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風任せで人任せな俺がここにいる理由  作者: 明月 文


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107 説明役のモブご令嬢

 浜井と海野の世直し(?)コンビの行先であるボーシュー王国には5つの公爵家がある。

 小国にしてはちょっと多いが、そこらはゲームの設定の話で原作者である浜井氏ではなくゲーム会社の方の都合でそうなっている。


 その5つある公爵家の1つ、ユルシーズ公爵家のご令嬢マリアは望月沙也加がNCPとして担当している。

 彼女はこの学園パートにはPhase2からの参加だ。


 普通はPhase2でNCPが入ることはないのだが、このゲームはちょっと特殊でPhase1は実質的になく、NPCだけのPhase2も実質的に終わっている。なのでPhase2から望月のようなNCPが入っている。


 Phase2に参加した頃、彼女は大学1年生だった。


 彼女はパッと見は普通の人生を送っていた。

 地元に公立小学校を普通に出て、地元の公立中学校を卒業し、公立のちょうど真ん中辺りの高校に進学した。大学は近所のFラン大学だ。

 地元愛に溢れているというわけでもなかったが、電車で3駅程先だった高校と違い、自転車で登校できるというのが決め手だった。

 世間一般的にはFランではあるが、地元ではそこそこに人気もあり、先輩や同級生もそこそこな数が進学している。世間的にもFラン大学としてだが、まあ名が通っている。


 彼女としては、そもそも大学を出て何がしたいわけでもないから、東大早慶はおろか、少しでも偏差値の高い学校に頑張って入ろうとかも特になかった。むしろ地元でなら誰でも知ってる大学に胸を張って入ったと言っても良かった。しかも現役だ。

 彼女的には何の問題もなかったし、親兄弟も子女の大学合格とはこうありたいものである感じで普通に温かく現役合格を祝ってくれた。


 普通の人生だから普通にある話は一通り経験してきた。


 中学、高校には普通にカーストがあり、普通にイジメもあった。

 中学校では3年間で学年で5人程は不登校に追い込まれ、高校になると更に10人程は登校を拒否して映像授業オンリーの学校に転籍したり、退学したりしていた。

 無論、普通の学校で旭川にあるわけではないから、人死が出る程には追い込んだりもしないし、学年全体で300名程度のうちの、まあ全部足しても5%ぐらいの一般的な割合に留まるので、周辺やマスコミから問題視される様な状況ではない。マスコミも警察も死人でも出ない限り来ないのだ。


 そんな中で彼女は女子でボスの取り巻きという2番目のカーストに所属していた。その中でも特にランク上ではないから正確には2.5ぐらいの立ち位置だ。

 学年で存在感が薄くなる第3カーストや嫌われ者やイジメられる側である第4カーストではないが、最大多数派かつさして目立たない立ち位置だ。


 クラスの女ボス達がパワフルに気に入らない女子をイジめれば、一緒になってイジメる第1カーストでもないし、率先して手伝う様な第2カースト上位の側近達ではない。精々が後ろでクスクス嫌らしく笑う役である。

 ボスがカッコいい男子を体育祭で応援すれば、隣で同じ様にキャーキャー言いながら応援し、声でもかかればタオルを渡しにいくボスに逆らわず一緒にその他大勢と混ざって彼の元には行く事もあるが、間違っても彼に話し掛けたり目を合わせたりはしない。分は弁えているのは織田信長家臣団と一緒でカーストでは最重要事項である。そして普通の彼女はそれも自然体で出来ていた。


