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風任せで人任せな俺がここにいる理由  作者: 明月 文


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027 今回は本物の作戦会議

「野郎ども!ちと聞け!今から俺とユーリで考えた作戦を伝える!」


 途中の野営地でアルローラがのたまわり、おう、なんだ?なんだ?と我々は彼の側に三々五々集まって、アルローラの前に座り込んだ。


 アルローラとその隣に中肉中背の冒険者が立つ。先の掛け声にあったユーリという男だ。

 アルローラも40絡みのベテランだが、ユーリも同じくらいに見える。


 この前の飲み会で本人からも直接聞いているが、何でも中央の軍士官学校崩れで、腕っぷしに頼り切りになりがちな冒険者にしてはアタマが回るらしい。


「ユーリ!」


 どうやら説明はユーリさんに丸投げらしい。


「まずは地の利は大切だ。」


 地面に少し大きい紙に描かれた地図を開いてユーリさんは言った。誰が聞いても真っ当な見解だから異論は出ない。

 ちなみに地図は、前に俺が買った世界地図の様な大雑把なものではなく、範囲は広くないがこの辺りの地形やら何やらが詳細に描かれたモノだ。通常、冒険者が道具屋で買うのはこの種の地図である。


「俺らが有利な地形のトコで待ち伏せて殺るんが一番、勝率が高い。」


 繰り返すが真っ当な見解である。だから全員が無言で頷き、どこからも異論は出ない。

 異論は出ないが質問は出た。


「でも、双頭野郎はどこにいるか分かんねえし、どこで襲って来るかはヤロウ次第じゃねえか。俺ら有利の場所とは限らんぜ?そこんとこはどーすんだよ?」


 軍士官学校出の作戦担当ユーリさんも当然、そこらは考えての話だ。

 彼は質問に対して「分かってる」という風に頷いた。


「だから、まずはおびき寄せを考える。」


 周囲は顔を見合わせた。


「なんだ?エサでも蒔くんかよ!?」

「斥候隊が見つけて、そのまま囮になって連れて来る。」

「「「「「……」」」」」


 皆が黙るのは分かる。囮役は危険度が非常に高い仕事だ。


 ビックヘッドは図体はデカいが動きはニブくない。元は地球でならチーター並みに素早いレッドコブラなのだ。

 双頭のビックヘッドを相手にした事のあるヤツは俺を含めてここにはいないが、その手前(?)のレッドコブラはクラスCで見た事があるヤツはいる。上位種であるビッグヘッドがそれより遅いわけがなく、加えてビックヘッドはレッドコブラよりかなりデカい。

 囮役はそのビックヘッド相手に少数で立ち向かわなくてはならない。


 トドメを刺すのは本隊だから本腰で立ち向かう必要はないが、ビックヘッド相手に長い時間逃げ回るのだって至難の業だ。

 しかも逃げ散るのは許されず、指定の場所に誘導してこなくてはならない。

 誰が考えてもミッションのレベルは極めて高い。


「囮部隊は足腰に自信のあるヤツしか頼めねえ。足を止めて戦うタイプじゃねえ。そんなのだと、ヘタすりゃ速攻、丸飲みされて終わっちまう。」

「「「……」」」


 ユーリさんの説明は尤もで俺らは沈黙し続けた。


 はっきり言って明らかに足を止めて戦うタイプの俺とクラウではムリな可能性が高い。

 けどこういう誰もが引き受けたがらない役割こそ、なりふり構わない冒険者業界、いやこの世界では平気で余所者である俺らに振られる可能性がある。


 日本の会社社会だって程度がヌルいだけで話の流れは一緒だ。

 面倒で誰もがやりたくなさそうな、しかも失敗する可能性も高い業務は、偉い人が普段から信頼を置いているお身内やら取り巻きやら仕事が出来ると評価されている人間ではない方に振られる。

