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風任せで人任せな俺がここにいる理由  作者: 明月 文


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118 第一ラウンドは互いに被弾

「久しぶりの学校はどうですか?」


 側近であるアソール公爵嫡子キース・アソールの言葉にルシアン王子は冷たく返した。


「半年かそこらで様子が変わるわけでもあるまい。」


 王子は今日が約半年ぶりの登校だ。


 そもそもの始まりは夏休みの3か月前程から父親である国王が体調を崩したことだった。

 流石に政務は代行出来ないものの、王家の義務として国のトップに付き物の儀礼的な行事の数々やら、夜のパーティーやらに代理として出席する必要があった彼は、最初こそギリギリ学業と両立させていたが、結局、夏休みの少し前から王家の特例を使って休校するしかなかった。


 そしてそのまま夏休みに突撃し、幸いな事に父国王の体調は無事回復して表の行事を代理する必要は無くなったものの、今度は裏で「ルー」という名でアタマを張ってる半グレ集団の方で問題、具体的には敵対する同じ様な集団との間で深刻な揉め事が起きた。


 しかも原因は彼の通う学園にあった。


 学園に特待生として入って来た地方出身の生徒が地元で流通していた違法薬物を持ち込み、まずは彼ら地方出身者の住まう寮の中で蔓延させた。

 挙句、あろうことかルシアン達と対立していた方の半グレ集団と手を組んで外販を始めたのだ。


 それに気が付いたルシアン達は、何時の時代も何処の世界でも名門校は不祥事は隠蔽する方向なのを良い事に学園側の黙認の下、先ずは持ち込んだ生徒と関係者を調べ上げ、全員を退学に追い込んだ。

 そして外販ルートの方は町の手下を使って壊滅させたのだが、1枚噛んでた対立する半グレ団は当然の事ながら楽な儲け口を突然潰されてマジギレ。ルシアンの率いる集団とマジ武力抗争へと発展したのだ。


 王子とすれば半グレチンピラ達とは言え、今は自分の配下である彼らを捨て置く気はない。

 そもそも揉め事の発端は実に恥ずべきことに自身の学校から流出していたヤクの話であり、彼はその存在を許す気はなく、外販ルートを仕切っていたライバル関係にあった半グレ団の連中を手下を総動員してぶっ潰しにいった。

 王子は、王、王妃という公的立場を持つ多忙な父母がルシアンの学生生活など普段は全く見ておらず、学校側に一々事情説明もいらないのをいい事に、側近達も引き連れてそのまま2か月間、勝手に休校を延長し、そちらへ対応していたのだ。


 と言う事で、彼は半年以上の休学の末の登校である。


 最近は将来の侍従長候補である伯爵子息よりも常にお傍に控えている最側近のキースとしては別に何でも良かったが、久しぶりの登校に少しは緊張しているかも知れない王子の気を紛らわす雑談代わりに感想を聞いたわけだが、王子は些か冷たい返事をしただけだった。


 王子としてはこの学校に通うのは単なる義務であり、特に求めてるものなどない。

 専門の家庭教師が各教科毎に幼少の頃から数多く付いていて、勉学面で新たに学ぶ事など何もない。現に特段、試験対策勉強などしなくとも成績は常にトップ3である。むしろ王子とその最側近であるキース、そしてヒロインの3人だけが異次元の成績で三つ巴で争っている状態だ。

 王子自身の高い能力と努力のたまものではあるのだが、先にも言った通り彼にはそもそも小さな頃から各分野の優秀なカテキョーがビシバシについている。しかも王子のカテキョーは生涯に渡る誉れではあるが、成績が伸びなければ責を負わされるのは彼らでもあるので、皆、必死に教える。

 そんな各教科に専門の人員を割り当てられる様なご家庭はほんの一握りの王族とキースのいるアソール公爵家等、最上級貴族に限られるので、彼らが学校での成績がいいのは謂わば当たり前でもある。