 同級生らと同じく、中学、高校で乙女ゲーも一通りやってはいたが、特にハマるという程ではなかった。

 出てくるイケメン達はそれなりに嫌いではなかったが夢中になる程ではなく、プレイはあくまで同級生と話を合わせる程度の嗜みだった。


 だが一応、受験勉強も終わり、無事に大学に入学してホッとした所でバイトを探していた彼女は、ネットで偶然、このEBF学園編のPhase2NCPのバイトを見つけた。


 ゲームしてお金を貰えるのは悪くない。

 ケータイプレイとカプセルプレイがあり、結構長期の拘束時間がある分、カプセルプレイは時給に換算すると桁1つぐらいはバイト料が高い。


 夏休みの長期バイトだと思えば妥当だ、と思った彼女は応募した。


 ゲーム内の舞台であるトリキャスにある通称「学園」はこのEBFでは屈指の名門学校である。

 その国のみならず、各国から名門貴族子弟が集結する、という設定だった。


 平静になって考えてみれば、彼ら彼女らは貴族なので結婚は家同士の繋がりだから、平安時代とかと同じで自由恋愛が優先されるわけもないが、それでは話が何も進まない。

 なので、この学園は貴族の若い男女の出会いの場、という設定になっている。


 彼女は普通にNCPとして応募したのだが、何故か主要キャラの役割を会社から打診された。

 今のユルシーズ公爵令嬢ではない。敵役で一方の主演と言ってもいいこの国の王子の婚約者アンネ・バーバレラ公爵令嬢だ。

 イケメン王子に寄って来るヒロインを含む有象無象をイジメて追い払う、俗に悪役令嬢と言われる立ち位置である。


 ゲーム会社が何を思って彼女にこの役を打診したのかは分からなかったが、バイト料としては更に2割程度ハネる。

 打診を受け、彼女は特に考える事無く引き受けた。


 ゲーム内で彼女に課せられた役割はここで実施される学園編でのヒーローである王子とヒロイン、そして敵役の悪役令嬢の動きの確立である。

 もちろんシナリオはあるし、イベントも一通り揃えられていたが、AIの動作を更に人間らしくする為にNCPはいる。


 ゲーム内で彼女は悪役令嬢としての能力が開花した。


 現実社会での彼女は、クラスのボスがハブにしてる子をボスの後ろで意地の悪い笑いで見たり、陰で悪口に同意するぐらいが精々で、率先してイジめる程のパワーを手にした事はない。


 が、ここでは公爵令嬢として最初から権力を手にしている。

 見た目も派手目な美人で、魔法も高レベルで闇魔法が使え、クラスどころか学年の中心人物だ。


 権力を手にした人間がただ腐敗しただけなのか、元々、彼女が底意地の悪い人間だったのかは分からない。


 けど、会社からも悪役ムーブを確立して欲しいと言われている事もあり、彼女は嬉々としてヒロインをイジメた。

 そのヒロインに一息つかせる暇も与えない集団を駆使したイジメっぷり、彼女より人生経験のあるはずの社員達ですらも考えもつかない様な根性の悪さを感じさせる嫌らしいイジメ方、そしてマズそうな事態になると掌を返した様なお嬢様ムーブと公爵家の権力で公的には無かった事にする胡麻化しようは、もはや天性のものを感じさせ、モニターしている制作会社の人間を唸らせた。


 だが楽しい時間にも終わりは来る。

 1か月のバイト期間が終了し、Phase2も終わって、彼女の楽しい悪役令嬢生活も終了した。


 最後はストーリーに沿って卒業パーティーでイケメン王子から婚約破棄宣言のイベントを受けた。

 そこでの彼女はシナリオ通り、天然で無邪気な仕草で王子とその取り巻きに守られるフリだけはしながらも、外見は少し地味だが男好きする可愛らしい、だが目だけは勝ち誇った眼差しのヒロインを前に、一応役柄上、みっともなく喚き散らし、周囲がドン引きの中、悔しそうな態度で衛兵に拘束されて退場した。


 王子の指示した拘禁場所は地下牢だが、公爵令嬢である彼女が庶民に過ぎない同級生をイジめたとかって些細な(?)罪でそんな場所に入るはずもない。

 彼女は一応、貴族向け貴賓室で半日程度軟禁された後にはサクッと実家に帰された。


 庶民しかいない現代の日本社会だって、イジメた側は99%以上が無罪放免だ。そもそも罪に問われる事自体が少ない。

 望月ことバーバレラ公爵令嬢も平民の同級生をイジメた事の責任など当然取らない。公爵家でも責められたのは王子の怒りを買った挙句、衆目の中で婚約破棄されて家名に泥を塗ったことだけだ。

 そしてその責任をとらされて、彼女は、これまた予定通り両親兄弟にも絶縁されて、トランク1つで、こちらは王子の指示通り国外へ追放になった。これもシナリオ通りである。


 もっともFラン大とはいえ、最初からか結論が分かっているのに何の準備もしない程、望月もパーではない。

 城外で実家の人間に渡されたのは確かにトランク1つだが、実際には予め実家から持ち出して近くの信頼のおける商家に預かって貰っていた大金片手に、彼女はこれまた予め用意していた偽名と偽の身分を使い、護衛も雇って悠然と逝く先々のグルメを食べ歩きしながら、一応は国外追放のシナリオには従ってゆるゆると国境へ向かった。


 ストーリー的には国外追放処分後はナレーションだけだが「悲惨な末路を迎えた」となっているし、本番ではナレーション通りなのかも知れないが、今のバーバレラ公爵令嬢はPhase2のゲーム制作側NCPである彼女だ。彼女自身が悲惨な何かを実体験する必要など全くない。

 書類上のバーバレラ公爵令嬢は、貴族の地位もはく奪されて人知れずこの世から跡形もなくいなくなったわけで、今の彼女は書類上は全くの別人だ。だからシナリオから大きく外れているわけでもない。


