐らくだが…あの町には温泉が湧いている。」


 焦らしても仕方がないので俺が端的に答えるとクラウは小首を傾げた。


「オンセン?」


 あ~聞かれた段階からそんなこったろうと思ってはいたけど…


「通常は地中から湧くのは水だ。だが時折、湯が湧く所がある。それが温泉だ。」


 俺の学問チックな、しかし学術的な部分はマルっと端折った端的な説明にクラウは少し考える素振りをした。


「何故、水ではなくてお湯が地面から湧く?不自然ではないか?」

「自然か不自然か、というのは後付けの理屈だ。地面からお湯が自然に湧く。それが不自然な場所ではないのが温泉だ。」


 説明のメンドクサイ話は哲学に逃げるに限る。弁証法ってヤツだな。(←ウソです)

 それとも所謂何とか構文ってヤツかな?

 「温泉と言うのは地面から温水が湧いている。だから温泉では地面から温水がセクシーに湧いていなくてはならない」といったところか。


 俺の哲学だか構文だかに文字通り煙に巻かれた風は全く無かったが、彼女は曖昧に頷きつつも更に首を傾げた。


「……思い出してみれば何処かで聞いた事はあるな。けど、山奥に時折ある珍しいものだと聞いた記憶が…」

「その知識は正しい。俺もそう理解してる。けど物事には例外はある。」

「例外か…」


 クラウはまた少し考える素振りをした。


「この前のビックヘッドみたいなヤツだな?」


 うん。合ってるけど例が悪いな。


「アレはヤバい方の例外だけど、こっちはそうじゃない。良い方だ。」

「良い方、か…?」


 彼女は目の前の町のあちらこちらから盛大に噴いている大量の煙をかなり疑わし気に眺めながら「むむむっ」という感じに唸った。


「……そう言えば今になって思い出したがウチの領……いや…なんだ…そう!実家だ!実家の近くの…いや近くもないか……うん、まあとにかく山にあるヤツだと思うが、時間になると凄い勢いで熱湯を噴き上げる穴があると聞いたような気がする。しかも周辺は毒が充満していてとてもじゃないが危なくて近寄れないらしい。全く良い話には聞こえなかった。」


 変な間は置いとくとして、君が言ってるのは所謂一つの間欠泉ってヤツだね。

 彼女の言い様を聞く限り、以前に九州への出張帰りに年休を取って行った別府で見たヤツよか、イエローストーンとかにあるデカいヤツに近いのかな。そっちは生では見た事はないけど。


「うん、そういうのも無くはない。けど大概はそんなんじゃない。普通に湧き水が温水になってるだけだ。」

「ふむ……旅慣れたお前がそう言うならそうなんだろう。あまり心配する事もないか。」


 俺の旅の経験というより、日本人としての基礎知識だね。

 まあ、俺ら日本人からすれば温泉は心湧きたつ施設だが、見慣れない人からすればそうでもないのか。

 確かに目の前の町は煙噴き過ぎで、別府や草津に行った事でもあれば「ああ、そんなもんかな。湯量が豊富なんですね」ってな具合だが、知らん人は硫黄の臭いも相まって心配になるのも理解出来なくもない。


 俺は少し補足説明の必要を感じ、口を開いた。


「我々は風呂を探していた。」

「そうだな。」

「温泉は風呂の上位互換だと言っていい。」


 俺の言葉に彼女は一瞬、風呂とオンセンが何の関係がある?という虚を突かれた顔をしたが、直ぐに俺の言わんとする事が分かったらしい。戦慄の表情になった。


「…!!まさか風呂の代わりに、そのオンセンとかに入るのか!?」


 やっぱり、そこからなんスね。

 彼女の驚きをを他所に俺は自分でも何でか知らんが胸を張った。


「当然だ!温泉があってそこに浸からないなどという勿体ない事は出来ない!」

「そうなのか?」

「そうだ!」


 俺の断言に彼女はまたまた考え込んだ。


「どこが、どう上位なのだ?強いのか?」


 強い温泉とかその逆で弱っちい温泉とかは聞いたことがない。

 俺は彼女の言葉に正面から答えず、一般的な説明で軌道修正を図った。


「まず風呂の成分が違う。」

「成分か…」


 彼女は少し上空に目をやった。

 風呂を思い出しているらしい。


 俺も彼女が風呂に入ってる風景を……いやいや想像とかしてないよ?イヤマジで!


