市場(4)
「今日は本当にありがとうございました」
コーヒーを飲んだ後、露店でいくつかおやつをつまみ、
薄めの生地のワンピースと果物、気に入ったコーヒー豆を購入してみた。
自分で現金を使って買い物をしてみるというのも
この市場へ来た目的の一つである。
グレイに聞いたら、市場ではその場で飲食するものを除けば
品物を値切ることもよくあるそうなので
試しにワンピースをダメ元で交渉してみたところ、
値切りはできなかったが髪留めをおまけしてくれた。
観光先の市場に来たような感じで、買い物自体がとても楽しかった。
グレイに改めて礼を言いながら、2人で来た道を戻る。
「いや、こちらこそ今日は楽しかった。良い休日になったよ。ありがとう」
さらりと良い笑顔で返礼される。
今日色々と話したり食べ歩きしたりして、グレイとは大分話しやすくなった。
年齢が近いのもあって、気を遣わなくて良いのも楽である。
もしかしたらグレイが若くても気を遣わなくてはいけない立場にいる可能性もあるが、
そこは知らない振りをしておくことにする。
いつまでもアオイさんと呼ばれるのは何ともむず痒いので、
途中で呼び捨てで構わないと伝えてある。
本来であれば自分の方が年上なのだが、色んな意味でそうは見えない。
グレイはとてもしっかりしているし、スマートだ。
何より、騎士団としてこれまでにグレイが積んでいる経験は
葵の世界で考えると実年齢に比べて遥かに重いものなのかもしれないと思う。
国や民を守るためにあらゆる仕事をしてきているのだ。すごいことである。
年数の問題ではない。グレイの方が先輩だというほうがしっくりくる。
そのため、反対にグレイにも呼び捨てにして構わないと言われたが、
やんわりと先延ばしにしておいた。
グレイは森の入り口まで送ってくれ、家に寄っていかないのかと尋ねたが
そのまま帰っていった。
結局貴重な休みを丸一日使わせてしまって申し訳ない気もしたが、
今度何かでお礼をすればいいかと思うことにする。
「ただいま戻りました」
「お帰り、アオイ。市場はどうだった?」
「楽しかったです!お店を見て回ったり、食べ歩きしてきました」
「それはいい。アオイから見て面白いものはあったかい?」
「そうですね…あ、コーヒーが私の世界とは若干違います」
「ほう」
「それでですね、コーヒーを淹れる器具を購入したり、豆の仕入れができる業者の伝手ってありますか?」
思い立ったら吉日。
葵は早速セルゲイに業者の相談をする。
「…なくもないか。少し変わった爺さんだが」
変わったお爺さんと聞くと、どうして頑固で仕事にこだわりのありそうな
職人タイプを想像してしまうのだろう。
葵は脳内の想像を打ち消して、二つ返事でお願いしますと告げた。
セルゲイは明日にでも連絡してくれると言う。
コーヒーは他のものと混ぜたりせず、そのまま飲むものだと言っていた。
エスプレッソマシンなんかは無いだろうと思うが、
いずれにしろカフェスペースで出すにはコーヒーを淹れる道具が必要だ。
ハンドドリップが主要だろうかと予想しつつ、
そうであればなるべく注ぎ口が細いドリップポットが欲しい。
焙煎を個人でやる人もいるが、葵はそこまではやったことがない。
せいぜい豆を挽くところからだ。
手動のコーヒーミルでごりごりと音を立てながら豆を挽くあの感覚は楽しい。
ふわっと薫りが広がるのもたまらない。
そんな想像をしながらにこにこと笑っているのを横目で見ているセルゲイが、
葵の世界の人間はみんなこんな風に商売っ気たっぷりなのだろうか、と
ぼんやり考えていることを葵は知る由もない。
今回は少し短めですが、市場終了です。
紅茶にコーヒーにお酒にと飲み物ばっかりですが汗
各地に名産品があるので飲食物以外も追々出てきます。