 もっと言えば部内でいなくなっても誰もが最も痛みを感じない類の人間だ。

 つまりこの場では余所者である俺とクラウの事だ。


 もしこの役を振られたら断るしかないが、無論、タダでは済まない。

 冒険者ワールドは元から完全ヤクザ社会なところにもってきて、今は珍しい団体行動中だ。ヤクザ社会と軍隊を足して2で割ったこの場で、上位者の命令を断るのは反逆&処罰対象だ。エンコ落としたぐらいでも済まず、袋叩きの上、囮どころか撒き餌としてヘビの前に転がされるのは間違いない。


 俺は隣で座るクラウをチラリと見た。「ふむふむ」と言わんばかりの調子でユーリとアルローラの話を聞いているが、手足を投げ出して座る彼女に緊張は見られない。


「んで、俺らも色々、考えたんだが…」


 状況が分かってんだか分かってないんだか、こちらも見ずに真剣に話を聞くクラウの横で俺が1人で腹の下に冷たい緊張を感じながら、いざとなれば周囲と交戦してでもクラウを連れて逃げる覚悟を固めている中で、一座のボスであるアルローラが、ユーリさんの言葉に被せる様に続けて厳しい顔付で口を挟んだ。


 作戦を立てたのは確かにユーリだ。今、その作戦を説明してるのも彼だ。

 けど各人に役割をふる力を持っているのは作戦参謀である彼ではない。リーダーのアルローラだ。特に厳しい任務となれば猶更だ。


「身軽なんもそうなんだが、こういうのはチームワークが良くねえとデキねえ。」

「「「「……」」」」


 前置きはともかく、誰が充てられるのかが俺らの最大関心事だ。

 だが、緊張の沈黙が一瞬だけあったが、リーダーであるアルローラはそれ程間を置かずズバリ言った。


「なんで、テオ、お前んとこに頼みてえ。」

「「「ああっ!?」」」


 少し後ろの木の下辺りに陣取っていた4人組が驚いた顔をした。

 彼らのうち誰がテオだかよく分からないが、「お前んとこ」と言われてるのは彼ららしい。


 驚いた顔をしていた彼らだが、1人がアタマを掻き掻き苦笑して口を開いた。


「ちっ!しゃあねえなあ。誰かやんなきゃ、だもんなあ。」


 こういう時に真っ先に話すのはパーティーのリーダーだが、口を開いたのは意外な事に4人の中で一番若く見える男だった。


 そしてリーダーらしき若い男は指名されて驚いた様子ではあったものの、驚いたことに否定的な言葉は吐かなかった。


 アルローラが厳しい顔付で続けた。


「さっきも言ったが、お前らのチームワークが一番良さそうだからだ。追い込み猟を基本にしてるお前らなら逆に誘導も出来るだろ?」

「まあ…やってることは一緒だからってかあ…」


 若いリーダーは隣に座る壮年の男の方を見た。


「しゃあねえぜ、アニキ。やるっきゃねえだろ?」


 対する横に座る壮年も重々しく頷いた。


「お前がそう言うなら俺は特に意見はねえ。」

「チイ兄は?」

「ちっ…まあ…アルローラさんから頼まれちゃ仕方ねえだろ。」

「トリウチさんは?」

「……リーダーのアンタに従う。」

「つうことで、任されるわ。」


 危険な役割なのにテオ一派がゴネることなく、そうは言っても全員の意志はキチンと確認した上でリーダーのテオが了承し、アルローラも頷いた。


 一番ヤバい役…貧乏籤ではないと信じたい…である囮役決まれば、後は待ち伏せ本体の布陣だ。

 全員がユーリさんが広げる周辺の地図と新たに開かれた待ち伏せ地と思われる場所を描いたと思しき手書きの地図を眺めながら説明を聞き、短く真剣な幾つかの質問を挟みながら作戦のブリーフィングが続いた。


 俺は予定通り後衛で木の上から弓で援護だ。

 通常の魔獣狩りなら後衛ながらアタッカーとして積極的に獲物を仕留めにいくだろうし、戦場なんかでは先ずは遠間から先陣をきって敵兵を減らしにいくだろうが、ビッグヘッドは弓だけで倒すのは困難、というより限りなく不可能だ。ヘタすりゃ碌にダメージすら与えられない。


