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まさか聖女だとは思ってなかったので雑貨屋を始めました  作者: しまりす
第一章 雑貨屋準備編
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ガイアスは、王都を出てから

主要都市にいくつか立ち寄りながら国を南下していった。

道中、最近変わったことが起きていないか、

また魔物の情報なども聞き込みを行っている。

だが、特にこれといった成果もなく、ついにバスタ国の国境まで迫っていた。


通常、陸路を辿ってくれば移動だけでも1週間以上かかる道のりだが、

王族には常時国内での個人使用が認められている

転移魔法を使用しており、聞き込みや移動含めて3日ほどでここまで来ている。

毎日他国で捜索にあたっている面々と連絡をとっているが、

他も今のところは手応えなしのようだった。

勝手の分からぬ他国の方が難航するのも目に見えていた。


聖女召喚の儀式から1ヶ月弱。

今回の捜索で聖女の手がかりが掴めなかった場合、

ついに各国への捜索要請に乗り出すことになる。

召喚を行った自国で聖女を保護し、しかる手順を踏んだ上で

各国にも情報を公開し、協力を要請するという流れが

ガイアスの描く理想の筋書きであった。


今日はこの辺りで休み、明日、国境まで行ってみるか。

ガイアスが深い溜め息を吐く。

一瞬でも足を止めると、どっと疲れが来る。

他国を捜索している面々が驚く程、ここまでかなりの強行軍で来たのである。


自分たちの都合で呼んだ者が、もし危険な場所にいたら。

不正を働くような、あるいは異界の住人の力を利用するような組織に捕まっていたら。

そんな可能性を思うと、居た堪れない。


ふと、鼻腔をコーヒーの匂いがくすぐる。


そういえば、この近くにコーヒー豆を販売している店があった。

コーヒー豆は多くがバスタ国からの輸入である。

もしかすると、バスタ国の者と繋がりがあるかもしれない。

疲れもたまってきているので、できるならコーヒーも1杯飲みたいものである。


ガイアスがその店の扉を開けると、ふわりとコーヒーの匂いが漂ってきた。

コーヒーは執務の合間にもよく飲んでいるのでほっとする。


「すまない、店主はいるか」

「こんなところに客とは珍しい…と、殿下!」


基本は卸売がメインで、わざわざこの店までコーヒーを買いに来る客は少ないらしい。

直接買い付けに来る者は事前に連絡でも寄越してくるのだろう。

突然の来客に驚いた店主は、作業の手を止めてカウンターまで出てきた。

まさかその来客が、王太子だとは夢にも思っていなかっただろう。


様々な公の仕事をしていることもあり、

国王、王妃、王太子一族の顔は国民もよく知っている。

店主が慌てて礼を取ろうとしたところを、ガイアスが制す。


「いや、いいんだ。今日は公の仕事ではない。気にするな」

「は、はぁ…コーヒーでも飲んでいかれますか?」

「頼む。少々疲れていてな…貰えるか?」


ここは喫茶店ではないようだが、店主は意気揚々とコーヒーを淹れ始める。

相手が相手だけに、淹れないという選択は中々難しいのかもしれない。

少し申し訳なくも思ったが、なぜかガイアスはこの店で

コーヒーが飲みたいという気持ちになっていた。

よほど疲れているのかもしれない。


豆を出し、挽くその瞬間にコーヒー独特の匂いが一段と強く届き、

それを深く吸い込むとようやく一息つけそうな気持ちになる。

ここ数週間はかなり頭を使ったし、精神的にも削られている。

正直さっさと聖女問題を片付けて、山積みにしている仕事に

取り掛かりたいという気持ちもある。

何にせよ、今は何か手掛かりだけでもつかまなくては。


しばらくして出されたコーヒーを啜ると、

口の中に深みのある味わいが広がった。

酸味が少なめで、しっかりとした苦味がある。

ガイアスの好みの味にふっと口元が緩む。

うまいな、と一言呟くと店主は嬉しそうに口角をあげた。


「それにしても、こんな南までいらして。何かあったんですかい?」

「あぁ…そうだ、最近変わったことはなかったか?」

「変わったことですか?」

「バスタ国で何かあったとか、聞いていないか?」

「そうですね…生憎バスタ国との取引は特に変わらずといった感じですね」


そうか、とガイアスは予想通りといった感じで再びコーヒーを啜る。

それもそうだろう。

バスタ国での異変を一般市民がつかんでいるほうがおかしい。


ふとガイアスは近くのテーブルに積み上げられた袋の山に目をとめる。


「これは?」

「あぁ、それですか」


何の気無しに尋ねると、店主は破顔して続ける。


「なに、最近知り合いの伝手で良い取引相手が見つかりましてね。珍しいことに若い女性なんですよ」

「ほう。それは珍しいな」

「長年この仕事をしている私でも知らないような飲み方を知っていたし、コーヒーにかなり精通していましてね」


コーヒーに精通している若い女性。

それは確かに珍しい。

女性は比較的紅茶を好む傾向にあるし、

そもそも若い女性が直接コーヒー豆を買い付けすること自体があまりない。


「コーヒーの飲み方、それから売り方自体も私には思いつかないような革新的なものでした。最初は若い娘さんが取引とは、と思ってましたが話をすればするほど面白くてね」


何だか少し、引っかかる。

いや、このご時世、親から受け継いだ娘が仕事を一手に引き受けることもあるだろう。

その中で、新たな施策を思いつくことも。


考えすぎかもしれない。

ここまで何の手掛かりも無かった分、焦っているのだろう。

そうは思っているのだが。


どうせ今日は時間もまだある。

ダメで元々。

元よりルーン王国での調査に期待し、バスタ国の情報収集に来ている自分は

大した成果も見込めないだろうと思っていたのだ。


ガイアスは2杯目のコーヒーを受け取り、ゆっくりと口を開く。


「…店主、念のため、その女性のことをもう少し教えてもらえないか?」


コーヒー代はちゃんと払ってます(余談)

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