 一般的に学生時代に求められているご学友関係を広げる方もあまり期待していない。

 今も隣を歩くアソール公爵嫡子の様な貴族達の中で将来の側近に相応しい者達は、早くから慎重に選抜されてこの学園に通う以前から既に王子の周辺に侍ってしまっている。

 それ以外の貴族への人脈は、悪くはないし全く不要とも思わないが、王子的には殊更増やさなくてはいけないわけでもない。強いて言えば、将来的な事を鑑みれば、既に囲い込んでいる側近候補ではないが主要貴族の跡取り達とは顔見知りであるに越したことはない程度である。


 なので学校にあまり興味のない彼が、気を許している側近No.1であるアソールに対する返事も些か冷たくなってしまったが特に他意はない。


 側近中の側近であるキースの方も長い付き合いで王子の冷たい返しが彼に対する何かではなく、謂わば「学校ダリいな!」という気持ちの発露だと分かっていたので、特に反応する事無く「そうですか」と軽く流して、2人はそのまま校舎に向かって歩いていた。


 が、途中で王子が「ちっ!」と小さく舌打ちした。


 王子らしからぬ仕草を横目で見て、王子の視線の方角を見てアソールは納得した。

 視線の先には婚約者であるバーバレラ公爵令嬢が何時もの様に取り巻きに囲まれて悠然と歩いているのが見えたからだ。


 行先の方角は違う様だが、このまま行けば側を通る事になる。

 当然、素通りは出来ない。向こうも素通りはしないだろう。


 王子は婚約者をあまり好いていない。つか嫌っている。

 見た目は完全無欠の美女だが、中身は腐っているのをよく知っているのだ。


 それに王子は自分でも気付いていないが、彼女が王子に然したる興味を示さないのが気に入らないのだ。


 彼は自分の全てに自信がある。

 王太子であることは脇へ置くとしても、高身長、高成績、高顔面偏差値であると思っている。ナルシスト的な何かではなく客観的にもそうなのだ。


 だから会う人間は彼に魅了されるか感心するかのどちらかでしかない。

 もし、彼が日本の学校に通っていれば周囲は女性だらけになっただろう。芸能界のスカウトがすっ飛んで来たかもしれない。いや、こちらの世界でも同じだ。

 が、彼は王子である。その周囲とは隔絶した身分の高さ故に何人たりとも彼の側に気軽に近づいたりは出来ない。それが故に彼は女性陣を掻き分けなくとも学校生活が送れている。王子と言う立場が壁として役立っている稀有な例だ。


 なのに婚約者のアンネ・バーバレラだけはそうではない。

 彼が王太子であること、そして自分がその婚約者であることにしか関心がなさそうなのだ。

 彼女の側にいると、全ての場面で主人公であるべき自分があたかも彼女を飾る宝石の類であるかの様に感じるのだ。


 彼女は常に取り澄ました表情で貴族らしい隙のない応対に終始している。

 その態度が王子からすれば礼は失さないが、腹の底ではあろうことか王子を歯牙にもかけていない様に見え、完全俺様気質で富士の頂よりもプライドの高い彼は、決して言葉に出して認めはしないが心の底ではそれが許せないのだ。


 いずれにせよ王子としては彼女に会いたくもないし、話し掛けたくもない。


 そうは言っても公的な立場は2人は同級生であり、社会的には同じ王侯貴族社会に生きる王子と公爵令嬢で、その上、私的には婚約している仲である。

 しかも婚約は通常なら私的事柄の範疇とはいえ、王家と公爵家の話なのでもう完全に公的な事柄に格上げされてしまっている。


 そこは痛い程分かっている2人である。

 キースの方は一応、側近としては「無視は出来ませんよ?」と目顔だけで注意をし、王子も苦い顔で「そんな事は分かっている!」とこれまた目顔だけで答えてそのまま歩き続け、やがてニアミスの瞬間がやってきた。


