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風任せで人任せな俺がここにいる理由  作者: 明月 文


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123 役割の再確認

 しかしながら、だ…


 ここで俺はふっと思った。

 そういう必須イベントって大概は強制的に起きるか、あるいは状況的には多少不自然、かなり強引なご都合主義でも避けられない様に出来てるのでは?


「そういうのって普通は強制で起きるんじゃねえの?」


 俺の問いに浜井は「その通りだ」という風に頷いた。


「イベントは本来なら強制で起きる。変な話、彼女がヒロインをイジメてなくたって、王子が勝手に勘違いして彼女のせいだと思い込んで話が始まるはずなんだ。」


 だろ?


「なのに何でかそれもぶっ飛んでて話自体が始まってもいない。それを運営側のストーリーAIが問題視してるんだ。」


 ……説明聞いてもよく分からんな。

 つか、説明でも何でもねえからか。


「実際に結果を見てもAIの推測は正しかった。何かおかしい。そんでもってコッチに来てみたら案の定、アンネは田中になっちまってて、しかも転生設定とかでプレー内容が分かってない。なんでイジメを始める素振りはなかった。」


 結果だけ見ればそうだ。


「けど俺らが彼女に自分が悪役令嬢だと認識させたお陰で話が回転し始めてる。平民が故に貴族礼法に疎いヒロインが彼女の前に現れて、少なくとも取り巻きにはターゲッティングされ始めたし、王子もヒロインの存在を気にしているのが彼女にもバレた。」


 彼は自分で言ってて自分で自信を持ってきたらしく続けた。


「彼女はあんな事を言ってはいるけど、後は俺らが彼女にお前は悪役令嬢だからイジメていいんだ、むしろイジメろって言い続ければ自然にそういう行動になるさ。そもそも今の彼女…田中さんからしても王子を獲りにくるヒロインは邪魔なんだ。」


 なるほど。

 ここまで浜井と色々な話をして、漸く俺らも含めたこの話全体が見えて来た様な気がした。


 そもそも俺らのやり方はユルい。

 ストーリーを元に戻す、その第一段階としてアンネを王子の婚約者から降ろすだけならもっと強引な手段をとってもいいはずだ。実現性という意味ではかなり困難なのは傍に置くとして、それこそ俺らがアンネを暗殺してしまうとか。

 だが実際に俺らがやってるのは裏でアンネを焚きつけてイジメをさせようってある種迂遠な手段だ。しかも浜井に至っては作戦の正面に立たずに、アンネへの説得は俺任せになっている部分が多い。


「まあ…アレか?あくまで彼女が主体的に話を進める方向で持って行こうとしてるんだな?」


 分かってくれたか!という風に男爵は笑顔になった。


「昔は誘導心理学って訳語が当てられたんだけど、痴呆症とか発達障害とかと一緒で如何にも医者とか学者らしいセンスのないネーミングで、めっちゃサギっぽく聞こえる用語だってんで今はリーディングサイコロジーって言われてる。」


 単に訳してないだけだな、ソレ。IT業界とかによくあるパターンだ。


 難しい単語になればなるほど、基本的に訳さない。

 もっとも日本語が、と言うより言語一般が苦手な方々がやることだから訳すと返って変な言葉になってかえって分かり難くなるから訳さない方がいい場合も多い。

 だが所詮は一般用語じゃないから訳しづらいわけで、元の英語で言われてもやっぱり一般的じゃないから分かり辛いが、業界人達は一般用語だと言い張るだけで世間では全く意味が通じない事も多い。


「ただアンネの主体的行動が弱いと結局は最終的には強引なつじつま合わせが起きる可能性もある。」


 前にアンネを説得した時にもその話はあったから、俺も頷いた。


「王子の婚約者からの強引な退場ってヤツだな?」

「なんで、そこはお前の出番だ。」


 浜井の言葉に俺も頷く。


「田中の身を守れってことだな。」


 が、疑問がないではない。


「冷たい様だが…」


 今更だが俺は彼に訊いた。


「お前さんの話を聞く限り、この学校の話の中は知らんが、大筋の物語でアンネ・バーバレラは主要人物じゃない。途中で倒される事が必須な中ボスですらない。勇者の祝福を与える聖女の前に王子の婚約者だったってモブだ。」


 ノーベル賞受賞の学者と小学校の頃によく遊び「大きくなったら一緒にサッカー選手になろう!」と言っていた親友みたいなものだ。学者がノーベル賞を取る頃には誰も思い出しもしないし、無論、ノーベル賞の受賞には何ら関係ない。本人も有名サッカー選手でも何でもない。


「聖女のヒロインちゃんがいれば彼女がいなくても世界は回る。ストーリーの強制力が働いて彼女は強制退場になれば、それはそれで良くないか?」


 浜井も俺の意見をアタマから否定しなかった。

 が、言った。


「そういう考え方もあるとは思うけど、会社が言うには公爵令嬢の彼女がココで不慮の事故やら暗殺者に襲われるやらは不味いらしい。」

「何が?」

「すまん、そこは俺もよく説明されてないから正確には分からん。けど推測はつく。」


 彼はコーヒーを飲み終わってカップを置いた。


「結局はストーリーAIはそれだけじゃダメだ、と判断してるんじゃないかな。」


 これも言われてみれば俺も自分で推測がついてきた。


「過程が重要ってか?」

「そうだ。」


 浜井も同意する様に大きく頷いた。


「ストーリー的にはアンネがヒロインをイジメて、それを思わず助けたり、他のイベントをこなしたりして王子とヒロインは仲良くなる。そうして2人の気持ちがMAXまで盛り上がりきった所で卒業パーティーで婚約破棄という大勝負に出るんだ。そしてその一世一代の勝負に勝って結ばれる。」


