101 謎のクレイ・ジョー
まあ、そこら辺りは「いいや」ってか「…もうその辺ツッコミ出すとキリないからいいや!」ってことで、浜井が話を棚上げに掛かった。
キリがないのは俺も同感だったから、余計な掘り下げはせずに俺の方から話を戻した。
「んで?具体的にはナニすんだ?勇者、探しにでも行くのか?」
俺の問いを聞いて浜井は首を振った。
「今はPhase3だし勇者の話はもうちっと後で出て来る予定だ。今じゃない。」
「じゃあ、何?」
「俺が来たってのは、運営側が問題視している部分を改善する為だ。」
それは先も聞いた。俺は無言で先を促す。
「で、その問題ってのは、だ…」
彼はカップを机の上に置いた。
「俺…じゃなくて会社が調べた所によると、どうもアクヤ・クレイ・ジョーの役柄が間違っているらしい。なんで彼女にキチンとイジメをさせる!」
「アクヤ……誰だって?」
アクヤ・何とか・ジョーって誰やねん?という俺の疑問を他所に彼は呆れた顔をした。
「悪役令嬢だ。ちゃんと聞けよ。」
「…んだよ、それ?誰だよ、その何とかジョーって?」
浜井は今度は空飛ぶ豚を見る様な目で俺を見た。
「え?マジに言ってる?マジで分からんの?」
「マジに分かんねえ。誰だよ、ソレ?」
俺の顔を凝視して、漸く俺のマジ度合いが分かったらしい。
彼は「はあ…マジか…」と溜息を1つ付くと説明してくれた。
「端的に言えば悪役令嬢ってのは学園モンの乙女ゲーに必ずいる悪役だ。」
説明が端的過ぎる。
それは彼も分かっていたのだろう。彼は言葉を続けた。
「学園モンの乙女ゲーでは主人公…つまりはヒーローじゃなくてヒロインなんだが…彼女は大概大した家柄の人間じゃないが王族、貴族の入る学園に入学する。」
話はのっけから不可解だった。
なので俺は速攻聞いた。
「大した家柄じゃないのに、何でそんな事がデキる?」
驚いた事に男爵は質問を予期してた様に即座に指を3本立てた。
「パターンは大きくは3つある。」
「………」
「まずは事情があって男爵家ぐらいの下級貴族の養子になる場合だ。」
「…養子って?」
「まあ……遠い親戚とか…ってのはあんまねえか。大概は隠し子だな。当主が昔、侍女に手を付けちゃったとか。」
それって養子じゃなくて実子じゃん!
微妙に納得できない点はないではないが、ここは論点じゃないだろう。
「他は?」
「魔法で凄い、または希少な能力がある場合だな。庶民なんだが才能を見込まれて、その才能を伸ばせる上級の学校に入学が許される。」
「ほほー。」
それは有り得る話だ。俺も素直に納得して頷く。
「じゃなけりゃ、庶民なんだけどめっちゃアタマがいいかのどれかだ。」
「男爵家の養子とかってのはよく分からんけど、残り2つは……特待生みたいなもんかな?」
「まあ、そんなもんだ。」
それは現実でもアリな話だ。
平民からも優秀な者は登用する、という意味で行けば全然アリな制度だし、上手く行けば国にも本人にも悪い事は何もない。
そもそも日本でも、東大生の親は年収1,000万以上が普通で実質的に高所得者の子弟しか入れないとかって問題視する記事を見た事がある。
米国の某大統領やら有名経営者やらでも若い頃、ハーバードから入学許可は出たものの学費が払えないと地元の公立大学に入学したという話も聞いたことがある。
だから経済的に裕福な王族、貴族で無くとも上級学校に進学できる制度があるのは素晴らしい。
中国では既に1400年以上前から始められていたが、欧州でも日本でも近代になるまでその種の制度はなかった事を考えれば、この中世社会にしては先進的な仕組みと言ってもいい。
が、とにかくそこも今は論点じゃない。
俺は話を前へ進めた。