 彼女達はバーバレラ公爵令嬢を中心に周囲の迷惑も顧みずに我が物顔で道の真ん中を傍若無人に占領して群れて歩いていたが、王子の姿を確認した瞬間に、訓練の行き届いた軍隊の様に取り巻き達が一斉に後ろに下がって見事に整列して一部の隙も無くアタマを下げ、中心のアンネ・バーバレラが一歩前に出て優雅で完璧なカーテシーをしてアタマを下げる。

 彼女達は王子を気にしたというよりはボスの婚約者である王子を前にして1mmでも失礼があれば、動作が0.01秒でも遅れれば、ボスから鉱山重労働刑が楽しい遠足に思える様な目に遭わせられるのを知っているのだ。


 取り巻きが北朝鮮的に見事に合った全然自然な感じのしない動作でアタマを下げる中心で、アンネ・バーバレラ公爵令嬢が王太子に優雅に挨拶を申し上げた。


「ルシアン殿下、お久しゅうございます。本日からの学業へのご復帰、臣下一同、心よりお喜び申し上げます。」


 ふん!礼儀作法だけは完璧なのも昔から変わらんな!


 彼女の挨拶に彼は冷たく声を掛けた。


「久しいな、アンネ・バーバレラ嬢。面を上げよ!」


 アンネ・バーバレラは静々とした完璧な貴族令嬢の仕草で顔を上げた。


「……!!!!!」


 その瞬間、彼女の美しい目が見開かれ、その顔が驚愕の表情で彩られた。


「…!…??」


 何だ?

 何を驚いているんだ!?


 王子の方も彼女の驚愕の表情を見て、こちらもビックリして固まっていると、彼女が呟いた。


「尊い…」

「は?」


 婚約者の呟きに王子が思わず素で返してしまい「ヤバ!俺のイメージじゃねえ!」と心の中で慌てているに全く気付かない様子で彼女は続けた。


「ヤバ!…超ヤバい!…この尊さヤバ杉る…」


 学校に登校した早々にアンネに遭遇して若干不機嫌だった王子は、驚愕の表情の後で今度は1人でブツブツ言い出したアンネを不思議そうに眺めた。


「アンネ嬢、一体何を言ってる?」


 王子の言葉にアンネは「ほへっ!?」と素の表情で王子を見返した。

 その彼女に対し、常に礼儀作法を弁えた人形の様な彼女しか見た事のない王子が思わず「えっ!」というこちらも素の表情をしたのを見て、アンネの方はスッといつもの貴族的なすまし顔に戻った。


「なんでもございませんわ、殿下。」


 そして再度優雅にカーテシーをとる。


「誠にお久しぶりにございます、殿下。もう毎日、学校に通える様になられたのですか?」

「う、うむ。」


 いつもの人形の様に美しい、人形のような笑顔のアンネ・バーバレラ公爵令嬢だが、王子は先程の彼女の素の表情の残像が脳裏に焼き付いていた。

 いつものツンと澄ました令嬢然とした顔ではなく、何と言ったらいいか……自然な女の子の顔だった。

 

 彼は先程の彼女を思い出し、何故か心臓辺りがドキドキするのを感じていた。


「王家の義務も大変ではございましょうが、私共のいる学校の方にもなるべく顔をお見せ戴けますと臣下一同、より勉学に励む気になれましょう。」


 いつものアンネで、いつもの隙のない貴族的なコメントではある。


 だが、王子は先程から胸の鼓動が収まらない。

 「なんだ!どうなってんだ!俺は!」とアタマの中ではらしくなくパニクりながらも、彼はなんとか学校でのいつもの怜悧な表情を何とか取り繕い頷いた。


「う、うむ、そうだな。これからは学校の方にもなるべく足を運ぶ、いや、毎日登校するよう努めよう。」


 出会い頭の一撃でダウンしたのは公爵令嬢の方だった。

 だが、王子の方も彼女が偶然見せた奇襲を受け、ノーダメではなかった。


 第一ラウンドは痛み分け、と言っていい結果であった。



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