026 初回で無双する魔法使い
話は再び初回の3人組へ。
マサさんの追い魔法(?)で再度凍り付いたヒュドラを見ながらシイちゃんが言った。
「どうでもいいけど、そろそろ縄、外さね?」
「んだ、んだ。」
誠にいい発案だが俺は端的に問題点を指摘した。
「どうでもいいスけど、つか、全くどうでも良くないけど、どうやって?」
リーダーのシイちゃんが単純に解決策を示す。
「タカトのレーザーで焼き切ったらいいじゃん。」
「なるほど!」
シイちゃんが早く焼き切れとばかりにゴロンと後ろを向いた。
と、言ったところで俺も手は後ろ手に縛られてる。指先以外からもレーザーは出るわけだが、やはり指先以外からだと指向性が落ちる。なので俺もモゾモゾと後ろを向いて、背中越しにシイちゃんの手の方に指先を向けた。
ビッ!
「痛て!バカ、俺にちょっと当たったぞ、おい!」
「背中越しでよく見えねえし、細けえコントロールは難しいんスよ!ちっとカスったぐらい我慢して下さいよ!」
「んだ、んだ。」
ピッ!ピッ!ピッ!
両手が自由になったシイちゃんが足は縛られたままピョンピョンと立ち上がった。
「おっしゃあ!ヨシ!タカト、後向け。縄、外してやる!」
「どーやって?」
「……」
当たり前だが俺らは絶賛武装解除中だ。寸鉄1つない。縄を切ろうにも刃物がない。俺のレーザーだけが頼りなのだ。
「…まあ、まずは俺らのヒモ、切ってからタカトのどうすっか考えようぜ。」
マサさんの珍しい常識的見解にシイちゃんも頷いた。
「しゃあねえな。タカト、悪りいけど足も頼むわ。」
「へいへい。」
俺が両手両足を後ろ手に縛られたまま、相手に当てない様に結構苦労してシイちゃんの足、マサさんの手足の縄を焼き切ったが、依然として俺はイモムシのままだ。
「で、タカト、どーするよ?」
シイちゃんの問いに首をコキコキさせながらマサさんが言った。
「どうもこうも俺の魔法で何とかするっきゃなさそうだろ。」
こらこらこらこら!
さっきマサさんの魔法の威力は見たばっかだ。俺は慌ててジタバタした。
「マサさんの魔法とかヤバ過ぎでしょ!俺の腕ごとぶっ飛んじゃうかもしんないじゃないすか!」
「ああ~まあ……そーだな…小さい炎とかの魔法、作ってみるわ。」
「使う前にちゃんと実験とかして下さいよ?間違ったとかイヤっすよ!」
「ああ、俺も威力小さいのとか、あんま意識して作ったことないから、そうする。」
マサさんが自由になった手首をフリフリ、そこらにあった小枝を拾って魔法を検討すべくのっそりとしゃがみ込んだ。
が、直ぐに立ち上がった。
「と、その前に…」
マサさんがブツブツ言いながら、凍り付いたヒュドラの顔の前でサッと手を振った。
「ちと時間経ったからな。一応、保険ってことで。」
見た目は何も変わってない。が、マサさんは何かしたのは分かったので俺らは突っ込まなかった。
改めてマサさんは小枝片手に座り込んだ。
ミシミシミシミシ
俺は拘束されたまま寝転がり、横でシイちゃんがボーッとしている向こうでマサさんがブツブツ怪しい人になって5分後くらいにヒュドラから音が鳴り始めた。
「おいおい、ヤバくねえか?」
「氷、破られてんじゃないすか!?マサさん!」
対するマサさんはチラリとヒュドラを見ただけだった。
「大丈夫。そこまでは読めてっから。」
ミシミシミシミシミシミシミシミシ
氷に裂け目が入ったのが見えてきた。
「おい!マサさん!氷、もう持たねえぞ!」
「ヤバい!ヤバい!ヤバい!」
慌てる俺らを他所に、マサさんはヨッコラセ、と立ち上がって腰をトントンした。
「おお?あ、まあ魔法はこんなもんかな。」
バキバキッ!
