怪しい2人組
第一章の名称を修正しました(3/19)
ミニマムでの開店準備がある程度整った。
あとはミハエルとライナスそれぞれに手配してもらっている品々が
手元に届けばいつでも始められる。
無論、このような立地で始めるのだから
最初は口コミやチラシなどを使って
お客さんになり得そうな層に周知する必要がある。
カフェスペースはゆったりと寛げる場所にしたいため、
店自体はそんなに繁盛しなくて良い。
少数の常連さんに支えられるような店の方がイメージに近い。
活動資金は物販やミハエルたちとの共同企画で何とでもなるだろう。
一区切りついたと言っても良いこの状況で、
葵は遂にセルゲイに切り出した。
「異界の住人絡みの情報収集をしたいのですが、どうしたらいいでしょうか?」
「それは、アウスト国の王家にアオイが異界の住人だと伝えても良いってことか?」
「必要ならば構いません。伝えた方が情報を集めやすいのならば、それで」
「分かった。ひとまず調整するとしよう」
「どなたとですか?」
「国王だ」
セルゲイは良い笑顔で言ってくれたが、この国のトップだ。
葵の世界で言えば、天皇に会うとか他国の国王に会うとかそういった話である。
緊張でごくりと唾を飲み、顔をあげる。
「まぁそんなに緊張するな。話の分かる奴だから安心していい」
国王との謁見を調整すると容易に言ってしまうあたり、
セルゲイの人脈は本当にすごい。
もっとも、騎士団長だったセルゲイは親交が深いのだろう。
国王はかなり忙しいらしく、セルゲイが連絡を取れたのは結局5日後だった。
それでも、用件を伝えると恐ろしく忙しいはずの国王が
最優先で調整すると言ってくれたらしい。
とはいえ目下入れてしまっていた予定の数々を再調整することは難しく、
ずらせるものだけずらして、なんとか3日後に謁見することが決まった。
国王に個人面会できる者は少ないが、
できたとしても、最低でも3ヶ月以上前から調整が必要なのが一般的だと言う。
それを考えれば今回の調整は破格と言って差し支えない。
異界の住人が自国に現れたとなれば、
国の一大事であることは間違いないようだ。
もっと言うと、明日にでも会いたいという意思はあるのだが、
事情を知らない者たちに変に勘繰られるリスクもある。
力を付けようとする貴族や噂を聞きつけた組織に葵が狙われてしまっては
元も子もない、というのが国王とセルゲイ共通の考えであった。
3日後に、執務の合間を縫って何とか謁見の時間を詰め込んだわけである。
幸い、セルゲイに国王との連絡をお願いしている間に
ライナスからコーヒー豆とドリップするための道具一式が届いた。
葵は店のカウンターの中にコーヒーや紅茶を
淹れるためのスペースを作り、道具を並べていった。
ガス台をイメージした小さなスペースを作り、
そこへドリップポットを置く。
あとは魔法で水を出し、同じく魔法で火にかける。
試しにコーヒーを淹れてみたが、中々手際良くできた。
ふわっと漂うコーヒーの香りにほっと一息つきながら、
葵は試しに自分で淹れたコーヒーを飲んでみる。
なかなか美味しい。
そう思ってカップを口元から離した瞬間、店の扉が開いた。
ベルをつけているのでカランカランという高い音が響く。
セルゲイかマリーかと思って振り返ると、そこには知らない男性2人組がいた。
「ど、どちらさまでしょう…まだお店は開いていないのですが…」
「あなたが聖女様でしょうか?」
「は?」
何言ってるのこの人、というくらいの冷めた視線を向ける。
「いや待て、事情はご本人も知らないはず…」
「そ、そうか…ええと…我々はカイウス帝国の者です。あなたを御迎えにあがりました」
「はい?」
再び何言ってるんだろうこの人、と思いながら2人組をまじまじと見る。
旅人のような軽装で、顔まわりは布で覆っていて非常に怪しい。
「すみません、不審者の類いでしたら通報しますが」
きっぱりと言い切ると、2人組は慌てふためく。
「お、お待ち下さい!どうか私たちの話をお聞きください」
「カイウス帝国は1ヶ月ほど前に、聖女の召喚を行ないました。儀式は成功したものの、肝心の聖女様がこの世界のどこかへ飛ばされてしまい…それが貴女ではないかと思いまして」
「はぁ。人違いじゃないでしょうか?」
この2人組の話は要領を得ない。
が、そういえば、以前マリーが稀に聖女が降り立つことがあると言っていた。
至って普通の社会人だった自分が聖女?
あまりにも想像がつかない話に何ともコメントしがたい。
「と、とにかく、一緒に来ていただけますでしょうか」
「え…いえ、無理です」
2人組は慌てつつも話を進めていく。
どうやら葵を自国へ連れていきたいようだ。
だが、こちらにもこちらの考えがある。
ここまで色々と準備をしてきたし、アウスト国の国王との謁見も控えている。
それを強制的に他国へ連れて行かれるというのは何ともいただけない。
ましてやこの2人組が本当にカイウス帝国の者で、
信頼できる人物なのかどうかは分からないのだ。
そもそも、なぜ今まで何の音沙汰もなかったのに
このタイミングで突然現れたのか。
自分が聖女だと思う根拠は何なのか。
少し緊張しながら思案を巡らせていると、再び入り口の扉が開いた。
「…珍しいな、客人か?」
「グレイさん!」
2人組はグレイの方をちらっと見て、僅かに目を見開いた。
「突然失礼いたしました。また改めて伺います。この件は、ご内密にお願いします」
早口でそう言って出て行ってしまう。
グレイを見た途端にこれだ。怪しさ満点である。
「グレイさん、その胸につけているブローチみたいなのは、騎士団のものですか?」
「あぁ、そうだ」
グレイの顔か、あるいは騎士団の紋章を見て2人組は撤退したのだろう。
グレイの前では話を続けられないと思ったのか、
あるいは騎士団とやりあうのを避けたい組織なのか。
「何だったんだ、今のは?」
「…さぁ。私にもよく分かりません」
自分が聖女かもしれないなどという話をしたら余計にこじれる。
セルゲイやマリーにも変な心配はかけたくない。
2人組のことはグレイにも黙っておくようお願いし、
口止め料としてはささやかだが、コーヒーを淹れることにした。




