紅茶の商品開発
軍資金はまだ手元に集まっていないが、
前借りという形で果物やハーブを購入させてもらっている。
2人とも是非試作を飲んでみたいから無料で良いと言ってくれたのだが
きちんと後で返すつもりだ。
こちらに来てからというものの、昼食と夕食の間に
マリーが必ずおやつを出してくれている。
3時のおやつはこちらの世界でも健在だ。
せっかくなので今日はフルーツティーの試作品を
おやつの時間に出すことにした。
マリーと台所に立ち、果物をカットしていく。
自分がやるので座っていてくれと伝えたのだが、
マリーはむしろ手伝いたいのだと笑う。
娘や孫娘はいなかったので、
こうして一緒に料理をするのが憧れだったのだそうだ。
1人でやるよりもマリーと雑談しながら
作業をした方が楽しいに決まっているので葵も快諾した。
リンゴはくし切りにしたものをさらに細かく一口サイズに、
オレンジは輪切りにスライスしていく。
果物の準備が終わったところで紅茶を淹れ、
渋みが出過ぎないよう茶葉を取り出した。
「これ、見た目も楽しむものなので…本当は透明で中身の見えるティーポットを使いたいんですよね」
「まぁ!アオイの世界には透明なティーポットがあるの?」
「はい、そうなんです。フルーツは見た目にも可愛いですし……あと、こうしてポットの蓋を取って、ここからフルーツを食べれるんです」
「まぁ。直接いただくなら透明な方が食べやすいわね」
「ガラスか何かで作れませんかね?」
「ふふ、作らせましょう」
にっこりと笑うマリーの表情はもはや商人そのものである。
作らせると言い切ったところが本当にすごい。
ポットから作って飲み方とあわせてプロモーションできたら
インパクトもあるしセット販売もしやすい。
紅茶ならお茶会や店舗で試飲に出せれば話題になるかもしれない。
そんなことを考えながら、茶葉を抜いたティーポットの中に
リンゴとレモングラスをベースに、オレンジの輪切りと
彩りも兼ねてラズベリーのようなプチプチした赤い実を入れる。
カップに注いだ後は、好みで蜂蜜を加えても良い。
この世界には透明なティーポット同様、ティーコゼーも無かったので
それもマリーに作れないか持ちかける。
ティーコゼーは丸みを帯びた袋状の布で、
ティーポットに被せるようにして使うことで
中の紅茶が冷めにくくなるのだ。
「貴族の間では給仕が紅茶を淹れ直してくれるけれど……それがあったら1人でゆっくりと紅茶を楽しむこともできるわね」
「そうですね。読書しながらのんびり飲むとか最高でした」
「アオイの知識は本当に面白いわ。紅茶文化の更なる発展につながるわね」
マリーは本当に嬉しそうに目を細めた。
「これは生の果物を使っていますが、ドライフルーツや乾燥させた花びらを茶葉に混ぜたフレーバーティーも美味しいんです」
色んな種類が並んでいると選ぶのも楽しい。
葵の世界ではティーバッグに入ったものがアソートパックになっていたりもした。
職場でもマグカップにお湯を注ぐだけで飲めたし、
茶葉と比べて最大のメリットは片付けが早い点だろう。
「そういえば、ティーバッグはあるんですか?」
茶葉とポットで淹れた方が味は美味しいのだろうが、
忙しい時や仕事中にささっと飲むには断然ティーバッグである。
葵から次々と出てくるアイディアを聞き、マリーは深く頷いた。
「アオイさえ良ければ、ミハエルの会社と共同開発をしたらどうかしら?総指揮や監督はアオイが管理すれば良いし、透明なポットや、そのティーバッグ?というものを製造する下請けはミハエルたちに探させたらいいわ」
確かに、完成品のイメージはあるが
それを形にするノウハウは残念ながら持っていない。
指示を受けて製造してくれる職人がいないと話は進まないだろう。
莫大な利益を生み出したいわけではなく、
本来は当面のこちらでの活動資金が得られれば良いはずだ。
もっと言うと、自分が良いと思えるものを作って
雑貨屋さんができたら嬉しかったりする。
そのために、いわゆる大手企業とのコネクションを持っておくのは悪くない。
むしろ、紅茶の売り出しを始めて
上手くいかないうちに他社に真似されてしまったり
大手の紅茶メーカーに潰されたりしてしまっては元も子もない。
葵は二つ返事で是非お願いしますと頭を下げた。
「お礼を言うのはこちらの方よ。素敵な紅茶が増えるんだから」
マリーは茶目っ気たっぷりにウインクしてくれたのだった。




