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風任せで人任せな俺がここにいる理由  作者: 明月 文


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108 2回目モブご令嬢の目的

 この国の貴族社会トップに位置する5つの公爵家の関係者のうち、3人は攻略対象だ。


 代々、宰相を務めるアソール公爵家の嫡男。

 大きさは一番小さいが魔法と学者の家柄であるミスマリ公爵家の次男。

 それと前回、望月のやった武門の家柄であるバーバレラ公爵家の弟君は、ヒロインの攻略対象として学園に通っている。

 残る国の財務を預かる財務大臣の家柄であるカーネージ公爵家ご令嬢は、ご自宅から全然お通いになれるはずなのに何故かヒロインと寄宿舎での同室であり、役割はヒロインを陰から助けてくれる本人は地味子でボッチ気味のお友達同級生キャラだ。


 ストーリーでは、普段はいずれ国王となる俺様系王子の行動に手を焼きつつ、影では自分は将来の宰相として完璧であらねばならぬという重圧に苦しむアソール家嫡男を優しく慰め、一族伝統の魔法使いとして超優秀な兄に劣等感を抱いて落ちこぼれつつあるが、実は兄同等かそれ以上の才能に溢れるミスマリ家次男を励まし続けて立ち直らせ、根性が二重三重にひん曲がった姉、つまり前回、望月のやったバーバレラ公爵令嬢に生まれた時からいじめられ続けて常にオドオドした性格になってしまっているが、能力的には元帥として国軍を率いる父を超える才を持つ弟君に自信を持たせる事により、ヒロインは対象を攻略していく。


 また、その他の攻略キャラも取り揃えられている。


 男爵家という貴族界では低めの出自ながら抜群の武力で注目され、なのに美しい女顔がコンプレックスの双子のソージー兄弟。

 隣国の貴種だが父王子が政変に敗れ、半ば亡命で留学してきた金髪褐色肌で影のあるイケメンであるカーマク公子。

 その他、騎士団長の息子で、赤髪の野性的なイケメンのローゼス先輩は、デートとなれば剣道場で一緒に訓練に誘う完全脳筋系のパーだが、女性には限りなく優しい正義と騎士道を重んじる紳士で、ルート選択次第でストーリーに登場する。ちなみに完全逆3角形の鍛え上げられまくった細マッチョな肉体で、ソッチ系が好きな人向きの脱ぎ担当でもある。


 よりどりみどりが故にハーレムエンドを目指すとすれば、ヒロインの日常はかなり忙しくなりそうだ。


 ちなみに最終攻略対象である王子と言えば、顔面は神ってるレベルでイケメンかつ高身長なのはもはやお約束だが、武術もこの歳で既に王宮近衛隊長に匹敵する強さだ。

 そして魔法では学院の卒業生でもあり魔法使い若手No.1と名高いミスマリ家兄からライバルと認められており、勿論、勉学は側近であるアソール宰相家嫡男とヒロインとの3人で常に周囲とは別次元のトップ争いを繰り広げている。


 家柄、能力、スタイル、顔面とブッチギリで激高い偏差値を誇る彼は、しかしなんでか王子の間に遊び倒さねばという変に老成した思考の持ち主でもあり、王子兼生徒会長としてパリッとした格好でキリッと学園に通う一方で、影では変名を使ってヨレた私服で庶民の町に繰り出しており、喧嘩無敗で遂には半グレ集団のボスとして君臨するという、こちらもヒロインに負けず劣らず忙しい毎日を送っている。


 全てにおいて負けなし勝ちのみ人生にお育ちあそばされた割には、というか、そんな日常を送っているせいか、性格的にはそう言うのが好きな女性には堪らない完全真性俺様系である。


 なのだが、校外の下町の店でたまたま出会ったヒロインが実は同級生で、しかも自分に匹敵する成績を取る女として興味を持ち、俺様系自然体全開で壁ドン付きで押し込んでもあっさり袖にされ、ならばとキャラ変して(俺様王子的には)優しく迫っても天然で躱され続けるうちに、トゥルーエンド的に話を進めれば、いつしかヒロインドップリになっていく。


