102 肩入れの方角
「……ヒロインが王太子妃にならんとマズいってのも何となく分かった。けど、んならヒロインを応援すりゃいいだけで、わざわざ何とかクレイジー・ジョーの方に肩入れ…ってか…イジメ?の手伝いはいらねえんじゃねえの?」
俺の、俺的には当然の疑問に彼は「クレイジー・ジョーじゃねえよ!アクヤ・クレイ・ジョーだ!」とか言いながら反論した。
「裏面も考えてみろよ。」
裏面って何だよ?
「王子がフリーならそれでもいいけど、彼には悪役令嬢…身分的にはバーバレラ公爵家のご令嬢っていうキチンとした婚約者がいる。」
「…うん。」
「家か本人に落ち度もないのに彼女は追い払えない。婚約者が自分で身を引くとかもないし、家同士の話だからそもそも出来ない。」
「なるほど?」
まあ、言われてみればそうだよな。
貴族、特に王族の結婚は惚れた腫れたじゃなくて家同士、国同士の政略だ。
恋愛を優先したと言われるヘタレ陛下の場合が異常に異例で、だからこそ国民は喝采を送ったし、陛下は逆にヘタレなどと言われるハメになったのだ。
「なんで、ストーリー的には彼女がヒロインちゃんをイジメぬいて、それを理由に王子が婚約解消、ヒロインちゃんを新たな婚約者とするっていう流れになる。だから悪役令嬢役のバーバレラ公爵令嬢にはヒロインちゃんをしっかりイジメてもらわな困る。」
確かに如何に王子がヒロインが好きでも、出自も身元もバリバリ高貴な婚約者との婚約を一方的に破棄するなど出来ないだろう。
王家の婚姻は恋愛ではなく政治なのだ。性格が合わないとかだって理由にはならない。
そうなれば、婚約者の家か本人に重大な落ち度でもないとダメだ、というのも分からんではない。
その落ち度がヒロインちゃんに対するイジメというわけだ。だからヒロインちゃんが一方的に頑張っただけでは勝利は呼び込めないわけだ。
俺もまあまあ話が飲み込めてきた。
「…んじゃ俺ら悪役に肩入れすんの?」
「ん~そこまでじゃない。」
彼は指を振った。
「主役のヒロインちゃんがキチッと成り上がるのを裏から手伝うッて感じかな。その為に悪役にはキチンと悪役になって貰う手伝いをする!」
ウ○トラマンが活躍するには怪獣が来て暴れないといけない。けど肝心の怪獣が地球に来ないんで、こっちで怪獣をどっかで育てて地球を襲って貰う感じか。
話の流れ自体は何となく分かった、ような気もせんではないが…
「…なんか、途轍もなく余計なお世話って感じしかしないんだが…大体、そんならヒロインちゃんに協力すんのがやっぱ正統なんじゃねえの?」
「さっきも説明したけど、ヒロインに協力しても、結局は悪役令嬢は邪魔なんだ。婚約者として彼女がいる限りヒロインちゃんはどうしようもないし、ヒロインちゃんが聖女にならんと勇者に祝福が授けられないから、勇者達は紙防御で魔王に立ち向かう事になる。」
俺ら紙防御で魔王に立ち向かったんか?
しかも犠牲は出たけど、一応は倒してるんだがなあ。
「…つまり俺らは何すんだ?」
「だから先から言ってるだろう!?悪役令嬢が気分良くヒロインちゃんをイジメるお手伝いだ!」
ホントに必要なんか、ソレ!?
何度説明されても、どうしても根本的な疑問が抜けない俺に対して男爵は明るく笑った。
「別に大した事にはなんないと思うぜ。」
彼はフォローするように言った。
「悪役令嬢は本性はどうだか分からんが、お立場的に好きにイジメていい立場だ。周囲に反対するヤツも止めるヤツもいねえ。だからちょっと手を引いてやれば、サクサクイジめる様になるだろ。」
「なんでさ?なんでそんな事が言い切れる?」
彼は心底不思議そうな表情で言った。
「普通は好きに虐めていいって言われたら、そりゃもう思いっきりいくだろ?」
そうか?