「成分とは何だ?私が知っている風呂は石製か木製だ。それ以外の素材を使っているというのか?」


 俺は彼女の基本的な勘違いを静かに訂正した。


「風呂場を構成している物質の違いじゃない。風呂で使っている湯の成分の違いだ。」


 俺の言葉に彼女は驚く。


「…!水じゃないのか!」


 少し迷走気味な更なる勘違いを更に俺は冷静に訂正する。


「いや、水だ。水だが普通の風呂にはない色々な物質が溶け込んでいる。」

「…危なくないのか?」

「危なくないから、皆、入れる。それに上位互換だと言ったろう?この成分が色々と体に良い効果をもたらす。」

「どんな効果がある?ケガが治るのか?」


 そういう効果もあるとどっかの温泉で書いてあった様な気もする。

 だが今の俺ら、魔物を斃しながら進み、Bクラス上位、つか多分ヒュージアイアンスネークの変種で実はAクラスだったビックヘッド討伐を経た俺らが想像する「ケガ」とは、温泉に入った程度でどうかなる類の傷ではない。温泉も残念だがそこまで凄くはない。


「物理的なキズを直接治す効果はない。しかし病気には効果がある。」

「どんな病気だ?」

「皮膚系統だ。他に血の巡りが良くなるから内臓系にもいいと言われている。神経系統にも効くと評判だ。…まあ皮膚にはいいから擦り傷程度には効く可能性もある。」


 ふむ、とクラウは分かったんだか分かってないんだかぐらいで頷く。


「疲労の回復にも効くと言われている。」


 やっと自分に関係する話が出て来た、と彼女の顔が明るくなった。


「そうか!今の我々にピッタリだな!」


 が、女性にとって最大のウリはそこじゃない。


「それに…」

「それに?」

「皮膚系統に効くということは…」

「ことは?」


 俺は最大限引っ張って言った。


「美肌効果があるという事だ!」


 ジャジャジャーン(←死語)という風に言った俺に対し、彼女の方はあまり盛り上がらなかった。


「私は自分の肌には自信がある。」


 彼女は冷静に言った。

 はあ、そうっすか。言い切れる人も珍しいっすよね。


 俺の半眼をまるで見ないまま、彼女は服の袖を少し捲った。


「けど、この旅でだいぶ荒れたのも事実として認めよう。結構、日にも焼けてしまったしな。」

「……」


 そうだな、と言っていいものかも分からなかった俺は賢く黙る。

 アラサーなのだ。女性の扱いに慣れてるとかは全くないが、流石がにその程度の空気は読める。

 が、さりとて気の利いた返しが出来るわけもなく、賢く沈黙する俺の目の前に彼女は回って、革製の軽鎧の胸元をグッと引き下げた。


「でも、日に当たっていない部分は特に問題はない!ホラ!ホラ!」


 思わず彼女の胸元を覗き込んだ俺は考えた。

 

 …ふむ。普段は革鎧に完全に隠れてしまっていて目立たないが、アイーシャやレニ程でないにしても大きさはあるな。少なくとも微とか小とかではない。

 こうして見ると確かに上の方は日に焼けてしまっているが、反面、その下の白い部分が目立ってエロい感じがハンパない。


「ホラ!ホラ!肌だってキレイなものだろう!これでも宿に入れば出来る限りの手入れはしてるつもりだ!」

「……分かったからしまえ。」


 俺が殊更感情を感じさせない口調で言うと、彼女は「むう」と若干不満そうに胸元を元に戻し、そしてハッとした様な顔になった。


「!!お前は私に何をさせるんだ!!!」

「いや、俺がさせたわけじゃない。俺はお前の肌に特に疑問も持ってない。うん…まあ、なんだ、美しい、と表現してもいい。」


 とにかく動揺が顔に出ない様に、でもちょっと言葉が変になりながらもなんとか冷静沈着な調子だけは維持したつもり言うと、彼女の顔がパッと輝いた。


「そうか!それならいいんだ!」


 いいのか?


 会話の微妙なズレを感じながらも、もう一度補足した。


「お前さんの肌が荒れてるとかそうじゃないって話じゃない。一般的な温泉の効能として美肌効果があるという事だ。」

「そうか!それは楽しみだな!ヨシ!じゃあ早く行こう!」


 彼女は子供の様にワーッと駆け出した。


 遠目に盛大に煙を噴きまくる町が見える街道で軽武装姿の美女が大はしゃぎで走っていく。


 もし誰かがこの場面を絵にしたら何というタイトルになるのか全く見当が付かない不思議な絵面を見ながら、俺も町へ歩を進めた。


 ま、久しぶりの温泉、楽しみだな。


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