邂逅
「わー…!ここが王都…!すごい。流石に賑わっていますね。」
門の奥に見える人の量と活気が違う。
やはり王都もしっかりとした石垣に覆われており、出入り口が各方面に設けられていた。
入り口には守衛や門番のような者がおり、身分証の提示なども行なう。
さらに王城に入るためにはより強固な門と検査が待っているらしい。
葵の場合、この世界の住人ではないので当然身分証などない。
今回はセルゲイが国王に要請し、特別に国王承認の特別な入国証を発行してもらった。
セルゲイが身分証と入国証を提示すると、それを見た門番たちは姿勢を正し、恭しく礼を取ってくれた。
問題なく入り口を通過し、王都へ入る。
城までは少し距離があるそうで、
居住地域や商店街などある程度のカテゴリごとにまとまっている。
葵たちが現在いるエリアと王城の間にもう2つ区分があり、
王城、騎士団の詰所や王族管理の図書館や一部の施設がある区画、
位の高い貴族が住む区画、そして現在のいわば一般エリアである。
他の3つの区画に入るためにはただの身分証だけでは無理になっている。
その者の身分や目的、それを証明する書類などが必要になるわけである。
「馬車を宿屋に繋いでこよう。アオイ、先に商店街を見てるか?」
「良いんですか?」
「1人で大丈夫か?」
「大丈夫です!…多分」
先日市場をまわった感じからして、自分1人でも問題ないだろう、と思う。
セルゲイは頷いて、商店街エリアの方へ馬車を回してくれた。
「見当たらなかったら水鏡を使って連絡する」
「分かりました!」
先日、遠くに離れている者との会話ができる魔法を習得した。
セルゲイもマリーも取引などで重宝している水鏡。
実際に会ったことのある相手でないと使用ができず、
お互いが揃っている時にそれぞれの鏡を魔力で繋ぐ作業をする。
葵の世界で言うところの、電話番号登録の作業みたいなものである。
それが終われば、どこにいても魔法を発動すると相手に繋がる。
独特な波動が指先から感じられ、小さく水鏡を発動すると、
誰が呼び出しているかが分かる仕組みになっており、
忙しい時や相手によって出ない選択をすることも可能なあたりは
葵の使い慣れた携帯電話と同じようなものである。
「では、後ほど」
「何かあったら連絡してくれ」
セルゲイに商店街エリアの端で降ろしてもらい、うきうきと歩き出す。
日本ではあまり見ない街並みと、洋風な作りの可愛らしい建物。
やはりちょっとした旅行気分である。
露店では食材や雑貨、土産物などが多く売られており、人でごった返していた。
今、食材を買っても悪くしてしまうだろうから基本的には見るだけである。
セルゲイと合流したら、おやつに何かつまむくらいは良いかもしれない。
数は少ないが茶葉やコーヒー豆を売っているところもあり、敵情視察とばかりにこちらはじっくり見た。
他国からの観光客もいるらしく、土産物の菓子なんかもずらりと並んでいる。
「…目移りしちゃうな」
ひとつずつ見ているといくら時間があっても足りなそうだ。
このエリアがどこまで続いているのかも気になる。
流して見ることにして、歩く速度を少しあげる。
途中、喉が乾いていたので果物を絞ったジュースを買った。
果実水のように水で薄めているわけではないので、味が濃い。
ちょうど日も出て暖かいのでちょうど良い。
露店エリアが終わりを迎えた頃、今度は建物の各1階が店になっている区画に入った。
商店街というより、もう少しお高めな店とか、専門店が並んでいるように見受けられる。
ガラス越しに何が売っているか見ながら歩いていくと、
洋服、宝石、武器や防具などの品とカテゴリはバラバラである。
だが、総じて騎士や貴族向けの売り物だろうかと思う。
店には入らずウィンドウショッピングを楽しんでいると、
突然、どくん、と心臓が跳ねた。
どくん、どくん、と鼓動が脈打つのを感じる。
ふつふつと、血が沸き上がってくるような。
不快ではないが、初めての感覚である。
胸に手を当てて、ふと通りの反対へ視線をやる。
1人の男と目があった瞬間、なぜか足が止まった。
硬直して、動けない。
目を離すことができない。
その男は背が高く、すらりとしていて
深い青…濃紺のような色をした髪をなびかせている。
目から下は布のようなもので覆われて、表情は見えない。
男もまた、葵から目を逸らさない。
「アオイ、何か見つかったか?」
それは一瞬のようにも永遠のようにも感じられたが、
背後からセルゲイに声をかけられて葵は我に帰る。
セルゲイの方へ振り返り、慌てて笑顔を浮かべる。
「あ、露店からここまで見て歩いてただけです」
それから再び先ほどの男の方を向くと、そこにはもう誰もいなかった。