 言うなれば人間を画鋲で攻撃する様なものだ。

 人間に画鋲を投げたところで深くは刺さらず、仮に上手く刺さっても大したダメージにはならない。沢山刺さっても画鋲だけで人を殺すのは難しいだろう。

 だが当たれば痛いから無視も出来ない。刺さり所によってはノーダメージでもない。

 なので俺の役目は主に蛇が反撃の構えを見せたら嫌がらせの様に攻撃して、味方から目標を逸らす事が今回のメインの役割だ。それとガルにも説明した様に横合いの死角から不意打ちで襲って来る尻尾による攻撃を防ぐことだ。


 士官学校上がりのユーリさんは流石にこの辺はよく分かっており、6人程参加しているDクラス、Eクラスの魔法使い達も主な役割は牽制と位置付けられている。

 彼らだって普段は牽制だけでなく積極的に魔物を倒しにいく事だってあるだろうけど、D、Eクラス程度の火力ではビッグヘッドにトドメを刺すのに全く至らないどころか碌なダメージも与えられないのは分かっているからだ。


 そしてクラウは前衛の一員として戦う。

 但し場所的には俺の正面を守る様な感じで正面きっての斬り込みというより、おれら後衛を護衛する様な役目だ。俺は少し離れた木の上だから俺ら、と言うより魔法使い達を守るのがメインだ。アルローラからすれば流派の剣士はやはり魔物に慣れていないと見ての配置なのかも知れない。


 冒険者の集まる討伐には初めて参加したが、この辺りは軍の動きとは違う。


 軍は兵員1人は兵員1人に過ぎない。だから兵力としての特性は考慮するが、それ以外は上官の思うままに配置する。だが冒険者の多くは通常はパーティーを組んでいる。このパーティーをバラバラにするような形での配置はしないらしい。斥候&おびき寄せを担当するのも動きの素早い数人とかではなくてテオ一派丸ごとで彼らだけだ。


 なのでクラウも剣士だから前衛の一部だがなるべく俺の近くに配置されている部分もある。

 よく考えてみれば、軍でも小隊をバラして配置しないようなもんだから、不思議はないのか。


 ブリーフィングが終わり、三々五々に集まってメシを作り食い始めると、俺とクラウの所にユーリさん達が寄って来た。


「弓師がいると作戦に幅が出来ていい。助かるぜ。」

「作戦ってアンタが考えたのか?」

「大筋はな。」


 横で同じ様にメシを食っていた別の冒険者がこっちを向いて言った。


「ユーリは士官学校上がりだからな!」


 身内、というかここの冒険者ギルドにちょっと長く所属している連中の間では結構有名な話らしい。

 特に隠し事でも何でもない証拠に、先日の飲み会でも本人から話を聞いた。


「俺ぁ~士官学校出て王立軍に入ったんだけどな…」


 彼は杯を傾けながら何でもなさそうな口調で言ったものだ。


「まあ、なんだ…偉くなんなかったんだわ。」

「ふ~ん。」

「小隊長になったのは早かったんだが、何でか直ぐに外されてな…それ以来、副長から上に上がらんで、後輩にも次々抜かされてな…」


 彼が杯を飲干し、俺が注いで、彼はアリガト、といった風にちょっと杯を上げた。


「ま、結局、もうダメだろってんで軍辞めて、ここで冒険者になったんだ。」

「へえ~」


 士官学校出である。そんなに詳しくもないが小隊の副長は卒業2年後ぐらいにはなれる地位で、そこで足止めされたという事は、何が原因か知らないが、軍では余程大きなバッテンがついていたのだろう、というのが俺の勝手な想像、というか邪推だ。

 何かしら不祥事とかなら本人も身に覚えがあるだろうが、彼の口調からはそれは感じられない。けど、何か致命的な欠点があるのかも知れない。が、飲み会で初めて会ったぐらいではそれも分からない。