「で、その何とかジョーが何だって?」
「同級生には王子とか公子とか、とにかくやんごとなきお立場のイケメンが揃ってるわけだが、ヒロインはその誰かと恋仲になって、最後は婚約だか結婚だかすればフィニッシュだ。」
…ああ、なるほど。恋愛をメインにしてるわけだ。
けどさ…
「…ジョーの役割は?」
「悪役令嬢は、彼女の恋を横から盛大にイジメて邪魔する。ヒロインちゃんは色々なイベントを通じてその邪魔と差別を乗り越えて恋を成就させればハッピーエンドだ。」
またしても疑問点がある。
「なんでジョーはわざわざヒロインをイジめるんだ?」
俺の俺的には当然の問いに浜井は「えっ?ナニ聞いてんの、お前?」ってな顔をしたが、直ぐに「あ、そうか!コイツ、こういうのやった事ねえのか!」と表情が変わった。
「悪役令嬢ってのは公爵とか伯爵とかの娘で高貴なご身分だから、そもそも平民だか下級貴族だかの成り上がりのヒロインは気に入らない。その上、だいたいヒロインが粉かけるのは彼女も狙ってるイケメンだか婚約者だかってパターンが多い。」
「婚約者?…ああ、貴族だからそういうのがいるのか。」
「ヒロインはマトのイケメン…まあ今回の場合は王子なんだが、その婚約者でもある悪役令嬢の激しい妨害を乗り越えて恋を成就させればハッピーエンドってなわけだ。」
それだけ聞くと平民から特待で来たヒロインちゃんは何しに学校に来てるんだ(怒)って感じもしないではないが、多分、それとは別にお勉強はしっかりするんだろう。
世間一般では東大早慶に入る人間は、遊びにも恋愛にも背を向けて修道僧宜しく机に齧り付くだけの暗黒の高校時代、ややもすると中高時代を送ってるんだろ(笑)ってな誤解もあるが、高校を卒業する前にDTはキッチリ飛び級で卒業の上、(別の)彼女と手を繋いで入学して来るリア充だって勿論いる。
部活で全国大会に出るまで活躍した上でスポーツ推薦とかではなく一般入試をキチンと突破して入学して来る人間だっている。
ヒロインちゃんも勉強は勉強としてキッチリこなす傍らで、恋愛に精を出したって別に変ではない。
むしろ、こっちに来たせいもあって高校生活を強制切り上げになった(怒)俺からすれば羨ましいぐらいだ。
別に彼女とかもいなかったし、クラスの1軍で楽しく暮らすリア充とかでもなかったけど!(泣)
とはいえ、彼女の立場からすれば、高貴なイケメンが周囲に溢れていても始めは遠くから見てるぐらいが関の山だろう。言うまでもなくこの世界はキッチリ身分制だからだ。
平民だか何だかなら仲良くなる以前の問題として相手にもされてない可能性が高いし、ややもすると仲良くないから話しかけられないとかでもなく話し掛ける事自体がNGな場合さえある。
けど、話すんだか躍るんだか何だかで相手の好感度を上げて徐々に振り向かせるって趣向のゲームか。
……マサさんの話してたゲームに似てるな。
「エロゲみたいなモンか?」
「いやオンナ向けだから基本エロはない、ことが多い。あってもあんまし派手なのはないし、派手に脱ぐのは大概はヒロインじゃなくて男の方だ。」
「意味ねえな。」
「俺らにはな。」
話がちょっと明後日に跳んで俺らの間ではちょっと言葉が途切れた。
そして申し合わせた様に目の前の茶を啜る。
「……で、悪役令嬢だが、先も言った通り大概はターゲットになるイケメン、今回は具体的には王子の婚約者として登場する。」
「ふ~ん。」
「ヒロインはイケメンの王子と仲良くしようとするわけだが、それを横で立場使って派手に邪魔するから悪役令嬢と呼ばれる。」
説明で謎はますます深まるばかりである。