「イジめないのは、単に先生とか法律とか周囲の目とか自分の力関係だけだ。自分に力があって、先生も何も言わない、周囲は一切文句も言わず、それどころか積極的に手伝ってくれるヤツもいるとなりゃあ、そりゃあボコボコにやるだろ、フツー?」
いやあ、どうだかなあ。
仮に目の前に誰かがいて、周囲からコイツを好きに殴る蹴るしていい、何なら殺してもいいって言われたって「マジで!?」と喜んでやる人間ばかりじゃないと思うけどなあ。世の中は旭川じゃない地域の方が広いはずだ。
「お前さんの周りってそんなのばっか?」
「??…いや俺の周りがどうとかじゃなくて、もちろん俺個人がどうとかでもなくて、世の中、一般的にそうだろって話。」
「……お前、凄えとこから来たんだな。」
「?」
「いや……なんだ…お前の周囲って何か怖えなって…」
彼は益々不思議そうな顔になった。
「そんな事ねえだろ?お前さんのいた…ってかお前さんの設定年代頃ぐらいから学校のイジメの数って右肩で増えていってたし、昔はイジメたヤツも学校の責任者も何の罪にも問われなかったんだろ?そっちのがよっぽど酷いだろ?怖えだろ?」
「いや、まあ、そこは否定できないんだが…」
確かにそれはそうだ。
責任を問われないどころか、学校側がイジメ発生を認めないのみならず、バレた後でも上部組織である教育委員会とかも巻き込んで逆にイジメた側を毅然として庇ってくれる事も多かったしなあ。
「今なんかイジメで自殺者でも出れば関係者で捕まったヤツらは軽くて殺人幇助、ヤバきゃ殺人罪だぜ。しかも次の犠牲者を出さん為に経緯と対策が明らかになるまで学級閉鎖だ。ヘタすりゃ関係ないヤツまで全員留年だし、そうなりゃ学校やら犯人やらが払う賠償金は1人が稼ぐ予定だった日割×人数だから結構な額になる。」
マジか?
そりゃ俺の時代とは随分違うなあ。列記とした殺人として扱われてるんだ!
しかも実質的に連帯責任なんか!
俺らの時代では、被害者の関係者が騒ぎ、かつマスコミが取り上げでもすれば、教育委員会は文部科学省から対応を通知されている手前、自分達が都合の良い面子を集めておっとり刀で第三者委員会とやらを作ってマッタリ3年程かけて調査したフリはする。
そして要約すると以下、報告する。
「(肝心の首謀者グループを除く2、3人の)関係者から任意のヒアリングを受け、3年間で3つほどのイジメとは断定できませんが不適切と思われる事象を見付けました。これが被害者の自殺の直接の原因かどうかは不明です。」
「遺書には同級生から嫌がらせを多数受けて嫌になり死ぬことにしましたと書いてありますが、調査の結果、同級生の誰からどのような嫌がらせがあったか(本人達からは聞いてないので)具体的には明らかにならず、イジメと自殺との因果関係は不明です。」
要はお役所お得意の対応したフリだ。
委員会に呼ばれた弁護士の先生方も時給の低い仕事なんで力も入らないし、その割に手間暇も掛かるんで早く終わりにしたい。何より彼らはクライアントが望む答えを出すのが仕事だ。
更にマスコミが騒ぎ続ければ校長、担任以下イジメ当時の学校関係者及び当時の同級生が完全に逃げ散った更に5年後ぐらいに今度は碌に調べもせずに「一部の調査に至らない部分があり、断定は出来ませんが数例のイジメと疑われる事例がありました。すいませんでした」とロイヤルストレートフラッシュしてフィニッシュだ。
マスコミも別に被害者側の味方が仕事ではなく映像映えする話題提供が生業だから、映えるロイヤルストレートフラッシュを撮影した段階でゲームクリアとして次の場所へ去って行く。
要するに責任をとるヤツはいないから、イジメはヤリ得だったし、学校側はとにかく揉め事に巻き込まれない様に見て見ぬフリをするだけだった。
特に教育関係者の見ないフリは年を追うごとに洗練されて、関西某県では学校の連絡帳だか作文で正面からイジメを訴えた生徒に花マルを付けて返すという斬新な手法が考案されたぐらいだ。
個人的には赤の他人ながら花マルを見た時の生徒の絶望感を想像すると他人事ながら悲しくなる。
「それにだいたいイジメ殺したヤツら、無罪放免で世間に野放しとか、そっちのがずっと怖えだろ!証拠も残さないで巧妙に相手を追い込めるヤクザみたいな殺人犯が集団で、しかもややもするとチームで社会にいる様なモンだぜ?」