氷が一斉に割れて、ヒュドラのアタマが剥き出しになり、7つのアタマが一斉に襲いかかってきたその瞬間だった。
バン!バン!バン!バン!バン!
ヒュドラのアタマが爆散した。
薄く煙が立ち込める中、マサさん1人が嬉しそうに言った。
「お、上手くいったぞ。」
「「オー!」」
どうやら先の一振りでマサさんが何か仕掛けたらしい。
見事にアタマが爆散したのを見て俺らは素直に感嘆の声を上げた。
が、何か花火っぽい薄い煙がまだ晴れない中でマサさんがぽけっと言った。
「あ、空中魔法地雷、二発外れた。」
「こらこら!」
「外れた、とかってボーッと言ってんじゃねえよ!さっさと何とかしろよ!」
「じゃあ、そうする。」
その時、目の端に何かデカいモンが動いたのが見えた。俺は咄嗟に転がって其方に指を向けた。
ビーッ!
ビタン!
そのデカいモンが、咄嗟に撃った俺のレーザーを喰らってデカい音と共に弾かれた様に後ろに下がる。
肩越しによく見ると、ヒュドラの尻尾だ!
視覚の変な位置からいきなり出て来た様に見えて他の生き物にしか見えなかった。
バンッ!パンッ!
振り向くとヒュドラの残りのアタマがぶっ飛んでいた。
ズッシン!
ヒュドラの巨体が倒れて動かなくなった。
「あっぶな!」
マサさんの視線は自分が潰したヒュドラのアタマではなく、バッタンと倒れた尻尾に向けられている。
「尻尾、結構、怖えな。」
「死角っぽいところからブワッと来たし、あんだけデケエとな。」
「うん、俺からはマジ死角だったし。タカトがいなかったらヤバかったかも。」
俺らはもう動かないヒュドラを再度眺めた。
「ま、そうは言っても一応倒したし。」
「ほとんど俺1人で殺ったけどな。」
「!!!」
マサさんのボヤキにシイちゃんがハッとした顔をした。
今更のように今回、自分が何もしてないのに気付いたらしい。
「……んだよ!2人で殺っちまったら、俺、出番ねえじゃんか!」
「1匹しかいないから他の死体もないし、シイちゃん、今回はハナから出番ねえだろ?」
マサさんの珍しいボケてない正論に、うっ!とシイちゃんが詰まった。
これがシイちゃんの弱点だ。死体がないと死人使いは操るモノがない。敵を倒すにはまず敵を倒してから、という禅問答みたいなのがシイちゃんだ。
だからタイマンでは出番がない。先制攻撃も基本的にはムリだ。
だが、相手が多数なら威力を発揮する。
6対3で相手は倍でも1体倒してゾンビ化すれば5対4、2体倒せば4対5で逆転だ。
しかもゾンビは既に死んでいるが故に自身の身を守るという生命の本能から解き放たれ、死んでいるが故にそれ以上は死なない。恐れ知らずの不死身の仲間として俺らに加わる。
しかしながら繰り返すが今回の様な相手が1体ではほぼ役に立たない。
「最初から空中地雷?使えば良かったじゃねえか!」
「いや、一応地雷だからさ、空中に仕掛けるのはいいけど一度設置した場所からあんまし動かせんのよ。ちとズラすぐらいは出来んだけどね。」
「……むう。」
「しかも地雷だから相手が接触せんと爆発せんし。なんでコレ使うなら一度凍らせてアタマがある所の近場に仕掛けるしかねえんよ。」
マサさんの理路整然とした反論にシイちゃんが「ぬぐぐ…」と詰まる。
「と、とにかく、細けえトコはとにかく、マサさん、お疲れ。」
反論の余地が無くなったところでシイちゃんはこの話をこれ以上続けない方向にしたらしい。
マサさんを労うとマサさんも良か!良か!という風に鷹揚に頷いた。
「ウス!タカトも尻尾、あんがとな。」
「ウス!」
「…まあ、いいや。もうコイツはここに放っておいて、サッサと魔王んトコ、行こうぜ。ただでさえ今回、遠回りしてんだ。」
「いや、村で俺らの荷物、取り返さんとマズいだろ。剣とかはともかく本はさ。」
今日のマサさんはマジ無双だ!