 ババーンってわけだな。


「そんで、障害を乗り越えてアドレナリンがMAXまで上がったヒロインも聖女として覚醒する。」

「自然体で王子と仲良くなって、ユルく普通に幸せになってもダメだって事か?」

「そういうこった。」


 聖女になるには何らかの壁を自分で乗り越えなくちゃいけない。その壁ってのが悪役令嬢アンネ・バーバレラ公爵令嬢ってわけだ。


「つじつま合わせとしてはアンネを退場させるのは悪かない。アンネが婚約者として健在でいる限りヒロインが王子と結ばれる事はないからな。けど、悪役がいなくなっちゃ残りのイベントは発生しない。」

「まあ、分からんではない。その可能性はあるわな。」

「んでイベントがない以上、気持ち的にアガりきってない王子が平民のヒロインを掟破りで婚約者にしたいと言い出す可能性も低い。そもそもバーバレラ公爵令嬢がいなくなって婚約者の席が空いても王子が平民を娶りたいとか言い出すのは困難だ。それに加えて王子がそれを望んでも婚約破棄イベントに代わる勝負所がないから、それを言い出す機会も口実もない。」


 正にウルト〇マンの怪獣だ。

 怪獣は最後には退治される。けど怪獣が来なくては話が始まらないし、はるばる地球まで来たところで草原で大人しく草でも食っててもウル〇ラマンの活躍場面はなくなる。何が楽しいのか分からないが市街地で思いっきり暴れて貰わないと困るのだ。


「悪役令嬢は邪魔だから最終的には手段を選ばず排除される。けど最後まで存在しないのは困るってところか。」


 俺の理解に浜井も「そうだ」と言った。


「取り敢えずアンネを退場させて、アンネという壁は取り除くのは必須だから多分やる、かも知れねえ。けど、結局はそれだけじゃ上手くいく確率は低いんだろう。まあ…AIにこんな言い方が当てはまるか分からんが、ワンチャン、やらないよりマシだからやるだけだ。」

「なるほどな。」


 俺が納得したのを見ながら浜井は「それとな…」と続けた。


「俺個人としてはもう一つ懸念がある。」

「なに?」


 浜井はコーヒーをグッと飲干してカチャンとカップを置いた。


「普通は変な事故とかになったら自分でログアウト可能だし、死ねば自動的にログアウトされる。」

「ま、ゲームだからな。」

「けど、彼女は転生設定だ。自分でログアウトの方法を知らない。」

「……」


 だから何だ?という顔の俺に浜井は言い聞かせる様に言った。


「行動不能、つまり死んだならともかく、顔面ぐしゃぐしゃになって寝たきりで婚約者レースからリタイアってハメになってもログアウト出来なかったらどうする?TPCがどこまでコントロールしてくれるかも読めない。」


 なるほど!


 言われてみれば彼女は転生って自分で言ってた。つまりログイン、ログアウトって発想そのものがないって事だ。マズくなったらリセットも出来ない。


 しかも考えてみれば、この話の正統な終了は悪役令嬢の追放だ。

 つまり彼女は死なない。


 それに合わせて彼女を婚約者レースから卒業式であるとかいう断罪無しでリタイアさせようとすれば、浜井の言う通り顔面グシャグシャ系とか意識不明、半身不随系の大怪我をさすというのは充分考えられる。


「お前、結構いいトコあんだな。」

「……俺はゲーム会社の人間じゃねえんだけど…プレーヤーっつか関係者全員が俺の世界で楽しくプレーしてくれんのを望んでる。」

「ま、それに越した事はないわな。」


 相変わらずの分かったような、分からんような話ではあるが浜井の懸念点は分かった。

 「話はだいたい理解した」と俺は飲み終わった食後のコーヒーを置いて言った。


「さっきも聞いたとは思うが、一応、そっち方向でチマチマとプッシュはしてる。けど最終的にやるのは彼女だ。俺が代わりってわけにもいかんし、学園内で俺には出番もねえ。」


 俺が話を戻すと浜井も頷いた。


「それは分かってる。けど今までのお前のプッシュ悪くねえと俺は思ってる。アンネも何か変な事は言い出したけど、お前が近くにいて圧を掛けてるお陰で自分が悪役令嬢なのは強く認識している。なんで、この調子で頼む。」


 そうは言ってもねえ…

 下の不穏な動きを放っておくと碌な結果にならんのだがねえ。


 左遷子会社のウチですら、方針に反対する俺ら実務担当者の意見に耳を貸さずに放っておいた結果、課長はメキシコにトバされちゃったわけだしねえ。


 個人的にはただでさえ悪役令嬢役に気乗り薄だった田中が、なんか違う事を言い出しているにも関わらず、俺は今迄通りこのまま後ろから突くだけでいいのか?という疑問は残ったが、浜井がそう言う以上、現状をそのまま続ける事で話は纏まってしまった。


 まあ、しゃあない。


 所詮、俺は風任せ人任せだし、特にこの件に関しては一応は分かっているはずの浜井が指示を出している以上、よく分かってない俺が浜井任せになるのは仕方がない。


 後は風任せで万が一が襲って来た時に実力を見せるとするかね!?






 念の為申し添えますが、似たような考え方、表現はあるものの「Leading Psycology」なる心理学用語は少なくとも現在はないようです。

 「誘導心理学」という用語は正確な学術用語ではなく、あくまで世間一般的に俗に言われている日本語表現と思われます。

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