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風任せで人任せな俺がここにいる理由  作者: 明月 文


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104 担当者の仕事と上司の仕事

 俺自身の話も入ったらかも知れないが、結構長かった事情説明の後で出発日程とか道中の準備とか超実務的な打ち合わせを簡単にして男爵からの話が終わり、男爵家の馬車で送られて伯爵家へ戻るとすぐさま上司、エリザベスのお嬢からお呼び出しがかかった。


 組織とはこういうもので、客先との実務面談と上司からの尋問は常にセットだ。

 もっともこの件は国王陛下も関わる伯爵家としても重要案件の1つだから、すぐさま報告が求められるのは理解出来る。


 場所はお嬢の執務室である。

 お嬢はバカでかい書斎机にドバンと腰掛け、俺はその前で部下として直立不動の姿勢だ。


「楽にするといい。」

「ハッ!」


 軍隊式に休めの姿勢をとる俺にお嬢は問うた。


「陛下が何故、直接のご説明を避けたか分かったか?」

「まあな。訳の分からん話だから、だろ?」


 正確には「良きにはからえ」的な話だからだ。

 王家側で聞いているのはゲーム原作者の浜井がゲームのストーリーを正しい方向(?)に修正するっていう話じゃなくて、ポリアリン男爵家秘蔵の預言書からの逸脱を修正するというカバーストーリーの方のはずだが、どちらにしても何とも掴みどころのない漠然とした話だ。


 が、聞いてしまって理解を示してしまった以上、放っては置けない。

 けど繰り返しになるが話の大元は預言書からの乖離(男爵設定!)という何とも判断のつかない話だ。そして示された解決策に至っては何とかジョーのイジメ支援(?)だ。

 総責任者である国王が積極的に指示出ししたくなる案件ではない。

 いや、イジメ支援とか説明にならないから、精ボーシュー王国王子の婚約者選びのお手伝いとかもっと大雑把な説明になってるのかな?

 いずれにせよ婚約者云々というネタはヘタレ王にとっては個人的には地雷か?(笑)


 然りとて話の大きさからすれば放置するか対応するかはトップの判断がいる。

 だが上の仕事はあくまでYES・NOの判断だけで、後は下(お嬢)に丸投げ、そして上司(お嬢)は俺に丸投げだ。


 俺の微かな皮肉が分かった様子はなかったが、お嬢は微妙な顔をした。


「それもないではないが…ポリアリン男爵殿がご提案されている解決策は他国への介入に見えるからだ。」


 なるほど!そこは考えなかったな!


 確かに普通に考えれば、他国の貴族事情に口を出すのは御法度だろう。

 しかもその中身は何とかジョーという学生とその周辺の恋愛事情への介入だ。ハニトラしようと言うならまだしも、そうでないなら他国がわざわざ工作する意味が分からない。

 その一方で恋のお相手が王子である点はマズい。恐らく向こうの国からすれば男爵の狙いの中身は理解不能だろうが、王子への動きは立派な政治工作と捉えられる可能性もある。

 いや、よく考えたらアクヤ・ジョー氏の失脚を狙っているわけでジョー氏のご実家である公爵家に対する明解な謀略と言えなくはない。余計にマズい。


 言わんとする事は分かった。庶民の俺には全くない視点で感心もした。

 が、事前に碌な説明もないまま実務を丸投げされた俺としては一言言わずにはいられない。


「他国への干渉を陛下御自らはご指示出来ないってか?」


 俺の小馬鹿にした様な薄ら笑いに対してお嬢は顔を顰めた。


「何故、お前はそう意地の悪い事を一々意地悪く指摘する?陛下のお考えを臣下が慮って動くのは当然であろう?」


 そりゃそうだ。

 何処の組織でも忖度の能力がない奴は偉くはならない。間違っていても自分は表面上は上の指示には従い、実際手を汚し、失敗する可能性あるいは成功する見込みのない実務は横か後ろへ素早くスルーパスが組織における正しい仕事の在り方だ。

 むしろ間違った判断こそ、上の方のそれを指摘されたくないというお気持ちを慮って、自分は笑顔で従い、然りとて失敗確定の実務は他人に丸投げ。予定通り失敗に終わった後は最初の判断からして既に間違っていた事はスルーして、アイツはそもそも人格に問題があったと担当者の人間性のせいにするのが少なくとも俺の知る日本の会社組織ではデフォルトである。

 日本の会社って酷えなって思うかも知れないが、海外なら人間性を責めるヒマもなく担当者はクビなだけだ。

 この場合も見様によっては最上級の上司である国王陛下のナゾ命令を部下のお嬢が笑顔で文句もなく承り、実際の危険(?)な他国での工作実務は使い潰しても構わない中途採用の冒険者である俺に丸投げしてリスクヘッジ、と見えなくもない。