「…?…よく分からんがクレイ・ジョーからすれば、ヒロインか何か知らんけど婚約者の王子様だかにNT目的で他のオンナがすり寄って来てるんだろ?どうするんかはともかく、邪魔するのは当然じゃねえのか?むしろ権利?」
「うん。一般的な理解はそれでもいいとは思うんだが、そこはゲームで主人公は平民のヒロインちゃんだからな。お立場的にムリ目で、しかも悪役令嬢がイジメとか何とかで邪魔して来るのを乗り越えて結ばれる…つかそういう障害を相手に攻略すんのが醍醐味なんだ。」
分かっちゃいないし、納得も出来てない。けど何となくは想像は出来た。
「エロゲで彼氏のいるツンデレを振り向かせて脱がすみたいな感じかな。」
男爵は理解の進んだはずの俺を呆れた様に見た。
「…お前さあ、何でもエロゲに変換して理解すんのヤメねえ?」
会社にも何でも何かに置き換えるのはいた。主に昭和世代だ。
テニス好きの部長は「ようし!そこで客の心にスマッシュだ!」とかよく言ってたし、社長はなかなか上手くいかないプロジェクトに対して「バンカーにハマった次は池ポチャになっとるのか…」と理解してた。ベテランのチーム長に至っては調達が上手くいくと「正にカンチャンズッポシって感じだな!」とか説明して1人悦に入ってたけど、こっちは意味も分からんかったなあ。
それはともかく、これは明らかにマサさんのせいだ!
知らないうちにマサさんに盛大に汚染されていた俺はちょっと恥ずかしくなった。
「いや、すまん。知り合いにそっち方面にスッゲー詳しいのがいて、さんざ聞かされたもんで。俺自身はゲームとかあんましねえから。」
男爵は「本当か?」という様なちょっと疑いの眼差しで見ていたが、俺のどうこうも今の主要論点じゃない。
結局は俺の言葉に突っ込むことはなく「そうか」と言って頷いて流した。
「クレイジー・ジョー?の役割は何となく分かった。で、ストーリー的にはどんなのがナイスなんだ?」
「このヒロインちゃんだが、セージョだ。」
「性女?」
「聖なる女で聖女だ!字はヒジリ!だから何でもエロゲ方面に引き込むのヤメロよ!」
うん。生まれつき偉大な魔法使いでこちらで早めに真なる魔法使いとなったマサさんの偉大なる影響下からなかなか抜けられないが、そんな事を浜井に言ったって始まらない。
「すまん。」
俺がまた素直に謝ると彼は咳ばらいをして話を続けた。
「聖女になれる素質を持った彼女は、上手く王子の婚約者になれば、恋だか愛だかそれこそエロだかの力か何か知らんが、聖女としての能力が大きく花開く。」
「ふむ。」
「彼女は王太子妃として魔王城に乗り込む直前に謁見する勇者に祝福を与える。その結果、勇者は魔王の強大な魔法に対する耐性を得て、初めて魔王戦に勝つる可能性が生まれるんだ。」
ふ~ん。
でも、まだ謎は解けない。ヒロインが聖女になる話とNTは何の関係がある?
「ん~最後の祝福は分かるけど、王子の婚約者になる部分要るの?なんないとどーなんの?」
「王子の婚約者にならない場合、彼女は唯のアタマのいい子で終わる。聖女としての潜在能力はあるんだがそこに注目される事もないから何の訓練も受けずに才能が開花することもなく、そこらの教会にいる普通のシスターより少しマシ程度の段階で止まる。魔王に対する耐性を与えられるレベルじゃない。」
「ふ~ん…」
「それに何より王太子妃でない彼女はいい学校をいい成績で出たかも知れんが所詮は平民だ。所属もそこらの役場だか学校だか商店だか、とにかく所属は一般庶民社会だから勇者様にお目見えする機会もない。歴史の表舞台に出て来ない。勇者に会う可能性も無くなる。間違えて会っても聖女じゃないから意味がない。」
う~む。
謎は全て解けた!とは言い難いけど、ここまでは一応、筋は通ってるかなぁ…




