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まさか聖女だとは思ってなかったので雑貨屋を始めました  作者: しまりす
第一章 雑貨屋準備編
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コーヒーでひと休み

怪しい2人組だったなぁ、と葵は思いながらコーヒー豆を出す。

2人は一定距離を保ったまま話をしてくれていたが、

あれ以上距離を詰められていたら恐怖の方が勝ったかもしれない。

ただ、話し方や丁重な態度から、こちらへの害意のようなものは感じられず、

それがあったから普通に会話をできたのだと思う。

迎えに来たと言いつつも、無理やり引きずっていこうという風には見えなかった。


一旦思考を止め、コーヒー豆を挽いていく。

手元でゴリゴリと小気味良い音がして楽しい。

ふわりと広がる匂いを深く吸い込むと、緊張が少し解れたような気がした。


グレイは窓の方を向いたカウンター席に座っていて、

椅子の向きだけを変えてこちらを見ていた。


「グレイさん、今日は何のご用事で?」

「近くに用があって立ち寄っただけなんだ。ちょうどコーヒーの良い匂いもしたし」


だとしたら、良いタイミングで来てくれたものだと思う。

おかげであの2人組は撤退せざるを得ず、

葵はこうして考える時間を与えられた。

もしまた接触してきたらどうすべきか、戦略を立てられる。


自分が異界の住人であることは間違いないが、

聖女かどうかと問われればそんなわけはないと言いたくもなる。

だが、マリーは聖属性に適性を持つ聖女が召喚されることが稀にある、と言っていた。


ー…もしも自分が「召喚」された「聖女」だったら?


そこまで考えて、それを打ち消すようにふるふると首を横に振る。

召喚されたのだとしたら、あんな森の中に現れるわけがないだろう。

だが、あの2人組は召喚したがどこへ降り立ったか分からず、というようなことを言っていた。


「コーヒー入りましたよ」


自分の分も淹れなおし、カップを2つカウンターに並べて置く。

そのままグレイの隣に自分も腰掛けた。


「もう開店するのか?」

「コーヒーの方は揃ったんですけど、紅茶がまだ準備中で。それが整ったらですかね」

「楽しみだな。こちらの方面へ遠征する際は立ち寄らせてもらおう」

「ありがとうございます」


願ってもない申し出に微笑む。


「この立地だと、最初は分からないでしょうから。お知り合いの方にも教えていただけると助かります」

「…美味いな。コーヒー好きが喜びそうだ」


グレイはコーヒーを一口啜り、しみじみ呟く。


「開店日が分かったら花でも届けさせよう」

「わぁ。こちらもそういう風習があるんですね」

「?あぁ、そうだね。割と一般的かな」


しまった、と内心思いつつ葵は表向きは平静を保ち、微笑む。

グレイは一瞬きょとんとしていたが、深くは気にしていないようだった。

地域差とでも思ってくれたのだろう。


先ほどの件で動揺しているのか。

アウスト国国王との謁見も決まってはいるが、ボロは出さないに限る。

改めて気を引き締め、自分もコーヒーを飲む。


「ここで店をやるってことは、しばらくはここに?」

「はい、そのつもりです」


元より頼る先のない身である。

セルゲイとマリーには申し訳ないが、

しばらくここに滞在させてもらうことになるだろう。

金はあるので宿屋生活も考えたのだが、自分の事情を考えると

自身を異界の住人だと知っており、

その上で色々と教えてくれる存在は貴重である。

むしろ、この世界で生きていくために必要不可欠と言ってもいい。


「今度、王都にも遊びにこないか?」

「あ、いいですね。3日後に、一度王都に行く予定ではあるんですが…改めて観光もしたいです」

「王都に?何か用事で?」

「はい。セルゲイさんとお仕事がてらご一緒させていただきます」


流石に国王と謁見するとは言えず、少しぼやかして伝える。

移動手段は魔法で動く馬車のようなものを使うらしい。

ここから王都までは半日程で着くらしく、他の地方と比べれば比較的近いと言える。

グレイも、軍を率いて遠征する際は隊列を組んで騎馬や馬車を使うことが多く、

1人でふらっとここまで来る際は転移魔法を使っているらしい。

王都と、各地域の一部の大都市は転移魔法で繋がれている。

だが、一般人が気軽に使えるようなものではなく、利用できるのは一部の者だけだそうだ。

騎士団は部隊長以上ともなると利用が可能になるらしい。

限られた時間の中で様々な業務をこなすためだ。

グレイが私用でもここへ来るのに転移魔法を使えるのは

前騎士団長であるセルゲイの所に通っているからかもしれない。


謁見は昼前なので、前日には王都へ着き、宿屋へ泊まる予定である。

ちょっとした旅行気分だ。

実際、夕方前には王都へ着く予定なので少し見て回れるだろう。


「セルゲイ様もいらっしゃるし、大丈夫だとは思うが。道中気をつけて」

「はい。ありがとうございます」


コーヒーを飲み終えたグレイが、毎日飲みたいくらいだと絶賛してくれた。

折角なので挽いた豆をお土産にと渡したところ、

とても良い笑顔を見せてくれた。眼福である。


のんびりグレイ回でした。

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