【閑話】その頃のカイウス帝国(3)
一応閑話のくくりにしましたが、このあとは本編へ続きます。
この世界アストリアは、5つの大国から成り立っている。
規模も文明も最大の国と称される、カイウス帝国。
その南には獣人の住むバスタ国がある。
この2国は地続きで、国境は厳重に整備されていた。
一方、ルーン王国とインディア国も地続きである。
北にルーン王国、南にインディア王国が位置しており、
両国共に独自の文化が発達し、それぞれ栄えている。
アウスト国は唯一の島国であり、自然に恵まれた土地である。
机上に世界地図を広げたまま、ガイアスは眉間にしわを寄せていた。
聖女が見つからない。
中々進展しない捜索状況に痺れを切らしたのが数日前のことである。
王太子であり今回の儀式の責任者でもあるガイアスは
同じく今回の儀式を執り行った魔導師長であるユーリとその部下を呼び出し、
本格的に他国への調査に乗り出そうとしていた。
部下たちもいる手前、ガイアスもユーリも仕事モードで淡々と話を進めていく。
「私はさすがに軽々しく大陸を越えて移動するわけにはいかない。ユーリ、お前はルーン王国に行ってもらえるか?」
「承知した」
聖女がどこに降りてきたかは分からないが、
もしもユーリの仮説通り、聖女が自身の願いで降り立つ場所を選ぶとしたら
若い女性にとって好まれそうなものも多いルーン王国の可能性が高いと考えたのだ。
紅茶やお菓子などの食は豊富だし、装飾の類でも有名なデザイナーが何人もいる。
国や街が栄え、賑わっているという意味ではカイウス帝国が一番だが、
ルーン王国は女王が統治するだけあってか、
食や文化的な意味では女性にも好評なものが多い。
あとは、自然豊かな場所でのんびり過ごしたい、となればアウスト国だろう
ということでユーリの部下がこちらを当たることになった。
他の国と比べて可能性は低いと踏んではいるが、
異界の人間の願望など予想もつかないので
念のためインディア国にも部下を何人かまわすことにしている。
ガイアスも、何もせずじっとしているわけにはいられず、
表向きは視察という名目で国内を南下し、
バスタ国との国境付近まで行ってみる予定である。
現地ではお忍びということで一般人に扮装し、情報収集に当たるつもりだ。
とはいえこちらはカイウス帝国内で変わったことがおきていないか
くまなく調査をするためであり、
バスタ国に聖女がいる可能性は最も低いと考えている。
バスタ国は獣人が住む国である。
国交はあるが、バスタ国だけは他国と同列で考えられない。
獣人は魔法を好まず、専ら身体能力を鍛え、戦っている。
王族が代々統治しているわけではなく、
最も武力に優れた者が族長として国を治めているのもこの国だけだ。
今でこそ表立っての差別は禁止されているものの、
獣人と人間の間には長らく隔たりがあった。
今もなお、その確執が綺麗に消えたとは言いにくい。
厳重な警備が敷かれる国境はその名残りとも言える。
人間は、自分たちよりも遥かに強い身体能力を備える獣人が恐ろしかったのである。
王族であるガイアスが無断で国境を越えることはできないので、
国境付近で何か情報を得られた場合は部下を送り込むつもりでいる。
今回の調査で、聖女の足取りを何とか掴めればいいのだが。
ガイアスは久しぶりに城から旅立っていった。