 望月の旅は、最終的な行先はだけはストーリー通りの国境付近の町に定めてはいたが、各地の名物を見ながら行く先々の名物料理を食べ歩きする優雅な遊覧旅行と言ってよかった。

 それはストーリーとは全く異なるが、最後なのだしこれくらいは許されると思ってたし、実際に何も言われなかった。繰り返すがそもそも書類上は別人だし。


 そして会社指示に従って国境沿いの古い教会に入ったところで、予定通りカプセルアウトした。


「いや、望月さん、お疲れ様でした。」


 カプセルから出て目覚めにコーヒーを貰ってボーッとしていると、周囲の私服姿の作業員達とは違うスーツ姿で、雰囲気もどことなく違う感じの男性が話し掛けてきた。


「はあ。ありがとうございます。」

「ああ、初めまして。ボク、こういう者です。」

「はあ。」


 名刺を渡されて見た。

 会社名が、このテストプレイの時の会社名じゃない気がする。


「…?」

「このGameの制作会社の者です。Co-Producerですよ。」


 変に途中だけ流暢な英語で言われてもよく分からない。


「……偉い人?」

「このテスト会社の上ですからね。ちなみに大学はケーオーです。」


 胸を張って言われても彼女からすれば「ふ~ん」というだけだ。大学名なんぞ聞いてもいない。というか、彼女からすれば早慶などプロ野球選手と同じくらい自分とは縁のない世界で、「ケーオー」とか言われても漢字も思い付かず、何も分からなかったと言ってもいい。


 そんなホケーっとしている彼女に対し、若いスーツの方はもう説明は済んだとばかりに、いきなりはっちゃけた調子で話を変えてきた。


「いやー望月さんのイジメっぷりマジパネえッスよ!リアルでもマジ、あんななんスか?」


 突然、かなりぶっちゃけた口調で言われて自分のプレイ内容を思い返し、望月は少し恥ずかしくなった。

 勿論、現実社会ではあんな事はしない。というか、あんな事を出来る様な立場になった事はない。限りなくモブに近い立場なのだ。


「いや、あの、別に…」

「いや、お陰様で学園編の悪役ムーブはほぼ完成っすよ!本当はもう2、3人でフォロー必要かと思ってたんで、めっちゃコストダウンッスよ!」

「……はあ、それはどうも。」


 自分がカプセルから出たばかりで少しボヤっとしているところにもってきて、この妙にテンションの高い社員から変な褒められ方をして何か会話が斜め下方向にズレ始めているのに彼女は気付けなかった。


「望月さんの根性のクサレ具合、サイコーっすよ!望月さんみたいなクサレ人材、見つけて来られるボクもサイコーじゃないすか!?2人してサイコーくさくないすか!?」

「はあ…」

「いやあ、やっぱリアルでもクサレなんすか?あんな風にイジメとか慣れてるんすか?」

「いや、あれは…今回、そういう役だし…」

「ヤクとかじゃないっしょ、あれ!悪役令嬢、ハマり過ぎっしょ!望月さん、絶対、魂的にクサレてますよ!魂からクサレてるとかって簡単にはいないっスよ!あんなんヤられたら、ボクならソッコー自殺しますよ!いや、もう普通に!中高で何人ぐらい追い込んだんスか!?」

「はあ……」


 ニコニコしながら言ってくる自分より少し年上ぐらいにしか見えないスーツを見ながら、何かボーッと受け答えをしていたが、コーヒーのカフェインがキマってきたのか、段々、彼女も彼の言ってる事が理解出来てきた。

 理解出来れば当然、ムカついてきた。


 よく聞いたらコイツ全然褒めてねえじゃん!

 人の事、クサレ、クサレとか何言ってんだよ!!(怒)

 しかも魂からとか、ケンカ売ってんのかよ、おい!(激怒)


「オメエさあ、先からナニ失礼ぶちこきまくっ…」

「実は本日、私がお声掛けさせて戴いたのは、弊社としては望月さんには次のPhaseもご参加して戴けないかな、と思いまして。」


 彼女が素で反撃しようとした所を、若いケーオースーツは今度は今までのぶっちゃけトークとは違う社会人口調でぶった斬った。


「は?」

「望月さん、大学生ですよね?」

「ええ、まあ…」

「と、すると、ご参加戴けるとなれば、次はWinter Vacationの時期が適当でしょうかね?我が社では望月さんの今回のご貢献とご活躍に大変感謝しております。次のPhaseも是非ご参加戴ければ、と思っております。如何でしょうか?」


 結局、自然体で失礼極まりないCo-Producer君に碌に言い返しも出来ないまま、彼女は次のPhaseにも参加する事がビジネスライクに決まってしまった。



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