 当然、失敗すれば「ヤツ(=オレ)は所詮は卑賎な冒険者上がりでございまして…」となるのだろう。


 言い方を変えれば、上の曖昧な指示を具現化するのが下の役割で、具現化した結果、マズい事になればそれは自分で全責任を被るのが良い部下というものだ。

 無論、マズいと分かった瞬間に自分が被らずに他のヤツに被せられればベストであるから、俺も更に下に丸投げ出来ればいいが、残念ながら生まれてこの方、俺は丸投げされるのを避けられないポジションにしかいた事はなく、丸投げできる下がいた事もない。


「陛下のお考えを慮って臣下であるお嬢が意味不明な仕事を受ける。なんか実務が必要になりゃあ部下の俺がやる。不思議もねえし不満もねえよ。」


 お嬢は「はあ」と溜息をついた。


「…まあいい。腕前にも不満はないが、お前のそういう魔獣にも負けない根性の悪さとアタマの回転を買ってもいるのだ。」


 お嬢は諦め顔で軽くアタマを振り、真面目な顔に戻った。


「私の方からも少し実務的な側面を詰めておこう。」


 完全な仕事モードになったお嬢に対して俺も心持ち姿勢を正す。

 粗野で無教養な冒険者上がりとして非礼無礼失礼は心の広い上司からある程度までは大目に見て貰ってはいるものの、業務内容に関する真剣な打ち合わせとなれば話は別だ。


「ウチとクラウのバウバリアン家は知っての通り親戚だ。」


 親戚だ、とは耳にはしていないが薄々察してはいる。けど、詳しい関係は聞いてない。つか国王との謁見の時に会話の中で「イトコ」と言ってた様な記憶があるだけで、クラウ本人からもお嬢からも正式には何も聞いてない。


 が、上司がまともに説明した事が無い話を「知っているとは思うが…」と平然と前置きするのは何処の世界でも一緒だ。

 なので俺はそこは突っ込まずに頷いた。

 俺だってジャパニーズヒラリーマンの端くれで特殊な訓練は受けている。忖度ぐらい出来るのだ!


「それで…彼女のバウバリアン家はボーシュー王国のバーバレラ公爵家から何代か前に分かれて出来た傍系だ。」


 ほほー。

 まあ、日本で言えばお家の起源は源氏だか平家だか藤原家まで遡れる家ってわけかな。

 根っからの庶民の俺にはなかなか想像しづらいけど、凄いんだろうな。

 

 それにバーバレラ公爵家と言えば、例のクレイジー・ジョー氏のご実家と浜井からは聞いている。


「ふ~ん。結構いいトコなんだな。」


 素直に感心はしているが、お立場の凄さに実感がいまいち伴わない俺の力の入ってない相槌に彼女も軽く肩を竦めた。


「まあ、随分前に分かれた家だから由緒は正しいが傍系も傍系で公爵家の跡目争いに絡むようなレベルではないがな。」


 俺も平民代表として肩を竦めた。


「ま、唯の平民の俺からすれば結構なお家柄だ。」

「まあ、そうかもな。」


 ちょっとだが真剣に感心している俺を他所に、伯爵家ご令嬢は「この辺りは昔から松が有名だから松本さんとか松木さんとかって名前が多いんだ」的な単なる世話話として流した。


「それで?」

「話を戻すとだな、今回、このウチとバウバリアン家、それとバーバレラ家の親族繋がりを使うつもりだ。」


 それはそれは。

 でもそれは畏み辺りの話は俺とは関係ねえな。


 俺の心の中の韜晦を他所にお嬢は続ける。


「使うと言っても大した話じゃない。ウチから紹介状を書いてお前にバーバレラ家に行って貰うつもりだ。」

「あれ?男爵様に付いていくって話じゃなかったか?」

「バーバレラ家は公爵家だ。如何にポリアリン男爵の連れといえどもやたらな輩は入れない。と、いうか男爵自身ですらヘタをすれば公爵閣下にはご挨拶すら叶わない。」


 爵位とか貴族社会とかに全くアタマの回らない俺の常識レスな問いに彼女は呆れも責めもせずに淡々と答えた。


「ま、そっちは別に陛下の方で準備はするが、バウバリアン家の親戚筋でもあるウチが彼の護衛としてウチの人間をつけてるとなれば信用度が増す。」

「ふ~ん。そんなモンなのか?」

「そんなものだ。」


 身分差に基づく暗黙の了解は日本人一般が苦手とするところ、だと思う。

 日本はある種の平等社会だからだ。


 だが、大部分の世界では身分差は厳然としてあり、日常が違う。

 住む場所が違い、通う学校が違い、入る店が違い、乗る車が違う。人種、肌の色、出自、経済力で差別される。

 古くからはユダヤ人街、中国人街があり、黒人街やリトルトーキョー、リトルイタリーがあるのは、身内で助け合った方が便利だからという側面もあるが、身内で固まらないと生きていけず、ややもするとそこへ追い立てられる様にして成立しているのだ。