 ま、そこらは他人様の事情でそんな詮索する様な話でもないから、俺は理由を殊更掘り下げたりもしなかった。


「30半ばも全然過ぎてたんだけどなあ!」


 ハハハと本人は軽い感じで笑いながら言っていたが、それが本当なら結構大変だった可能性は高い。


 冒険者になるのは、下限は15歳の成人以上と決まっているが、上限に年齢制限はない。

 だが、冒険者は言うまでもなく荒事専門の体力勝負で魔物相手も多いから、歳がある程度イッてから始めるとツラいのは誰の目にも明らかだ。

 だから、30前後で飛び込んだ俺がだいたい最後ぐらいで、30代も後半を超えてからこの世界に飛び込んで来る者は多くない。ましてや指揮官クラスであり、ややもすると武芸実務というよりアタマ勝負の士官学校出身者でその歳でこの業界への転職は皆無に近いだろう。この職場では司令室で椅子をケツで毎日拭いてれば給料の出る立場はないのだ。

 軍出身者は他の商売に比べれば全然ズブの素人ではないから冒険者には比較的転職し易い職種なのは間違いない。なので鞍替え自体の数は少なくない。が、大概は20代前半ぐらいで軍の雰囲気が合わないヤツやら冒険者の方が稼げると判断、または勘違いしたヤツが転職して来る。


「まあ、その歳になって、一から冒険者でやり直しってわけなんだが、ここの連中は結構、よくしてくれてだな……だから俺はここが故郷ってわけじゃねえけど、今回は精一杯やりてえんだ。」


 年齢の割には冒険者としては年季が浅いかもだが、士官学校出で知識はある。

 サーチ&デストロイしかアタマにない普通の冒険者の連中とは違い、ちょっとした作戦なんかを考えるアタマもある。こういう人材はE、Dクラスの力押しだけでどうとでもなる単体の魔物相手よりもCクラス以上の手強いヤツや、目的狩り、探索、群れ系統の魔物退治の時には役に立つだろう。

 今回の討伐の様に大人数の関わるミッションの方は軍事作戦に近いから、彼の作戦能力が活きるのかも知れない。


 普段の彼はギルドの同僚達の相談に気軽にのり、彼の経験の足りなさを周囲が補うという形で冒険者として成り立っている、らしい。1つのパーティーに所属はせず、さりとて俺の様に単独で獲物を仕留めに行くタイプでもなく、助っ人メインだ。


 なので今回も作戦担当だ。

 先の説明でも、ボスのアルローラが説明はユーリから、と言えば周囲も当然、という風に彼の方を向いた。


 アタマの良さは皆が認めていても、その意見は重要視されず、それどころか誰にも聞いても貰えない人間というのは世の中には少なからずいる。所謂「人望がない」とはそういうことだ。

 ややもすると皆が正しい見解と分かっていても、彼が言ったばかりに敢えて条件反射的に否定されて正しくない方向へ向かう例だって会社では見た事がある。


 その点、アルローラが後ろについているにしても、士官学校出としては当然なのかも知れないにしても、それは彼自身が彼の言う事なら聞いてもいい、という信頼を周囲から得ているからだろう。


 最初は然したる戦力にならずとも、転職先で職場のボスと周囲の信頼をしっかり得る。

 そして今は逆に余所者の俺らが孤立しない様に、あるいは現場で勝手な行動をとらない様にキチンと声を掛けにきている。


 俺も…まあ日本に帰る事があればだけど…転職する時は見習わなくちゃ、かも知れんな。


 わざわざ声を掛けてくれた彼に俺も笑顔で答えた。


「アンタの立てた作戦、ムダにしねえように俺らも気張るわ!」


 横にいるクラウもニッコリ笑顔で言った。


「いい作戦だと思う。なに、蛇退治如き、これだけの戦力があれば直ぐに終わるさ。」


 クラウの笑顔を前にユーリは照れ臭そうに笑って「へへへ!頼んだぜ!」と戻っていく。

 

 野郎を奮い立たせるのは何時の時代も女子の笑顔と激励だ。

 そんな役割で連れて来たわけでも何でもないし、本人はもっとそんなつもりはないだろうが、来て貰って良かったかな。







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