全てマサさんの言う通りだ。本だけは取り返したい。
これにはリーダーのシイちゃんも異論なく頷いた。
「あ~本はヤベエな。」
「でも村の連中、返してくれんスかね?」
「ヒュドラ、退治したって言えば、別にどうこうもなく返してくれんじゃね?」
「いやあ、どうだろ。俺ら生贄にする連中やぜ?」
暫く俺らは考え込んだが、今日の主役はマサさんだ。
無双状態のマサさんが言った。
「ま、一応、聞いてみて、ダメなら俺が空中辺りにデカいの一発カマすわ。脅しとしちゃ悪くねえだろ。それでもダメなら田畑ぐらいなら焼き払ってもいいし。」
「……まあ、そうすっかね。」
シイちゃんも頷いたが、ここで俺は閃いた!
「…いや!そうだよ!シイちゃんがヒュドラ操って村まで連れてったらいいじゃん!いい脅しになると思わないスか?」
が、出番がない事に不満だったシイちゃんも活かせる俺のナイス発案だったはずなのに、当のシイちゃんは「…ハア」と溜息を付く。
「だからさ、何度同じ事を言わせんだ!アタマ、ぶっ飛ばしたら俺の命令を聞く耳もねえんだよ!」
「……すっげえ今更で根本的な疑問なんスけど、蛇の耳ってアタマにあんの?つか何処にあんの?」
俺の疑問にシイちゃんが「うっ!」と詰まる。
耳付いた蛇なんぞ見た事がない。けど普通の蛇は知らんけどあのヒュドラは俺らの言葉を聞いて返事とかしてた。何処かに耳に相当する器官があるのは確かだが、シイちゃんも分からんらしい。
が、シイちゃんは直ぐに考えるのを止めて喚いた。
「……んなこた、どうでもいいんだよ!とにかく脳ないから俺の命令を理解出来ねえし、それどころか自分の体も動かせねえんだよ!脳ないから!」
「そっか。耳とかの問題じゃなくて脳ないスからね。」
俺も納得し、結局は本日無双のマサさんにアフターまで全て丸投げってことになったところで俺はイモムシのままジタバタした。
「それよか、これ、何とかして下さいよ!」
今更のように俺1人がまだイモムシなのに気付いたらしい。マサさんとシイちゃんが一瞬目が点になった後、クックックと笑った。
「おう!カンペキに忘れてたわ!」
「もう、こっから先、そのままイモムシで逝かね?」
「……マサさん、寝てる間にレーザーでトラ刈りになりたいんすか?」
俺の脅しを聞いて、恐れ入るどころかシイちゃんが吹いた。
「ぶっ!レーザーってことは、アレか?永久脱毛?マサさん、やって貰えよ!永久トラ刈りだぜ!」
「今なら縦か横かは選べます。」
「マジか!」
「自分でボケてて何ですけど、この紐、何とかして下さい!マサさん、魔法、上がったんでしょ!」
「ちっ!しゃあねなあ。」
「何でそこで舌打ち!?」
マサさんがブツブツ言うと、拳大ぐらいの炎がボッとできた。
「よし!やんべ!タカト、動くなよ?」
「お願いしゃーっす!」
ちょっと火傷はしたものの漸く縄が取れ、俺も漸く手足をグリグリと回して痺れを取りながら、座り込んでいた。
そうしてたら同じように横に座り込んでいたシイちゃんがボソッと言った。
「つかアイーシャさん達はどーした?」
無双状態のマサさんも彼女達が周囲にいないのに今迄気付いてなかったらしい。
ウオッとした顔をした。
「……ヤベ、タカトのイモムシもだけど、こっちも完全に失念しとった。」
「なんか俺らだけってクセ、まだ抜けないっすよね。」
が、俺らが動き出す前に入り口(?)の方から声が聞こえて来た。
「急げ!何としても救出しないとアタシらがヤバいんだぞ!」
「急いでるって!」
「ミリー!そろそろ弓、準備した方がいいんじゃない?」