 そして大概の国ではこの生まれついた身分差を実力で乗り越える事は実質的に出来ない。

 大概の世界では、格差は遺伝的に逃れられない肌の色から、先祖伝来の身分差から、そしてそれに基づく経済力差から来ている事が多いので生まれた時から越えられない壁だ。


 一方、日本の場合、今迄は若干事情が異なる。

 そもそも誰からも侵略対象と見られもしなかった極東の片田舎で人種的に乗り越えられない壁として異民族が支配階級として君臨した事がなく、かつ海流に囲まれた出入りが難しい狭い島国で人種的な混在が少なかった。

 それでも無論のこと階級格差はあったわけだが、それも敗戦で一回強制ガラポンが行われ、それからまだ100年も経っていない。

 なのでワールドワイド的な格差社会よりは段差は緩め、高低も低めだ。


 けど、時が過ぎて戦後が完全に終わった我々の時代には身分差は徐々に復活しつつある。

 日本はよく学歴社会と言われるが、その頂点に立つ東大生の半数程度が国民の5%程しかいないと言われる年収1,000万超のご家庭の出身だ。

 ちなみにアメリカのハーバード大学の1年間の学費は600万ぐらいと言われていて、普通のご家庭の人間が奨学金または借金なしで通えるレベルではないから、全世界的にも珍しい事例ではない。


 そして国を動かす政治家、具体的には国会議員の40%は東大早慶という僅か3校の出身者だ。

 優秀さを求める業界に高学歴者が集中するのは当然としても、一方で国会議員の世襲率は30%を超えていて、首相に至っては直近30年程では6割以上が世襲議員である。

 この状況から言える事は、首相を目指すならまずは半世紀、ヘタすりゃ1世紀近くかけて作り上げた盤石の地盤を持って臨む必要があると言う事だ。

 選挙があるだろ?というバカな主張もちょくちょく見るが、横綱と一般人が同じマワシ姿で対峙して、双方とも裸で武器を持ってないから平等な勝負だろ?と言ってるのと同じだ。


 要は貧しくとも親が高学歴、高収入でなくとも本人が頑張りさえすればどこまでも行けた時代は過ぎ去り、乗り越えようとするなら本人がスポーツ界よろしく100万人に1人の才能を見せるか、同じく芸能界よろしく100万人に1人の幸運を掴むか、グレーゾーンをモノともせずに怪しい道を爆進するかしかなくなりつつある。

 世界の成功者の中には前半生を本人がハッキリ語らない者、初期の頃の商売については口を濁す者も多い。


 けど、我々日本人には戦後の教育で磨り込まれた平等認識は脈々と受け継がれていて、金持ちや国会議員は周囲から敬意を表されはすれど、身分差があるとまでは感じない事が多い。

 あくまで本人の実力に敬意を表している、と理解しているし、国会議員や大地主などは恵まれたお家柄ですね、とは思うもののそれだけだ。

 ネコ型ロボットのマンガに出て来るサブキャラSみたいな感じかな。

 お金持ちを羨ましがられてはいるもの彼は普段は普通の小学生に紛れてるし、金を持ってる事をひけらかしはするものの身分差を感じさせる様な素振りはしない。


 要はこの世界の身分差に纏わる云々は俺には最近の表現的には肌感覚として理解出来ていない。

 だからその辺りについては、そこを完全に理解し切ってるお嬢の掌で踊るしかないって事だ。


「分かった。そっちは俺にはよく分かんねえから、する事があれば命令してくれ。」


 所詮は理解出来ねえと投げただけだが、表面上は俺の素直な返答にお嬢は満足そうに頷いた。


「そっちはコチラで適当にやる。お前はとにかく現地では男爵の命に従っておれば良い。」


 が、少し考えた顔をして「だが一つだけ…」とか言い出した。


「何だ?」

「今回の件は他国での仕事だが…まあ…今更なんだが、お前も知っての通り陛下も関わっている。」


 事細かい指示を戴いたわけではないけど、陛下からお言葉は頂戴したからな。


「ああ、分かってるぜ。」

「だから慎重に行動しろ。いつもみたいに何でもサクサク殺すな。例え男爵殿の命令であってもだ。」


 そんな失礼な心配すんなや!

 俺だって外交ってもんがまるで理解出来てない山出し100%じゃない!


 と、思いはしたが一々反論することはなく俺は簡潔に答えた。


「了解です。」


 俺の返答に少し心配そうな顔はしたものの、お嬢もそれ以上は言い募らなかった。


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