まあ…そう言われればそうだな。
俺としてもイジメた奴らをキチンと特定、罰しないのはヘンだとは思っていた。
正義がどうとかではない。人間は学習する生き物だからだ。
刑法とは本来、罪悪感のない人間に形だけでも社会生活が送れる様にやっていい事と悪い事を体で覚えさせる為にある。俺のオリジナルの論法ではないし、唯の俺の感想でもない。大学の一般教養で学んだ法律論的には教育刑法論と呼ばれる学界でも主流の考え方だ。
そう考えると今の様にイジメ殺しました→何らお咎めなし&周囲は庇ってくれました、では何も学ばない。むしろ、ムカつく奴はこの世から排除するまでヤッていいんだ!と学習するだろう。
逆にイジメ殺しました→ムショに喰らい込みました&多額の賠償を背負いました、という事なら人間はキチンと学習して次はやらなくなる。同じ立場の全国の生徒達もイジメはコスパが悪過ぎると予防効果も出る。
「……未来の方が少しはマシになってるって事なのかな。」
俺がポツリと呟くと浜井は苦笑いした。
「まあ、胸張ってそうだ!って言いたいトコだけど、現実には学校はまず隠すし、バレても知らぬ存ぜぬを繰り返すし、イジメた方は教室で切腹させたって、自分が刺したわけじゃありません、腹切ったぐらいで死ぬとは思いませんでした、本人は全然大丈夫って笑ってたんで体張ったギャクは凄いわって思いましたって言い訳すんのは昔から変わんねえんだけどな。」
「……」
結局はイジメた側は親も本人も責任を認めず、学校はイジメ自体を認めない。
イジメた人間を名指しで遺書書いて首括ったって、名指しされた当人に事情を聞いたけど身に覚えがないと言ってます、遺書に何故名前が出ているのかは不明なので自殺の直接の原因とは考えられませんって教育委員会も学校長も断言するんだろう。
「まあ、リアルはともかく、今回は確実に断罪に持ってく必要があるってことだ。」
話の途中の流れは変な方向だったが、とにかく俺らはジョー氏の手伝いをする事になった…らしかった。
ふと気になったんで聞いてみた。
「ちなみに元の婚約者…ってかアクヤ・クレイ・ジョーはどうなんの?」
浜井はサラリと答えた。
「普通は卒業式だか卒業パーティーだかで婚約者の王子から今迄のイジメの悪行を挙げつらわれた挙句、それを理由に婚約破棄を喰らう。んでその後は追放か処刑なんだが、今回は追放だ。」
「…なんか自業自得かも知らんがアレだな、公開処刑も結構キツいな。」
散々、(心の中で)イジメたヤツには厳しく断罪を!とか主張しておきながら思わず俺が言うと、浜井は軽く肩をすくめた。
「そこはそういうストーリーだからしゃあない。プレーヤーはイケメン王子ゲットして勝ち組を満喫、イジメたヤツは最後に盛大に断罪されてカタルシスを味わう、そういう趣向のゲームが乙女ゲーだ。」
そう言っちゃあそうなんだが、今回、俺ら片棒担ぐまでは行かんとも嗾けに行くわけだしなあ…
俺が微妙にモヤってると浜井は付け加えた。
「心配すんなって。今回の場合、先も言ったけど処刑じゃない方なんで追放だ。しかも実際には大金持って隣の国に行くだけだ。」
「マジで?そんなんでいいの?」
え!?それって断罪とかになってなくね?
「彼女はこの学園編じゃ重要人物だけど、ストーリー全体じゃ必須なのは聖女のヒロインちゃんで彼女じゃない。いわば名前の出てくるモブに過ぎねえから、ヒロインちゃんが成り上がった後は言わばどうでもいいんだ。だからストーリー的に婚約破棄&国外追放って扱いになれば、後は現実的にどうなろうが問題はない。」
「……」
呆れる、というか何とも言えず俺が黙ってると浜井は念押しした。
「だから彼女の身の上がどうなるかは深く考えなくていい。」
そんなもんかねえ。
まあ、そもそもアニメとかゲームとか映画とかは現実に起こり得ない事が描かれているのを見て楽しむものだ。
そういった意味では、イジメた側や薄々知ってたけど知らん顔した担任教師が全面的に責任をとらされるのは、六本木ヒルズでリアルでスパ〇ダーマンが糸張ってかっ飛んでるのを見るのと同じぐらい、ナイ事象だからな。
あちこちモヤってはいるが、俺は納得するしかなさそうだった。
自分の関与しない場所で物事は決まり、完璧に納得する事は無い。
が、振られた役割はこなし、やるべき事はやる。それが仕事である。