「ミリーが最初に一発!その後でアタシとレニで突っ込むぞ!」
「ヒュドラ相手に作戦が雑過ぎねえか、隊長さんよ?」
「マーサ達の救出が最優先だ!最悪、ヒュドラは手負いのまま放置でいい!つかヒュドラなんぞ放っとけ!」
ドヤドヤとお付きの4人組が来るのを俺らはお気楽には手足を投げ出しまくった座った姿勢で出迎えた。
「よ!お疲れ。ヒュドラならもう倒したぜ。」
片手を挙げて今回何もしなかったはずのシイちゃんが軽く言い、彼女達は俺らの背後にデロンと転がってるアタマが完全にぶっ飛んだヒュドラを見て「えっ!」と固まった。
あたかもシイちゃんがぶっ倒したみたいな言い方だったから俺が補足する。
「主にマサさんの魔法で。」
マサさんも涼しい顔で更に補完する。
「つか、全部、俺の魔法で。」
わざわざ立ち上がって胸を張って、というよりは腹を突き出す様なポーズで豪語するマサさんに対し、女騎士4名は最初は「ホントに?」という表情でマサさんを見た。が、マサさんの自慢ポーズはゆるぎなく、俺らも同意しているのを見てアタマが完全に吹き飛んだヒュドラに再度無言で目をやり、今度はマサさんを化け物を見る様な目で見た。
「マーサ!凄いのね!」
いち早く目をキラキラさせてマサさんに飛び付いたリリアに何故か女組残り3人の視線が集中する。
飛びつかれたマサさんは「お、おう…」と言いながら動揺している。リリアの背中辺りでマサさんの両手が変な動物みたくヒクついてるのは、そのまま彼女の腰だか背中だかに手を回したりしていいか分からないからだ。
ったくこれだからもうすぐ真正魔法使いは……
「…お前、今、もうすぐ魔法使いのクセに、とか思っただろ?」
「あれ?顔に出てました?(笑)」
俺とマサさんの会話にリリアがマサさんに抱きついた姿勢のままキョトンとした顔をする。
「なにそれ?マーサは元から魔法使いでしょ?」
「「「……」」」
上手く説明出来ない俺とシイちゃんは黙り込むしかない。つかもうすぐ魔法使いも哀れだが、”元から”魔法使いとかカワイソ過ぐる(笑)。
リリアに悪気がないのは分かっちゃいるが、今日は無双のマサさんもちょっとエグられたらしい。こちらも返事も出来ずに複雑な表情で黙る。
俺らが気まずく黙っているとミリーが助け舟ではないがいいタイミングで口を挟んだ。
「お前らの荷物とか武器とかなら洞窟の入り口に投げ捨ててあったぜ。」
「マジか?取りに戻らんでよくなったな。」
マサさんが首を傾げる。
「なんでじゃ?」
「大方、我々が疲れて眠ってしまった後に勇者様達だけでヒュドラ退治に逝ったという偽装の為でしょう。」
アイーシャの推論に俺らは成程!と納得した。
今、考えれば村人の対応はこの世界の人間達特有の思考の結果だ。判断は大雑把で短視眼的で極度に利己的だが、細かい所はキチンと理詰めなのだ。
「ま、いいや!」
シイちゃんがパッと手を広げる。
「もうこんなトコには用はねえ!」
アイーシャ達も含め俺ら全員が頷いた。
「例の…何だっけか…タイマソーとかってヤツに報告とかいらねえだろ?」
シイちゃんの確認、というか念押しに、「そんな危なそうな名前じゃなくてタイス公です」という訂正を入れる事無くアイーシャも苦々し気に返答した。
「不要です……さっさと魔王城へ向かいましょう。先は長いのですから。」
今回のビックヘッドはデカいって言ったって首はたった2つしかない。
あの時と同じで単体相手にシイちゃんは役に立たないけど、マサさんがいりゃあ楽勝なのになあ…
次回は討伐へ戻ります。
ちなみに蛇に鼓膜のある類の耳はないですが、頭蓋に音を感じる骨はあるそうです。