 そして最後はお立場も社交も弁えずに卒業パーティーでお約束の婚約破棄の寸劇が発動し、未だ王子で実は何の権限もないのに、国のトップである王家と軍事の実権を握る公爵家という国の2大巨頭の決めた婚約者に、国の上層部の許可も正規の司法判断もなく、勝手に断罪して国外追放を言い渡すと言うご乱行に出る、という筋書きである。


 この一見、本筋と全く関係なさそうな話に物語全体の主人公である勇者君はどう絡むかと言えば、最初は王子率いる町最大の半グレ集団の最年少の構成員の1人として登場する。

 そこでイジメられている所を王子に助けられ、「アニキ、アニキ」と慕う様になり、王子、ヒロインがピンチの時にはストーリー展開によっては子供ながら勇者の力の片鱗を見せて助けてくれる。

 王子は将来的には魔王軍の猛攻に苦戦する勇者の前に颯爽と現れ、「アニキ!何でここに!?」と驚く主人公にお立場を明かし、金、地位、武力を兼ね備えた強力な支援者として再登場する。


 ちなみに望月的にはちょっと残念ではあるが、流石に歳が違い過ぎて、ヒロインと勇者のショタ系カップリングはないらしい。

 本筋では額にキスしてあげるぐらいが精々の綺麗なお姉様な役割である。

 但し、聖女の力を持つ彼女の祝福(「お前の唇が俺以外に触れるのは見たくない!」と宣う王子がそっぽを向く中で額にキス)が、魔王攻略には必須だ。


 以上のストーリー的には平凡だがそれなりに陣容の整った内容を見て分かる通り、このストーリーは本編とは半ば独立で作られている。

 所謂、スピンアウトを言うヤツだ。


 制作会社の当初の予定では本編ストーリー内のミニゲームとして作られた。

 この段階では主人公は当然、ヒロインちゃんではなく子供時代の勇者で、王子とヒロインがくっつくキューピット的な役割をするのが目的であった。

 が、それを見た会社上層部が「こういうのアタシは大好き!別のゲームとして販売しましょう!」と突如言い出した為、急遽、本編世界観を引き継いだ姉妹ゲームとして開発、販売される事になった。

 しかもこの種のスピンアウト系は珍しくはないが、通常は本編が発表され、人気が出た後に作られる。なのに今回は上の人の一言で同時並行で作られる事になってしまったのだ。

 このEBFというゲームを巡る迷走の1つである。


 ちなみに1本のゲーム開発が突如2本となったわけだが、担当者の人数は変わらず、それどころかミニゲームチーム数人がこのゲーム専任(例の天然な若い慶應卒Co-Producer氏は元々はミニゲームチームの副主任だった)となってしまった為、本編を作業する人手は増えるどころか減った。おかげで、他の作業が遅延するハメに陥っていた。

 しかも、こちらの方はと言えば、元々はミニゲームだから、通常、この種のゲームを開発するのに必要な人員数には全く足りてない。


 しかしながら、本来なら業務量が増えたのなら人員増を上層部に主張するはずの例のCo-Producer君も何も言わなかった。

 元々はミニゲームの副主任に過ぎず、仕事が格上げになった分、名刺の肩書も格上げにはなったが、それ以外の扱いは何も変わらず、人員に関する権限など何も与えれなかったから、というのもある。

 加えて経験が足りなく、実務をやった事もない彼は、開発工数が一気に増えたのは分かっていたが、それに対応する人員増が必要とは思い付きもしなかったからだ。大変だけど、みんな頑張って下さいね、と言っただけだ。


 なお、世間一般的には少々意外かも知れないが、そもそも高学歴層は、自身が気合と根性で難関入試を乗り切った経験から、結構何でも最後は「気合でやれば何とかなる!」と体育会的な思考に奔る者は多い。

 自分以外の者が出来ないのを「単に努力と気合が足んないだけじゃね?」と当人のやる気だけの問題に帰結してしまう者はもっと多い。

 つまりこの場合も人手が足りないのではなく、現担当者達の気合と根性が足りないから時間がかかっているというのがケーオー卒のCo-Producer君の理解だ。


 他方、下請けのシナリオライター、プログラマー、デザイナー等の実作業をする面々に至っては、当初の仕様書にも契約にもない仕事を押し付けられるのに悲しい程慣れてしまっており、激増した仕事を前にしても何も言わなかった。

 この業界は、マヤのピラミッドも真っ青な超多重下請け構造であり、最上階の神殿から下界へ降りて来るのは神のリクエストのみで、それは常に新鮮な生贄の要求だけなのだ。


 なので開発は本編、スピンアウト双方ともに大幅に遅延気味だ。

 例のCo-Producer氏が魂的クサレイジメ女王望月=アンネ・バーバレラ公爵ご令嬢爆誕にたいそうお悦びだったのは、コストダウンもさることながら、彼女のおかげで開発工程が一気に進んだからでもある。

 だが勿論の事、彼女の頑張り(?)だけでは事は解決しない。


 まあ、もっとも、この辺の社内事情は望月は勿論全く知らなかったし、仮に誰かが教えてくれても気にもしなかっただろう。

 彼女とは何の関係もないのだ。


 この乙女ゲーど真ん中なワールドにおけるユルシーズ公爵家は、政官界とは縁遠いものの鉱工業を得意とする5公爵家の中でも屈指の裕福な家だ。


 自身は王子やヒロインの1つ上の先輩で、公爵家ご令嬢のゲーム内での役割は、実力公爵家として王家も一目置いているが故に俺様系王子と言えども俺様系全押しとはいかず、悪女役のバーバレラ公爵令嬢も同じ家格でおいそれとは手出しは出来ない裁定キャラである。


 もっとも登場機会は稀で、運良く近くにいた時にヒロインがストーリー的に正しい行動をすればバーバレラ公爵令嬢のイジメを自然体で優しくいなして逃がしてくれたり、ピンチの時に取り巻きを引き連れてさり気無く助けてくれたりするが、選択を間違った場合には自分は関係ないとばかりに立ち去ってしまう。

 選択を大間違いした場合に至っては、ヒロインに対する卑劣なイジメを目撃して激怒する王子に「殿下、女同士のあれこれに殿方が直接口を挟まれるのはどうかと思いますわ」などと言って宥め、結果的にバーバレラ達を無罪放免にする行動をとったりする。

 勿論、この場合はヒロインはやられ損に終わり、王子との仲が進展するという点数も稼げない。


 学年も違い、登場回数こそ少なく、メインストーリーには全く絡まないモブだが、実社会(?)におけるその存在はヒロイン・王子派閥でもない、バーバレライジメ軍団でもない、女系第三派閥のボスである。


 当初の予定では、望月はその魂のクサレ度合い(怒)を高く評価されて、このPhase3ではバーバレラの忠実な副官役の某侯爵家令嬢になって、ヒロインへのイジメのバリエーションを増やす役割だった。

 少なくとも制作会社の件のCo-Producer氏はそのつもりだった。


 だが、そのCo-Producer氏の失礼ぶっこきまくりの言葉に怒った彼女はそれを断固として断り、不思議そうな顔で「そんな役でいいんすか?」と聞く天然Co-Producer氏を押し切って、本来はちょっと立場の強いだけのチョイ役モブであるユルシーズ公爵令嬢となっていた。


 彼女がこの役を願った理由は、ユルシーズ公爵令嬢はモブが故に比較的自由に振舞えるからだ。

 むしろストーリーに過剰に絡まない所がいい。

 

 彼女はユルシーズ公爵令嬢として、ヒロインの攻略対象からあぶれたイケメンを狙うつもりだった。


 この学園は前述した様に王子及び主要キャラ3人以外にもイケメンが溢れており、彼女が狙うのはそのうちの誰かだ。


 例えヒロインが逆ハーコンプを狙っても、攻略対象人数は多く、ムリと完全には確認はしていないもののストーリー構成的にも相当困難なはずだ。

 なので、この種のゲームでは普通はコンプは諦めて、主要キャラ4人コンプか厳選して好みのイケメンだけを狙う。

 そうなれば攻略されなかったイケメンはドフリーになるはずで、彼女にもチャンスが生まれる。


 現実に帰って冷静に考えてみればアンネはアンネなりに、不幸な立場だったと望月は思う。


 アンネはフワ可愛いヒロインとは違うタイプだが、ちょっとツンがキツいだけでグラマラスな美人である。

 だから、婚約者が王子でなければ、自分に振り向かない婚約者などサッサと捨てて、周囲のイケメンに目を向けることだって可能だったはずだ。なんせ学園内はイケメンだらけなのだ。

 なのに王子の婚約者という立場上、出来ない。


 一方で自身の婚約者が他の女にデレていくのも結局は阻止できず、イジメでストレスは発散していたものの、我慢の果てに待っているのは婚約破棄、実家追放である。彼女にとって暗黒の学園時代は、彼女自身にも大いに非があるにせよ、絶望への長い道のりに過ぎないのだ。


 望月は、もちろんアンネではない。

 アンネ自身ではないが、アンネの代わりに今回の役で彼女は、アンネがしたくとも出来なかった事を存分にやるつもりだった。

 そして、イケメンの彼氏とともに明るく楽しい学園生活を満喫するのだ!


 望月個人としても前回は王子の婚約者であるバーバレラ公爵令嬢だったので、王子以外にコナかけるなど立場上、論外だった。だから目の前に次々イケメンが現れるのに手出しも出来ず、挙句、ヒロインが彼らと親密な仲になっていくのをただ指を咥えて見てるしかなかった。

 

 その悔しさは、会社の人間から魂的にクサレてると絶賛(?)されたイジメで幾分晴らしはしたが、やっぱり悔しいものは悔しい。

 イケメンに目移りも出来ず、声も掛けられないとか、何の為の乙女ゲーなのか分からないと言ってもいい。

 しかもどちらかと言えば避けられ、嫌われているとなれば、如何に身に覚えがありまくりとしても何の拷問?という状態である。

 が、今回のユルシーズ公爵令嬢なら、そこは自由である。


 但し今回声を掛けるのは最終攻略対象の真性俺様系王子ではない。

 前回は一応、立場的には婚約者だったが、望月的には実は王子は性格的に全く好みではなかった。


 イケメンである事は認める。もはやMENですらない。GODだ。

 だが顔はいいがそれだけだ。


 彼はどこに行っても自分中心であり、それが立場、実力、顔面的に許されてもいる。

 それはそれで彼女と関係ないが、逆に言えば婚約者バーバレラ公爵令嬢に対してもそうだ。ストーリー中は好感度が上がればヒロインに対してデレる時間も多くなるが、普段は全くそうではない。


 しかも女に関して言えば彼は黙っていても入れ食い状態だ。


 普段の社交界では身分もあり、見目麗しく、どこへ出ても恥ずかしくない貴族令嬢であるアンネが横についており、町に出れば半グレ集団の副ボスの妹が何くれと世話を焼いてくれ、「何でヒロインは俺に興味がないんだ?」と悩んでいるというより豚が空を飛んでいる不思議な風景を見た気分でボーッとしてれば「いいからこっちへ来いよ!」とツンデレの娼婦街のボスが膝枕で慰めてくれる。


 彼にとって女など自分にとって都合のいい時に呼ぶ、というより近くにいる存在に過ぎない。


 繰り返しになるが上手く攻略すればデレるので、そのギャップ萌えもないではないが、主人公らしいラッキーガールのヒロインならともかく、基本はモブであるユルシーズ公爵令嬢ではまずムリだ。


 仮にヒロインが別のイケメンをメインターゲットに置いても、望月が王子を狙えば今度は婚約者であるアンネと敵対するのは間違いない。

 彼女自身が鍛え上げたアンネは敵に回すのはあまりに恐ろしいイジメの達人であり、かつそれが自分にむくと考えた瞬間に内臓に保冷剤を直接ブチ込まれた様な恐怖を感じる。

 が、何より、望月にとってみれば自身の分身とも言える彼女を敵にするのは、これまた心情的に出来そうになかった。


 そして、それよりも何よりも相手が神の様なイケメンの王子であろうが、自身の分身でもある公爵令嬢であろうが、望月はゲーム世界に来てまでボスに支配される気はもう全くなかったのだ。


 そんなこんなで「今回こそ乙女ゲーを愉しむぞ!」と力こぶの入ったベテラン(?)NCPの彼女であったが、この段階では同じ世界にもう1人来ているとは知らなかった。


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